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アガサ・クリスティ「春にして君を離れ:Absent in the Spring」の最終勝者は⁉️

2024年06月23日 10時55分20秒 | 書評のコーナー

 

From you have I been absent in the spring, ・・・

 

 

Absent in the Spring:🍎春にして君を離れ🍎

Absent in the Spring is a novel written by Agatha Christie and first published in the UK by Collins in August 1944 and in the US by Farrar & Rinehart later in the same year. It was the third of six novels Christie wrote under the nom-de-plume 【pseudonym】Mary Westmacott.

(Mary Westmacott名義で、1944年8月に英国で、同年中に米国でも出版されたクリスティ先生の小説)↪訳は原書の知財権そして日本語の翻訳権の侵害を避けるべく要約です。以下同じ。ちなみに、ある重要なキャストが亡くなったのが1930年5月11日(chap. 5)であり、所謂「第二次世界大戦」の勃発が1939年、末娘のバーブスの子供が乳児ということから上限下限を鑑みるに、本書の舞台は1935年 - 1936年の中近東と英国だと思います。而して、もともとそれが事務弁護士の業務の過半を占めており、この法域でアメリカ法とイギリス法はたもとを分けたと言われる、英国の不動産法大改正(1925)が背景にある。本邦では治安維持法と普通選挙法が成立した1925年。この大改正の前後20年余り、真面目に、地方の事務弁護士である Joan 奥さまの夫さんの仕事も激烈をきわめていたの、鴨)

 

Explanation of the novel's title
The title is a quotation from William Shakespeare's sonnet 98: "From you have I been absent in the spring,..."

(作品タイトルはShakespeare翁 #sonnet 98「From you have I been absent in the spring」から。「君と離れてすごしたこの春。イングランドでは草木も花鳥も最も人の目を楽しませてくれるはずのその春も、君がいないのだから今年は味気ないまま事務的にすぎていきます」という14行詩 - sonnet からの選抜)

 

Plot introduction
Stranded between trains, Joan Scudamore finds herself reflecting upon her life, her family, and finally coming to grips with the uncomfortable truths about her life. 

(バクダッドから英国への帰路、乗り継の列車においていかれ次の列車を待つまでの数日間、――結果的にはその隔離開始の前日、15年ぶりに女学校時代の友達と偶然再会して昔話とか近況とかバクダッドの末娘の事とか諸々おしゃべりしたこともあって――自分の越し方を反芻した Joan Scudamore 奥さま。でも、奥さまは、粛々と否応なしに、自分に対する自己評価🌺と周りの家族のメンバーからの評価🔺が隔絶していることに思い至るのでした)

https://en.m.wikipedia.org/wiki/Absent_in_the_Spring

 

 

(本書は早川書房さんから「春にして君を離れ」として翻訳もでています。

訳者は中村妙子さん。中村さんの訳なら安心です)

 

 

紹介する「春にして君を離れ」はアガサ・クリスティ先生の(ミステリィ≒探偵小説ではない、多分❤)ロマンチック・サスペンス。ペンネーム「メアリ・ウェストマコット」名義で書かれ(under the pseudonym Mary Westmacott)、テクストでは粛々と一人称による回顧と心裏描写、就中、女学校卒業してほどなく地方弁護士夫人となり一男二女の母となった自分の越し方、妻として女主人として母としてコミュニティの有力者としてのこれまでのその自己評価が淡々と進められていく(↖どこかまで❗❗)「灰色の脳細胞」も「敵国の秘密機関」も、「青酸系薬物」も「書き替えられた遺言状」も、そして、「セント・メアリー・ミードの老嬢」も出てこない地味な作品

 

隔離された空間での内省の遂行。日常から切り離された旅先での自分の越し方の重層的の思索という点で強引にひきつければ、梶よう子「お伊勢ものがたり 親子三代道中記」(集英社・-2013年9月)、および、梶よう子「墨の香」(幻冬舎・2017年9月)と一脈通じるテーストも感じる作品。

 

而して、地味なはずなのに、他方、クリスティ先生ご自身が、自伝の中で「自分でも完全に満足のいく作品」と述べておられることもあり、土台、クリスティファンにとっては作品自体の批判は端から御法度的な、批判すること自体が心理的に難しいテクスト🌺🌺 

 

