910)がん治療における駆虫薬メベンダゾールの有効性と使い方

図:駆虫薬のメベンダゾールは寄生虫だけでなく、がん細胞も死滅する。

910)がん治療における駆虫薬メベンダゾールの有効性と使い方

【駆虫薬のメベンダゾールは微小管の重合を阻害する】
メベンダゾール(Mebendazoleはベンズイミダゾール系の広範囲作用型の寄生虫治療薬(駆虫薬)です。線虫、条虫(サナダムシ)、回虫など多くの寄生虫に広く作用します。
がん治療以外の目的で開発された何千種類という既存の薬から、抗がん作用を有する物質を探索する研究から、メベンダゾールが強い抗がん作用を持つことが明らかになりました。

この薬は副作用が極めて少なく、安全性が確立されており、臨床例での有効性も報告されています。
メベンダゾールはチュブリンに結合して微小管の重合を阻害します

細胞分裂する際に、複製されたDNA染色体と呼ばれる構造に凝集し、細胞の両極へと引き寄せられ等分されます。このとき染色体を分裂した2つの細胞に分離する働きをするのが微小管です。
微小管はαチュブリンβチュブリンが結合したヘテロ二量体を基本単位として構成されます。チュブリンから微小管が形成される過程を重合、微小管がチューブリンに戻る過程を脱重合といいます。重合や脱重合の過程を阻害すると細胞分裂を阻害できます

図:チュブリンが重合して微小管になり細胞分裂時に染色体を2つの細胞に分離する働きを担っている。チュブリンの重合や微小管の脱重合の過程を阻害すると細胞分裂を阻害して、がん細胞の増殖を阻止し、細胞死を誘導する。

メベンダゾールはチュブリンに結合して微小管の重合を阻害して、細胞分裂を停止させます。一方、イベルメクチンは微小管の脱重合を阻害します。
メベンダゾールとイベルメクチンは異なる機序で微小管の働きを阻害するので、相乗的な抗腫瘍効果が期待できます。

図:メベンダゾールは微小管の重合を阻害し、イベルメクチンは微小管の脱重合を阻害する。メベンダゾールとイベルメクチンは異なる機序で微小管の働きを阻害し、がん細胞を死滅する。

【がん細胞ではWnt/β-カテニン経路の異常が高頻度で認められる】
Wnt/β-カテニン経路は極めて複雑で、まだ不明な点も多くあります。簡単にまとめると、次のようになります。

1)Wnt(ウィント)は分子量約4万の細胞外分泌糖タンパク質で、初期発生における体軸の決定や器官形成を制御しています。

2)Wnt Frizzledlow-density lipoprotein receptorrelated proteinLRP5/6の受容体を介して細胞内にシグルを伝達し、多様な細胞機能を制御しています。Frizzledは7回膜貫通型受容体でLRP5/6Frizzledの共役受容体として機能します。

3)Wnt の非存在下では細胞質内のβ-カテニンのタンパク質量は低く保たれています。これはGSK-β-カテニンをリン酸化し、リン酸化されたβ-カテニンはユビキチン化を受け、最終的にはプロテアソームで分解されるためです。

4)Wnt が分泌されて細胞膜上のFrizzled と共役受容体であるLRP5/6に結合すると,そのシグナルは細胞内へと伝達され、GSK-3依存性のβ-カテニンのリン酸化を抑制し、低リン酸化状態となったβ-カテニンはプロテアソームによる分解から免れ、細胞質内に蓄積します

5)細胞内に蓄積したβ-カテニンは核内に移行し、転写因子Tcf/Lef と複合体を形成して標的遺伝子の発現を促進することによって、種々の細胞機能を制御しています。Tcf/LefT-cell factor/lymphoid enhancer factorの略です。

6)Tcf/Lefの標的遺伝子は100種類以上に及び、細胞の増殖、分化、運動、幹細胞多能性維持などの制御に関わっています。c-myccyclin D1などの発現を亢進して細胞増殖を促進します。(下図参照)

