がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
41)生薬は抗酸化物質の宝庫
図:活性酸素やフリーラジカルが多く発生(酸化負荷の増大)したり、体の抗酸化力が低下すると、体内の細胞成分の酸化が進む(酸化ストレス)。酸化ストレスの増大は、細胞や組織の酸化障害を引き起こし、がんの発生や進展を促進する原因となる。
41)生薬は抗酸化物質の宝庫
【酸化ストレスとは】
体内では細胞の酸素呼吸によって絶えず活性酸素が発生しています。炎症が起こると、炎症細胞から活性酸素や一酸化窒素などのフリーラジカルが多く発生し、細胞を構成する成分を酸化します。その他、タバコや大気汚染や医薬品やアルコールなど様々な要因がフリーラジカルを発生して体を酸化しています。
これに対して、細胞内では活性酸素を無害にする酵素(スーパーオキシドディスムターゼ、カタラーゼ、ペルオキシダーゼなど)や抗酸化物質(ビタミンCやビタミンEなど)によって体の酸化を防いでいます。
体内での活性酸素やフリーラジカルの産生量が増えたり体の抗酸化力が低下すれば、体内の細胞や組織の酸化が進みます。このように体内を酸化する要因が体の抗酸化力に勝った状態を酸化ストレスと言います。細胞や組織が酸化ストレスを受けると、細胞内のタンパク質や細胞膜の脂質や細胞核の遺伝子などにダメージが起こり、がんや動脈硬化、認知症、白内障、肌の老化など様々な病気の原因となります。がんの予防や治療においては、酸化ストレスの増大は、がんの発生や再発を促進し、がん細胞を悪化させる原因となります。
【生薬は抗酸化物質の宝庫】
生体の防御システムをくぐり抜けて発生した活性酸素やフリーラジカルを体外から抗酸化剤やフリーラジカル消去物質を投与して消去すれば、がん細胞の発生や悪化を防ぐ効果が期待できます。
植物は光合成を行うことで生命を維持しています。日光の紫外線の刺激から発生する活性酸素から身を守ることは、植物にしてみれば至極当然のことで、その植物が貯えている物質の中に強力な抗酸化物質やラジカル消去物質を数多く含んでいます。生薬は「抗酸化物質の宝庫」といわれますが、植物由来であるから当然のことなのです。
生薬に含まれる抗酸化物質として、カロテノイドやビタミンC・Eなどの天然抗酸化剤のほか、フラボノイドやタンニンなどのポリフェノール・カフェー酸誘導体・リグナン類・サポニン類などが知られています。
カロテノイドとビタミンCは光合成過程で発生する各種活性酸素種の消去剤としての役割を担っています。山梔子(さんしし、クチナシの果実)、番椒(ばんしょう、トウガラシ)、陳皮(ちんぴ、ミカンの果実)などの色はカロテノイド色素によるものです。ビタミンE(α-トコフェノール)も植物界に広く分布し、脂溶性であるため細胞膜の脂質の過酸化に対して強い抑制作用を示します。ビタミンCは水溶性の抗酸化性ビタミンで、ビタミンEと相乗作用して抗酸化能を高めます。
フラボノイドやタンニンはその構造の中にフェノール性OH基を多数持つためポリフェノール類と呼ばれています。フェノール性OH基が水素をラジカルに渡して安定化させ、自らは安定なラジカルとなることによってラジカル消去活性を示します。
フラボノイドとは、植物に多く含まれている黄色やクリーム色の色素のことです。活性酸素を除去する抗酸化作用が強く、紫外線による害から守る作用がありますので、葉・花・果実など日光のよく当たる部分に多く含まれ、ほとんどの植物がもっています。例えば、イチョウの葉はフラボノイドの宝庫で、イチョウの葉特有のフラボノイドには、抗酸化作用のみならず、体内の血管を広げ、血流を改善する効果もあります。ドイツやフランスなどでは痴呆症の薬としても利用されています。黄ごん・紅花などにもフラボノイドが多く含まれています。タンニンを含有している大黄や芍薬は強い活性酸素消去活性を持っています。
クロロゲン酸(3ーカフェオイルキナ酸)を始めとするカフェー酸誘導体は植物界に広く分布しています。艾葉(ガイヨウ、キク科のヨモギ)やその同属植物には、カフェー酸・クロロゲン酸・ジカフェオイルキナ酸類が多量に含まれており、これらはいずれも強い抗酸化作用が認められています。
カフェー酸の2量体であるロズマリン酸は、ヨーロッパで多く用いられているハーブのロズマリー(マンネンロウ)や薬用サルビア(セージ)などのシソ科植物の主要成分でもありますが、蘇葉(そよう)や夏枯草(かごそう)などのシソ科植物を基原とする生薬にも多く含まれています。このロズマリン酸にも強い抗酸化活性や抗炎症作用が認められています
ゴマ油は酸化に対して安定ですが、それはゴマの種子に多量に含まれている含まれているリグナン類の優れた抗酸化作用によるものです。胡麻に含まれる成分セサミンが肝臓ガンの発生を抑える働きを持つことが、発ガン実験の研究で明らかになっており、その作用機序として抗酸化能が重視されています。五味子(ゴミシ)はチョウセンゴミシの果実を基原とする生薬ですが、この中にはシザンドリンやゴミシンなど多くのリグナン類が含まれていて、強い抗酸化力を持っています。
薬用人参や柴胡や甘草などにはサポニン類が多く含まれています。これらのサポニンにも抗酸化作用があります。
このような生薬の抗酸化成分はがんの発生や再発の予防、がん細胞の悪化進展の抑制に効果が期待できます。
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