がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
524)医療大麻とカンナビジオール(その1):抗不安作用
図:恐怖記憶は想起後(思い出すこと)に不安定になり(1)、再固定化のプロセスによって維持・強化され(2)、恐怖を感じる必要がないことを新たに学習するプロセス (消去)によって恐怖記憶は減弱する(3)。大麻に含まれるテトラヒドロカンナビノール(THC)とカンナビジオール(CBD)は恐怖記憶の再固定化を阻止し(4)、恐怖記憶の消去を促進する(5)。したがって、医療大麻やCBDオイルは、恐怖感や不安を軽減する効果が期待でき、不安関連障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療に使われている。
524)医療大麻とカンナビジオール(その1):抗不安作用
【カンナビノイド受容体タイプ1(CB1)の活性化は不安感を軽減する】
内因性カンナビノイド・システムは感情の制御や嫌な記憶の消去に関する中枢神経系の働きに関与しています。
カンナビノイド受容体タイプ1(CB1)は中枢神経系において様々な神経伝達調節を行っており、記憶・認知、運動制御、食欲調節、報酬系の制御、鎮痛など多岐にわたる生理作用を担っています。
大麻に最も多く含まれるカンナビノイドであるΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)はCB1に結合して精神作用を発揮します。過剰に摂取すると、中枢神経系のCB1の活性化によって気分の高揚などの精神作用による副作用がでます。
THCは脳に作用して食欲を高める作用があります。さらに鎮痛作用や吐き気を軽減する作用があるため、エイズや進行がんの患者さんの食欲不振や体重減少、抗がん剤治療による吐き気や嘔吐に対する治療に使われています。
THCによる食欲増進作用はCB1の作用によります。そこでCB1のアンタゴニスト(阻害薬)が食欲を低下させて肥満の治療薬となるという考えでリモナバン(Rimonabant)が開発され、発売になりました。
予想通りに食欲減退と体重減少の効果はあったのですが、抑うつや自殺企図の副作用が問題になって発売中止になっています。つまり、CB1の働きを阻害することは食欲を低下させる目的では有効ですが、うつ症状を増強することが確認されたのです。
大麻は抑うつや不安感の軽減に有効です。
CB1受容体を阻害するとうつ症状や不安感が強くなることが多くの動物実験モデルが示されています。
一方、CB1受容体を活性化すると不安や恐怖が軽減します。
大麻のTHCはCB1受容体に結合して活性化するので抗不安作用や恐怖軽減作用を発揮します。
内因性カンナビノイドのアナンダミドや2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)を分解する酵素の阻害剤は抗不安作用や抗うつ作用が示されています。アナンダミドや2-AGの分解を阻害すると、これらによるCB1受容体の刺激が長く続くからです。内因性カンナビノイドの分解酵素阻害剤は不安障害や抑うつの有望な候補薬として注目されています。
がん性疼痛を有する10例のがん患者を対象にした小規模な予備的試験で、15mgおよび20mgのTHCの投与は抗不安作用を示しました。
抗がん剤治療によって感覚障害をきたしたがん患者を対象にした小規模なプラセボ対照試験では、THCの投与は睡眠の質を良くしリラックス効果が高いことが示されています。
合成THC製剤は抗がん剤治療の吐き気・嘔吐の治療に使われています。食欲増進と抗不安作用を持つ制吐剤は医療大麻やTHC製剤以外にはありません。