図:(左)Wntシグナルが無い状況では、β-カテニンは細胞質内で分解複合体によってリン酸化され()、ユビキチン(U)が結合し()プロテアソームで分解されている()。その結果、Tcf/Lefによる遺伝子発現が阻止されている()。
(右)Wntが受容体のFrizzledLRP5/6に結合してWntシグナルが活性化されると、分解複合体が不活性化され、β-カテニンのリン酸化が阻止されて(β-カテニンは分解されなくなり()、細胞質内で増加し核内に移行して転写因子のTCFに結合し()、β-カテニン/TCFのターゲット遺伝子の転写を活性化して()、細胞の増殖を亢進する()。βカテニン分解複合体は、AXINAPCadenomatous polyposis coli) 、セリン・スレオニンキナーゼのGSK3βglycogen synthase kinase-3)、CK1α (casein kinase 1α)から構成され、GSK3βCK1αβカテニンをリン酸化する。βカテニンがリン酸化されるとβ‑TrCP E3 linker によってユビキチンが結合して、プロテアソームで分解される。(参考:npj Precision Oncologyvolume 2, Article number: 5 (2018)


Wnt/β-カテニン経路の活性化はc-Mycの発現を亢進する】
Wnt/β-カテニン・シグナル伝達系は多くのがん細胞で異常を起こしており、がん治療の重要なターゲットになっています。
β
カテニンは781個のアミノ酸からなる92kDaのタンパク質で、細胞間接着遺伝子発現調節の2つの働きを持っています。
βカテニンの大部分は細胞間接着結合部分に局在し, 膜貫通型の接着タンパクであるE-カドヘリン(E-Cadherinと会合体を作っています。このような細胞膜の接着部位のβカテニンはE-カドヘリンとアクチン細胞骨格との連結を助けています。

E-カドヘリンと会合していないβカテニンはすべて細胞質で複数のタンパク質からなる大型の分解複合体により分解されています

しかし、Wnt(ウィント)という分子量約4万の分泌性糖タンパク質が受容体に結合すると、細胞質におけるβ-カテニンの分解が阻止されて細胞質に蓄積し、核内に移行した後, 転写因子のTcf/Lef(T cell factor/ Lymphoid enhancer factor)と複合体を形成し、Tcf/Lefの転写活性を亢進します。
つまり、β-カテニンはTcf/Lefの転写活性化補助因子として機能し、Tcf/Lefの標的遺伝子の転写を誘導します。このシグナル伝達系をWnt/β-カテニン経路と言い、この経路のターゲット遺伝子にc-Myc cyclinD1など細胞の増殖を促進する因子が含まれます。(下図)

図:β-カテニンは細胞間接着結合部分に局在し, 膜貫通型の接着タンパクであるE-カドヘリンに結合し、カドヘリンとアクチン細胞骨格との連結を助けている()。E-カドヘリンと会合していないβ-カテニンはリン酸化され、ユビキチン化をうけて最終的にプロテアソームで分解される()。Wntは細胞膜上のFrizzled(7回膜貫通型受容体)と共役受容体である1回膜貫通型LRP5/6に結合する()。Wntが受容体に結合するとβ-カテニンのリン酸化が抑制され、β-カテニンの分解が阻止される()。β-カテニンは細胞質に蓄積し核内に移行し()、転写因子のTCF(T cell factor)と複合体を形成する()。βカテニンにより活性化される遺伝子群にはc-Myc cyclinD1など細胞の増殖を促進する因子が含まれ()、その結果、細胞の増殖が亢進する()。

