(1)がん治療における漢方治療の存在意義

図:がん治療の結果は、「がんの強さ」と「がんに対する抵抗力(抗がん力)」のバランスによって決まります。がん細胞を取り除くことだけを目的とする攻撃的な治療(手術、抗がん剤、放射線)だけでは片手落ちであって、「治療に耐えられる体力づくり」と、「抗がん力を高める」ための治療を活用することも大切です。

(1)がん治療における漢方治療の存在意義とは:

【西洋医学と相容れない点に漢方医学の存在意義がある】
 漢方医学では、人間の体をひとつの小宇宙(ミクロコスモス)ととらえて自然界と対照させ、環境と人体とのかかわりを重視する視点を持っています。また、心と身体の結びつきを大切にし、病気にならない養生法を基本においています。
 すなわち、生命を解放系と捉え、心身一如の考え方をとり、病気の予防を重視する点が漢方医学の特徴といえます。臓器と臓器のつながりや心と体の関わり、さらに周囲の環境とのつながりまで含めた調和を重視し、個々の臓器でなく体全体を丸ごと診るというホリスティック(全人的)な考え方が漢方医学の基本思想となっています。
 西洋医学も始めは似たような考え方をとっていました。健康=Healthの語源はギリシャ語のHolos=「全体」であり、西洋医学発祥の地ギリシャにおいては、人間の健康は「自然」と密接な関係にあり、また「たましい」「こころ」と「からだ」の全体を考える医療が、医聖ヒポクラテスらによって行われていました。
 古代ギリシャから中世ヨーロッパまで、人体には「プネウマ(プノイマ、Pneuma、霊気)」という一種の生命エネルギーがあると考えられていましたが、これは漢方医学における「」の概念と全く同質のものです。しかし、17世紀、ルネ・デカルトがその心身二元論において人間の心と体を分けて以来、医学は物質としての「からだ」を治す学問と捉え、要素還元主義と機械的生命観を思想的基盤として、生命現象を科学的に分析し解明することによって急激な発展をとげてきました
 このように、生命観自体が、近代西洋医学の基本であるデカルト的パラダイムと漢方医学のパラダイムでは全く異なってます。病気の治療においては、西洋医学が外から原因に働きかけて治すのを主体とするのに対し、漢方医学では生体のもつ自然治癒力に働きかけ心身の調和を計って内から治すことを重視しています。
 有効性の評価に関しては、西洋医学が効果・効率・量など数値化できる指標を重視するのに対し、漢方医学ではその人にとっての意味や質を重視しています。西洋医学では病気を抑えるために薬を投与する際、多少の副作用や体力・抵抗力を低下させることはあまり気にしませんが、漢方医学では生活の質(QOL)を良くすることを最も重視しています。生命に対する視点そのものが異なっているのです。
 西洋医学は専門化、細分化の方向に向かい、収拾がつかなくなりつつあります。逆に漢方医学のほうは、心と体を全体的に捉えようとする視点を持っていますが、感覚や直感で捉える部分があるので客観性に乏しいという欠点を持っています。東洋的な自然哲学思想を尊重する漢方医学と、科学思想を基調として成り立っている西洋医学とは、多くの点で根本的に異なるため、同じ医療現場では相容れないものとして、どちらか一方のみの立場に立つ人が多いのが実情です。
 しかし、この相容れないという点が、近代医療において重要であることが改めて認識されるようになってきました。機能的な疾患や原因がはっきりしない病気、さらに現代の先端医学をもってしても治療不可能なさまざまな病気が登場し、原因志向型の西洋医学の限界が次第にはっきりしてきました。
 このような難治性疾患に対しては、心身の調和を重視し、自然治癒力や体の抵抗性を強化して病気に立ち向かうという漢方医学的視点の重要性も認識されるようになってきました。「病気」に目をむける現代西洋医学と、「病人」に目を向ける漢方医学は互いに補い合う関係にあるはずです。昨今の代替医療(自然療法や漢方医学や健康食品など)や全人的医療への関心の高まりや期待は、西洋医学だけが必ずしも最善の医療である保証はないという点に多くの人が気付きはじめたからです。