他方、本書「春にして君を離れ」の主人公であり一人称による回顧と心裏描写の主体である「Joan Scudamore :ジョーン・スカダモア」に対する評価🍎🌺🐙💀はクリスティファンの間でも些か別れているようです。本稿では、ジョーン・スカダモア奥さまが、はからずも不可抗力的に、世界と世間から隔離された、イラクとトルコの国境沿い、砂漠の真ん中のとある鉄道宿泊所での三日間の思索についての感想文。その三日間の時空で遂行されたジョーン奥さまの自己認識・自己評価。そこから最後に抽出されたと思われる[A][B]二組の「事実認識ー行動指針」のセットを軸に本書からわれわれ日本の普通のあなたやわたしが学べると思ったことを綴っていきます。

 

[A]いままで、周りのみんなのことを理解しようともせず苦しめてきました。ごめんなさい😢

[B]バクダッドでの役目も終えて帰りました。わが家も元どおり、嬉しいです❤

 

☆一人称:

「春にして君を離れ」を構成するすべてのセンテンスは、――女学校時代のとある友人の台詞、鉄道宿泊所のスタッフさんたち陸上車両移動サービスの運転手さんたち、および、駅員さんたち車掌さんたちの台詞、ならびに、帰路イスタンブールまでの二日間を同じコンパートメントですごした知的かつ豪胆な45才くらいの公爵夫人の台詞を除けば――①Joan の形式的にも内容的にも完全な一人称スタイル、②「she」を主語にした、しかし、内容的には Joanの一人称スタイル、そして、③「Joan」自体を主語にする「ト書き≒the stage directions」 に分類できます。

而して、ボリュームの観点からも本書の帰結とわたしが思うところからも、この①②③はすべて「一人称での語りのスタイル」と言っていいと思います。尚、もちろんと言いますか、ここでいう「一人称で編み上げられた小説」と所謂「私小説≒I novel」は別物です、為念。また、①と②の違いは英文法というか言語哲学の大変興味深い論点。けれど、本稿ではこの点には触れません😢 だって、もう、順待ちの論点さんたちこのモニターとキーボードの向こうに並んでおられますから。

(*^o^)/\(^-^*)

 

 

 

まずは Joan 奥さまのご容姿と

デフォルトの自己評価から🍎

Really, thought Joan Scudamore, I've worn【wear:①身につける、②だから磨り減る😢、③ところがどっこい、ちゃんとしてる🌺】 well. She saw【in the mirror】a slender, middle-aged woman with a singularly unlined face, brown hair hardly touched with grey, pleasant blue eyes and a cheerful smiling mouth. The woman was dressed in a neat, cool traveling coat and skirt and carried a rather large bag containing the necessities of travel.・・・

(細身のJoan は40代も半ばというのに顔にシワ一つない朗らかでにこやかな方。すっきりとした旅装に少し大きめの旅行鞄を携えていた)

 

They were all nice-looking healthy children with plesant manners. Joan felt that she and Rodney were indeed fortunate ー and privately she was of the opinion that some of credit was to be ascribed to them as parents.・・・

(三人の子供たちはみんな器量よし、お行儀もちゃんと仕付けられた。そして、今ではそれぞれそれなりの社会的な地位にある。この子宝を授かったのは幸運というものだろう。でも、そこに至るには Joan と Joan の夫の配慮と努力が少しは寄与した、鴨)

 

Joan felt a little gentle glow as she turned away from her image in the glass. She thought, well, it's nice to feel one's been a success at one's job. I never wanted a career, or anything of that kind. I was quite content to be a wife and mother. I married the man【=Rodney】I loved, and he's been a success at his job ー and perhaps that's owing to me a bit too. One can do so much by influence.

(世の一隅を照らす。自分の本分でちゃんと成果を出したと思えることは誇らしい🍎 実際、妻として女主人として母としてわたしは成果を出し続けてきた。文学青年の気のある夫をそれとなく誘導して地元では繁盛している弁護士事務所の共同経営者にしたのもわたしの力が幾ばくか貢献している、多分)

(Absent in the Spring, Chap.1)

 

二組の「事実認識ー行動指針」の内容🐙🐙

[A]

Joan said slowly, '・・・I feel I've been so unkind ー done harm to ーto someone I love ー' 'And I can hardly wait to get there ー to get home, I mean. There is so much I want to say ー to tell him 【=Rodney 】.'・・・'He has been so kind ー so patient always. But he has not been happy.  I have not made him happy.'

