ゆとり世代

　「ゆとり世代」と呼ばれる若者が近年、続々と企業に入社しています、と始まる若手社員育成セミナーの宣伝ＦＡＸが私の机に置かれた。有名な総合研究所発信のコマーシャルＦＡＸである。「これまでの育成方法がうまくいかない」と頭を抱える企業が多いそうだ。
　
　なるほど「ゆとり世代」か。わが国が軍事力によってアジアを一つの共同体とする作戦を企て、大敗を喫して無条件に降伏してから、わずか６５年。黒焦げになった街のいたるところで疲れ切った方々がぐったり座り込んでいた夏の日からたった６５年で、エアコンの効いた清潔な部屋に座って「ゆとり世代」の若者に悩んでいる企業が多いという。
　銃弾が飛び交い爆弾が町の暮らしを焼く日々を耐えて送っていた世代と、その後の世代を比べたら、明らかにその後の私達は「ゆとり世代」である。
　その私達がある世代の若者達を「ゆとり世代」と呼んで、頭を抱えてしまうというのはどういうことなのだろう。頭を抱える側にこそ問題があるのではないか、と思わずにいられない。ま、だからこそ、この手のセミナーが商売になるのだろうが。

　社会は、本能だけで乗り切っていける場所ではない。しきたりや文化、伝統が社会を作っている。若者達は、何も教えられなければ本能だけで生きるしかない。しきたりや文化、伝統の基本を、先輩は教えなければならない。

　会社も、同じだ。会社のルールは先輩が教えなければならない。しかし、若者とはいえ会社に入るぐらいの大人になっている。頭を抱えたあげく、総合研究所の門を叩くのではなく、本人と話してみたらどうだろう。などと他社様の商売の邪魔をしてはいけないが、なぜこのルールが必要なのか話して理解してもらうことができないくらい説明するほうに説明力が無く、聞くほうに理解力が無いなら、いくら育成方法の研修を受けたところで、わかってもらえるわけがない。
　基本的なルールは教えなければならない、と思うが、仕事の内容についてこまごまと教える必要は無いと思う。若者達は自分で学ぶ力を持っているし、自分なりに試行錯誤しなければ覚えるわけがない。

　教えるべき基本的なルールとは何か。それは社会のしきたりや、文化、伝統と同じ、会社のしきたりや、文化、伝統だ。基本はやはり、何のための会社か、という会社の根本理念に行き着くだろう。そこから派生した、社会のルールとは少し異なるかもしれない挨拶の仕方や電話の受け答え、口の利き方などがあろう。こうしたマナーについては、その会社らしさを出せるようになるまで、何度も何度も教えるしかない。

　マナーの悪い社員のいる会社は、おおむね他の社員もマナーが悪い。逆にマナーが良い社員のいる会社は、他の社員のマナーも良いことが多い。基本的なルールをしっかり教えている会社かどうかの差は歴然としている。
　

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