「すべての社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。
人事部門で研修を担当している人にとって、最大の関心事は「研修の効果があったのかなかったのか」でしょう。企業が支出する様々なコストに対しては、管理者や経営者による厳しいチェックが入ります。モノやサービスを購入したり、設備投資をしたりする際「なぜそれが必要なのか、その金額は妥当なのか、それがもたらす効果は支出を上回るのか」という問いに答えなければなりません。「投資対効果」は企業の中では最強の言葉です。
では研修についてはどうでしょう。設備投資のように効果を数値で示すことはまずできません。また、営業担当者のように成績を数値で判定される職種であってもほとんど不可能です。
「いや、研修だって同じでしょう。マーケティング部がやっているWeb広告のABテストみたいな統計手法を使えば十分できるはずですよね」ある販売会社の役員が私にそう言いました。
「間接部門は難しいですが、営業部員なら形式上の成果判定は可能です。研修を実施する前の部員全員の販売実績データと、研修実施後のデータを比較して効果があったのか、それとも『効果があったとは言えない』かは分かります。具体的には、対応のあるt検定を行うことでp値が・・・」と私が説明し始めたところでその役員は私に向かって手を開いて「ストップ」というジェスチャーをして「できるんですね。それは良いことを聞いた」と言いました。
そして次にこう言いました。「ひとつ気になるんですが『効果があったとは言えない』と言いましたよね。そんな曖昧な表現、おかしいじゃないですか。効果なしと言ってもらわないと困ります。」
「いえ、『効果があったとは言えない』というのは明確な判定です。」私は統計学の検定についての考え方をお伝えしたのですが、納得されていないようでした。
そこで私はこう言いました。「もし統計学を使って白黒がはっきりするなら、意思決定はすごく楽ですよね。いや、人間が意思決定する必要なんてなくなります。数値データがあれば答えが出てしまうのですから」
最近、このやり取りのように研修を費用対効果だけで判断してしまう傾向がやや強くなってきたように思います。特に中小企業では目立ってきました。実際に統計的な手法を使ったサービスを提供している研修会社もあります。
しかし考えてみれば、先ほどの営業部員への研修効果判定も非常にあいまいなものです。なぜなら営業成績に影響を与える要素は様々だからです。たとえば、今年は去年までなかった新製品を売ることになった、担当する地域が変わった、昇格した、新人が入ってきた・・・他にも「結婚した」という要素だって影響するかもしれません。はたして1日や2日の研修がどれだけ影響を与えるのでしょう。
私は研修とは「人材の体質改善」だと思います。例としては適当ではないかもしれませんが、ダイエットのためのエクササイズや食習慣の指導のようなものです。研修でやり方を覚えたら、あとは個々人が実践するだけです。しかも、何年もやり続けなければ成果に結びつきません。それを目先の数値で判定するのは無理があります。
ただし、ひたすら実践し続ければ必ず研修の成果が現れてきます。その成果は、間違いなく研修にかかった費用を軽く上回る、とても大きなものになります。
研修ほどパフォーマンスの良い投資はありません。