(わたしは夫や子供たちに親切ではなかった。わたしはわたしの愛する人たち夫や子供たちを苦しめてきました。まずは、一刻も早く夫に懺悔したいです)

 

'And you think you will be better able to make him happy now?'

'We can at least have an explanation. He can know how sorry I am.  He can help me to ー oh, what shall I say?' The words of the Communion service flashed through her mind. 'To lead a new life from now on. ' 

Sasha【=Joan's companion, Princess Hohenbach Salm 】 said gravely,  'That is what the Saints of God were able to do.'

Joan steared. 'But I am not a saint.'

'No. That is what I meant.'

(懺悔することで、Joan さん、あなたはご主人様をより幸せにできるとお考えなのですね? それはわかりませんけれど、少なくとも説明はできるでしょう。そして、夫の理解と助けがあれば「今日が残りの人生の初日」モードにわたしは移行できると思います❤ 主の聖者ならあるいはそれもできるのでしょうかね。 あのー、わたしは聖者などではない――イギリスの田舎の地方弁護士の妻、実父が海軍の提督だったので、よくて、中流階級の上の方、そうミス・マープルの友人、バントリー大佐夫人と同じ程度の普通のひと――なのですが? はい、わたしもその事を言ったのですよ)

(Ibid., Chap.11 )

 

[B]

Oh  dear,  why was she so confused? All those things she had been thinking and believing ー such unpleasant things...  Were they actually true? Or weren't they? She didn't want them to be true. ・・・

Madness ー absolute madness the things she had been believing.  How comfatable, how plesant to come home to England and feel you had never been away.  That everthing was just the same as you had always thought it was... And of course everthing was just the same.

(何が本当なの❗ さっきまでそう信じようと思ったことは間違いなの❗ 英国もこのわが家も何も変わってないじゃない? 世はすべて事もなし。しみじみと心地よい、今まで通り🍎)

(Ibid., Chap. 12)

 

 

そして、その時、歴史は動いた❗

動かない方向に🍎

JOAN'S choice was ・・・

A kaleidoscope whirling ・・・whirling ・・・

Settling presently into one pattern or the other.

Rodney, for give me ー I  didn't know ・・・

Rodney, here I am. I've come home ! 

Which pattern? Which? She'd got to choose.

She heard the sound of the front door opening ー 

a sound she knew so well ー so very well...

Rodney was coming.

Which pattern? Which pattern? Quick!

([A]か[B]かを決める思考作業の万華鏡がくるくる回る。

[A]か[B]か❗ 男は愛嬌で女は度胸。

どっちも正しいのだ。だからこその選択。

そこの彼女 わたし Joan さっさと決めろ)

 

The door opened. Rodney came in.

He stopped, surprised. 

Joan came quickly forward.

She didn't look at once at his face.

Give him a moment, she thought, give him a moment...

Then she said gaily, 'Here I am, Rodney...I've come home...'

(バクダッドでの役目も終えて帰りました。

バーバラたちはもっと滞在を延ばせと言ってくれたけど

わたしには家政と貴方がありますから、とんぼ返り。

英国もわが家も元どおり、嬉しいです❤)

(Ibid., Chap. 12)

 

Mrs Rodney Scudamore or Madam Kashiwagi Yuki 

弊ブログ終身名誉1位推し薩摩の花魁AKB48グループ大奥総取締役の局――柏木由紀さん王道オトナグラビアに

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Shall I compare thee to a summer's day?

(Shakespeare

 

本書で下されたJoan 奥さまの選択は家庭や夫婦関係の問題に

おさまらない。その論点は二つ。

【1】自己評価は社会規範によって支持される場合のみ有効という認識

【2】所詮、すべての人はひとりぼっちという認識

 

<再論>保守主義の再定義・・・占領憲法の改正/破棄の思想的前哨として

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'Freedom,' Joan said scornfully. 'Is there any such thing?'

Rodney said slowly and heavily, 'No, I don't think there is.

How right you are, Joan...'

(自由って、そんなものこの世に有りますかしら? 

ない❗ Joan 君が正しい)

(Ibid., Chap. 5)

 

Joan said she sometimes lost patience with all this talk of happiness 【or  human rights】. Nobody seemed to think of anything else. Happiness wasn't the only thing in life. There were other things much more important.

Such as, Rodney had asked.

Well, Joan said ー after moment's hesitation ー duty, for instance.

