715)レスベラトロールとプテロスチルベンの抗老化・寿命延長作用

図:ブドウやブルーベリーに含まれるスチルベン誘導体のレスベラトロール(①)やプテロスチルベン(②)は細胞内のAMP/ATP比を上昇し(③)、AMP依存性プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化する(④)。AMPK活性化はNAD+/NADH比を高め(⑤)、サーチュイン1(SIRT1)を活性化する(⑥)。AMPKはPGC-1α(Peroxisome Proliferator- activated receptor gamma coactivator-1α:ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γコアクチベーター1α)をリン酸化し(⑦)、さらにSIRT1で脱アセチル化されて活性化する(⑧)。サーチュイン1はFOXOファミリーなどの転写因子を脱アセチル化して活性化する(⑨)。活性化したPGC-1αやFOXOはミトコンドリア機能を高め、細胞老化を抑制し、発がん抑制や寿命を延長する効果を発揮する。

715)レスベラトロールとプテロスチルベンの抗老化・寿命延長作用

【レスベラトロールが注目される理由】
植物は、外敵(病原菌など)や過酷な外的環境(紫外線や熱や重金属など)に打ち勝つために、様々な生体防御物質を合成しています。
植物体に病原菌や寄生菌が侵入したときに植物細胞が合成する抗菌性物質をファイトアレキシン(phytoalexin)と言います。
アンチエイジング(抗老化)とがん治療の両方の領域で注目されているレスベラトロール(Resveratrol)もファイトアレキシンの一つです。

レスベラトロール(Resveratrol)はスチルベン合成酵素(stilbene synthase)によって合成されるスチルベノイド(スチルベン誘導体)の一種です。
気候変動やオゾン、日光、重金属、病原菌による感染などによる環境ストレスに反応して合成されます。赤ぶどうの果皮や赤ワインに多く含まれています。その他、ラズベリー、ブルーベリー、マルベリー(桑の実)、イタドリなどにも含まれます。

図:レスベラトロールは気候変動やオゾン、日光、重金属、病原菌による感染などによる環境ストレスに反応して合成されるポリフェノールの一種。赤ぶどうの果皮や赤ワインに多く含まれている。その他、ラズベリー、ブルーベリー、マルベリー(桑の実)、イタドリなどにも含まれている。

レスベラトロールは1939年に発見されていますが、その健康作用が報告されるようになったのは1990年代に入ってからです。
フランス人はチーズやバターや肉類やフォアグラなど動物性脂肪を多く摂取しているのに、他の西欧諸国と比べて心臓病の死亡率が低いことが知られており(いわゆる「フレンチパラドックス」)、その理由として、赤ワインに豊富に含まれるポリフェノール類による抗酸化作用が指摘され、特にレスベラトロールの効果が注目されました。
レスベラトロールの抗酸化作用や心臓保護作用や動脈硬化予防効果などの観点からの研究は1993年頃から報告されるようになり、赤ワインに含まれるレスベラトロールの抗酸化作用や血小板凝集抑制作用がフレンチパラドックスの原因であると考えられるようになりました

レスベラトロールのがん予防効果が注目されたのは、1997年に米国科学雑誌のScience(サイエンス)にレスベラトロールのがん予防効果に関する研究が発表されてからです。
そのScienceの論文は『Cancer chemopreventive activity of resveratrol, a natural product derived from grapes.(ぶどうに含まれる天然成分のレスベラトロールのがん化学予防活性)』というタイトルで、米国イリノイ州シカゴのイリノイ大学薬学部からの報告でした。(Science. 275(5297): 218-20, 1997)

この論文では、レスベラトロールは、抗変異原作用、抗酸化作用、抗炎症作用(シクロオキシゲナーゼ活性の阻害など)、発がん物質を解毒するフェース2酵素の誘導作用、白血病細胞の分化誘導作用など、複数の作用機序で発がん過程のイニシエーションとプロモーションとプログレッションのいずれの段階でも阻止する作用を有することを、培養細胞を使ったin vitro(試験管内)の実験と、動物発がんモデルにおけるin vivo(生体内)の実験系にて示しています。
そして、この論文の最後には「人間の食事に普通に含まれているレスベラトロールは、人間のがんの化学予防剤の候補として研究する価値がある」と述べられています。

