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■■【経営コンサルタントのお勧め図書】502 新・戦争論(著者:池上 彰 他)

2020-08-07 05:46:00 | 【経営】 経営コンサルタントの本棚

■■【経営コンサルタントのお勧め図書】502 新・戦争論(著者:池上 彰 他)

 「経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。

 日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。

■    今日のおすすめ

 『新・戦争論』(著者:池上 彰 佐藤 優 文春新書)

 

■        世界情勢を民族と宗教で見つめ直す(はじめに)

 2015年の年明けの世界情勢は、テロ事件で始まりました。1月初めのフランスのパリでのテロ事件、1月下旬から2月1日にかけての「イスラム国」による日本人二人の殺害事件で2015年が始まりました。不安感が沸いてくると同時に、不透明感に襲われました。この不透明感を少しでも払拭できればと、今回もPEST(P:政治、E:経済、S:社会、T:技術)に関る本をご紹介する事にしました。

 紹介本「新・戦争論」は、私たち日本人がどちらかというと不得意な民族、宗教の視点から、世界情勢を分析しています。2015年初めに起きた二つのテロ事件を想定して書かれた本ではありませんが、年初に抱いた不透明感を払拭してくれる本です。

 

■        初めて知った世界情勢のメタ要因

 「イスラム国」の話に入る前に、その他の国の内紛等の民族・宗教のメタをご紹介します。

【ウクライナ問題】

 2014年7月17日に、ウクライナ東部ドネツク州上空でマレーシア航空記が墜落した事件は記憶に新しい事件です。このウクライナの内紛は民族と宗教の視点から紛争の要因を見つけることが出来ます。ウクライナ西部と南部・東部は、民族・宗教・歴史上それぞれ異なった道を歩んできました。そこに紛争のメタがあるのです。詳しくは紹介本をお読み下さい。

【スコットランド独立運動】

 2014年9月18日にスコットランドで独立の可否を問う住民投票がありました。結果は僅かの差で独立反対派が過半数を超え、イギリスが分裂を回避できた事は、記憶に新しい事です。この問題の根底にも宗教問題があります。スコットランドは「スコットランド教会」即ち宗教改革の流れを汲むカルヴァン派等です。一方イングランドは西暦1536年に、当時のヘンリーⅧがカトリックと縁を切り出来た「英国国教会」即ち聖公会です。かつて清教徒革命(1638-1660)で戦った宗派同士なのです。 

 

 お話を「イスラム国」に向けましょう。

【「イスラム国」と中東問題】

 「イスラム国」を含めた中東の問題の根底には、イスラム教の宗派対立があります。大きくはスンニ派(85%)とシーア派(15%)に分かれますが、事は簡単ではありません。スンニ派は4つの法学派に分かれます。その中でイスラム原理主義(ムハマンドの理想的時代に戻そうと言う思想)がハンバリー派。その中でも急進的なのがワッハーブ派です。中東の大国サウジアラビアの国教がこのワッハーブ派なのです。ワッハーブ派の最も過激なグループがアルカイダであり「イスラム国」なのです。  「イスラム国」が余りに特殊で過激なるが故に、アルカイダからも破門されてしまったのです。

 一方シーア派は、五代目イマーム派、七代目イマーム派、九代目イマーム派、十二代目イマーム派がありますが(イマームは「最高指導者」の意)、最大宗派の十二代目イマーム派を抑えておけば十分です。十二代目イマーム派を国教とするのがイランであり、イラクのマリキ政権も十二代目イマーム派に属します。ここでイラクのマリキ政権をイランが支え、アメリカが支えるという奇妙な状況が出てくる訳です。

 さて、2014年6月29日に国家樹立の宣言をした「イスラム国」が発足するまでの経緯は複雑です。まずシリア問題に端を発します。シリアでは少数派(シーア派のアラウィ派=実際はイスラム教の中の被差別宗派。輪廻転生などを教理とするイスラム教の異端とされる。)のアサド政権が、多数派を占めるスンニ派の住民を抑圧・弾圧をしました。この結果、スンニ派住民と殺人は嫌だという政府軍人が「自由シリア軍」を作って内戦状態になりました。その「自由シリア軍」を圧倒し、大きな勢力となったのが、イラクの多数派のスンニ派から成る「シャーム・イスラム国」です。この「シャーム・イスラム国」がイラクからシリアに移動し勢力を拡大し、「イスラム国」を名乗り、更には、勢力範囲をシリアからイラク北部(スンニ派住民地域)に拡大してきたのです。イラクではマリキ政権によって不利な立場にあるスンニ派住民の支持を得て、一時はイラク政府軍が総崩れになる寸前まで行ったのです。この「シャーム・イスラム国」の発生の遠因をたどると、「アメリカのイラク戦争開始(2003年3月)とイラク駐留米軍の撤退(2011年12月)によるイラクの治安と経済の混乱である」と日本経済新聞(平成27年2月3日朝刊)は報じています。

 詳細は紹介本を読んでいただくとして、中東はイスラエルと国交を樹立しているヨルダン・エジプト、サウジアラビアを中心とする湾岸協力会議加盟国(GCC=サウジ・アラブ首長国連合・バーレーン・オマーン・カタール)、イラン、イラク、シリア、トルコ、アルメニア、アゼルバイジャン、レバノン、その他「アラブの春」以降政権が出来たリビア・アルジェリア、アラビア半島で唯一GCCに加盟していないイエメン等が複雑に絡み合っています。当面は中東情勢の背景にあるメタを理解し、情勢の推移を正確に理解する事が大切と思われます。

 

■        世界情勢を改めて解き明かす(むすび)

 紹介本「新・戦争論」の内容を一部ではありますがご紹介しました。この紹介本により、今まで気付いていない事柄を知る事が出来ると思います。それぞれの国または地域で、どのような事態の発生が予想されるかを構造的に理解できるのではないでしょうか。また国と国との力関係がどのように変化する可能性があるかも理解できるのではないでしょうか。

 グローバル化の時代、私達は世界情勢と無縁ではビジネスを進めることができない時代になっています。その様な時代の世界情勢を読むために、民族・宗教の視点という新たな視点を加える事の重要性を、紹介本は示してくれます。言い換えれば、私達が、『民族、宗教に関する「メタ(meta)」』を身につけることが大切です。(「メタ」とは、表面的に見えるもの或は一般的情報の裏にある真実、つまり背後にある、判断の根拠に出来る事実情報をいいます。)

 この『民族、宗教に関する「メタ(meta)」』を生かしながら、都度起こる事態に対応して、不確実性な世界情勢を解き明かして行きたいと思っています。

 

【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。

 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

  http://www.jmca.or.jp/meibo/pd/2091.htm

  http://sakai-gm.jp/

【 注 】

 著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。

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