がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
769)転用薬を用いた新型コロナウイルス感染症の治療法の提案
図:新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は細胞膜のアンジオテンシン変換酵素2(ACE-2)と結合して細胞内に入る(①)。ウイルスはRNAを放出し、細胞のリボソームを使ってウイルスタンパク質を合成してウイルス粒子を複製する(②)。ヌクレオカプシド(N)タンパク質(③)には核局在化シグナルが含まれており、インポーチン(IMP)のα/βヘテロ二量体(IMPα/β)に結合し(④)、核膜孔複合体を通って核内に輸送され、核内で複合体は解離し、DNAやリボソームサブユニットに結合し(④)、宿主の抗ウイルス応答を抑制し、ウイルス感染を促進する(⑥)。ウイルス感染はTNF-αやIL-6などの炎症性サイトカインの産生を亢進し(⑦)、サイトカインストームを引き起こして重症化の原因となる(⑧)。イベルメクチンはヌクレオカプシド(N)とインポーチンα(IMPα)の結合を阻止してウイルスタンパク質の核内への移行を阻害する(⑨)。さらに、イベルメクチンは、サイトカインストームを引き起こす主要なサイトカインのTNF-αとIL-6の発現を抑制する(⑩)。ドキシサイクリン(⑪)とアルテスネイト(⑫)はウイルス粒子の複製を阻害する。さらに、ドキシサイクリンとアルテスネイトは抗炎症作用があり、炎症性サイトカインの産生を抑制して過剰な免疫応答を阻止してサイトカインストームの発生を阻止する(⑬)。メラトニンとビタミンD3とピドチモドと亜鉛は自然免疫と獲得免疫を促進することによってウイルスの免疫的排除を促進する(⑭)。これらを組みあわせると相乗効果でSARS-CoV-2感染症の発症と重症化を抑制できる。
769)転用薬を用いた新型コロナウイルス感染症の治療法の提案
【医薬品転用(再利用)による病気の治療は保険診療では実施できない】
私はがんの補完・代替療法を専門に診療しています。補完・代替医療では、漢方薬のような伝統薬やサプリメントや転用薬(再利用薬)を治療に用います。つまり、標準治療(日本では保険診療)で使わない(使えない)薬やサプリメントを使います。
これらの薬が保険診療で使用できないのは保険診療機関では保険適用薬しか治療に使ってはいけない規則があるためです。保険医療機関及び保険医療養担当規則の第19条には「保険医は、厚生労働大臣の定める医薬品以外の薬物を患者に施用し、叉は処方してはいけない」という規則が定められています。したがって、保険診療機関で使用される薬は日本では基本的に保険適用薬(厚生労働大臣が承認した薬)に限られるのです。
医薬品開発で近年注目されているのが、既存の医薬品が他の治療薬にならないかを検討する医薬品転用(再利用)です。医薬品転用は「ドラッグ・リポジショニング(Drug Repositioning)」あるいは「ドラッグ・リパーポジング(Drug Repurposing)」の日本語訳です。「Repositioning」や「Repurposing」というのは、位置や立場(position)や目的や意図(purpose)を新たにする(re-)という意味です。医薬品の「転用」や「再利用」という意味です。
ヒトでの安全性や体内動態が既に確認されている既存薬の新たな薬効を見つけ出し,実用化につなげていこうというのがDrug Repositioning(あるいはDrug Repurposing)という方法です。
医薬品転用の研究はがん治療の領域で特に盛んです。がん治療薬の開発は他の領域の医薬品に比べて開発費用が大きく、しかも成功率が極めて低いからです。動物実験などの基礎研究でがんの治療薬として効果が期待されて臨床試験の許可を得た候補薬のうち、20個に1個程度しか最終的に薬として成功していません。残りは開発中止になるので、それまでの研究開発費用は無駄になるということです。
新薬として認可された薬は、その薬自身の研究開発に費やした費用の何十倍もの研究開発費を回収しないと元が取れないために、がんの新薬は年々高額になっています。しかし、費用が高価な割りに、有効性は極めて低いというのが現状です。
このような状況で、安価(1日数十円とか数百円レベル)で、副作用が少なく、有効性も証明された代用薬が多数見つかっています。