がんの発生を薬やサプリメントで予防することを「がんの化学予防」と言います。がん予防の研究分野では、食品や薬草などから化学予防剤を見つけることが主な目標になっています。
この論文が発表された1997(平成9年)1月は、私が国立がんセンター研究所でがん予防の研究を行っている時でした。同僚の研究員が「この論文がScienceに掲載された理由が判らない」という意見を言ったのを今でも印象深く覚えているため、この論文の内容は良く覚えています。

培養がん細胞や動物発がんモデルを使って、食品や天然物からがん予防効果がある成分(化学予防剤)を見つける研究は1970年代ころから盛んに行われています。たとえば、ウコンのクルクミンやブロッコリーのスルフォラファンやトマトのリコピン、その他、野菜や果物からがん予防効果が期待される物質が数多く報告されています。
しかし、動物実験でがん予防効果があっても、人間で効果があるという保証は無く、本当に価値がある研究結果かどうかは人間での効果が証明されるまでは判りません。
たとえば、動物発がん実験でがん予防効果が認められたものが、人間の臨床試験で全く効果が無かったり、逆に発がん率を高めるものまであります。
したがって、動物実験のレベルでがん予防効果が認められただけでは、それほどインパクトは高くないと考えられています。

文献検索のPubMedで「Resveratrol」と「cancer」で検索すると、ヒットした論文のうち最も古いのがこの論文ですので、レスベラトロールのがん予防効果を最初に見つけたという点では、価値があるのですが、1990年代にはこの程度の論文(動物発がんモデルを使ったがん化学予防物質の探索研究)は毎年何百編も発表されていたので(多くはがん予防や発がん関連の専門雑誌に掲載)、この論文が科学領域の超一流の雑誌のサイエンス(Science)に掲載されたのが不思議だというのが、当時がん予防を研究していた多くの研究者の率直な感想だったように思います。

しかし、その後の研究でレスベラトロールのユニークな作用機序が次々と明らかになり、極めて有用な物質であることが判ってきました。その一つが長寿遺伝子「サーチュイン」を活性化するという作用です。
寿命を延ばす確実な方法としてカロリー制限があります。カロリー制限は、栄養不良を伴わない低カロリー食事療法で、霊長類を含む多岐にわたる生物種において老化を遅延させ、寿命を延長させることが知られています。
このカロリー制限のときに活性化されて寿命延長と抗老化作用に関与するのがサーチュイン遺伝子です。つまり、サーチュイン遺伝子が活性化されると老化が抑制されることになります。

このサーチュイン遺伝子を活性化する作用がレスベラトロールにあることが2003年のNatureに報告されました。(Nature. 2003 Sep 11;425(6954):191-6.
マウスに高脂肪・高カロリー食を与えると寿命が短くなりますが、このときレスベラトロールを摂取させると寿命の短縮が防げるという報告が2006年のNatureにハーバード大学の研究グループから発表されています。(Resveratrol improves health and survival of mice on a high-calorie diet. Nature. 2006 Nov 16;444(7117):337-42.)

2006年のCellにはレスベラトロールがサーチュイン1(SIRT1)PGC-1αを活性化することによってミトコンドリア機能を活性化し、代謝性疾患を予防することがフランスの研究グループから報告されています。その論文が以下です。

Resveratrol improves mitochondrial function and protects against metabolic disease by activating SIRT1 and PGC-1alpha(レスベラトロールがサーチュイン1とPGC-1αを活性化することによってミトコンドリア機能を活性化し、代謝性疾患を予防する)Cell. 2006 Dec 15;127(6):1109-22.

【要旨】
ミトコンドリアの酸化的リン酸化と有酸素能力の低下は、寿命の短縮に関連している。我々は、寿命を延ばすことが知られているレスベラトロールがミトコンドリア機能と代謝ホメオスタシスに影響を与えるかどうかを検討した。
マウスへのレスベラトロールの投与は有酸素能力を大幅に増加させ、これは走行時間の増加と筋線維内の酸素消費によって証明された
レスベラトロールは、酸化的リン酸化とミトコンドリア新生に必要な遺伝子を誘導し、この作用はレスベラトロールを介したPGC-1αのアセチル化の減少とPGC-1α活性の増加によって引き起こされることが示された
このメカニズムは、レスベラトロールがタンパク質脱アセチル化酵素のSIRT1の既知の活性化因子であること、およびSIRT1遺伝子欠損マウスにおけるレスベラトロールの効果の欠如と一致している。
重要なことに、レスベラトロール投与はマウスにおける食事誘発性の肥満およびインスリン抵抗性を阻止した。
このような薬理学的なレスベラトロールの効果と、フィンランドの研究におけるSITR1の一塩基多型(SNP : Single Nucleotide Polymorphism)とエネルギーホメオスタシスの関連を示す報告から、SIRT1はエネルギーおよび代謝ホメオスタシスの主要な調節因子であることが示唆される。

