43)がんの標準治療の欠点

図:がんの3大治療(手術、抗がん剤、放射線)は様々な副作用を起こし、体の防御力(抗がん力)を低下させて再発や転移を促進する。

43)がんの標準治療の欠点

西洋医学のがん治療はがん細胞を攻撃することに焦点を当てています。しかしながら、がん細胞を攻撃する治療は体の免疫力や体力を犠牲にするという欠点があります。がん細胞を攻撃するだけでは片手落ちであり、体の治癒力や抵抗力にも目を向けたがん治療も必要です。

【免疫力が低下すると転移と再発が起こりやすくなる】
 手術や化学療法や放射線療法は「侵襲的治療」と呼ばれます。「侵襲的」というのは「がんを攻撃する」ということですが、「体に害を及ぼす」という意味も含まれています。がん細胞を取り除く侵襲的治療はがん治療の基本であることは間違いありません。しかし、このような攻撃的な治療法は、正常組織を障害して、生体の体力や免疫力を低下させる欠点を本質的に持っています。侵襲的治療に伴う全身状態の悪化と免疫力の低下は、体のあちこちに存在しているがん細胞にとって再発・転移の絶好のチャンスとなります。
 また、抗がん剤や放射線は
フリーラジカルを発生して、がん細胞の遺伝子の変異(異常)を増やしてがんを悪化させる欠点も持っています。抗がん剤を使っていると、がん細胞は巧妙な仕組みを使って抗がん剤に効かない性質(抗がん剤耐性)を獲得し、次第に抗がん剤が効かない強いがん細胞へと変化してきます。つまり、抗がん剤には、がん細胞の増殖を抑える作用と、転移や再発を促進する2面性があることを理解しておく必要があります。

【治療の副作用で亡くなることも多い】
 体力や抵抗力の低下している時に侵襲的治療を行なうことは、すでに低下している免疫力や体力に壊滅的なダメージを与え、生命力そのものを低下させ、死を早める結果にもなります。手術による体の負担や抗がん剤投与、精神的ストレス、栄養不全などが重なると生体防御力はますます低下します。生体防御力が低下すると細菌やウイルスに感染しやすくなり、ますます全身状態が悪化して死を早めます。
 
西洋医学には、体の抵抗力や自然治癒力を高めて病気を治そうという視点は乏しいと言わざるを得ません。むしろ、抗がん剤治療に代表されるように、病気の原因を取り除くためには体の抵抗力や治癒力を犠牲にしても構わないという考え方をしがちです。がんは小さくなったが、患者も亡くなった、ということがしばしば起こっています。
 
抗がん剤や手術のこのような欠点を防ぐためには、同時に体力や免疫力や回復力を高める治療を併用することがポイントになります。体力や抵抗力が低下しているときは、無理に侵襲的治療を行なうよりも、副作用の少ない漢方治療や代替医療の方が、延命効果がある場合もあります。

【固形がんは抗がん剤で全滅できない】
 抗がん剤や放射線治療によってがん細胞を全て殺すことができれば問題はないのですが、多くの場合、生き残るがん細胞がいます。その理由を少し説明します。
 
抗がん剤や放射線による殺細胞作用は増殖している細胞にのみ作用します。正常の細胞でも骨髄細胞(赤血球や白血球や血小板を作る細胞)や腸の粘膜細胞のように活発に増殖しているものは抗がん剤や放射線によって障害を受けます。抗がん剤や放射線治療で白血球減少や下痢などの副作用が起きやすいのは、これらの治療法が増殖している正常細胞も障害するからです。正常細胞への障害があるため、がん細胞に作用させる抗がん剤や放射線の量にも限界があります。そのためがん細胞だけを根絶することは限界があるのです。
 また、分裂しているがん細胞は抗がん剤や放射線で死ぬのですが、がん組織の中には細胞分裂を止めてジッとしている休眠中のがん細胞もいます。このような
休眠中のがん細胞は、抗がん剤や放射線で死なないで、治療が終了してしばらくして増殖し再発となって現われます。
 白血病のように細胞がバラバラに増殖し、増殖速度の早いがんは抗がん剤が良く効きます。抗がん剤だけで根治させることも可能です。一方、胃がんや肺がんや大腸がんのようにがん細胞の塊をつくるがんを「固形がん」といいますが、固形がんの多くは今説明した理由により生き残る細胞がいて、抗がん剤では根絶できないといっても過言ではありません。