がんの補完・代替療法も、最近は転用薬を用いた治療が増えています。
【特許が取れないと製薬会社は薬にしない】
「臨床試験で有効性が証明されていれば標準治療で使われるはずだから、補完・代替医療で使用されている薬やサプリメントは有効性が証明されていないものだ」という意見で、補完・代替医療を否定し、標準治療以外は認めない医師もいます。
しかし、これは全くの間違いです。標準治療で使用されていない医薬品やサプリメントの中に、がん治療に有効性が証明されたものは多数あります。十分なエビデンスがあっても標準治療で使われないのは特許の問題が関連しています。
前述のように標準治療で使用される薬は日本では基本的に保険適用薬(厚生労働大臣の定める医薬品)しか使用できません。治験用に用いる場合に限って例外は認められていますが、基本的には保険医療機関や保険医が保険適用薬以外を患者に使用することは禁じられているのです。
保険適用されるためには、製薬会社が臨床試験を実施し、有効性や安全性を証明して、厚生労働大臣に製造販売の承認を受けなければなりません。この場合、その物質の特許を取得できれば、その薬を独占して販売できるため利益を得ることができます。
しかし、特許が取れない場合は、莫大な費用を出して臨床試験を実施するメリットがありません。特許がなければ後発薬(ジェネリック薬)がすぐ出て来て利益が得られないためです。その結果、どの製薬会社も薬として申請しません。誰かが申請しなければ保険薬あるいは承認薬として認可されることはないので、標準治療の中で使用されることは永久にないことになります。
医薬品転用は新型コロナウイルス(COVID-19)の治療でも注目されています。駆虫薬のイベルメクチンがCOVID-19の治療に有効であるという報告は多数あります。臨床試験の結果でも有効性が報告されています。効果が無いという報告もあります。
イベルメクチンのメーカーのメルク社はCOVID-19の適応症を申請する気はありません。むしろ、製薬会社や政府当局には「臨床試験が不十分だ」として、使用を阻止する動きもあります。
イベルメクチンは特許が切れ、ジェネリック薬剤がインドなどで大量に製造されています。実際に、インドのジェネリックは多数のブランドがあり、1日分の薬代は100円以下です。
メルク社は他のCOVID-19の新薬を開発し、承認申請を行う段階にあります。特許権のなくなったイベルメクチンにCOVID-19の治療薬としての適応が認められても、利益はほとんど出ません。
コロナの抗ウイルス薬のレムデシビルが特例承認によって使用が認められたように、イベルメクチンも厚生労働省が特例承認すれば保険診療機関で使用ができますが、その可能性は低いと思います。塩野義製薬が開発中の経口の新型コロナウイルス治療薬を年内申請すると言っていますし、イベルメクチンの先発メーカーのメルク社自体が申請する気はないので、イベルメクチンがCOVID-19の保険適用薬として特例承認することは無いと思います。
(ただし、医師の裁量権で、新型コロナウイルス感染症患者にイベルメクチンを保険適用外使用で処方することは可能で、実際にイベルメクチンを保険で処方している医療機関はあります。)
新型コロナウイルス感染症の治療における医薬品転用の例として、イベルメクチン、ヒドロキシクロロキン、ドキシサイクリン、アジスロマイシン、アルテスネイト、ロサルタンなどが報告されています。
マラリア治療薬のアルテスネイトはWHOが臨床試験を実施することを決定しています(768話参照)。
ヒドロキシクロロキンは、一部では有効という結果も報告されていますが、全体的には効果が認められないというのがコンセンサスになっています。WHOも有効性を否定しています。しかし、他の薬との併用で効果が認められたという報告はあります。
サプリメントではメラトニン(696話)やビタミンD3(702話)もCOVID-19に有効です。
これらの薬はがん治療においても転用薬として研究されています。
実際、抗ウイルス作用がある薬の中に抗がん作用が証明されているものは多数あります。逆にがん治療に使用されている薬の中に、抗ウイルス作用が認められているものも多数あります。
がんとウイルス感染症の治療薬には、作用機序的に共通する部分があるように思います。
【イベルメクチンは寄生虫疾患やがんの治療に使われている】