抗がん剤治療中の患者さんは、吐き気だけでなく、食欲不振や不安や抑うつ症状や不眠を呈し、これが体力や生活の質(QOL)の低下や生きる意欲を低下させます。絶望から自殺する人もいます。これらを解決する方法として医療大麻は非常に優れた薬だと言えます。
【カンナビジオール(CBD)はTHCとは異なる機序で抗不安作用を発揮する】
カンナビジオール(CBD)の抗不安作用は複数の動物実験モデルで示されています。
Δ9テトラヒドロカンナビノール(THC)はカンナビノイド受容体CB1に直接作用して抗不安作用を発揮します。
一方、カンナビジオール(CBD)はCB1受容体に結合する作用はありませんが、内因性カンナビノイドのアナンダミド(anandamide)の分解を阻害してアナンダミドの血中濃度を高め、CB1受容体を間接的に活性化することによって抗不安作用や睡眠改善作用を示す作用機序が報告されています。
カンナビジオールは、アナンダミドの細胞内輸送体として作用する脂肪酸結合タンパク質(fatty acid-binding proteins)と結合することが報告されています。カンナビジオールは脂肪酸結合タンパク質の結合においてアナンダミドと競合することにおいて、アナンダミドの分解を減少させるのです。
脂肪酸結合タンパク質がカンナビジオールによって占拠されれば、アナンダミドは小胞体に存在するFAAH(脂肪酸アミドハイドロラーゼ)に輸送されないので、分解されずに、血中のアナンダミドの濃度は上昇するという機序です。
さらに、CBDはセロトニン受容体5-HT1Aに作用してセロトニン神経伝達を促進して抗不安作用や抗うつ作用を発揮します。
その他にも、TRPV1受容体、アデノシン受容体、GPR55などを介する機序も報告されています。
カンナビジオールの抗不安作用は多くの動物実験で示されています。臨床研究でも有効性が報告されています。例えば、以下の様な症例報告があります。
Effectiveness of Cannabidiol Oil for Pediatric Anxiety and Insomnia as Part of Posttraumatic Stress Disorder: A Case Report(外傷後ストレス障害の症状として不安と不眠を呈する小児患者に対するカンナビジオールオイルの有効性:症例報告)Perm J. 2016 Fall; 20(4): 108–111.
虐待による外傷後ストレス障害の10歳の女児の症例報告です。
不安と睡眠障害を訴え、薬物療法で部分的な改善を認めましたが、効果は長く継続せず、強い副作用を示しました。
そこで、カンナビジオールオイルによる治療を開始したところ、5ヶ月間の治療で不安感の軽減と睡眠の顕著な改善が認められました。副作用はほとんど認めませんでした。
この症例では、1日1回就寝時に25mgのCBDのサプリメントを服用し、不安感が強くなりそうな時に6から12mgのCBDオイルを舌下投与しています。
この論文の結論は、「カンナビジオール・オイルは不安障害や睡眠障害の改善に有効な治療法として近年認められてきた。心的外傷後ストレス障害(PTSD)に伴う不安感や睡眠障害の改善にもカンナビジオール・オイルは有効である。」となっています。
PTSDでは不安に伴う睡眠障害を引き起こします。小児のPTSDの治療に1日1回12〜25mgのCBDの投与は有効で、副作用は軽微だと言うことです。
【カンナビジオールは恐怖感を軽減する】
カンナビジオールは恐怖感を軽減する作用があります。以下のような報告があります。
Cannabidiol Regulation of Learned Fear: Implications for Treating Anxiety-Related Disorders.(経験恐怖に対するカンナビジオールの制御作用:不安関連障害の治療との関連)Front Pharmacol. 2016 Nov 24;7:454. eCollection 2016.
