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平松洋子さんの話である。
数日前からオーブン横が定位置となった『よい香りのする皿』。
その中で、彼女が二十ニ、二十三のころ、しきりに作っていた料理の話が出てくる。
それは「鶏肉と玉ねぎのトマト煮」。
作り方は本当に簡単で、厚手の鍋に下から玉ねぎ、鶏もも肉、トマトの水煮を重ねて、これを二度繰り返す。
上からオリーブオイルをたらし、潰したにんにくを入れ、最後に塩。
そうそうおまじないにローリエの葉っぱを一枚のせるとありました。
水は一滴も入れず、きっぱり。
この鍋を蓋をして煮るだけ。一時間ちょっと…。
玉ねぎは輪切りにするとあって、久しぶりに玉ねぎを輪切りにしたのです。
で、このトマト煮がおいしいのなんの!
これだけの手間で、こんなに美味しい料理が!と有頂天になるほどなのです。
平松さんがしきりに作っていたのも十分うなずけますが、
この料理にまつわるお話がなんともいいのです。
ボーイフレンドがごはんを食べる来るという事態になったとき、すがるにようにして作ったひと皿。
それにしても、と思います。
私は平松さんの文章にほんとうに心を動かされるのです。
なんと言うか、料理を作る合間にも、ふと手を伸ばして『よい香りのする皿』を読むと、それがたとえ三行であろうが(行数はあまり関係ないかも)
ぐわぁ~と幸せ気分になれるのです。
今回のこの本は最初に「さんま、メンチカツ、むかごごはん」という
小さな小さなエッセイが「キヲツケ」して行列しているようなページがあるのです。
日曜日の朝のトーストの話だったり、
北海道から届いた枝豆の話だったり、
松の実、さんま、麻婆豆腐、にら…、次から次へと、まるで万華鏡のように話題が変わる。
なんでこんなに好きなんだろう、まいったなぁ~と思いながら、読みながらニマニマ。
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読んだ人をこんなにもメロメロにできるような文章を書いてみたいと…と頭の片隅で思いながら。
photo 玉ねぎのくたっと具合もたまりません。美味!