運動や絶食やメトホルミンがAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化し、AMPKはサーチュインを活性化して転写因子のPGC-1αとFOXOファミリータンパク質を活性化し、ミトコンドリア機能や代謝を制御することが知られています(下図)。

図:運動や絶食やメトホルミンは筋肉細胞内のAMP/ATP比を上昇し(①)、AMP依存性プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化する(②)。AMPK活性化はNAD+/NADH比を高め(③)、サーチュイン1(SIRT1)を活性化する(④)。AMPKはPGC-1α(Peroxisome Proliferator- activated receptor gamma coactivator-1α:ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γコアクチベーター1α)をリン酸化し(⑤)、さらにSIRT1で脱アセチル化されて活性化する(⑥)。サーチュイン1はFOXOファミリーなどの転写因子を脱アセチル化して活性化する(⑦)。活性化したPGC-1αやFOXOはミトコンドリア機能や代謝を制御する。(図中のPはリン酸化、Acはアセチル基を示す)

つまり、レスベラトロールは運動や絶食やメトホルミンと同様のメカニズムでAMPKとサーチュイン1を活性化して、ミトコンドリア機能や代謝を制御していると考えられています。

Nature(ネイチャー)やCell(セル)はScience(サイエンス)と並ぶレベルの高い基礎科学系の学術誌です。天然物質の作用機序や薬効に関する論文がScience やNatureやCellに掲載されることは極めて稀です。したがって、レスベラトロールに関する論文がScience やNatureに何回も発表されているということは、レスベラトロールは極めて有用な物質であることを示しています。

1997年のレスベラトロールの発がん予防効果に関する論文がScienceに掲載されたのも、今考えれば納得できます。その当時はサーチュインとの関連は判っていなかったのですが、レスベラトロールの多彩な作用が明らかになるにつれて、レスベラトロールのがん予防効果が単なる抗酸化作用や抗炎症作用だけでなく、かなり特殊な作用機序を持っていることが明らかになったので、Scienceに発表できる価値があったと言う事です。

図:レスベラトロールは、カロリー制限や運動と同様にサーチュイン遺伝子(SIRT1)を活性化する(①)。サーチュイン1の活性化はストレス抵抗性を亢進し(②)、PGC-1α(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γコアクチベーター1α)を脱アセチル化して活性化し(③)、ミトコンドリア新生を促進し(④)、ミトコンドリア機能を高める(⑤)。このような作用は、抗老化・寿命延長やがん予防の効果を発揮する(⑥)。

【レスベラトロールは呼吸酵素複合体-IとATP合成酵素を阻害する】
レスベラトロールはメトホルミンと同じミトコンドリア毒で、呼吸酵素複合体-Iを阻害し、エネルギー産生を低下させ、その結果AMP/ATP比NAD+/NADH比を高め、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)サーチュインを活性化し、細胞老化や発がんの抑制、寿命延長効果を発揮します。カロリー制限と類似の効果が得られます(下図)。

図:メトホルミンとレスベラトロールはミトコンドリアの呼吸酵素複合体-Iを阻害して(①)エネルギー産生を低下させ(②)、カロリー制限と類似の作用を発揮する。すなわち、NAD+/NADH比(③)とAMP/ATP比(④)を高め、NAD+/NADH比の上昇はサーチュイン1を活性化してLKB1を活性化し(⑤)、LKB1によって活性化されたAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)はサーチュイン1を活性化する(⑥)。サーチュイン1はFoxO3aやPGC-1αを活性化し(⑦)、細胞老化の抑制や発がん抑制や寿命延長の効果を発揮する(⑧)。

以下のような論文があります。

Resveratrol Inhibition of Cellular Respiration: New Paradigm for an Old Mechanism(レスベラトロールの細胞呼吸の阻害:古いメカニズムに対する新しいパラダイム)Int. J. Mol. Sci. 2016, 17(3), 368