【要旨】
不安と精神的外傷関連障害は、生涯において4人に一人が経験する精神医学的な病気である。
恐怖症と心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、恐怖に関連した出来事の異常で持続的な記憶で特徴づけられる。
暴露療法(exposure therapy)のような精神療法の効果は多くは一過性であり、無効であったり、多くの副作用をもたらすこともある。
人間や動物を使った多くの研究結果から、大麻に含まれる主要な植物カンナビノイドで精神作用を示さないカンナビジオールが、先天的恐怖を意味する不安を軽減することが示されている。
さらに最近の研究で、経験・獲得した恐怖に対するカンナビジオールの効果が、恐怖症や心的外傷後ストレス障害(PTSD)との関連で、前臨床試験(動物実験)で検討されている。
この論文では、動物を使った条件付け恐怖実験におけるカンナビジオールの作用を中心にして、これらの研究結果を総括する。
研究結果から、カンナビジオールは幾つかの異なる作用メカニズムで経験・獲得した恐怖を軽減する。
(1)カンナビジオールは恐怖発現を急速に減少させる。
(2)カンナビジオールは記憶再固定を阻止し、記憶がよみがえったときの恐怖記憶を持続的に抑制する。
(3)暴露療法が経験恐怖を抑制する心理的過程と同様に、カンナビジオールは恐怖記憶を消去する。
さらに、カンナビジオールが聴覚恐怖発現を急速に減弱させることを示す新たな実験結果を報告する。
カンナビジオールによる恐怖記憶の制御における、神経回路や精神的側面や細胞レベルや分子レベルでの作用メカニズムを明らかにする将来の研究の方向性を示す。
このような研究によって、恐怖症やPTSDのような不安障害と心的外傷関連障害の治療における新規の治療法としてのカンナビジオールの有効性が明らかになると思われる。
恐怖は行動に影響を与える強力な情動です。恐怖はうつ、強迫性障害、恐怖症、心的外傷後ストレス障害 (PTSD)などの精神疾患の発症や症状にも影響していると考えられています。
恐怖情動は種全体に共有された先天的恐怖(innate fear)と、個体が固有に経験・獲得する後天的恐怖(learned fear)の2種類に大別できます。
不安障害や心的外傷後ストレス障害など不安や恐怖の有効な治療法が求められています。
暴露療法(疑似体験療法)のような精神療法は効果が弱くしかも一過性です。薬物療法も行われていますが、十分な効果は得られず、むしろ強い副作用など問題が多くあります。
カンナビジオールが不安や恐怖の軽減に効果を示すことが、動物実験や人間での臨床試験で示されています。
5-HT1A受容体の活性化によるセロトニン伝達の亢進、内因性カンナビノイドの分解や再取込みの阻害による内因性カンナビノイド(アナンダミド)の血中濃度の上昇によるカンナビノイド受容体1(CB1受容体)の活性化などの機序が報告されています。
図:カンナビジオールは、恐怖記憶の発現を抑制し、恐怖記憶の再固定化を阻止し、恐怖記憶の消去を促進する。
【恐怖記憶は消去できる】
前述のようにカンナビジオールは恐怖記憶の消去を促進します。この作用メカニズムを理解するためには、恐怖記憶の再固定化と消去のメカニズムを理解する必要があります。
『恐怖記憶は想起後(思い出すこと)に不安定になり、再固定化のプロセスによって維持・強化され、恐怖を感じる必要がないことを新たに学習するプロセス (消去)によって恐怖記憶は減弱する』というメカニズムです。
一般に、記憶は思い出す(想起)することによって、維持・強化されます。
記憶を脳内に貯蔵するための反応(プロセス)は「固定化」と呼ばれています。この固定化によって、出来立て(形成直後)の不安定な記憶が安定化され、貯蔵されると考えられています。
この固定化には転写調節因子 cAMP-responsive element binding protein (CREB) による遺伝子発現、すなわちタンパク質の合成が必要であることが明らかにされています。
