147)がん治療に役立つ食材(7):ニンニクやその仲間(ニラ、ネギ、タマネギ、ラッキョウなど)

図:ニンニクやニラやネギなどアリウム属(ユリ科ネギ属)の野菜に含まれるイオウ化合物は、特有の臭いを発するが、がんや病原菌に対する抵抗力を高める効果がある。これらの食品を日頃から多く食べることはがんや感染症の予防や治療に効果がある。

147)がん治療に役立つ食材(7):ニンニクやその仲間(ニラ、ネギ、タマネギ、ラッキョウなど)


Allium(アリウム)属の野菜は昔から薬用に使用されている】
Allium属というのはユリ科ネギ属の植物の総称で、観賞用や食用など多くの種類があります。食用としては、ニンニク、ニラ、ラッキョウ、ネギ、タマネギ、アサツキ、チャイブなどの野菜があります。
Alliumというのはニンニクの古いラテン名で、語源は「匂い」という意味の alereまたはhaliumに由来するそうです。
ニンニクやネギなどのアリウム属の野菜はスタミナ食品として人気があり、昔から薬用としても使用されています。中国では、ニンニクは大蒜(たいさん)、ニラは韮菜(きゅうさい)、ラッキョウは薤白(がいはく)、ネギは葱白(ソウハク)というそれぞれの生薬名で、漢方薬に使用されています。これらは、体を温め血行を促進し、殺菌作用や滋養強壮作用などがあります。
アリウム属の野菜に共通しているのは、豊富な
イオウ化合物を含んでいて、酵素の作用で分解して臭気成分や薬理成分を生成することです。
たとえば、ニンニクの細胞内には
アリインという無臭の成分が含まれています。ニンニクを切ったり、すりおろしたりすると同じくニンニクに含まれているアリナーゼという酵素の作用によってアリインが強いニオイを発するアリシンという成分に変化します。 
アリシン(allyl 2-propenethiosulfinate)の正体は揮発性のイオウ化合物で、アリシンはビタミンB1と結合して、
アリチアミンという物質に変化します。アリチアミンは活性持続型ビタミンB1とも呼ばれ、効率よく体内に吸収され新陳代謝を活発にし、エネルギーの生産力を高め、体力増強や抗疲労効果など様々な効果を発揮します。 さらに、 アリシンには各種のバクテリアやカビに対し強い抗菌活性を持っています。
Allium属のニオイの成分には血小板凝集阻害作用があり、シクロオキシゲナーゼ阻害作用などアラキドン酸代謝系に作用することが報告されています。例えば、ラッキョウ(生薬名:薤白)は、血小板凝集阻害作用や腹部を温め血行を良くする作用があり、狭心症などの心疾患に用いる漢方処方にも使用されています。
さらに、Allium属野菜は、発がん過程のイニシエーションおよびプロモーションの両方の過程を阻害することが多くの実験系で示されており、がん予防効果が注目されています。