(幸福、幸福って個人の幸福しか価値がないみたい❗ 幸福より大切なものは幾つもあるでしょうに。 例えば? 義務とかですわ🍎)

(Ibid., Chap. 8)

 

'Born, bred, married and buried in Crayminster,' said Blanche.

Joan said with a laugh.

'Is that so bad fate? '

'No ,' she said seriously. 'I'd say it was a pretty good one.'

(その地にうまれ、育ち、嫁ぎ、社交・慈善と所帯を切り盛り。

そして、最後にその地に葬られる、ってか。

【この Joan 奥さまの女学校時代の友人の言葉に、奥さまは】

それ、そんなに悪い運命かしら?

いいえ、女が望みうる最高の運命だと思うよ)

(Ibid., Chap. 1)

 

 

アガサ・クリスティーの全作品の中で一番好きなフレーズ、鴨。

https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/59d7d87a33d85f016e5bbf91f34030e2

平和主義とは何か--戦前の日本は「軍国主義」だったのか?

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濫用される「国際社会」という用語についての断想

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ゲーム理論から考える「不幸な報復の連鎖」あるいは「不毛な軍拡競争」という言葉の傲慢さについて

https://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/a8c23f9010e428e55539ee8d2c1cdf84

 

 

要は、夫と子供たちも Joan 奥さまを掌に載せていると思い軽んじていた。けれど、掌に載っていたのは彼等の方だった。Joan 奥さまと英国の健全な社会規範の掌に。ドイツとの戦争は不可避で、南アフリカ等々の植民地の独立は必然。ならば、今は裕福な娘婿たちも Joan 奥さま≒英国の健全な社会規範を頼るしかなくなる、鴨だから。

 

'I'm not alone. I'm not alone. I've got you.'

'Yes, ' said Rodney.  'You've got me.'

But he knew as he said it that it wasn't true. 

He thought:

You are alone and you are always will be.

But, please God,  you'll never know. 

(君はひとりぼっちさ。願わくば、君がそのことに生涯きづかないように➡君こそ、ひとりぼっちじゃないゲームに、Joan 奥さまを除け者にすることで、君と三人の子供たち界隈で「make believe」ごっこに浸っていただけだよ)

(Ibid., Epilogue)

 

"Palls isn't exactly the word," said tuppence kindly. "I'm used to my blessings, that's all. Just as one never thinks what a boon it is to be able to breathe through one's nose until one has a cold in the head."

(鼻風邪をひくまでは鼻で呼吸できることのありがたさがわからない➡Joan 奥さまのありがたさも❤)

(Agatha Christie「Partners in Crime」1929, chap.1)

 

Joan 奥さまの見事な潔い選択に接して、実は、わたしが想起したのはWilliam Geldart「Elements of English Law」(Eighth Edition,1975, chap.1)の中の次の言葉でした。畢竟、プロトJoan を否定することにプロトJoan と共存している現在よりも Scudamore 一門に差し引き具体的なメリットはなかったのではないでしょうか、と。わたしはそう思います。本書お薦めします。

 

It is sometimes more important that law should be certain than it should be perfect. The consequence is that even a higher court, though it may think a decision of a lower court wrong in principle, may refuse overrule it, holding that the evil of upsetting what everyone has treated as established is greater than the evil of allowing a mistaken rule to stand.

(法においてはそれが内容的に完全無欠であるよりも安定させておくことの方が重要な場面も少なくない。而して、上級審の裁判所たる裁判官が、たとえ、下級審の判断が原理的に間違っていると考えたとしても、その下級審判決を却下しないこともありうるのです。つまり、あるルールをみんなが確立しているものとしてそのルールを織り込んで日々の社会経済生活をおくっているようなルールを動揺させる害悪の方が、間違ったルールをそのまま存続させる害悪よりも大きいと、上級審裁判所が判断する場合には)

 

そして、アメリカのある女優さんの名言。

Love conquers all things except
Poverty and Toothache.

(愛はすべての問題を克服する。

貧困と歯痛を除いては)

 

 

本書「Absent in the Spring:春にして君を離れ」

お薦めします。

 

 

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および

 

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🍎 🍎 🍎

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TOEIC公式問題集Vol.7はコロナくんとの共働制作のせいかこれまでの公式問題集の最高傑作、鴨。

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今日も朝ごはん食べて英語頑張りましょう❗️

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