想起後に記憶を制御するプロセスも同定され始めています。記憶を思い出すと、記憶は、形成直後の記憶と同様な不安定な状態に戻り、脳に再貯蔵されるためには「再固定化」の反応が必要となります。
なぜ、思い出した記憶を、形成直後の記憶と同じような反応(プロセス)を使って、その都度再貯蔵しなければいけないか、という再固定化の意義に関しては分かっていませんが、この再固定化のプロセスがあるために、嫌な記憶や恐怖記憶を忘れることができるのかもしれません。
恐怖記憶は恐怖体験の記憶であり、恐怖体験した際の「恐怖」と五感で知覚した「状況(文脈)」とで関連づけられた恐怖条件づけ記憶(fear conditioning)です。
したがって、恐怖を体験した状況に再び遭遇する(場所を再訪する、恐怖体験時の音や匂いなどに接するなど)ことによって恐怖記憶が想起されます。
恐怖記憶形成時の条件刺激に再暴露されることによって、恐怖記憶が想起され、恐怖反応が引き起こされます。
記憶想起の時間が短いと、恐怖記憶は再固定化によって、さらに維持・強化されます。
しかし、恐怖記憶を思い出していても、恐怖を感じさせる身の危険(例えば、暴力を与えられる)を感じない状況が続けば、「消去」の反応が起こり、恐怖は減退してしまうのです。
つまり、恐い記憶を思い出すと、はじめのうちは恐怖を感じますが、怖がる必要がな いことを徐々に学習・記憶すると、恐怖記憶を消去できるのです。
このメカニズムを利用したのが、悲惨な事件や事故・戦争などの体験者が発症する心的外傷後ストレス障害(post-traumatic stress disorder:PTSD)の治療法として使用されている長期暴露療法(prolonged exposure therapy)です。これは恐怖記憶を再現させて辛い記憶への抵抗感を少しずつ取り除いていき、原因となる記憶との向き合い方を指導する治療法です。
図:恐怖記憶は想起後(思い出すこと)に不安定になり、再固定化のプロセスによって維持・強化され、恐怖を感じる必要がないことを新たに学習するプロセス (消去)によって恐怖記憶は減弱する(参考:化学と生物 Vol. 51, No.2, 2013年『記憶形成とアップデートのメカニズム』喜田聡)
【ネズミを使った条件付け恐怖実験でCBDは恐怖記憶の消去を促進する】
動物を使った条件付け恐怖(fear conditioning)実験では、音や光など、それ自体では恐怖の指標となる反応を喚起しない条件刺激(conditioned stimulus ; CS)と、電気ショックなどの恐怖反応を喚起する非条件刺激(unconditioned stimulus ; US)を組み合せます。
動物に音を聞かせると同時に電気ショックを与えて聴覚による条件付けを行なうと、条件刺激(音)を提示しただけで自律神経反応(心拍数増加、血圧上昇、過呼吸、発汗、立毛など)やフリージング反応(すくみ反応)などの恐怖症状が発現します。
フリージング(freezing)は生命活動に必要な動き(息をする)以外の行動が見られないまったく動かない状態で、恐怖により惹起されると考えられます。フリージングは肉眼観察もしくはビデオトラッキングによるPCソフトの判定などで起こっている時間を評価します。
この実験で は, 音が条件刺激(CS)で電気ショックが非条件刺激(US)となり、マウスは非条件刺激と条件刺激の関連づけ(CS-US association)を記憶し、条件刺激への再暴露(CS-no US)によって恐怖記憶を想起します。
図:床に電線を敷いた小箱にマウスを入れ、マウスに音(条件刺激)を聞かせた直後に床に電気を流して電気ショックの恐怖体験を記憶させる。その後、マウスに音を聞かせたとき(再暴露)、マウスが恐怖記憶を形成していれば、恐怖記憶を想起して恐怖を感じ、身動き一つ取らない「すくみ反応(フリージング)」を示す。この恐怖反応の長さを測定すれば恐怖記憶の強さを評価できる。心的外傷後ストレス障害(PTSD)の実験モデルとして利用されている。
恐怖記憶形成時の条件刺激に再暴露(再エクスポージャー)されることによって恐怖記憶が想起され、恐怖反応が引き起こされます。