イベルメクチン(Ivermectin)は、土壌から分離された放線菌ストレプトマイセス・アベルミティリス(Streptomyces avermitilis)の発酵産物から単離されたアベルメクチンから誘導され合成されました。日本国内では、腸管糞線虫症と疥癬の治療薬として保険適用されています。
イベルメクチンは、中南米やアフリカのナイジェリアやエチオピアで感染者が多く発生している糸状虫症の特効薬です。糸状虫症はオンコセルカ症や河川盲目症とも呼ばれ、激しい掻痒、外観を損なう皮膚の変化、永久失明を含む視覚障害を起こします。
その他、リンパ系フィラリア症など多くの種類の寄生虫疾患に有効で、人間だけでなく、動物の寄生虫疾患治療薬として広く使用されています。
イベルメクチンを開発した北里大学特別栄誉教授の大村智氏と米ドリュー大学名誉リサーチフェローのW. C. キャンベル(William C. Campbell)氏は2015年ノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
大村博士は様々な抗生物質を作り出すストレプトマイセス属の土壌細菌に注目し、土壌サンプルから採集した菌を培養し、キャンベル博士はこれらの活性を調べ、寄生虫に対して有効な物質を突き止めました。それがストレプトマイセス・アベルミティリスという菌が作り出す物質で、アベルメクチンと名づけられました。 このアベルメクチンを化学的に改変してさらに効果を高めたのがイベルメクチンです。
この薬によって、オンコセルカ症(河川盲目症)やリンパ系フィラリア症など寄生虫が引き起こす感染症を劇的に減らすことが可能になりました。
イベルメクチンは、無脊椎動物の神経・筋細胞に存在するグルタミン酸作動性クロール(Cl)チャネルに選択的かつ高い親和性を持って結合します。その結果、クロール(Cl)に対する細胞膜の透過性が上昇して神経又は筋細胞の過分極が生じ、寄生虫が麻痺を起こし、死に至ります。哺乳類ではグルタミン酸作動性Cl−チャネルが存在しないので、安全性は極めて高いと言えます。
さらに、近年の研究で、多数の前臨床試験で抗がん作用が確認されています。がん治療薬として再利用を検討する候補薬として研究が進行しています。(下図)
図:イベルメクチンは糞線虫症、糸状虫症、疥癬症など多くの寄生虫疾患の治療に使用されている。イベルメクチンが様々なメカニズムで抗がん作用を発揮することが報告されている。
【イベルメクチンは新型コロナウイルスの複製を阻止する】
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスであるSARS-CoV-2は、一本鎖のポジティブセンスRNAウイルスです。
イベルメクチンはウイルスが感染した細胞内で、ウイルスの複製を阻害し、さらに宿主の抗ウイルス応答を増強して感染を阻止する作用機序が報告されています。(下図)
図:新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は細胞膜のACE-2と結合して細胞内に入る(①)。ウイルスはRNAを放出し、細胞のリボソームを使ってウイルスタンパク質を合成してウイルス粒子を複製する(②)。ヌクレオカプシド(N)タンパク質(③)には核局在化シグナルが含まれており、インポーチン(IMP)のα/βヘテロ二量体(IMPα/β)に結合し(④)、核膜孔複合体を通って核内に輸送され、核内で複合体は解離し、DNAやリボソームサブユニットに結合し(④)、宿主の抗ウイルス応答を抑制し、ウイルス感染を亢進する(⑥)。ウイルス感染はTNF-αやIL-6などの炎症性サイトカインの産生を亢進し(⑦)、サイトカインストームを引き起こして、重症化の原因となる(⑧)。イベルメクチンはヌクレオカプシド(N)とインポーチンα(IMPα)の結合を阻止してウイルスタンパク質の核内への移行を阻害する(⑨)。さらに、イベルメクチンは、サイトカインストームを引き起こす主要なサイトカインのTNF-αとIL-6の発現を抑制する(⑩)。これらの作用によってイベルメクチンはSARS-CoV-2感染症の発症と重症化を抑制する。(参考:Repurposing Ivermectin for COVID-19: Molecular Aspects and Therapeutic Possibilities.Front Immunol. 2021; 12: 663586.)
