がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
148)板藍根と大青葉の抗インフルエンザ作用
図:ホソバタイセイの根は板藍根(ばんらんこん)、葉は大青葉(たいせいよう)という生薬名で漢方治療に使われている。どちらも、抗ウイルス作用や抗炎症作用や抗がん作用が報告されており、がん患者のインフルエンザ予防の目的でも有用性が指摘されている。
148)板藍根と大青葉の抗インフルエンザ作用
【がん患者はインフルエンザが重篤化しやすい】
新型インフルエンザが流行しています。
通常の免疫力や抵抗力のある人は感染しても重篤化することは無いのですが、妊婦や透析患者や小児など体力や免疫力が低下している人々は重篤化しやすいので注意が必要です。
がん患者でも、抗がん剤治療中など体力・免疫力が低下していると重篤化するリスクが高くなります。
抗がん剤治療によって白血球が減少して免疫力が低下していると、インフルエンザ感染によって急速に症状が悪化する危険性があります。肺がんや肺転移で呼吸機能が低下している場合は、抗がん剤を使用していなくてもインフルエンザが重症化する場合があります。
発熱を抗がん剤の副作用と間違え、治療が遅れる恐れもあるという指摘もあります。
したがって、がん患者は、積極的なワクチン接種が必要だと言えます。厚労省が公表したワクチン接種の実施案では、抗がん剤使用などで「免疫抑制状態」にあるがん患者は優先接種の対象になっています。また、感染した恐れがある場合は、すぐに抗インフルエンザ薬(タミフルなど)を服用して重症化を防ぐことが大切です。
ワクチンを接種しても感染を完全に防げるわけではありません。免疫力が低下していると、ワクチンを接種しても、インフルエンザウイルスに対する免疫力は十分に上がらない可能性もあります。
ワクチン接種と同時に、体の免疫力を高めておくことも大切です。
免疫力や抵抗力を高める目的では漢方治療は最も効果が期待できます。高麗人参や黄耆や霊芝など免疫力を高める生薬が多く知られています。これらの生薬に含まれる多糖類やサポニンや精油成分などが相乗効果で免疫力を高めます。(第123話参照)
さらに、抗ウイルス作用があって、インフルエンザの感染予防や治療に効果がある生薬も知られています。その代表が板藍根(ばんらんこん)と大青葉(たいせいよう)です。
【板藍根と大青葉の抗ウイルス作用】
板藍根(ばんらんこん)はホソバタイセイ(Isatis tinctoria)という植物の根で、大青葉(たいせいよう)はホソバタイセイの葉です。
ホソバタイセイは南ヨーロッパ原産のアブラナ科の植物です。その葉は藍色(インディゴ)染料の原料として利用され、中世には盛んに栽培されていましたが、化学染料の出現とともに栽培がすたれてきています。
ホソバタイセイの葉は,古代のブリトン人とケルト人が戦争に出陣するときの化粧の青色顔料として用いていました。これは、化粧としての利用と同時に、ホソバタイセイの葉の成分には止血作用や傷の治りを早める効果が知られていたからです。
藍色染料の成分であるインディカンには抗菌・抗ウイルス作用や抗炎症作用があり、薬草として世界各国で民間薬や伝統医療に利用されています。中国医学やインド医学(アーユルベーダ)では古くから利用されています。
漢方では、ホソバタイセイの葉は「大青葉(タイセイヨウ)」、根は「板藍根(バンランコン)」という生薬名で使用されています。
タイセイヨウもバンランコンも漢方的には清熱涼血・解毒の効能(西洋医学的には解熱・抗炎症・抗菌・抗ウイルス作用)があり、風邪、インフルエンザ、肺炎、はしか、ウイルス性肝炎、脳炎、髄膜炎、急性腸炎、丹毒など様々な感染症の治療に用いられています。
中国では風邪や扁桃炎の治療にタイセイヨウやバンランコンを含む製剤が大衆薬として多く使用されています。中国では風邪に季節になると、板藍根茶や板藍根が入ったエキス剤をサプリメント感覚で服用し、中国の小学校などではこの板藍根を煎じた液をうがい薬にしたり、のどにスプレーしたりもします。
さらに中国では、日本脳炎、インフルエンザ、ウイルス性肝炎などのウイルス性疾患に対する臨床研究が行われ、バンランコンの注射液なども開発されています。
板藍根の名前が日本で広く知られるようになったきっかけは、2003年のSARS騒動です。
SARSはSevere Acute Respiratory Syndrome(重症急性呼吸器症候群)の略で、新種のコロナウイルスによる感染症で、2003年3月頃から中国広東省を起点とし、大流行の兆しを見せ始めました。
この時、風邪やインフルエンザの治療に中国で古くから利用されていた板藍根含有の製品が売り切れになるとか、値上がりするという社会現象が起こり、日本でもインフルエンザや風邪の治療における板藍根の薬効が注目され、板藍根を含むお茶や漢方薬やのど飴などの販売量が増えました。
最近では、新型インフルエンザの流行によって、板藍根の需要が増えているようです。
昔の人が経験で発見した天然の抗ウイルス薬ですが、実際、 基礎研究でも抗ウイルス作用は認められ、臨床研究でも、インフルエンザや風邪に対する治療効果が証明されています。
日本脳炎やウイルス性肝炎など他のウイルス性疾患の治療にも利用されています。
【がん患者のインフルエンザ予防のための漢方薬】
抗菌・抗ウイルス作用のある板藍根や大青葉と、体力や免疫力を高める高麗人参や黄耆や霊芝などを組み合わせた煎じ薬を日頃から服用しておくと、新型インフルエンザを含めて、風邪やインフルエンザなどのウイルス性感染症の予防に効果が期待できます。
板藍根や大青葉はがん予防効果や抗がん作用も報告されています。大青葉にはシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)阻害作用が、板藍根には免疫力を高める効果も報告されています。成分のIndirubinには、がん細胞の増殖を抑える作用も報告されています。
したがって、抗がん剤治療中などで免疫力や抵抗力の低下したがん患者さんには、板藍根と大青葉はインフルエンザの予防効果と抗がん作用の両方の効果が期待できます。
ホソバタイセイの抗がん作用については第80話で紹介しています。
(インフルエンザの予防に効果が期待できる漢方薬『板藍根とエゾウコギとキノコの煎じ茶』についてはこちらへ)
(文責:福田一典)
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