β-カテニンは細胞膜近傍か細胞質・核のどちらかに局在し, 特に核にあるときは一連の遺伝子発現に影響を与えると考えられています。
Wnt/β-
カテニン・シグナル伝達系により活性化される遺伝子群にはc-Myc c-Jun cyclinD1など細胞の増殖や転移を促進する因子が含まれます
つまり、Wnt/β-カテニン・シグナル伝達系が活性化されると、がん細胞の増殖や転移が促進されることになります

c-Mycは細胞増殖や嫌気的代謝を促進する因子としてがん細胞の特質に大いにかかわっている遺伝子です。その遺伝子産物であるc-Mycタンパク質はパートナー因子であるMaxMYC-associated protein Xと相互作用することで転写因子として機能します。
さらに、c-Mycタンパク質は遺伝子のプロモーターやエンハンサー領域に集まって、転写シグナルを増幅する働きもあります(下図)。

図:(上)MycMaxと二量体を形成し、E-boxEnhancer box)と呼ばれるCACGTG配列に結合し、クロマチン構造を制御するタンパク質(GCN5, TIP60, TIP48, TRRAPなど)をリクルートし遺伝子転写を活性化する。GCN5 TIP60はヒストンアセチル基転移酵素、TIP48ATP結合タンパク質、TRRAPは形質転換/転写ドメイン関連タンパク質。
(下)Mycタンパク質はE-boxのみでなく、遺伝子のプロモーターやエンハンサー領域に集まって、転写シグナルを増幅する働きがある。(出典:Signal Transduct Target Ther. 2018; 3: 5.

c-Mycは細胞内の様々な機能を制御しています。タンパク質をコードしている遺伝子だけでなく、タンパク質をコードしていない遺伝子の制御にも関わっており、細胞周期、タンパク質合成、細胞接着、代謝、シグナル伝達、遺伝子転写、タンパク質翻訳、など多くの細胞機能を制御しています。(下図)

図:Mycは様々な遺伝子の転写を制御し、多彩な細胞機能の制御に関与している。

【駆虫薬のメベンダゾールはWnt/βカテニンによる遺伝子発現を阻害する】
駆虫薬のメベンダゾールがWnt/β-カテニン・シグナル伝達系の最下流の遺伝子発現レベルで阻害作用を示すことが報告されています。以下のような報告があります。

Comprehensive Modeling and Discovery of Mebendazole as a Novel TRAF2- and NCK-interacting Kinase Inhibitor.(包括的モデリングと新規TRAF2およびNCK相互作用キナーゼ阻害剤としてのメベンダゾールの発見)Sci Rep. 2016 Sep 21;6:33534. doi: 10.1038/srep33534.

【要旨】
TRAF2
およびNCK相互作用キナーゼ(TRAF2- and NCK-interacting kinase TNIKは、Wntシグナル系が活性化した結腸直腸がんの重要なターゲットの1つである。この研究では、2つのデータセットを選び、望ましい生物医薬品特性を有する新規なTNIK阻害剤を探索するための包括的なモデリング研究を行った。
データセットIIに基づいて、予測的なCoMSIA-SIMCASoft Independent Modelling by Class Analogy)モデルを取得し、1,448種類の FDA(米国食品医薬品局)承認の小分子薬物のスクリーニングに使用した。
実験的評価の結果、FDA承認の駆虫薬であるメベンダゾールは、解離定数Kd =1μMTNIKキナーゼ活性を選択的に阻害することができることを発見した。その後の解析により、メベンダゾールがTNIKを結合および阻害するのに必要な好ましい分子特性を有することを示した。

この論文では、コンピュータを使った構造解析や結合活性の解析でメベンダゾールが「TRAF2およびNCK相互作用キナーゼ(TRAF2- and NCK-interacting kinase TNIK)」の阻害剤として有用である可能性を報告しています。

