★ 中島京子さんの「夢見る帝国図書館」(文春文庫)を読んでいる。その中で、芥川龍之介の「お富の貞操」が紹介されていたので、読んでみた。さすがは芥川龍之介。とても余韻の残る作品だった。
★ 舞台は明治元年5月14日。上野に立てこもる彰義隊と官軍との最終決戦が始まろうとしていた。戦を前に、上野界隈の町家には避難する旨お達しがあり、無人の町は静まり返っていた。
★ その時、ある町家に一人の乞食が入ってきた。彼はそこで懐の短銃を整備し始めた。彼は傍らに置いてきぼりにされた猫を見つける。猫相手に一人語りをしていると、外から一人の若い女性が入ってきた。
★ この町家に奉公しているお富という娘だ。置き去りにした猫を取りに帰ってきたという。それを聞いた男は、猫に短銃を向け、猫を助けたければ言いなりになれという。そして娘のとった行動は・・・。
★ 物語は23年後の内国博覧会のシーンで終わる。かつての娘は成長し、夫、二人の子どもと共に上野の大通りを歩いていた。その横を名士を乗せた馬車や人力車が行き来する。お富はその馬車に中にあの日の男を見つける。
★ 二人の瞳が交差するこのシーン。スローモーションで見るように実にドラマチックだ。うまい。