当時のG社の主な業務は、高圧化ビジネスでありました。低圧受電している需要家に高圧受電設備を導入することにより電気料金の削減を提案するといったものです。小規模の店舗などの場合には、家庭用と同じ従量電灯(単相3線式)と低圧動力(三相3線式)で給電されます。電灯と動力を合算して50kW以上の場合には、自前の受電設備を設置し高圧(6.6kV)で受電するようになっております。
低圧受電の場合には、電力会社が変圧器によって高圧から低圧にしてから各需要家に供給しますが、高圧受電の場合には高電圧のまま受電し、先述の自前の受電設備により低圧にして使用することとなります。自前の受電設備を設置し保安点検(電気主任技術者による)が義務付けられます。当然、設置費用や保安点検費用(通常は委託)が発生しますが、それでも高圧化した方が電気料金が安くなる場合があるのです。
それは電気料金の仕組みにあります。ここでは、電気料金の仕組みを述べることが目的ではありませんので、かいつまんでいえば、「家庭用や小規模需要家などの低圧電力の料金体系は基本料金単価は安いが、使用量単価が高い」。逆に、「高圧の料金体系は、基本料金単価は高いが、使用量単価が安い。」といったことになるのでしょうか。
この料金体系を活用して、低圧から高圧に切替えることによる電気料金の差額から設備費や保安点検料を賄おうとするものです。通常、設備費用(工事費用を含む)は一括して発生するものですが、リース/レンタル/割賦などにして月払いにすれば、
月々の電気料金の削減額-(設備費用の月額支払分+保安点検料の月額支払分)>0(純利益)
の場合が出てきます。(もちろん逆になってしまうケースもあります。この場合には、契約種別を見直すなど別の方法を採るかそのままがベストということになります。) つまり、従来ならば電力会社へ支払っている金額の中から導入費用や保安点検料を賄ってもお釣りがきてしまうのです。
但し、これは省エネでも何でもありません。導入の前後で同じように電気を使っても、単に電気料金が安くなるというに過ぎません。コンビニなどの需要家がこぞって導入しているのもそのため(コストダウン)です。私は、コストダウンが悪いといっているのではありません。むしろコストダウンは必要なことと思ってます。できれば、省エネすることでコストダウンができることが望ましいと考えているだけです。というのは、省エネを伴わないコストダウンは「増エネ」になることがあるからです。高圧化の例でいえば、受電設備の製造、運搬、工事に要するエネルギーや保安点検(自動車で移動するケースが多い)に要するエネルギーなどが新たに発生することは明らかです。厳密には高圧化による減少分の検討も必要でしょうが?
高圧化のビジネスは、たいして儲かるものではありません。電気料金の差額がべらぼうに大きければ利益も大きく取れるのですが、残念ながらさほどのものでもありません。その点、電力会社も良心的(?)といえるのかも知れません。そこでまた悪徳業者のつけ込むことになってしまいます。設備費用を切り詰めるのには限度がありますので、電気料金の差額を調整すれば見かけの純利益を大きくみせることができます。契約種別やそれに基づく料金単価を誤魔化すことはできませんが、契約電力を誤魔化すことは可能です。低圧電力の場合には、ほとんどの需要家が負荷設備契約となっており、実際の電力需要とは関係なく契約電力が決まっております。高圧化すれば、デマンド計による実量制となりますので、最大需要電力によって契約電力が定まることとなります。
システムの提案時に過去の使用電力量の実績や負荷設備によって、高圧化後の契約電力を予想するしかありません。設計者にとっては、ここが腕の見せ所となる訳です。如何に予想契約電力と導入後の契約電力を一致させられるかです。契約電力を小さく評価すると純利益を大きくすることができますが、導入後に実際の電気料金の差額が提案書より小さくなってしまいます。逆に、契約電力を大きめに予想すると純利益が小さく評価され受注が取りにくくなりますが、導入後に実際の電気料金の差額が提案書より大きくなります。