【要旨】
レスベラトロールは生物医学領域において重要な物質であると認識されている。その理由は、哺乳類において、抗酸化作用と健康上の有益な効果を有するからである。しかしながら、レスベラトロールは病原菌に対して毒作用を示すことも示されている。
この2つの作用は、逆の作用であり、異なる分子メカニズムで引き起こされていると考えられてきた。
しかしながら、レスベラトロールが細胞呼吸を阻害するという仮説は、レスベラトロールの毒性と有用作用の両方に共通のメカニズムを説明できるかもしれない
その理由は、(1)レスベラトロールは細胞呼吸を阻害する作用によって病原菌のエネルギー産生を阻害して増殖を阻止できる
(2)AMP/ATP比を上昇させることによってAMP活性化プロテイン・キナーゼ(AMPK)を活性化し、AMPK活性化がレスベラトロールの健康作用と関連している
(3)電子伝達系の阻害によって活性酸素の産生が増えるからである。
活性酸素の産生増加は、酸化ストレスを軽減するために細胞は抗酸化酵素の発現を亢進する。この総説では、細胞呼吸の阻害がレスベラトロールの作用メカニズムの主体であることを示すエビデンスを考察する。

この総説論文では、レスベラトロールは呼吸酵素複合体-IとV(ATP合成酵素)を阻害することによって、細胞呼吸を阻害するという仮説を検証しています。
この仮説は、レスベラトロールの細菌に対する増殖抑制と、AMPKやサーチュインを介した健康作用を説明できると言っています。
ミトコンドリアは元々はバクテリア(細菌)です。
レスベラトロールの合成は細菌や真菌の感染に対応するために誘導され、これらの病原体に毒性を示します。したがって、レスベラトロールがミトコンドリア毒であっても何も不思議ではないのです。

【レスベラトロールの臨床効果は極めて限定的】
これまでの記述を読むと、レスベラトロールは老化予防や発がん予防や寿命延長に効果が期待できるように思われます。
しかし、実際は、人間がレスベラトロールをサプリメントで摂取しても、ほとんど有効性は期待できません。
その理由は、生体利用率(バイオアベイラビリティ)が極めて低いからです。
消化管からの吸収が悪く、体内では短時間で不活性化され、半減期が極めて短いので、生体内では効果が出ないのです。
例えば以下のような報告があります。

Resveratrol Derivatives as Potential Treatments for Alzheimer’s and Parkinson’s Disease(アルツハイマー病やパーキンソン病に対する治療薬の可能性のあるレスベラトロール誘導体)Front Aging Neurosci. 2020; 12: 103.

【要旨の抜粋】
神経変性疾患は、神経系の異なる領域におけるニューロンの進行性の喪失を特徴としている。アルツハイマー病とパーキンソン病は最も一般的な神経変性疾患であり、その症状は、神経変性が生じている領域に密接に関連している。
それらの高い有病率にもかかわらず、現在、これらの病気の治療や症状改善に有効な治療薬はない。
過去数十年間、神経変性疾患の新しい治療法を開発する目的で、多くの研究者がレスベラトロールなどの天然成分の神経保護作用を検討している。
レスベラトロールは、ブドウ、ブルーベリー、ラズベリー、ピーナッツなどのいくつかの植物に含まれるスチルベンである。
研究では、レスベラトロールがアルツハイマー病とパーキンソン病の実験モデルにおいて神経保護作用を示すことが示されているが、その急速な代謝と低いバイオアベイラビリティのため、その臨床応用は制限されている。
この論文では、グリコシル化、アルキル化、ハロゲン化、ヒドロキシル化、メチル化、およびプレニル化を含むレスベラトロール分子の構造修飾が、バイオアベイラビリティと薬理活性を強化したレスベラトロール誘導体の開発につながる可能性があることを提案している。
このレビューでは、アルツハイマー病およびパーキンソン病の治療のための新薬の探索において、レスベラトロール誘導体の可能性を議論することを目的としている。

つまり、レスベラトロールがアルツハイマー病やパーキンソン病の治療に役立つ可能性は多くの基礎研究で示されていますが、急速な代謝と低いバイオアベイラビリティのため、臨床で使用してもほとんど効果が期待できないという問題を指摘しています
それを解決するために、体内での安定性とバイオアベイラビリティを高めたレスベラトロール誘導体の研究が重要という話です。