しかし、この場合、恐怖反応はあくまでも条件反射です。
したがって、再エクスポージャー時に、非条件刺激(電気ショック)が与えられない状態が続けば、動物は条件刺激に反応する必要がないことを再学習し、記憶して、恐怖記憶が無くなるのです。
つまり、音刺激は与えるが電気ショックを与えない状況が長時間続くと、マウスは音を聞いてもフリージングしなくなります。
この現象は「記憶消去(memory extinction)」と呼ばれ、恐怖記憶から恐怖を感じる必要がないことを新たに学習し、記憶するプロセスです。
このようなネズミの実験系で、大麻が恐怖記憶の再固定化を阻害し、恐怖記憶の消去を促進する結果が報告されています。(下図)
図:恐怖記憶形成時の条件刺激(音)に再暴露(再エクスポージャー)されることによって、恐怖記憶が想起され、恐怖反応が引き起こされる。記憶想起の時間が短いと恐怖記憶は再固定化によって、さらに維持・強化される。しかし、条件刺激に再暴露されても(記憶を思い出しても)、恐怖を感じさせる身の危険(電気ショックを与えられる)を感じない状況が続けば、条件刺激(音)に反応する必要がないことを学習し、「消去」の反応が起こり、恐怖記憶は減退・消去していく。大麻は恐怖記憶の再固定化を阻害し、恐怖記憶の消去を促進する。
カンナビジオールだけでも、恐怖反応を軽減し、恐怖記憶の消去を促進することが報告されています。すなわち、カンナビジオールは恐怖反応(すくみ反応)を減弱します。つまり、恐怖感を和らげます。
恐怖記憶を想起させるときにCBDを投与すると恐怖反応軽減し、再固定化を抑制する結果、恐怖記憶の消去を促進します。以下のような報告があります。
On Disruption of Fear Memory by Reconsolidation Blockade: Evidence from Cannabidiol Treatment(再固定化の阻止による恐怖記憶の消失:カンナビジオール治療からの証拠)Neuropsychopharmacology. 2012 Aug; 37(9): 2132–2142.
マウスの実験系で、カンナビジオールが恐怖記憶を想起したときの記憶の再固定化(reconsolidation)を阻害することによって恐怖記憶の消去を促進することを報告しています。
この作用は、セロトニン受容体5-HT1Aの阻害剤では阻止されず、カンナビノイド受容体CB1の阻害剤で阻止されたことから、カンナビジオールの恐怖記憶消去作用はCB1を介する機序であることが示されています。
カンナビジオールにはCB1のアゴニスト活性はありませんが、内因性カンナビノイドのアナンダミドの分解を阻害してアナンダミドの血中濃度を高めて、CB1活性を間接的に高める機序が指摘されています。
前述のように記憶というのは安定的なものではなく、思い出すたびに不安定になり、再固定化されることによって記憶が増強し、逆に不安定な状況から記憶を消し去ることもできます。
恐怖記憶の場合、その恐怖感を思い出せばその記憶が再固定化によって維持・強化されるますが、思い出しても恐怖を感じないでも良いことを学習すれば、恐怖を感じなくなります。
動物実験では、1.5〜5分くらいの短時間の再暴露(reexposure)だと記憶の再固定化が起こって恐怖記憶が維持・強化されますが、10分以上の長時間の再暴露だと、その間に恐怖反応は減弱し、消去反応が引き起こされます。
【恐怖記憶の消去において、THCとCBDは相乗効果を示す】
以下のような報告があります。
Δ9-Tetrahydrocannabinol alone and combined with cannabidiol mitigate fear memory through reconsolidation disruption.(Δ9テトラヒドロカンナビノール単独あるいはカンナビジオールとの併用は再固定化の阻止によって恐怖記憶を軽減する)Eur Neuropsychopharmacol. 2015 Jun;25(6):958-65.
