がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
78)フェルラ酸のがん予防効果
図:フェルラ酸は抗酸化作用や抗炎症作用を有し、がん予防効果が知られている。トウキやセンキュウには、体内に吸収されやすいフェルラ酸が含まれている。
78)フェルラ酸のがん予防効果
フェルラ酸(Ferulic acid)は植物に含まれるポリフェノール類の一種です。ポリフェノールというのは、分子内に複数のフェノール性ヒドロキシ(OH)基を持つ植物成分の総称で、OH基を多く持つことから強い抗酸化作用を有し、がんや動脈硬化の予防効果など、植物の様々な健康作用を担うフィトケミカルの中間です。
フェルラ酸は、米ぬか、小麦や大豆のふすま、コーヒー、リンゴ、トマト、スイートコーンなど、野菜や果物の多くに含まれています。
強い抗酸化作用を利用して、食品添加物や紫外線吸収用の化粧品原料にも利用されており、安全性の極めて高い抗酸化剤と言えます。
植物の細胞壁に多く存在しますが、細胞壁ではセルロースなどの食物繊維と結合しているため、人間では消化管からほとんど吸収されません。
しかし、遊離して存在するフェルラ酸は、植物に含まれる他のポリフェノール(フラボノイドなど)と比べて、体内への吸収率や利用率が極めて高いという報告があります。つまり、遊離(フリー)の形で存在するフェルラ酸は、植物性食品や漢方薬における薬効成分となります。
フェルラ酸は、強い抗酸化作用の他に抗炎症作用もあります。したがって、活性酸素やフリーラジカルや慢性炎症が原因となる動脈硬化性疾患(狭心症や心筋梗塞や脳梗塞)、神経変性疾患(アルツハイマー病)、がんなどの多くの病気の予防に効果が期待されています。
さらに、アルコールやその他の肝臓毒による肝障害を軽減する効果、脳神経のダメージを軽減する効果、糖尿病や高血圧を改善する効果も報告されています。
がんに関しては、がん細胞のアポトーシス(細胞死)を誘導する作用、抗がん剤や放射線治療の副作用を緩和する作用、がんの発生を予防する作用なども報告されています。
フェルラ酸は多くの植物に含まれていますが、前述したように、植物の細胞壁に存在するフェラル酸はリグニンやセルロースなどの繊維成分と結合しているため、腸管から吸収ができません。
草食動物の後腸の中にはフェルラ酸とセルロースやリグニンとの結合を切断できる微生物が棲んでおり、セルロースやリグニンに結合しているフェルラ酸をゆっくりと切り離し、腸から吸収されます。しかし人間では、セルロースやリグニンと結合したフェルラ酸を遊離させる酵素がないので、利用できないのです。
しかし、フェルラ酸は、植物細胞壁以外に一部の果物、根あるいは穀物のなかに含まれていることが知られています。
これら根や種に含まれるフェルラ酸のほとんどは、セルロースやリグニンとは結合しておらず、フェルラ酸そのものとして、根や種の特定部分に存在しています。
漢方薬に使われる生薬にもフェルラ酸は多く含まれています。
セリ科の当帰(トウキ)や川きゅう(センキュウ)は、それらの根が生薬として利用されますが、トウキやセンキュウには体内に吸収しやすいフェルラ酸が多く含まれています。
米や小麦のふすま(ヌカ)にも、体内に吸収されやすいフェルラ酸が多く含まれています。
現在、日本人の多くが白い精白米を食べて、精白した小麦粉で作ったパンや麺類を食べています。しかし、ヌカをすっかり取り除いた精白米や精白小麦粉にはフェルラ酸はまったく含まれていません。
がん予防ための食生活では、穀物に関しては、胚芽米、玄米など、精製度の低い穀物を推奨しています。
ヌカにはビタミンやミネラルが豊富で、生体機能を高める効果がありますが、玄米や胚芽米のがん予防に関しては抗酸化作用の強いフェラル酸の存在が大きいのかもしれません。
体内に吸収しやすいフェラル酸の多いトウキ、センキュウ、米ぬかを煎じて抽出したエキスを摂取することは、がんの予防や治療にも有効かもしれません。
(文責:福田一典)
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