【抗がん剤の奏功率と延命効果との関係】
 抗がん剤の効果を評価するのに主として
奏功率(がんの消失・縮小の度合い)が使われていました。ところが多くの臨床経験から、「腫瘍縮小率の大きさと延命効果が結びつかない」ことが認識されるようになり、「奏功率の高い制がん剤が良い」という考えには多くの疑問が出されています。
 腫瘍を早く小さくする「切れ味の良い」化学療法は、患者も医者も治療効果が目に見えるため安心感と期待を持ってしまいます。一方、
長期予後からマイナス要因となる免疫力の低下や抵抗力の低下は目に見えないため、あまり重視されません。たとえその低下がわかっていても、その結果として起こる「腫瘍再燃の促進」や「日和見感染の発症」という最悪の結果が見えてくるまで、それに対する不安を実感することはありません。
 進行がんでも化学療法を使用する医者の言い分として、がんを少しでも縮小させることは延命につながり、痛みなどの症状を抑えることができると述べています。確かに、進行した胃がんや大腸がんでは、抗がん剤を使った方が使わない場合より平均で数カ月~1年程度生存が延びるという報告もあります。しかし、
免疫力や抵抗力といった目にみえない機能の低下によって患者の生活の質(Quality of life,QOL)を悪化させたり、死を速めることも少なくありません
 患者の体力が衰えている場合には抗がん剤の効果も出にくいことが知られています。 免疫力や体力が落ちていると転移や再発が起こりやすくなります。「
がん組織を小さくする」という事は延命の絶対的条件ではなく、免疫力や抵抗力など生体防御能も生存期間を決める重要な要因であることは間違いありません

【がんを小さくしなくても延命できる】
 進行がんに対する治療成績の限界は、現代西洋医学におけるがん治療の考え方に原因があるように私は感じています。それは、「がんは攻撃しないと治らない」という大前提が西洋医学にあって、がんと診断されれば、手術や抗がん剤や放射線治療のようにがん細胞を殺す手段しか方法がないと考えている点です。
 手術や化学療法や放射線療法はがん細胞そのものを取り除くことを目的としていますが、生体側の体力や免疫力を低下させたり、がんを悪化させる欠点も持っています。再発や転移を促進することもあります。
がん細胞を強力に取り除く治療が必ずしも延命につながらないというジレンマがあるのは、体の抵抗力や治癒力を犠牲にする治療だからです
 このように確実な治療法がない状況の中で、がん治療の一つの考え方として、がんの「
休眠療法」という概念が最近討論されるようになってきました。がん細胞の増殖を停止させて腫瘍を休眠状態にもって行こうという治療法で、「がんとの共存」を目指す手段といえます。がんの縮小効果の高い抗がん剤治療が必ずしも延命に結びついていないことから、がんを「小さく」できなくても「大きくしない」あるいは「進行を遅らせる」方法もがん治療として価値があることが認識されてきたのです。
 がんとの共存や休眠療法を実践するためのポイントは、体の抗がん力を犠牲にしないでがん細胞の増殖を抑えることです。この目的において、漢方薬や、血管新生阻害作用やCOX-2作用や抗がん作用をもった医薬品やサプリメントの利用は有用だと思います。

 

標準治療には腫瘍縮小効果だけでなく、副作用という欠点があります。標準治療の欠点を補い、副作用を軽減し、腫瘍縮小効果を高めることが、漢方治療の目標になります。

(文責:福田一典)


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