新しいものの見方ができたら

　免疫細胞にもコーチと選手がいるらしい。コーチをヘルパーＴ細胞と呼び、選手をキラーＴ細胞と呼ぶ。これまでは、この選手の細胞（キラーＴ細胞）のモチベーションアップを計る研究ばかり行ってきたが、効果が上がらなかった。そこで今度はコーチも一緒にモチベーションアップしたらどうな るのだろう、とやってみたら、なんと、今まで活躍しなかった選手がバリバリ働くようになって、末期と思っていたがん患者のがんが消失してしまったと言う。北大遺伝子病制御研究所の西村先生を中心とする研究チームの成果だ、とニュースになった。わが家で取っている新聞ではその日夕刊に小さく 載った、というレベルだったが、私は大ニュースだと思う。
　がんワクチンがさらに実用化に近づいたという功績だけでなく、免疫力増強に対するこれまでとは異なるアプローチがあることを気付かせてくれた、という面が大きいのではなかろうか。これまでも、人間の細胞が役割分担しながらチームで外敵に対応していることはわかっていたはずだ。しかし、今回の成果は、体内の免疫チームを構成する監督やコーチや選手など全員が一丸となって特定の外敵に対処する環境を作ることができれば、今までに無い高い効果を引き起こす可能性を示唆している。新しい研究の方向性が示された、と思う。
　
　考え方、ものの見方は、よほど柔軟な考え方ができる頭脳を持ってしても、それまでに受けた教育や時代背景から逸脱することは難しい。どうしても、ある一定の方向を向いた考え方になってしまいがちだ。目の前に答えがあるのに見えない。時代が変わって、新しい考え方が一般的になってから見てみると、当時はなんでこんな簡単なことに気付かなかったのだろうと思うことがよくある。結局、「見る」行為は、脳が行っているということだ。われわれは脳が理解しているように世界を見る。
　だから、新しい発見、新しい考え方の道筋が存在することを示す行為、というのは惜しみなく賞賛されるべきことだと思う。人類は姿かたちの進化以上の進化をこうやって行っている。

　自分の所属するチームの中で、新しい考え方、新しいものの見方を提案できた人がいたら、それがどんなに小さなことであっても賞賛に値する。ほめてあげよう。


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