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小野道風

 「"おのどうふう"ってどんな人?」
高3生の女の子が訊いてきた。
 「おの?どうふう?」
 「みちかぜかも・・」
 「みちかぜ?・・・、ああ、"おののとうふう"のことか。」
 「そうかも・・、三蹟って書いてあるけど・・」
 「藤原佐理、藤原行成と小野道風で三蹟・・。でも、小野道風を知らないの?本当に?」

 「三蹟」という歴史的人物であることは知らないにしても、愛知県の出自と言われている小野道風はこの近辺の人間なら誰でも知っているものだと思っていただけにびっくりした。
 「それじゃあ、小野道風とカエルの話も知らないの?」
 「何、それ?」
 「道徳の時間に習わなかった?」
 「知らないよ、そんなの・・」

 そこで私の記憶に残っている逸話をかいつまんで話してみた。私のあやふやな記憶ではピンとこないかもしれないので、ネット上でオリジナル版らしきものを見つけてきた。

 「ヤナギニ 蛙」
昔、ヲノノタウフウトイウ 人ガ アリマシタ。
小サイ 時カラ ジノケイコヲシテ ヰマシタガ 思フヤウニ ウマク カケナイノデ 、ヤメテシマハウカト 思ヒマシタ。
アル 雨ノ日ニ タウフウガ、庭ニ オリテ 池ノ ソバヲ 見ルト、 一ピキノ 蛙ガ シダレヤナギノ 枝ニ トビツカウトシテ ヰマシタ。
トンデハ 落チ、 トンデハ 落チ 何ベンモ クリカエシテ ヰマス。
トウトウ ヤナギノ 枝ニ トビツキマシタ。
タウフウハ コレヲ 見テ、コンキヨクスレバ、ナニゴトモ デキナイ コトハナイト 気ガ ツキマシタ。
タウフウハ、ソレカライッシンニ ジヲ ナライマシタ。
ズンズン ウマク ナッテ、ナダカイ カキテト ナリマシタ。

 昭和16年2月の文部省発行の教材『ヨイコドモ』の下巻にあり、2年生が使用したと言われている。「倦まず弛まず、根気強く努力することの重要性を説いている」典型的なお話だ。小野道風ほどの世に知れた能書家でも、懸命に努力して地位を築いたんだな、と子どもたちが分かってくれることを願って採用されたのだろう。
 私も小学校の頃、大嫌いな道徳の時間で読んだように思う。が、その時は、「花札のあの絵のことか・・」としか思わなかったような気がする。


 きちんとこの物語の趣旨を理解していたら、今頃もう少しまともな人間になっていたかもしれない、と些か後悔の念が浮かんでくる。
 だが、小野道風の知名度の低さには驚いた。他の塾生たち、小学生から高校生まで何人かに訊いてみたが、一人も知らなかった。不思議で仕方なかったが、これだけ今の子どもたちがこの話を知らないと言うことは、努力の大切さを説く題材として彼とカエルの話は使われていない、と言うことなのだろう。
 今では、花札なんてものを知っている子どもたちもあまりいないだろうから、この先小野道風に光が当たることはないように思う。少し残念な話だが、偉人にも流行り廃りがあるようだ・・。

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