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水野さんと山崎さん

 「福島第一原発事故と放射線」(NHK出版新書)を読んだ。これは、NHKの水野倫之解説委員と山崎淑行記者が中心となって、「(原発)事故の真相と深層」を書いた書である。この二人は、福島原発が制御不能に陥った直後からTVに出続け、原発事故の動向を事細かに解説してくれて、何が起こっているのか、これからどうなるのか、私たちの知りたい情報とそれについての的確な解説で、多くの視聴者がパニックに陥ることなく、冷静に対処することを可能にしてくれた功労者であると私は思っている。
 政府側から公表される僅かな情報だけでは、いったい何が起こっているのか、まるで分からなかった。水素爆発で建屋が吹っ飛んでも、炉心を冷却するための注水がままならぬ時も、政府や東電の発表からは危機感が伝わってこず、本当にこれで大丈夫なのか、と不安だらけだった。それと比べると、NHKのこの二人の解説は、いたずらに危機感を煽るわけでもなく、かと言って事態を楽観視するのでもなく、自らの持つ知識に基づき、理性的な物言いで私たちに注意を促し、幾ばくかの不安を取り除いてくれた。彼らの解説が的確であったことは、その後の福島原発の経過を見れば明らかであり、その慧眼は他局の解説員の及ばぬものであった。
 その二人が長い取材経験の中から得たものを忌憚なく語っている本書は、原発事故を検証し、これからのエネルギー問題を考える上で、多くの示唆に富んでいる。以下に「なるほど」と思った箇所を幾つか挙げてみる。

 「技術導入とその改良で原発を作ってきた日本は、ゼロからの開発を知らず、また"実戦"での緊急対応も経験していないから、制御できなくなたときの『本当の怖さ、恐ろしさ』を知らないのではないか」(P.94)
 「原子力の世界の人はできるだけ情報を出さない、知らせないということで、出来上がっている推進体制を守ろうとしていましたし、その世界の外部にいる者を信じないというところがあるように感じます」(P.100)
 「今回の事故は起こるべくして起きてしまったのかもしれません。言い方は悪いかもしれませんが、『原発という危険なおもちゃを私たちに扱えるのか?』ということが、今回私たちに突きつけられた宿題です。私たち日本人は、原発という代物を扱えるだけの組織マネジメントができていないということだと思うんです」(P.163)
 「今後も原発に頼るのか、新規建設はやめるのか、もしくはすべてをやめるのかといった具多的なことを、国民的な議論にしなくてはいけないんですね。菅総理が勝手に政策を決めるのではなくて、原発を全部止めたらどうなるのか、自然エネルギーだけでどのくらい賄えるのかといった、国民が判断に使えるようなあらゆるシミレーションを重ねて、その情報を提示した上で、最終的には国民投票という手もあるでしょう」(P.168)
 「正しく状況を理解して、正しい身の振り方を考えてもらう。それがもっともみんなの被害や損失を抑えられる。いうまでもなく、放射線をむだに受けることは避けるべき。それが基本。怖がってください、と。だから対策も徹底的に行うべきで、流通する食品や水の検査は最高に厳しくやるべきだし、放射線が継続的に高い地域の対策も余計と思われるくらいにしっかりと行うべきです」(P.178)
 「私から見ると、政府がやろうとしていることは、間違っていないこともあるんですけれど、最初に住民不在で、不信感を持たれてしまっているから、正しい決定も不信の目で見られて結局混乱が継続している。広くアンテナを張り集めた情報と権限は1か所にしてそこで判断する。そういうシンプルな仕組みをとっていかないと、この未曾有の大災害の手当と、広範な分野にまたがる住民からの要望に迅速に対応できないと感じます。福島第一原発は、トラブルの真っ最中だということを、忘れてはいけないのです」(P.184)

 どうしてこのことが政治の中枢にいる者たちには理解できないのだろう?鈍感なのか、始めから理解しようとしていないのか、ただのバカなのか・・・。
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