がん治療薬の開発では、培養がん細胞(in vitro)や移植腫瘍などを使った動物実験(in vivo)で抗がん活性や安全性や薬物動態が検討されます。
さらに最近は、薬剤の候補物質がデータベース化され、細胞の受容体やシグナル伝達物質の構造のデータベースや、抗がん剤による遺伝子発現パターンのデータベースなど様々な情報をコンピューターを使って探索する方法(in silico)もあります。
in silico」という用語は,「コンピュータ(シリコンチップ)の中で」の意味で、in vitro(試験管内で)やin vivo(生体内で)に対応して作られた用語で、コンピューターを駆使した研究です。

米国では、FDA(米国食品医薬品局)が承認した既存薬や、開発に失敗して製薬企業内で保存されている物質のデーターベースが公開されており、様々な手法で新たな薬効を見つける研究が進んでいます。

TNIK
TRAF-2 and NCK-interacting kinaseはセリン・スレオニンキナーゼで、このキナーゼ活性(タンパク質をリン酸化する活性)は結腸直腸がんの増殖活性の維持に必須であることが報告されています。
Wnt/β
カテニン経路の最終段階であるβカテニンとTCFの相互作用において、TNIKTCFのセリン154をリン酸化します。このリン酸化がβカテニン/TCFの遺伝子転写活性に必要だと言うことです。

したがって、TNIKの阻害剤は大腸がんのようにWnt/βカテニンシグナル伝達系が亢進したがんの治療に有効と考えられており、多くの製薬会社が開発しています。まだ臨床的に使用できるものはありませんが、何十年も前から多くの国で使用されている駆虫薬のメベンダゾールが、TNIKの阻害剤としてかなり有望だという報告です。

以下のような報告もあります。メベンダゾールの抗腫瘍効果にc-Mycが関与しているという報告です。

Mebendazole induces apoptosis via c-MYC inactivation in malignant ascites cell line (AGP01).(メベンダゾールは悪性腹水細胞株AGP01においてC-MYC不活性化を介してアポトーシスを誘導する)Toxicol In Vitro. 2019 Jun 14;60:305-312.

【要旨の抜粋】
メベンダゾールは、悪性腹水細胞のAGP01細胞のDNA損傷を有意に増加させたが、正常ヒトリンパ球に対してはDNA損傷を引き起こさなかった。
メベンダゾールは、0.5μMおよび1.0μMの濃度で、それぞれG0/G1 および G2/M期において顕著な細胞周期停止を引き起こし、そしてより高濃度で有意にアポトーシスを誘導した。さらに、メベンダゾール(0.5μM 1.0μM)はカスパーゼ3および7の活性を増加させた。
メベンダゾールは、AGP01細胞におけるC-MYC mRNA C-MYCタンパク質発現を減少させた メベンダゾールは、同じ濃度において、AGP01 shRNA MYCと比較して、AGP01細胞においてより細胞生存率を低下した。
我々の結果は、メベンダゾールが胃がん細胞において細胞死を誘導する経路の1つとしてC-MYC遺伝子の関与を示唆している。

shRNA(short hairpin RNA)は、RNA干渉による遺伝子サイレンシングのために用いられるヘアピン型のRNA配列です。AGP01 shRNA MYCAGP01細胞にc-Myc遺伝子の発現を不活性化するshRNAを導入した細胞です。
c-Myc
に依存性の高いがん細胞に対してメベンダゾールがc-Myc発現を阻害してアポトーシスを誘導する機序を示唆しています
以下の報告もメベンダゾールの抗腫瘍効果にc-Mycの関与を報告しています。

Anthelmintic mebendazole enhances cisplatin's effect on suppressing cell proliferation and promotes differentiation of head and neck squamous cell carcinoma (HNSCC).(駆虫薬メベンダゾールはシスプラチンの細胞増殖抑制効果を高め、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)の分化を促進する。)Oncotarget. 2017 Feb 21;8(8):12968-12982.

