(2)がんに対する自然治癒力は存在する

図:体に備わった恒常性維持機能、生体防御機能、抗酸化・解毒機能、修復・再生機能が、がん細胞の発生や増殖を抑える自然治癒力(抗がん力)の基礎になっている。

(2) がんに対する自然治癒力は存在する:

【私達にはがんに対する自然治癒力が備わっている】

体を構成するすべての組織や臓器は、血液から栄養や酸素を取り入れ、不要なものを排泄し、傷ついた組織を修復し、老化して古くなった細胞を再生することによって、その構造と機能の秩序を維持しています。生命力というのは「体の秩序を自ら作り出す力」であり、これが「自然治癒力」あるいは「自己治癒力」といわれるものです。
 私たちの体の中では常にがん細胞のような異常細胞が発生していますが、免疫力が適切に維持されている限り、それらは増殖する前に排除されます。免疫が正常である限り、私たちの体の中では、「治療を一切受けることなく、常にがんが治っている」状況にあるのです。
 体に備わった抗酸化力は、活性酸素やフリーラジカルの害を防ぐことによって、がん細胞の発生や老化を防いでくれます。遺伝子(DNA)に傷がついても、それを修復する仕組みが全ての細胞に備わっています。修復が困難なくらいに遺伝子の異常が起こると、細胞は自ら死に(アポトーシス)、正常な細胞が分裂をしてもとの状態に回復する仕組み(再生力)が備わっています。
 さらに、ホルモンや自律神経の働きによって体の機能を絶えず一定に保つ仕組み(恒常性維持機能)が、血液循環や新陳代謝を良好に保ち、治癒力を高めています。このような本来体に備わった仕組みが、がんに対する自然治癒力(抗がん力)の柱となっています。

【「がんとの共存」や「がんの自然退縮」を可能にする自然治癒力】
 全身の栄養や血行を改善し、新陳代謝や恒常性維持機能を高め、免疫力や抗酸化力などの防御システムを回復させれば、治癒力が働いてがんの発生を予防することも、がん細胞を減らしていくことも可能です。
 がん細胞を徹底的に攻撃するのではなく、生体の免疫力や自然治癒力を高めることで、がんの進行をストップさせ、がんと共存しながら寿命を全うするという考え方も、これからのがん治療には必要とされます。西洋医学はがん細胞を取り除くことを優先して、体の抵抗力や治癒力に対する配慮が乏しいという欠点が指摘されています。体の治癒力を妨げている治療法も少なくありません。これが、西洋医学におけるがん治療の最大の弱点になっています。

【体に備わる治癒力を引き出す漢方医学】
 漢方医学では、人体を小宇宙と考えています。地球の自然環境が破壊され汚染されると病気が発生するのと同じように、体内の内部環境のバランスが狂うと、がんを始め多くの病気が発生すると捉えています。
 川や海などに自浄作用があるように、小宇宙である人体にも自然治癒力という自らを治す仕組みが存在しています。漢方薬や鍼灸(しんきゅう)など、自然治癒力を賦活(ふかつ)させて病気を治す治療は、そのような考えを基本にしながら、数千年におよぶ治療経験を通して、作りあげられてきました。
 自然治癒力を衰えさせない、衰えたときには蘇(よみがえ)らせることが、漢方医学の治療原則です。たとえ初期のがんであっても、がんが目に見えるくらいに大きくなること自体、すでに治癒システムに相当の機能低下が存在していることを意味しています。治癒力を阻害する要因を除去し、足りない部分を補うために、必要な生薬の組み合わせを考えることが、がんの漢方治療です。
 
がんの診断や治療では、西洋医学が優れていることは確かですし、漢方治療や健康食品だけでがんが治ると考えるのは間違いです。しかし、体の自然治癒力を最大限に活用する方法論は、がん治療においてプラスになることは間違いありません。
漢方では、体の抵抗力と自然治癒力を高めるための理論と手段を持っています。これが西洋医学のがん治療を漢方治療が補うことができる理由なのです。

(文責:福田一典)

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