【イベルメクチン治療はCOVID-19患者の死亡率を低下する】
イベルメクチン使用とCOVID-19患者の死亡率との関係を検討した臨床試験のメタ解析の報告があります。メタ解析(meta analysis)とは過去に行われた複数の研究結果を統合し,より信頼性の高い結果を求める統計解析手法のことです。
The association between the use of ivermectin and mortality in patients with COVID-19: a meta-analysis(イベルメクチン使用とCOVID-19患者の死亡率との関係:メタ解析)Pharmacol Rep. 2021 Mar 29;1-7.
この分析には6件のランダム化比較試験が含まれ、無作為にイベルメクチンを投与された合計658人の患者と、イベルメクチンを投与されなかった597人の患者を対象に解析されました。
イベルメクチンの投与は死亡率を低下させる利益を示しました(プールされたオッズ比= 0.21; 95%信頼区間0.11-0.42)。オッヅ比が0.21は死亡率が21%に低下することを意味します。
ただし、メタ解析の報告の中には、有効性が認められないという結論の論文もあり、イベルメクチンの有効性についてはまだ議論があります。
【イベルメクチンの5日間の治療は病気の期間を短縮するかもしれない】
臨床試験での投与量は試験によってバラバラです。
前述のメタ解析に使われたイラクの研究では、イベルメクチンを1日に200μg/kgを2日間投与し、回復に時間がかかっている場合は、最初の投与から7日後に3回目を投与しています。さらに、ドキシサイクリン100mgを12時間おきに5〜10日間投与しています。
トルコの臨床試験では、イベルメクチンを200μg /kg/dayを5日間服用しています。
以下の論文はバングラデシュ(International Centre for Diarrhoeal Disease Research, Dhaka, Bangladesh)からの報告です。
A five-day course of ivermectin for the treatment of COVID-19 may reduce the duration of illness(COVID-19の治療のためのイベルメクチンの5日間の治療は病気の期間を減らすかもしれない)Int J Infect Dis. 2021 Feb; 103: 214–216.
この試験には、バングラデシュのダッカに入院した72人の患者が含まれ、次の3つのグループのいずれかに割り当てられました。
1)経口イベルメクチン単独(12 mgを1日1回5日間)、
2)経口イベルメクチン(12mgを初日に1回投与)とドキシサイクリン(初日に200mg、続いて次の4日間は12時間ごとに100 mg)
3)プラセボ対照群。
発熱、咳、喉の痛みの臨床症状は、3つのグループ間で同等でした。
ウイルス排除の期間はプラセボ群が12.7日に対してイベルメクチン5日間投与群は9.7日で統計的有意に短縮しました( p = 0.02)。
イベルメクチン(12mg,初日に1回)+ドキシサイクリン(初日に200mg、続いて次の4日間は12時間ごとに100 mg)群では11.5日でプラセボ群との差は認めませんでした( p = 0.27)。
この研究では、重篤な副作用は記録されていません。
【寄生虫症撲滅の目的でイベルメクチンを予防投与している国はCOVID-19の死亡が少ない】
イベルメクチンは中南米やアフリカで感染者が多く発生している糸状虫症やリンパ系フィラリア症など多くの種類の寄生虫疾患に有効です。これらの寄生虫疾患が流行している国では、イベルメクチンの予防的投与が行われています。イベルメクチンの予防的投与のプログラムに参加している国では、非参加の国よりCOVID-19の感染や死亡が少ないという疫学的研究が報告されています。
オンコセルカ症管理のためにイベルメクチンを予防的に投与するアフリカプログラム(African Programme for Onchocerciasis Control :APOC)に参加した国は、非参加国に比較して、COVID-19による死亡率と発症率が大幅に低下していました。
イベルメクチンは安全性が極めて高いので、SARS-CoV-2に対して予防的にも使用できる可能性が示唆されています。
【イベルメクチンはCOVID-19の予防と治療に有効?】
COVID-19におけるイベルメクチンの18件のランダム化比較試験に基づくメタアナリシスの結果は、死亡率、臨床的回復までの時間、およびウイルスクリアランスまでの時間の大幅な統計的に有意な減少を明らかにしています。