【ニンニクは古代よりがんや感染症の治療に使われてきた】
パピルスに書かれた紀元前約1550年のエジプトの医薬品古文書『Codex Ebers』には、高血圧症、頭痛、虫刺され、寄生虫、腫瘍など、様々な病気の効果的な治療薬としてニンニクが取り上げられています。インドでは数千年来、ニンニクをハンセン病やがんの治療に使っていました。古代ギリシャの医者ヒポクラテスも、ニンニクを感染症、がん、ハンセン病、消化器疾患、外傷に使用していました。このように世界中で古くから、感染症やがんなど様々な病気に対する万能薬として利用されてきました。
第一次世界大戦では、細菌に感染したり、アメーバ赤痢にかかった兵士の治療にニンニクが使われていました。1926年にペニシリンが発見されるまで、抗菌薬としてニンニクが使用されていました。
このように、ニンニクは様々な効能が広範囲にわたって実証されていますが、特に、感染症、循環器病、がん予防の領域においては優れた効果が証明されています。
ニンニクは食材としてだけでなく、健康食品やサプリメントとしても世界中で根強い人気があり、米国ではニンニクは健康食品の中で売り上げトップの位置を占めています。この人気の理由は、ニンニクの薬効が人体における使用経験で古くから認められてきたからです。
アメリカ国立がん研究所を中心として、がん予防に効果がある野菜や果物や香辛料が発表されていますが、ニンニクはその頂点に位置づけられています。
ニンニクのがん予防効果は多くの疫学研究で証明されています。
例えば、1989年にアメリカ国立がん研究所と北京がん研究所との共同研究によりニンニクとがん発生に関する疫学データが示されました。中国山東省で実施された調査の結果、ニンニクの摂取量が増加すると胃がん発生のリスクが減少することが明らかにされました。
1999年の日本と中国の共同研究では、胃がんと食道がんの発生頻度が最も高い地域の一つである中国の江蘇省(Jiangsu province)の揚中市(Yangzhong city)で、これらのがんの発生率とニンニクやタマネギなどのアリウム属や野菜の摂取量の関係を調査されています。アリウム属の野菜を週に1回以上食べている人は、月に1回以下の人に比べて、胃がんや食道がんの発生は3分の1程度であったと報告されています。
ニンニクの摂取が多いと大腸がんの罹患率が低いことも報告されています。
こうした疫学調査に加え科学的な成分研究の結果、
ニンニクなどAllium属の野菜に含まれる成分にがんの発生や増殖を抑制する作用のあることが明らかになっています
その他多くの研究から、ニンニクやその仲間のアリウム属の野菜を多く食べることは、がんや心臓病の予防に有効であることは確かなようです。

【イオウ化合物の抗がん作用】
ニンニクやその仲間(ニラ、ネギ、ラッキョウ、アサツキなど)の野菜に含まれるイオウ化合物には、発がん物質を不活性化する酵素を増やし、体外に排出する解毒作用を促進する作用が報告されています。
動物を用いた発がん実験では、いろんながんの発生予防効果が報告されています。例えば、発がん物質である4-nitroquinoline 1-oxide (4NQO)をオスのラットに投与して舌がんを発生させる実験で、ニンニク (250 mg/kg, 経口, 週3回)を摂取したラットは、発がんのイニシエーションとプロモーションの両方の過程が抑制されました。
腫瘍組織内の、抗酸化酵素(グルタチオン・ペルオキシダーゼやグルタチオン・S・トランスフェラーゼ )や抗酸化物質(還元型グルタチオン)の組織内濃度が増えており、脂質の酸化が抑制されていたため、ニンニク成分は抗酸化力を高めることによって、発がん過程を抑制することが示唆されています。
さらに、これらのイオウ化合物が、細胞内のシグナル伝達機構に作用して、がん細胞の増殖を抑制し、細胞死(アポトーシス)を誘導するなどの作用も報告されています。
ニンニクのがん予防効果はアリナーゼという酵素の働きによって産生されるニオイの成分にあるため、このニオイの成分ができる前に加熱処理してアリナーゼの働きを壊してしまうと、がん予防の効果が低下します。ニンニクを丸ごと加熱してアリナーゼを不活化すると、臭いは少なくなりますが、食べてもがん予防効果は期待できなくなります。ニンニクを潰したあとに10分間置いた後なら加熱してもがん予防効果は残るという報告もあります。
ニンニクは刺激性が強いため、食道炎や食道がんの発生を促進する可能性が指摘されています。また、ニンニクの揮発性成分には貧血を引き起こす毒性も指摘されています。したがって、生のまま多食することは勧められません。このような注意を守って、ニンニクやその仲間(ニラ、ネギ、ラッキョウ、アサツキなど)の野菜を日頃から食べることは、がんや心臓病の予防や治療に役立ちます。
(文責:福田一典)

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