レスベラトロールより体内での安定性とバイオアベイラビリティの高い天然のレスベラトロール誘導体としてプテロスチルベンがあります。
プテロスチルベンもレスベラトロールと同様に、植物が合成する抗菌物質(ファイトアレキシン)の一つです。
プテロスチルベン(Pterostilbene)はレスベラトロールの類縁体で、レスベラトロールの2つの水酸基(OH)がメトキシ基(CH3O-)に置換した構造です
プテロスチルベンはレスベラトロールと同様にブドウやブルーベリーなどに含まれます。

図:プテロスチルベンはレスベラトロールの2個の水酸基(OH)がメトキシ基(CH3O-)に置換している。

【スチルベノイドは様々な薬効を持つ】
スチルベン (stilbene) とは、芳香族の炭化水素の1種の有機化合物です。
スチルベノイド(Stilbenoid)はスチルベンのヒドロキシル化誘導体です。
スチルベノイドは、さまざまな植物種に見られる天然に存在するフェノール化合物のグループで、それらはスチルベンという共通の骨格構造を共有していますが、置換基の性質と位置が異なり、その構造の違いによって化合物としての性状や薬理作用が異なります。
前述のように、スチルベノイドは病原菌や寄生菌が侵入したときに植物細胞が合成する抗菌性物質(ファイトアレキシン)です。ミトコンドリアに対して毒性を示すと考えられます。

:スチルベンに水酸基(OH)やメトキシ基(CH3O-)の側鎖がついて様々な種類のスチルベノイドが合成される。

スチルベノイドは、心筋細胞や神経細胞の保護、抗糖尿病作用、脱メラニン色素作用、抗炎症作用、がん予防や抗がん作用に至るまで、さまざまな生物学的活性を発揮します。
レスベラトロールは、最も広く研究されているスチルベノイドです。
スチルベンは、フラボノイドと同様にフェニルプロパノイド経路を介して植物で合成されます。

レスベラトロールは水への溶解度が低く(<0.05 mg / mL)、経口バイオアベイラビリティ(生体利用率)が極めて低いという欠点があります。シクロデキストリンとの複合体形成は、レスベラトロールの水溶性を改善しますが、生物学的利用能は改善しません。
より高い用量のレスベラトロールの投与も薬物動態プロファイルを改善しないと報告されています。体内で急速に代謝され、半減期が非常に短いという欠点も指摘されています

一方、プテロスチルベンは80%程度のバイオアベイラビリティを示すことが報告されています。
プテロスチルベンの構造には2つのメトキシ基(CH3O-)が存在することで、プテロスチルベンはより親油性になり、したがってより生物学的に利用可能になります。
プテロスチルベンは、グルクロン酸抱合または硫酸化に利用できる遊離ヒドロキシル基が1つしかないため、代謝的にも安定しています。
実際、ヒト肝ミクロソームで行われた酵素動態グルクロン酸抱合アッセイは、レスベラトロールがプテロスチルベンと比較してグルクロン酸抱合によってより効率的に代謝されることが示されています。
つまり、プテロスチルベンはレスベラトロールより消化管からの吸収がよく、グルクロン酸抱合や硫酸抱合による不活性化を受けにくいので、生物学的利用能が高いことを意味します。
ステルベノイドは以下のような様々な薬効が報告されています。

経口投与によるレスベラトロールのバイオアベイラビリティ(生体利用率)は極めて低い(数パーセントのレベル)のが問題でした。
レスベラトロールは小腸と肝臓で、フェースII解毒酵素によってグルクロン酸抱合硫酸抱合による代謝を受けるので、活性型は全身循環には極めて少量しか移行しないためです。
そのため、レスベラトロールには抗酸化作用、抗炎症作用、抗老化作用、抗がん作用など様々な薬効が基礎実験で示されていましたが、臨床的効果は疑問視されていました。
リポソーム封入やナノカプセル化など、レスベラトロールの分解や代謝を阻止して生体利用率を高める方法が開発されていますが、人体でのレスベラトロールの有効性を保証できる製剤はまだ利用できる段階ではありません。
そのような状況で、バイオアベイラビリティ(生体利用率)が極めて高く、レスベラトロール以上に生理活性を有するプテロスチルベンが注目されています

【プテロスチルベンは生体利用率が高い】
プテロスチルベンはレスベラトロールに比べて生体利用率が極めて高いのが特徴です。
以下のような報告があります。

Pterostilbene Suppresses both Cancer Cells and Cancer Stem-Like Cells in Cervical Cancer with Superior Bioavailability to Resveratrol.(プテロスチルベンは、レスベラトロールに比べて優れたバイオアベイラビリティで子宮頸がんのがん細胞とがん幹様細胞の両方を抑制する)Molecules. 2020 Jan 6;25(1):228.