この辺の微妙な匙加減によって受注確率が異なってくることも事実です。これは一概に省エネ業者だけが悪いとは言えないことかも知れませんが、ある意味故意にやっている業者は大問題です。良心的な業者ならば、受注確率が少々減少することを承知の上、安全をみて契約電力の予測をある程度高めに設定して提案しているはずです。特に、削減金額を保証するとしている業者ならば尚更でしょう。
私がG社に初出勤したのは、クリスマスイブの前日からでした。本当は切り良く年始からと思っていたのですが、どうしても早く出て来いということでしたので、とりあえずということでその日から出社しました。出社してみたものの机は宛がわれたもののパソコンも無く、適当に資料を読んでいるくらいしかすることがありませんでした。翌日のクリスマスイブは、どういう訳か知りませんがケーキが余ったとの事で、クリスマスケーキを2個もらって帰ったことが妙に印象に残っております。
初仕事は、いきなり受電設備の変圧器(アモルファストランスへ)の入れ替え工事の立会いということに相成りました。まぁ、観ておくだけで良いから(電気工事士の免状を持っているといってもペーパーみたいなものですから、早めに現場体験をさせようとの親心であったものとみえます。)ということでしたので、現場へ出かけたのであります。
忘れもしない12月30日の雪がちらつくような寒い日でした。とある工場に夕刻より出向きました。数日前から工務の担当者、保安協会、電気工事屋を含めて入念に打合せをし、万全の準備をしていたつもりでした。工事の際には、工場全体を停電させる必要があります。工事用電源とコンピュータ室のため発電機を準備していたのですが、何とその発電機が起動しないではありませんか。いきなりピンチです。ただ観てるだけのはずが、いきなり判断を迫られたのでした。レンタル会社にメンテナンスか代替機を大至急依頼すると共に工事の段取り変更を各担当者と打ち合わせに入りました。
停電時間は、20:00~0:00までと予め決められており、これを遅れると明日の出荷ができなくなるとのキツイお達しです。最悪、工事中止の決断をせざるを得ません。「入社数日の私にそんな権限無いよー!」と思ってはみたものの会社の誰とも連絡が取れない以上「腹をくくるしかないか?」と悩んでおりました。最終判断は、20:00の状況をみてからということで、それまでは停電以外でできることを先行作業することとしました。より安全作業に徹するよう注意したことは言うまでもないことです。
幸いメンテナンス担当者が駆けつけてきてくれ、19時半過ぎには発電機を起動することができました。これで何とか工事中止は免れたが「後は時間との勝負だ!」やるしかないと悲壮感を漂わせておりました。
そんな状況の時、やっとA専務のご登場です。「今時、のんきに差し入れなんかを持ってきてる場合じゃ無いでしょう!」と難詰しつつも有難く差し入れだけは頂戴いたしました。その後の工事は各プロの能力をいかんなく発揮し順調に行くかに思われました。クレーン屋、重量屋の見事な動きや保安協会のチームワークなど感心しながら作業に見惚れておりました。この分だと余裕で終わるなと思った程でした。さずがはプロだなーと思いきや、肝心の電気屋がとんでもない連中でした。
素人目にみても段取りが悪い。道具が無い、材料が無いとその都度取りに行ったり、買いに走る。手持ち無沙汰な作業者がいるなど言い立てればきりが無いくらいでした。
結局、復電時間が1時間のオーバー、作業全体としても2時間のオーバーとなってしまいました。初仕事がこの始末です。前途多難を暗示しているかのようでした。
年明けからは、高圧化の営業活動が活発化しました。大手商社と提携してコンビニチェーン店に売込みを図っておりました。当時A専務は、その業務の陣頭指揮をとっておりました。その下で、私が商品説明会や営業訪問、受注後の各種手続き、工事立会いなどの実務を担当しておりました。
2月には初受注、その後も順調に受注を続けることができ、工事実績もでき「さぁ、これから」という時、またもやドラマが・・・。
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