★ 世の中はだんだん窮屈で、そして世知辛くなってきているように感じる。一部の富裕層はともかく、なんとか今の生活水準を維持できれば幸運で、病気や失業など不慮の出来事があれが、すぐに生活が行き詰まる。
★ そんな気分で今日は「短編名作選 1885-1924 小説の曙」(笠間書院)から国木田独歩の「窮死」を読んだ。
★ 国木田独歩と言えば「武蔵野」のような美文の作家だと思っていたが、「窮死」は下層の労働者が主人公で、プロレタリア文学ともいえる。
★ 舞台は「めしや」の場面から始まる。仲間から文公と呼ばれている男は、その日稼いだなけなしのカネで夕食を注文した。咳が激しく、もはや長くはないと自他ともに思っている。それを感づいてか、めしやのオヤジや店にたむろする肉体労働者たちの厚意で、わずかな酒も味わった。
★ 文公は家族に恵まれず、一時期は浮浪児として保護されていたが、そこを追い出されてからはその日暮らしの生活を送っている。身寄りもいない。
★ 土砂降りが上がり、文公は店を出る。といって行く当てはない。常宿の木賃宿も借金がかさんでもう泊めてはくれない。近所の知人のことに思い当たって、一夜の宿を頼むが狭い空間に父親と2人、床を並べる知人を見て躊躇する。
★ 父親の温かい言葉で、文公は一夜の宿を確保する。翌朝、知人とその父親は日雇いの仕事に出かける。そこで父親は諍いに巻き込まれ帰らぬ人となる。通夜が営まれるので、文公は知人からカネをもらい外泊する。
★ 葬儀の翌日。線路に轢死体が見つかる。文公であった。薦(こも)で覆われたその轢死体を土手の上の見物人や汽車の乗客が見て通る。
★ 「文公は如何(どう)にも斯(か)うにもやりきれなくなって倒(たふ)れたのである。」と締めくくられている。
★ 最近、鉄道の人身事故が多い。社会の深層で何かが崩れてきているのかも知れない。