多数の管理された予防試験の結果は、イベルメクチンの定期的な使用でCOVID-19に感染するリスクが大幅に減少したことを報告しています。
さらに、イベルメクチン予防的投与の多くの例において、COVID-19の罹患率と死亡率の減少が認められ、イベルメクチンがCOVID-19のすべての段階で有効な経口剤であることが示唆されています。
現在まで、COVID-19におけるイベルメクチンの効果は以下のようにまとめられています。
- 2012年以降、複数のin vitro研究により、イベルメクチンがインフルエンザ、ジカ熱、デング熱などを含む多くのウイルスの複製を阻害することが実証されている。
- イベルメクチンは、いくつかのメカニズムを通じて、SARS-CoV-2の複製と宿主組織への感染を阻害する。
- イベルメクチンは強力な抗炎症特性を持っており、in vitroデータは、サイトカイン産生と、炎症の最も強力なメディエーターである核因子-κB(NF-κB)の転写の両方を大幅に阻害することを示している。
- イベルメクチンは、SARS-CoV-2または同様のコロナウイルスの感染に対して、ウイルス量を大幅に減少させ、複数の動物モデルの臓器損傷から保護する。
- イベルメクチンは、感染した患者にさらされた人々のCOVID-19病の感染と発症を防ぐ。
- イベルメクチンは回復を早め、症状の早期に治療された軽度から中等度の疾患の患者の悪化を防ぐ。
- イベルメクチンは、回復を促進し、ICUへの入院と入院患者の死亡を減らす。
- イベルメクチンは、COVID-19の重症患者の死亡率を低下させる。
- イベルメクチンは、イベルメクチン配布キャンペーン後の地域における致死率の減少に関連している
- イベルメクチンの安全性、入手可能性、コスト、重要な薬物相互作用の発生率が低いこと、約40年間の使用と数十億回の投与で観察される軽度でまれな副作用のみを考慮すると、ほぼ比類のない薬である。
- 世界保健機関は長い間、「必須医薬品リスト」にイベルメクチンを含めてきた。
【イベルメクチンの薬物動態と副作用】
薬物動態:
健康成人男子にイベルメクチンを錠剤で単回経口投与した場合、主要成分(H2B1a)の平均血清中濃度は、12mg投与では投与後4時間で32.0(±7.3)ng/mL、6mg投与では投与後5時間で19.9(±4.8)ng/mLの最高値を示しました。血漿中濃度は、投与量にほぼ比例して増加しました。
イベルメクチンの血漿中消失半減期は約18時間でした。 イベルメクチンは肝臓で代謝されます。
イベルメクチンやその代謝物は、約12日間かけてほぼすべてが糞中に排泄され、尿中への排泄は投与量の1%未満でした。 本薬の代謝にはCYP3A4が主に関与していることが報告されています。
オンコセルカ症など寄生虫感染患者には、死んだミクロフィラリアに対するアレルギー性・炎症性反応によると考えられる症状が起こります。しかし、寄生虫に感染していなければ、副作用は極めて軽微です。
一般的な副作用は、消化器症状(吐き気、食欲不振、下痢、便秘など)、肝機能障害(GOT/GPTの上昇)、貧血、白血球減少などですが、10錠程度の服用では副作用が起こることは稀です。しかし、アレルギー機序での副作用(かゆみや発疹など)は1錠でも起こる可能性はあります。
新型コロナウイルスの予防と治療におけるイベルメクチンの服用法:
イベルメクチンは通常の寄生虫疾患(糸状虫症、糞線虫症、ぎょう虫感染症)では150から200 μg/kg、リンパ系フィラリア症では400μg/kgを1から2回服用します。体重60kgで1日に12mgから24mgになります。
寄生虫に対する死滅作用が強いので、寄生虫疾患の治療の場合は、通常は1回か2回で治療は終了します。つまり、寄生虫の場合は、1回か2回の投与で、ほとんどの寄生虫は死滅します。
がん治療の場合は、がんの進行状況に応じて、1日12mgから24mgを毎日服用します。1日12mgを数ヶ月間毎日服用しても、大きな副作用は経験していません。
イベルメクチンは脂溶性なので、脂肪の多い食事で吸収が高くなります。
寄生虫疾患の治療では、脂肪で吸収が亢進して血中濃度が高くなるのを懸念して空腹時の服用を指定しています。しかし、がん治療やウイルス感染症の治療の場合は、むしろ少ない服用量で血中濃度を高めるために脂肪の多い食事の後の服用の方が理にかなっています。
つまり、大さじ1〜2杯程度のオリーブオイルや亜麻仁油や生クリームと一緒に服用したり、油脂の多い食事の後に服用すると体内吸収率を高めることができます。