【要旨の抜粋】
がん幹細胞が子宮頸がんを含む多くの腫瘍の治療抵抗性、再発、および転移に重要な役割を果たすことが報告されている。
レスベラトロールのジメチル化誘導体であるプテロスチルベン(Pterostilbene)は、潜在的な発がん予防活性を持つ植物ポリフェノール化合物である。
しかし、子宮頸がんのがん幹細胞に対するプテロスチルベンの治療効果は不明である。
この研究では、HeLa子宮頸がん細胞株の接着細胞(通常のがん細胞)とがん幹細胞様細胞の両方を使用して、レスベラトロールとプテロスチルベンの抗がん作用を比較した。
プテロスチルベンは、レスベラトロールと比較してHeLa接着細胞の成長およびクローン原性生存、ならびに転移能力をより強く阻害した。
さらに、レスベラトロールと比較したプテロスチルベンの優れた抗腫瘍効果は、SおよびG2 / M期での細胞周期停止、活性酸素種を介したカスパーゼ依存性アポトーシスの誘導、およびマトリックスメタロプロテイナーゼの発現阻害において認められた。
特に、プテロスチルベンは、レスベラトロールと比較して、HeLaがん幹様細胞の腫瘍塊形成能と遊走能に大きな抑制効果を示した

このより大きな抗腫瘍効果は、CD133、Oct4、Sox2、Nanogなどの幹細胞性マーカーの発現レベルのより強力な阻害、ならびにSTAT3(シグナル伝達兼転写活性化因子3)シグナル伝達の阻害によって達成された。
これらの結果は、プテロスチルベンが、レスベラトロールと比べて優れたバイオアベイラビリティを介して、子宮頸がんのがん細胞とがん幹様細胞の両方を標的とする潜在的な抗がん剤である可能性を示唆している

薬物の体内利用率をバイオアベイラビリティ(bioavailability)と言います。薬を服用しても、消化管からの吸収が悪かったり、分解が早くて血中から早く消失するような場合は、バイオアベイラビリティが低いと言います。
経口によるバイオアベイラビリティの低い薬は、その薬を内服しても、ほとんど効果が期待できないことになります。

植物やハーブや薬草からがん治療薬を見つけようという研究は多くあります。
培養細胞や動物実験で、レスベラトロールクルクミンエピガロカテキンガレートケルセチンなどが多くの実験系で抗腫瘍効果が認められています。
しかし、これらの成分を用いた動物実験は注射での投与が多く、内服ではほとんど消化管から吸収されないという問題があります。
つまり、注射で投与して薬効が認められても、内服(経口投与)で効果が見られない場合が多いのです。
その点、プテロスチルベンは経口での生体利用率が高いので、内服薬として高い有効性が期待できるということです

【プテロスチルベンはJAK/STAT3経路やPI3K/Akt経路など複数のシグナル伝達系を阻害する】
前述の論文ではプテロスチルベンがSTAT3(シグナル伝達兼転写活性化因子3)シグナル伝達経路の阻害によって抗腫瘍作用を示すことが報告されています。以下のような報告もあります。

Pterostilbene Suppresses Ovarian Cancer Growth via Induction of Apoptosis and Blockade of Cell Cycle Progression Involving Inhibition of the STAT3 Pathway.(プテロスチルベンは、STAT3経路の阻害を含むメカニズムでアポトーシスの誘導および細胞周期進行の阻害を介して卵巣がんの増殖を抑制する)Int J Mol Sci. 2018 Jul 7;19(7):1983.

【要旨】
レスベラトロールはSTAT3活性化に対する阻害作用によって、卵巣がん細胞に対して有望な抗腫瘍効果を発揮することが多くの研究で示されている。
それにもかかわらず、レスベラトロールの低いバイオアベイラビリティは、潜在的な抗がん治療薬としてのその魅力を減少させている。
対照的に、レスベラトロールの類似体であるプテロスチルベンは、複数の固形腫瘍で有意な抗腫瘍活性を保持し、さらに優れたバイオアベイラビリティが実証されている。
この研究では、プテロスチルベンの治療効果を卵巣がん細胞で評価した。
プテロスチルベンは、細胞周期の進行を抑制し、アポトーシスを誘発することにより、いくつかの異なる卵巣がん細胞株の細胞生存率を低下させた。

