夏休み最後の週末。
やらなければいけないことはいっぱいあるが、
夏休みにこそやらなければいけないこともいっぱいあるだろう…(くどくど言い過ぎ
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)というわけで、
友達ファミリーと一緒に、カイスイ(海水浴)へ。
ほんとはこの週末に会社の保養所に行こうと申し込んだのだが、
抽選ではずれ!
人気のある保養所なので、いつも倍率が高くて
はずれるのがこれで二度目!
こうなるとなんとしてでも泊まりたいのが人情だが、
まぁこれは次回の楽しみとして、
一緒に行くはずだった友達ファミリーと近場でどこかへ…と出かけた。
橋を二本渡って、瀬戸内海の島へ。
八月の終わりの海水浴場は閑散とまるでプライベートビーチのよう。
「わぁ~貸切じゃん」と能天気に喜んでいると、
どうやらサメ避けネットをはずされたばかりらしかった。
「ここはあぶないから、もう一本橋を渡ってよそへ行こうと」友達オットが言うものの、
すでに水着に着替えて
海に入っている子供たちからブーイング。
「いいべ~」
結局、海の深いところまでは行かないとしっかり約束させて、
そのビーチに落ち着く。
そうこうするうちに地元の親子がやってきた。
子供たちはすぐ一緒に遊びだす。
なんともよい風景。
家から持ってきたジュースやらお菓子やらを食べながら、
友達ママとべちゃくちゃしゃべりながら、過ごす。
お昼の時間になって、
「ここを動きたくな~い」という子供たちの声を尊重し
ビーチそばにある食堂を友達オットが見に行く。
「テイクアウトしてくれるらしよ」
それで、友達ママと財布だけ持って買いに行く。
店の前に立っていたお店の人らしきおばちゃんに
「なんでもありますか?」と思わず聞いた。
「なんでもありません」。
…。
いかにも映画にでてくるようなひなびた食堂。
店内は地元の常連さんたちで満席で
この暑いのにしっかり煮たおでんと
ビールでぐだぐだ楽しんでいる。
海水浴客の私達二人はそろりと店内に入る。
メニューを見る。
店主のおばあちゃんらしき人が出てくる。
さっきのおばちゃんのおかあさんだ、きっと。
だって似てるもん。
若い頃は美人で通っていたんだろうなぁ、なんとか小町?
それにしても歩くのも辛そうなおばあちゃん。
大丈夫かなぁ?
「どれにする?」
火を通したものを食べようと固く心に決める。
どこで食べてもたいして味のばらつきがない
ものにしようと、焼きそばを選ぶ。
一人前430円。
友達ママ、あきらかに帰りたそうな顔をしている。
「焼きそばを五人前お願いします。
それからいなりずしを…」
オーダーを聞くおばあちゃん。
「ご、五人前ぇ?」
なんとなく声がうわずっている。
辛そうに足をひきながら、
冷蔵庫から生麺を出す。
「一度に作れないよ。時間かかるけどいい?」
「は、はい、もちろんいいです」
「いなりずしはあっちにあるから見てね」そう言われて、
店の奥へ二人行く。
友達ママ、現物を見てやめる。
私は、言った手前、
一人前だけ買うことにする。
なんとなく気弱になって
店の壁に目をするするとはわせる。
…と、古ぼけた一枚の写真に突き当たる。
えっ!これって寅さんとツーショット?
それも今、まさにいるこの店内のあの窓の下で撮った写真ではないの!
友達ママに、「あれ見てみて!」とこっそり声をかける。
二人でうなずく「うん、寅さん」。
いかにも寅さんがふらりと入ってくるような店構えである。
厨房をのぞくと、おばあちゃんが丁寧な手つきで野菜を切っているのが見える。
今は息もからがらに焼きそばを作っているあのおばあちゃんも
かつてこんな時間を持ったのだ。
なんだか焼きそばもいなりずしも食べる勇気が湧いてきた。
しばらく店の外の椅子に座って待っていたら、
「なんでもありません」と答えたおばちゃんが
焼きそばをパックに入れて手渡してくれた。
あまり人けのないビーチでみんなでそろって食べた焼きそば。
思ったよりもおいしくて、ほっとした。
焼きそばの具のかまぼこがおばあちゃんらしくて、なんだかおかしかった。
いなりずし、黙ってオットと二人で食べた。
もうきっとここの食堂では食べないだろうけど、
今回の島の海水浴の思い出を語れば、
二番目にはおばあちゃんの焼きそばの話になるだろうなぁと思った。