イベルメクチンの分解はCYP3A4が主に関与していることが報告されています。したがって、CYP3A4を阻害するグレープフルーツジュースを一緒に服用するとイベルメクチンの効果を高めることができます。ただし、グレープフルーツジュースとの併用が注意あるいか禁忌の薬が多数ありますので、他の薬を服用している場合は、グレープフルーツジュースを飲んで良いかどうかを確認する必要があります。
寄生虫治療と同様に新型コロナウイルスの治療でも1回か2回の服用で有効という報告もありますが、単回の服用では、服用した時に十分に吸収されなければ効果が出ないというリスクがあります。したがって、COVID-19の治療目的の場合は、1回0.2mg/kgを5日間以上服用するのが無難です。
発熱や倦怠感や咳などの感染を示唆する症状を感じたら、1日1回12mgを5日間程度毎日服用します。
発熱などの症状が強いときは12時間おきに12mgを服用します。体重が重い場合も増量します。
発症や予防の目的では週に1回でも効果が期待できるようですが、血中の半減期が18時間ですので、3日もすると血中からほとんど消失します。したがって、1回0.2mg/kgを週に2回程度服用するのが予防効果が高いと思います。
ウイルスに感染してから発症するまでの潜伏期間は5〜7日間ですので、発症する前のウイルス量がまだ少ない時期にイベルメクチンを何回か服用するとウイルスの増殖を抑え、重症化を予防できます。
【ドキシサイクリンとアジスロマイシンの抗ウイルス作用】
ドキシサイクリンはテトラサイクリン誘導体の抗生物質です。テトラサイクリンの有効性と安定性を改善した医薬品で、50年以上前(1960年代後半)にFDAが承認しています。グラム陽性とグラム陰性の両方の細菌に効き、にきびの治療に使われています。
テトラサイクリンは細菌のリボソームの30Sサブユニットに結合して、細菌のタンパク合成を阻害します。
アジスロマイシンはマクロライド系の抗生物質で、細菌の50Sリボソームに結合してmRNAから蛋白質への合成を阻害します。
図:リボソームはmRNAの遺伝情報を読み取って(①)、アミノ酸を結合してタンパク質(ポリペプチド鎖)を合成する(②)。リボソームは大小2種類のサブユニットから構成され、細菌のリボソームは30Sサブユニットと50Sサブユニットの2つから構成される。抗生物質のドキシサイクリンは細菌のリボソームの30Sサブユニットに結合して、ポリペプチド鎖へのアミノ酸の結合を阻害して、細菌のタンパク合成を阻害する機序で抗菌作用を発揮する(③)。アジスロマイシンは50Sリボソームに作用してタンパク質合成を阻害する(④)。
細胞のミトコンドリアは細菌に由来するため、細菌のリボソームの30Sサブユニットと50Sサブユニットは、それぞれミトコンドリア・リボソームの28Sサブユニットと39Sサブユニットと相同性があります。したがって、ドキシサイクリンとアジスロマイシンはミトコンドリアのタンパク質合成を阻害する作用もあり、この作用によってミトコンドリア機能やミトコンドリア新生を阻害し、がん細胞の増殖を抑制する作用を発揮し、がん治療の代用薬としても使用されています。(677話参照)
ドキシサイクリンは抗ウイルス、免疫調節、および抗炎症特性を有します。VERO E6細胞など細胞株を用いた研究でSARS-CoVの-2に対する50%有効濃度(EC50)が5.6 ± 0.4 µMという結果が報告されています。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対するドキシサイクリンの作用についていくつかのメカニズムが提案されています。
ドキシサイクリンは脂溶性が高いので肺組織への浸透性が高く、肺組織におけるウイルス複製を阻害します。
コロナウイルスの細胞接着、浸潤、生存、複製には宿主のマトリックス・メタロプロテイナーゼ(matrix metalloproteinases :MMP)に大きく依存しています。ドキシサイクリンはMMPの亜鉛とキレート(結合)してMMPの活性を阻害することによってウイルスの複製を阻害します。
COVID-19のポジティブセンス一本鎖RNA複製を阻害する作用も報告されています。
ドキシサイクリンはTNF-α、IL-1β、IL-6などの炎症製サイトカインの産生を抑制し、抗炎症作用を発揮します。
【イベルメクチン+ドキシサクリンはCOVID-19の治りを早める】
ドキシサイクリンは他の治療法と併用すると相乗効果で治療効果を高めることが報告されています。以下のような報告があります。
Doxycycline as a potential partner of COVID-19 therapies.(COVID-19療法の潜在的なパートナーとしてのドキシサイクリン)IDCases. 2020 Jun 6;21:e00864.