原因志向型医療と要素還元主義の限界】
 
現代西洋医学は病気の原因を科学的に分析・追求し、その原因(病因)に直接働きかけて病気を治すと言う観点から治療法を開発してきました。つまり、がん予防の研究においては、なぜがんになるのかという発がんメカニズムを追求して、その過程を人為的に操作することを主な対象にし、がん治療においては、がん細胞を直接攻撃することが主な目標になっています。
 しかし、このような原因志向型の方法論では、原因が特定できない場合や、たとえ原因が明らかであってもその原因を取り除くことが困難な場合は、治せないという結論になります
 がんの場合、病気の原因はがん細胞の存在です。したがって原因は特定できており、治療の目標は明らかです。しかし、がん細胞が手強くて、攻撃する力が十分でなければ、がん細胞を取り除くことができず、治すことができないことになります。がんになった患者さんの半分が治っていないという現実は、我々にはまだ、がん細胞を十分に攻撃できる手段が無いということを意味していますので、現時点では西洋医学の方法論だけでは限界があることになります。
 一方、漢方医学では、多くの人がなぜがんにならないのかという点に注目しています。がんの発生を防いでいる自然治癒力や生体防御機構の存在を重視し、それらの働きが妨げられた場合にがんになるという視点に立ち、このような生体に本来備わった自然治癒力を引き出すことによってがんを防ぎ、治そうとする立場をとっています。
 
現代西洋医学は心身二元論と要素還元主義を基本とする実証医学であり、病気の原因を科学的に分析し、論理的に納得できる治療法を絶えず開発しながら医療体系を広げてきました。一方漢方医学では、心身の結び付きや自然とのつながりを重視する立場をとり、経験的になされた医療を取捨選択し、歴史的スクリーニングを経て残ってきた有効な治療法を集積してその医療体系を確立してきました。
 このように西洋医学が原因志向型の科学的方法論を取るのに対して、漢方医学は解決志向型の経験重視の方法論を主体としており、医療に対する両者の視点は全く異なっています。漢方医学の領域における理論や治療法は、論理的に説明できない経験的あるいは観念的要素が多く見られるため、非科学的であるという批判を浴びがちです。しかし、現代西洋医学における機械的生命感や原因重視の方法論では解決できない病気が多く存在することが認識されるようになり、全く異なる生命観・疾病観を基盤とする漢方医学が、現代西洋医学の欠点を補う医学・医療法として再認識されてきているのです。

【がん治療において西洋医学と漢方医学は相互に補完しあえる】
 
西洋医学では、病気の原因に直接働きかけて、それを取り除くことによって病気を治療することが基本になっています。使う薬も、作用が強く確実な効力のものを求めてきました。
 作用の強い薬は、体のバランスを崩したり、食欲や胃腸の働きを障害して、体の自然治癒力を低下させる傾向にあります。しかし、病気の原因を徹底的に抑え込むためには多少の副作用も構わないというのが西洋医学の考え方です。がん治療においても、がん細胞を殺すためには、体力や免疫力が犠牲になっても仕方ないと考えがちです。
 
一方、漢方では、絶えず体全体のバランスを考えながら、体に備わった治癒力を妨げないで、生体の諸々の機能の歪みを是正するような作用を薬に求めてきました。体の治癒力や抵抗力に働きかけて間接的に病気を治していこうと考えており、西洋薬のような特効力はなくても、副作用がなく病める体に好ましく作用する薬、治癒力や体力を回復させる薬を大切にしてきました。
 
このように現代西洋医学と漢方医学では、治療法や薬に対する考え方に根本的な違いがありますが、両者の考え方の違いを、「お互いに相容れない」と考えるのではなく、「相互に補完しあえる」ととらえることが、がんの「統合医療」のスタートになります。

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