これまでILC建設計画の候補地として、北上山地と背振山地が地元自治体等を巻き込んで誘致合戦が繰りひろげられてきました。私はこのことを地元住民としていささか疑問に思うというか、滑稽さを感じながら見守って参りました。
これら誘致合戦の主体となった面々で、真に学問的興味から活動されているのは一体何人ほどなのでしょうか。その殆どの方々は、単に目先の経済的な利益を求めてといったことではないだろうかと推測致しております。
利益の追求をしてはならぬと言っているのではありません。そもそも経済活動は利益の追求なしには継続することは不可能でしょう。しかし、やり方については色々と問題を起こし得ることがあります。この度の誘致合戦においても、経済優先を表に出しすぎるのは気が引けたものとみえ、ILCや物理に関する説明会(子供向け、一般市民向け)などが開催されてきました。このことで如何ほどの理解が進んだものか甚だ疑問に思います。
佐賀、福岡県知事などはわざわざ、スイスのCERNまで出向くなどといった念の入れようだったようです。どう贔屓目に見ても古川知事が物理にご興味があるとは思えませんが・・・。
先程、滑稽に見えると申し上げたのは、自治体や経済団体などがが踊らされているように思われたからです。要は、8,300億円掛るとされる建設費をどのように負担させるかといった絵を描いた方がいて、その筋書きに沿って踊らされていただけに見えてしまうからです。
科学の研究には莫大な費用が必要です。その研究費をどのように捻出するかは大問題となります。どこぞの議員が「世界一じゃないとダメなんですか? 2位じゃダメですか?」という国家においては、自ら研究費を調達してくるしかないのです。学問の成果も研究費を調達する能力が高い人に有利に働きます。私の卒研の指導教官も国からの年間研究費では、大型コンピュータを一秒も動かせないと嘆いておられました。理論物理学は紙と鉛筆があれば済むと言ったのは過去のお話です。何をするにも金が無ければ研究も進められません。
ということで研究費捻出のためには、本来の研究の時間を割いてまでも、いらざる努力をせざるを得ないといったのが現状なのではないでしょうか。政治家や実業家に意に沿わないおべっかを使うこともあるでしょう。日本の科学者からすれば、日本にILCが出来て研究できるに越したことはありませんし、世界の科学者から見れば如何にして日本に建設費用を出させるかといった策略を練っていることでしょう。
何れにしても税金で行わることですから、その結果の検証は必要なことであると思われます。しかしながら費用対効果を言い始めたら科学の研究はできません。国家予算は有限ですから、どのように分配するかを最適化することしかありませんが、その研究が役に立つかどうかは誰にも分かりません。結局は科学者は策略から逃れることはできないでしょう。
このような雑務から解放して、本来の研究に没頭させてあげることが国家の責務ではないかと思うのですが?
そして、科学に限らず一見無駄に思えるようなことが、実は一番大事なことであるのかも知れないということにも留意しておく必要があるのではないかと思います。