【要旨】
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は主要な公衆衛生上の課題であり、現在の治療用の抗ウイルス薬は限られており、しかもその有効性は疑わしいものである。新しい有効な薬剤の発見のために研究が進行中であるが、COVID-19の新しい潜在的な治療法の検証には長い時間がかかる可能性がある。したがって、既存の薬剤を新しい適応症に転用する方法は有用である。
この論文では、ドキシサイクリンがサイトカインストームを抑制し、肺の損傷を防ぐことによって抗ウイルスおよび抗炎症活性を有するため、COVID-19治療のためにヒドロキシクロロキンまたは他の有効性のある薬剤とともにドキシサイクリンを使用することの潜在的な利点について議論する。
前述の様に、ドキシサイクリンの殺菌活性は、主に細菌のリボソームに可逆的に結合してタンパク質の合成を阻害する作用に依存します
ドキシサイクリンの抗炎症作用は、NF-κB、p38マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)シグナル伝達経路の阻害、および炎症性サイトカインの放出の阻害と関連しています。さらに、ドキシサイクリンは、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP-2、MMP-9)の活性を阻害して、ウイルスの複製を阻害する効果もあります。
つまり、抗ウイルス作用と抗炎症作用により、COVID-19の治療効果を発揮します。
イベルメクチンとドキシサイクリンは抗ウイルス作用と抗炎症作用の両方を持つので、COVID-19の治療に有効性が高いといえます。
図:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では、感染の早期には風邪やインフルエンザのようなウイルス性呼吸器感染症の症状(発熱、咳、倦怠感など)を呈し、体内ではコロナウイルスが増殖し、ウイルスに対する防御反応(抗ウイルス反応)が起こる(①)。多くの患者はこの時期に自然に良くなる。一部の患者では発症から7日目前後から息切れや低酸素症などの肺炎の症状が現れる(②)。さらに一部の患者は重症化して、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や敗血症や多臓器不全を引き起こして、場合によっては死に至る(③)。ステージIIとIIIの状況では、感染者の免疫反応による過剰な炎症が症状悪化の原因となっている(④)。治療においては、ウイルスが増殖している発症早期には抗ウイルス作用を持つ治療薬を投与し(⑤)、過剰な炎症反応が起こっている中等症以降には抗炎症作用を持つ治療薬を投与する(⑥)。イベルメクチンとドキシサイクリンは抗ウイルス作用と抗炎症作用を持ち、COVID-19に対する治療効果が報告されている(⑦)。
イベルメクチンやドキシサイクリンは発展途上国で一般的に使用されており、寄生虫感染症と細菌感染症の両方を治療するのに安全で効果的であることがわかっています。薬の価格は安く、5日間のイベルメクチン+ドキシサイクリンでも数百円のレベルです。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者を治療するための非常に魅力的な代替薬と考えられており、臨床試験が多く行われています。
イベルメクチンとドキシサイクリンを併用したランダム化二重盲検試験が400人の参加者で実施されました。
以下のような論文があります。
Ivermectin in combination with doxycycline for treating COVID-19 symptoms: a randomized trial(COVID-19症状を治療するためのドキシサイクリンとイベルメクチンの併用:ランダム化試験)J Int Med Res. 2021 May;49(5):3000605211013550.
