国境

　江戸時代末期、日本国内の各地方国家（藩）の人々は、自分の国が無くなってしまうことなど考えてもみないことだったろう。しかし、今やふるさとを「クニ」とよぶぐらいが国であったことの名残りであろうか。各藩はそれまで、自藩の防衛のため、食うや食わずであっても軍事予算を使ってきた。明治になって、地方の軍事予算は日本の軍事予算に規模を拡大したが、少なくとも地方の国境を守る防衛予算は不要となった。

　現在、世界の軍事予算上位１０カ国の費用だけを合計しても軽く１００兆円を超えるようだ。安易な発想だが、もし仮に国境が無い世界が実現すると、この１００兆円を超える費用は全て別の目的に利用できる。
　「なわばり」意識は様々な動物に存在するものだが、人類も強烈ななわばり意識を持って戦い続けてきた。食べて排泄する、という生物の基本的な営みは野生の動物も人間も変わらない。しかし、野生の動物は自分達のなわばり争いに他の多くの動物を巻き込まないし、争っている相手以外には直接的な損害を及ぼさない。人間は考え、心を持ち、道具を使って多くの人間を殺す。老人も子供も男も女も関係なく、無差別に大量に殺す。日本の国防予算は約５兆円である。

　１０年後の未来は、そうそう大きく変わった世界ではないかもしれない。しかし、１００年後の未来はどうだろう。国境はまだ大きな意味を持っているのだろうか。国や国を超えた地域をどのように考えるかが、人類の進歩を考えるとひとつの尺度になるように思う。

　目線を地平線や水平線から、ちょっと上に上げるだけで、地球以外の星の世界が見えて来る。太陽系の惑星があり、遠く遥かな恒星とその周囲を回る惑星がある。地球は小さい。その小さな惑星の上で進化した生物は、何回も絶滅を繰り返して、結局宇宙に乗り出すまで進化しないのだろうか。
　私は進化して行く、と信じている。そのためには、野生生物の頃からずっと衰えない「なわばり意識」という意識の克服が必要だろうと思う。


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