さらなる分子研究は、プテロスチルベンが細胞周期とアポトーシスを調節するSTAT3のリン酸化による活性化と、STAT3の下流の遺伝子の発現を効果的に抑制することを示し、STAT3経路の阻害がその抗腫瘍活性に関与している可能性を示している。
いくつかの卵巣がん細胞株においてプテロスチルベンはシスプラチンの抗がん活性を相乗的に増強した。さらに、プテロスチルベンは、複数の卵巣がん細胞株における細胞遊走を阻害した。

上記の結果は、プテロスチルベンが、おそらくJAK / STAT3経路の抑制を介して、抗増殖およびアポトーシス促進作用を誘導し、卵巣がん細胞に対して有意な抗腫瘍活性を示すことを示唆している。したがって、プテロスチルベンは、卵巣がんにおける潜在的な補助療法または維持化学療法の魅力的な非毒性の代替手段となる可能性がある。

上記の論文はプテロスチルベンがJAK / STAT3シグナル伝達経路を阻害して抗腫瘍作用を発揮するという報告です。
以下の論文はPI3K / Akt経路の阻害作用を言及しています。

Pterostilbene Enhances Cytotoxicity and Chemosensitivity in Human Pancreatic Cancer Cells.(プテロスチルベンはヒト膵臓がん細胞において細胞毒性と抗がん剤感受性を増強する)Biomolecules. 2020 May 4;10(5):709.

【要旨】
ゲムシタビン薬剤耐性は、膵管腺がん患者に高い死亡率と不良な転帰を引き起こす。 ゲムシタビン耐性のメカニズムにおける糖化最終産物(advanced glycation end product)の受容体の関与が示されている。
したがって、糖化最終産物によって引き起こされるゲムシタビン耐性の受容体を阻害する安全で効果的な方法を見つけることが急務である。
レスベラトロールの天然のメトキシル化類似体のプテロスチルベン(Pterostilbene)はブドウやブルーベリーに存在し、抗酸化作用や抗炎症作用や抗がん作用などの多様な生物活性を持っている。
この研究の目的は、膵管腺がん細胞に対する細胞毒性と抗がん剤感受性を高めるプテロスチルベンの効果を検討することである。
MIA PaCa-2とMIA PaCa-2 GEMR(ゲムシタビン耐性細胞)の両方において、ペトロスチルベンがRAGE (糖化最終産物受容体)/ PI3K / Aktシグナル伝達を抑制する機序によって、S期の細胞周期停止、アポトーシス、オートファジー細胞死を誘発し、多剤耐性タンパク質1(MDR1)の発現を阻害することを明らかにした。
驚くべきことに、RAGE(Receptor for advanced glycation end products:糖化最終産物受容体)に対する低分子干渉RNAトランスフェクションにより、説得力のある証拠が確立された。
私たちの研究は、膵菅腺がん細胞においてRAGE(糖化最終産物受容体) / PI3K / Akt経路を介して細胞増殖とMDR1(多剤耐性遺伝子)発現を阻害することにより抗がん剤感受性を促進することを実証した。
これらの実験での観察結果は、プテオスチルベンが膵菅腺がん治療における多剤耐性遺伝子の制御に重要な役割を果たす可能性があることを示している

以下のような総説論文もあります。

Regulation of signal transduction cascades by Pterostilbenes in different cancers: Is it a death knell for oncogenic pathways.(異なるがんにおけるプテロスチルベンによるシグナル伝達カスケードの調節:発がん経路における細胞死の予兆か) Cell Mol Biol. 2017 Dec 15;63(12):5-10.

この総説論文では、プテロスチルベンが様々ながん細胞において、PI3K / AKT経路、MAPK経路、JAK-STAT経路、Notch経路、Wnt経路など様々なシグナル伝達経路や、転移関連タンパク質1(MTA1)、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)の調節に作用する可能性を解説しています。
つまり、プテロスチルベンはがん細胞の増殖や生存に関与する多くのシグナル伝達系やタンパク質に作用して抗腫瘍活性を発揮することが示唆されています。

プテロスチルベンの臨床試験では、1日250mg(1回125mgを1日2回)が投与されています。
この服用量で6〜8週の服用で副作用は認めなかったと報告されています。
抗老化と寿命延長、抗がん作用に関しては、その体内利用率から、レスベラトロールよりプテロスチルベンが有効性が高いと言えます。
プテロスチルベンはサプリメントとして販売されています。

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