【要旨】
目的: イベルメクチンとドキシサイクリンの併用により、COVID-19感染症の成人の臨床的回復時間が短縮されるかどうかを評価した。
方法: 軽度から中等度のCOVID-19症状のある患者400人を対象とし、治療群(n=200)及びプラセボ(偽薬)群(n=200)にランダム(無作為)に割り当て、ランダム化盲検プラセボ対照試験を行った。
主要評価項目は、治療から臨床的回復までの期間であった。副次評価項目は、RT-PCRにより判定した疾患の進行と持続的なCOVID-19陽性であった。
結果: スクリーニングされた556人の患者のうち、400人が登録され、363人がフォローアップを完了した。患者の平均年齢は40歳で、59%が男性であった。
回復期間の中央値は治療群が7日(4-10日)でプラセボ群が9日(5-12日)であった(ハザード比=0.73; 95%信頼区間、0.60-0.90)。
7日以内に回復した患者数は治療群が61%、プラセボ群が44%であった。
14日目にRT-PCR陽性であった患者数および疾患が進行しなかった患者の割合は、プラセボ群よりも治療群で有意に低かった。
結論: イベルメクチンとドキシサイクリンで治療された軽度から中等度のCOVID-19感染症の患者は、早期に回復し、より重篤な疾患に進行する可能性が低く、14日目のRT-PCRでCOVID-19陰性になる率が高かった。
この臨床試験は、バングラデシュで最大のCOVID-19専門病院であるダッカ医科大学病院で実施され、2020年6月1日から8月30日までの軽度から中等度のCOVID-19感染症の患者が対象です。
治療群は、標準治療に加えて、イベルメクチン12mgとドキシサイクリン100mgを1日2回、5日間投与されました。
標準的なケアには、パラセタモール、抗ヒスタミン薬、咳止め薬、ビタミン、必要性に応じて酸素吸入、低分子量ヘパリン、適切な他の広域スペクトル抗生物質、レムデシビル注射、他の抗ウイルス薬、および関連する他の薬の投与が含まれていました。
プラセボグループは、標準治療に加えてプラセボを投与されました。
回復期間の中央値は、治療群で7(4–10)日、プラセボ群で9(5–12)日でした。治療開始から7日以内に回復した患者の割合は、プラセボ群よりも治療群の方が高いという結果でした。
その他、768話で解説したマラリア治療薬のアルテスネイトもCOVID-19の治療に効く可能性があります。
767話で解説したピドチモドは自然免疫と獲得免疫を活性化してウイルス感染に対する免疫力を高めます。
メラトニン(696話)とビタミンD3(702話参照)はCOVID-19の予防と治療に有効です。
トランプ元米国大統領がコロナに感染したときも、通常の治療に加えてメラトニンとビタミンD3を医師団は投与しています。十分なエビデンスがあります。
ビタミンやミネラルも免疫増強に必要ですが、COVID-19の臨床試験では亜鉛の効果が検討されています。亜鉛をサプリメントで補うと、コロナウイルスに対する免疫力を高めることができます。
以上の様に、イベルメクチン、ドキシサイクリン(あるいはアジスロマイシン)、アルテスネイト、ピドチモド、メラトニン、ビタミンD3、亜鉛は、それぞれ単独では効果は弱いのですが、組み合わせると相乗効果が期待できると思います。
免疫力を高める目的のピドチモド、メラトニン、ビタミンD3、亜鉛は日頃から服用しておくと、感染症とがんの予防に有効です。
COVID-19を発症したときは、イベルメクチン、ドキシサイクリン、アルテスネイトを服用すると、抗ウイルス作用と抗炎症作用の両方の作用機序で重症化を予防し、回復を早めます。
これらの組み合わせは、がんの補完・代替療法で多くの患者さんに使用していますが、副作用はほとんど経験しません。安全性は極めて高いのが特徴です。
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