【要旨の抜粋】
2種類のヒト頭頸部扁平上皮がん細胞株のCAL27およびSCC15を使用して、メベンダゾールがヒト頭頸部扁平上皮がん細胞においてシスプラチンよりも強力な抗増殖活性を発揮することを示す。
メベンダゾールは頭頸部扁平上皮がん細胞の細胞増殖、細胞周期進行および細胞移動を効果的に阻害し、そしてアポトーシスを誘導する。
メカニズム的には、メベンダゾールはELK1/SRFAP1STAT1/2MYC/MAXを含むがん関連経路を制御する 
メベンダゾールはまた、頭頸部扁平上皮がん細胞の細胞増殖の抑制およびアポトーシスの誘導においてシスプラチンと相乗的に作用する。
さらに、メベンダゾールは、CAL27細胞の最終分化およびCAL27細胞の異種移植腫瘍の角質化を促進する。
これらの結果は、メベンダゾールが特定の頭頸部扁平上皮がん細胞の分化を促進しながら増殖を阻害することによってその抗がん活性を発揮し得ることを実証した最初のものである。
駆虫薬のメベンダゾールは、頭頸部扁平上皮がん治療においてシスプラチンなどの他の化学療法薬と組み合わせて使用される安全かつ有効な薬剤として再利用され得ると考えられる

メベンダゾールはがんの代替医療ではかなり有名です。
メベンダゾールの消化管からの吸収が低いのが欠点ですが、油の多い食事の後に服用すると吸収率を高めることができますので、ケトン食との併用は有効です。
また、メベンダゾールを分解する薬物代謝酵素(CYP3A4)を阻害するグレープフルーツや胃薬のシメチジンを併用すると、メベンダゾールの血中濃度を高めることができます。抗真菌薬のメベンダゾールとの併用も有効です。

【メベンダゾールはWnt/βカテニン経路を阻害するメカニズム】
前述の論文の内容は難解かもしれませんので、さらに噛み砕いいて説明します。

βカテニンは細胞間接着と遺伝子発現調節の2つの働きを持っています。
細胞間接着結合部分に局在するβカテニンは、E-カドヘリンと会合体を作り、E-カドヘリンとアクチン細胞骨格との連結を助けています。
核内のβカテニンは転写因子のTcfT cell factorと複合体を形成し、Tcfの転写活性を亢進します。

図:βカテニンは細胞間接着と遺伝子発現調節の2つの働きを持つ。核内のβカテニンは転写因子のTCFT cell factor)と複合体を形成し、βカテニン/TCFターゲット遺伝子の転写活性を亢進する。βカテニン/TCFターゲット遺伝子としてc-MycCyclin D1などがあり、がん細胞の増殖を促進する。

E-カドヘリンと会合していないβ-カテニンはリン酸化され、最終的にプロテアソームで分解されます。
したがって、TcfT cell factor)の転写活性は阻害されています

図:E-カドヘリンと会合していないβ-カテニンは細胞質内で分解されているので、βカテニン/TCFターゲット遺伝子の転写は阻害されている。

しかし、Wnt(ウィント)という分泌性糖タンパク質が受容体に結合すると、細胞質におけるβ-カテニンの分解が阻止されて細胞質に蓄積します。

細胞質内に蓄積したβ-カテニンは核内に移行し, 転写因子のTcfと複合体を形成し、Tcfの転写活性を亢進します。その結果、細胞増殖が亢進します。

図:Wntが受容体に結合すると、β-カテニンの分解が阻害され、細胞質内に蓄積したβ-カテニンは核内に移行し、転写因子のTCFと複合体を形成し、βカテニン/TCFターゲット遺伝子の転写を活性化して、細胞増殖を亢進する。

β-カテニンとTCFの相互作用において、TNIKTRAF-2 and NCK-interacting kinaseによるTCFのセリン154のリン酸化が必要です。メベンダゾールはTNIKの活性を阻害します。その結果、βカテニン/TCFターゲット遺伝子の発現を阻害します。

