人間とは誠に身勝手なもので、景気回復のためということでインフレターゲットには賛成しておきながら、円安に振れたことで価格が上がろうとすると、そりゃ困ると大騒ぎを始めます。一部マスコミが取り上げていることで、踊らされているといった側面もあるのでしょうが、安いに越したことはないといったところが本音としてあるのでしょう。
「電気料金値上げについて」でも触れておりますが、原発事故を受けて、電気料金が上がっても安全が第一だと言っていた方々でも、いざ電気料金値上げが現実のものになると、その捌け口を求めて東電バッシングに走ったことは記憶に新しいところでしょう。(参考:「日本原電への1000億円を超える支援報道について」)
円安で主に輸入原材料等が値上がりします。しかし、小売価格はなかなか上げられない。コストダウンは限界に近い。おまけに、政府からの賃上げ要請を受けて、大手の小売の中には賃上げを実施するところが出てきているそうです。自社でコストダウンを吸収できない場合には、当然のこととして、その矛先は仕入先へ向かうことでしょう。しわ寄せを受ける企業は、益々業績が悪化することになります。
一方で、輸出産業には有利なように思えそうですが、今度は世界が競争相手ですから大幅な収益性の改善が見込めるものではないでしょう。ですから依然として人件費抑制を含めたコスト削減要請がが続くものと思われます。ですから、これも景気回復の特効薬という訳には行かないようです。
政府の主張は、デフレ脱却のため先ずは、
「インフレターゲット」⇒「雇用・賃金の増加」⇒「購買力の増大」⇒「生産の拡大」⇒「雇用・賃金の増加」⇒・・・
といった循環に持って行きたいとのお考えかと思います。
しかし、先ずもってインフレターゲットでもって実際に物価が上昇するかといったことに疑問があります。先に述べたように、おいそれと価格転嫁が可能かといったことです。価格転嫁が出来ずに苦しむ(主に中小企業であると思われますが)企業が増加するのではないかと思われます。
次に雇用・賃金の増加に結びつくかといった疑問です。先にも述べましたように、政府の要請に対して同調する企業も出てきているようですが、それはほんの一握りの企業でしょうし、そのしわ寄せを受ける企業も出てくることでしょう。
何となく景気循環の入口を間違えているような気がします。私としては、購買力の増大からといったことであると考えます。しかしながら、どうやって購買力を増大させるかですが、これは旧態依然としたことですが、公共事業に頼らざるを得ないと考えます。「穴を掘って埋めるような仕事でも景気対策に有効である」といったケインズの言葉もあります。ここまで極端なことを望むものではありませんが、公共事業は景気刺激策としては重要であると考えます。このことは、補正予算ないしは、本年度予算で既に対策が打たれております。
次に、賃上げですが、現状においては、内部留保を溜め込んでいる企業を除く、多くの企業にとって賃金を上げることは困難であろうと思います。ですから、雇用の増大を目指すべきであろうと考えます。先の公共事業も寄与するでしょうが、人手不足の業界を中心に未就労者の新規雇用の創造が必要なのではないかと考えます。雇用対策は公共事業と同じくらいの優先度をも持って取組むべきであると考えます。特に女性の社会進出を積極的に進めることにより、新たなニーズが生まれます。
もう一つ購買力を増大させるために重要なことは、金を溜め込んでいるのは誰かといったことでしょう。この金が市中に出回らない限り、本格的な景気回復は訪れないでしょう。このお金を使い易くするような刺激策が必要であろうと思います。
安倍政権は、デフレ脱却のためにやれることは何でもやると仰っております。先に指摘したように、入口は間違っているような気がしますが、景気対策自体は間違っていないと思います。しばらくは、一々過激に反応せず、成り行きを見守っていくことが大切なのではないかと思っております。
何事も捌け口を求めて他をバッシングするだけでは何の解決にもならないということなのではないかと思います。