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ジェイエスピー社員が綴る日替わりブログ

水神さん

2012-10-22 08:38:10 | 日記
 周辺に住む人達はその場所を「水神さん(すいじんさん)」と親しみを込めて呼んでいた。水神さんは大きな丘のふもとに位置し、丘の周囲を回る道と丘の上の神社まで続く太い坂道、それに曲がりくねる細い急な坂道の交差するところにあった。そこで暮らす人の多くが丘の周囲や丘の上で暮らす農家であったため、その場所は交通の要衝でもあった。
 
 交差点の脇からほんの少し下がった場所に小さな澄んだ水の池があり、よく見ると水面をあめんぼがつつと動く姿が見える。池の中央には幅1メートル半、長さ3メートル半ほどの長方形の石の島が置いてあり、道路から少し下ると短い石の橋でこの島に渡ることが出来る。
 
 池の北側は直径15センチもあろうかという太い竹が密生していて根本に大きな竹の子がにょっきり生えている姿を見ることもある。北東側にはブナの大木が池を覆うように伸びていて池の中央に置かれた石の島に立つと竹とブナのドームの中に入ったような気分になる。
 
 池の水は絶えず竹林の外れの水底から湧き出していて濁ることがない。すくって飲むと冷たくて甘い。農作業から帰ってきた人たちは石の島に降りて談笑しながら鎌や鍬を洗ったり畑で収穫してきた大根や小松菜を洗ったりする。そうした後でブナの根本に置かれている石の塔に向かって手をあわせて帰る人もいる。「水神さん」はその名の通り神様だから。
 
 子供にとって水神さんは神様のいる場所でありながらザリガニ釣りの名所でもあった。細い枝の先に結びつけたタコ糸に田んぼで捕まえたカエルやミミズを餌にしてぶら下げ、石の島の下で静かに暮らしているザリガニの目の前でゆらりゆらりと揺さぶる。大人のザリガニは子供らの挑発に見向きもしないのだが、若いザリガニは堪忍袋の緒が切れて、俺の生活の邪魔をするなとばかりに大きなハサミで餌に攻撃を仕掛けて来る。その瞬間を狙ってひょいと小枝を持ち上げるとがっちりハサミで餌を挟み込んだザリガニが釣り上がる。
 
 ある時、ザリガニ釣りをして遊んでいた子供たちから大きな声が湧き上がったのは釣れたのがザリガニではなく亀だったからだ。甲羅の長さが10センチに満たない小さな亀だった。丘の上に住む少年が釣ってその亀を連れて帰ったが、亀はその後少年の家を脱走してまた水神さんに舞い戻った。水神さんには亀も住んでいる。
 
 秋の午後、水神さんの石の島から石橋を渡って通りに登ると、丘の反対側に遥かに広がる田んぼ一面が刈り取られて稲の束が干されているのを見ることが出来る。赤とんぼが飛び回ってうるさいぐらいだが、田んぼのところどころに植えられたクルミの木に集まったムクドリの大群が木から木へ飛び移る時の不思議な形に魅せられて気にならない。
 
 秋の日は短い。田んぼに伸びる影もすぐに長くなる。虫が鳴きはじめて急に寂しくなる。ついさっきまではまだまだ遊んでいたいと思っていた気持ちが急に萎え、子供たちはみんな「じゃーなー」などと言いながら、水神さんの前の交差点で別れて走って帰る。誰もいなくなった池では、また静かに水が沸き続けている。
 
 物忘れがひどい今でも何十年も前のことは鮮明に蘇る。(三)
 
 
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株式会社ジェイエスピー
  横浜に拠点を置くソフトウェア開発・システム開発・
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