図:βカテニンとTCFの相互作用にはTCFTNIKTRAF-2 and NCK-interacting kinase)によるリン酸化が必要。メベンダゾールはTNIKを阻害してTCFの転写活性を阻害することによってがん細胞の増殖を阻害する。

【メベンダゾールは血管新生を阻害する】
血管内皮細胞の血管内皮細胞増殖因子受容体-2VEGFR-2血管内皮細胞増殖因子(VEGFが結合するとVEGFR-2は二量体を形成し、チロシンキナーゼドメインに存在するチロシン残基の自己リン酸化が引き起こされます。
VEGFR-2が活性化されると、血管内皮細胞の増殖や血管形成が促進されて血管新生が亢進し、がん組織の増大を促進します。
メベンダゾールはVEGFR-2の活性化を阻止して血管新生を阻害します。

図:メベンダゾールは血管内皮細胞の血管内皮細胞増殖因子受容体-2VEGFR-2)の活性化を阻害して、血管新生を阻害し、がん組織の増大を抑える。

【メベンダゾールは膠芽腫や白血病の増殖を抑制する】
膠芽腫(グリオブラストーマ)に対するメベンダゾールの効果は2011年に偶然に発見されました。
グリオブラストーマを移植したマウスを使った研究で、ギョウ虫の繁殖を防ぐ目的でFenbendazole(動物に使われるベンゾイミダゾール系の寄生虫治療薬の一種)を投与したマウスでは移植腫瘍が増大しないことが発見されました。

ベンゾイミダゾール系薬物の中でメベンダゾールが最も強力にグリオブラストーマの増殖を抑制しました。
培養細胞の実験では、マウスのグリオーマ細胞株GL261に対するメベンダゾールの50%増殖抑制濃度(IC50)は0.24μM、ヒトのグリオブラストーマ細胞株(060919)に対するIC500.1μMでした。

グリオブラストーマ細胞をマウスに移植する動物モデルでメベンダゾールの経口投与(50mg/kg)は顕著な生存期間の延長(63%程度の延長)を示しました。(Neuro Oncol. 13(9): 974–982.2011年)

メベンダゾールは白血病細胞を死滅することも報告されています。

Mebendazole exhibits potent anti-leukemia activity on acute myeloid leukemia.(メベンダゾールは急性骨髄性白血病に対して強力な抗白血病活性を示す)
Exp Cell Res. 2018 Aug 1;369(1):61-68..

米国食品医薬品局が承認した1000種類以上の薬剤をスクリーニングした結果、メベンダゾールが、薬理学的に達成可能な濃度で急性骨髄性白血病の細胞株の増殖を阻害しました。
対照的に、同様の濃度のメベンダゾールは、正常な末梢血単核細胞またはヒト臍帯静脈内皮細胞の増殖にほとんど阻害効果を示しませんでした。

メベンダゾールは、白血病細胞の有糸分裂停止および有糸分裂破局を誘発し、AktおよびErkの活性化を阻害しました。
メベンダゾールは、生体内で白血病細胞の進行を抑制し、白血病細胞異種移植マウスモデルで生存を延長しました。

膠芽腫や白血病の他、大腸がんや肺がんなど多くのがん種でメベンダゾールの有効性が報告されています

【メベンダゾールの薬物動態】
消化管からの吸収率は20%程度で、服用後2~4時間で血中濃度はピークになります。消化管からの吸収が1〜5%程度という報告もあります。
食後に服用すると消化管からの吸収が良くなります
脂肪の多い食事と一緒に服用するとさらに吸収が高まります
脂肪の少ない食事の場合はオリーブオイルや亜麻仁油など油脂と一緒に摂取すると吸収が良くなります。

10mg/kgの服用で最高濃度の平均は137.4ng/ml0.47μM)という報告があります。

高脂肪食との併用投与によって体内利用率が著しく改善することが複数の試験で確認されています。1.5gの用量で治療した3人の絶食ボランティアの血漿濃度は17nmol/Lでした。一方、治療を受けたボランティアが標準的な朝食をとったところ、血漿濃度は24時間以内に91112142nmol/Lに上昇しました。つまり、食後に服用すると空腹時服用に比べて5倍以上に血中濃度が上がるという結果です。

別の臨床研究では、10mg/kgを投与された12人の患者で、メベンダゾールの初回投与を受けた被験者、および慢性治療を受けている被験者のメベンダゾールとその代謝物の血漿濃度をモニタリングしました。
消失半減期は2.89.0時間でした。ピーク血漿濃度は、初回投与を受けた被験者では17.7116.2 ng/mL、慢性治療を受けている被験者では99.4500.2 ng/mgの範囲でした。つまり、長期に服用すると血中濃度も5倍以上に上がるという結果です。

シメチジンがメベンダゾールの薬物代謝酵素による分解を阻害し、血中濃度を1.5倍程度に高めるという報告があります。
シメチジンはヒスタミン受容体拮抗作用によって胃酸分泌を阻害する薬で、がんの転移や再発を予防する効果が臨床試験などで示されています。つまり、シメチジン自体に抗腫瘍効果があるので、併用は有益です。

【メベンダゾールの抗がん作用のまとめ】
メベンダゾールはチュブリン・タンパク質に結合して微小管の重合を阻害することによって、がん細胞の細胞分裂を阻害します。
血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の受容体(VEGFR-2)の活性化を阻害して血管新生を阻害します

TNIKTRAF-2 and NCK-interacting kinase)の活性を阻害し、細胞の増殖と生存を亢進するβカテニン/TCFターゲット遺伝子の発現を阻害します。その結果、Wnt/βカテニンシグナル伝達系を阻害します。

その他にヘッジホッグシグナル伝達系阻害など多彩なメカニズムによる抗がん作用が報告されています。

図:駆虫薬のメベンダゾールはチュブリンに結合して微小管の重合を阻害し、細胞分裂のM期を停止させてアポトーシスを起こす。血管内皮細胞の血管内皮細胞増殖因子受容体-2(VEGFR-2)に血管内皮細胞増殖因子(VEGF)が結合するとVEGFR-2は二量体を形成し、チロシンキナーゼドメインに存在するチロシン残基の自己リン酸化が引き起こされ、細胞内のシグナル伝達系が活性化され、血管内皮細胞の増殖や血管形成が促進されて血管新生が促進する。メベンダゾールはVEGFR-2の活性化を阻止して血管新生を阻害する。Wntが受容体のFrizzledとLRP5/6に結合してWntシグナルが活性化されるとβ-カテニンが細胞質内で増加して核内に移行して転写因子のTCFに結合し、β-カテニン/TCFのターゲット遺伝子(c-mycやサイクリンD1など)の転写を活性化して、細胞の増殖を亢進する。 メベンダゾールはTCFを活性化するキナーゼのTNIK (Traf2- and Nck-interacting kinase)を阻害してTCFの転写活性を阻害する。このように、メベンダゾールは多彩なメカニズムで、がん細胞の増殖を阻止し、細胞死を誘導する。

【メベンダゾールを使ったがん治療】
メベンダゾールは1日に体重1kg当たり5〜10mgを目安に服用します。メベンダゾール1錠が100mgです。
初めは1日2錠(200mg)から開始し、問題なければ1日3〜6錠に増やします。

食後に服用します。油の多い食事は吸収効率を高めます。オリーブオイルや亜麻仁油など油脂を一緒に服用すると消化管からの吸収を良くします。

シメチジンを1日に400〜800mg服用します。
シメチジンはそれ自体が抗腫瘍効果を示しますが、メベンダゾールの分解を阻害して血中濃度を高める効果があります。

以下のサイトで上記の内容を簡略に解説しています。サムネイルをクリックするとYouTubeに移行します。

 

https://www.youtube.com/watch?v=EXYNCs0iyH8

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