恐怖記憶の再固定化の阻止や消去の促進にはカンナビノイド受容体CB1の活性化を介するメカニズムが重要なので、CB1を直接活性化するΔ9テトラヒドロカンナビノール(THC)にそのような作用があることは予測できます。
カンナビジオール(CBD)はCB1に対する直接作用はありませんが、内因性カンナビノイドのアナンダミドの分解を阻止する機序でCB1を間接的に活性化します。CBDには、その他のメカニズムで抗不安作用を示すことも明らかになっています。
この論文では、THC (0.3-10mg/kg、腹腔内投与)は条件付け恐怖記憶の再固定化を阻止し、フリージング反応を22日間以上にわたって減弱させました。
この作用は、前頭前皮質内側部の前辺縁皮質に存在するカンナビノイド受容体CB1の活性化に依存しており、記憶の想起と再活性化の過程が必要であることが示されています。
CBDはTHCの望ましくない精神作用を減弱させ、さらに記憶の再固定化を阻止する作用が知られています。
THCとCBDは相乗的に恐怖記憶の消去を促進するという結論です。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)やパニック障害などの不安障害の患者では、海馬や前頭前野による恐怖記憶の消去学習過程や抑制制御機構が機能不全に陥っている可能性が示唆されています。
PTSDの治療では、患者に安全な環境下で、繰り返し恐怖体験を想起させ、記憶を整理し、恐怖を減弱させていく持続エクスポージャー療法という行動療法が用いられていますが、これは消去学習の理論に基づいていると考えられます。
したがって、医療大麻やTHCやカンナビジオールはPTSDの治療に有用だと言えます。持続エクスポージャー療法の効果を促進する可能性が示唆されています。
医療大麻は抑うつや不安や恐怖感の軽減に有効です。
Δ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)はカンナビノイド受容体のCB1を活性化するメカニズムで抗不安や抗うつ作用を発揮します。
最近の研究で、神経系のCB2受容体や脳組織のグリア細胞が情動的行動にも関与することが明らかになっており、CB2受容体も抗不安や抗うつ作用に関与していることが示されています。
カンナビジオール(CBD)は、5-HT1A受容体の活性化によるセロトニン伝達の亢進、内因性カンナビノイドの分解や再取込みの阻害による内因性カンナビノイド(アナンダミド)の血中濃度の上昇によるカンナビノイド受容体1(CB1受容体)の活性化などの機序が報告されています。
CBDはTHCの不都合な精神作用を抑制することが報告されています。
したがって、医療大麻の場合は、THCとCBDの相乗作用によって、不安や抑うつや恐怖感を軽減する効果が期待できます。
しかし、日本の場合は大麻が使用できないので、現時点ではカンナビジオール・オイル(CBDオイル)の利用しかできません。しかし、CBDオイルだけでも、かなりの効果はあるようです。
米国の麻薬取締局(Drug Enforcement Administration:DEA)が2016年12月14日に発表し、先週の2017年1月13日に発効した「マリファナエキスの新薬コードの制定」では、CBDオイルもスケジュールI(濫用の危険があり、医学的用途がない)に分類されています。
CBDに有益な様々な薬効があることは多くの基礎研究と臨床研究で明らかになっており、さらにCBDには濫用の危険は全く無く、むしろモルヒネやアルコールの依存症の治療に有効であることが報告されているのに、スケジュールIと分類する意図が何なのかが、ネットで騒がれています。
GW Pharmaceuticals社の大麻エキス製剤のSativex(THC:CBDが1:1)は多発性硬化症の治療に有効であることが臨床試験で明らかになっています。Epidiolex(CBD製剤)は、Dravet 症候群や Lennox-Gastaut症候群などにおける薬剤抵抗性のてんかんの治療に有効であることが既に報告されています。
Epidiolexは今年にも米国で新薬としての申請が行われると言われています。
医薬品を認可する米国食品医薬品局(FDA)はCBDオイルも含めて大麻エキスが規制物質法のスケジュールIに分類されていることを理由に認可しない可能性もあるのかもしれません。
あるいは、Epidiolexを医薬品として認可するため、サプリメントとして販売されているCBDオイルを規制するつもりかもしれません。
CBDオイルが濫用の危険は全くなく、医療効果は他の薬以上にあるのに、CBDオイルを規制物質法のスケジュールIに密かに規則化したことに、いろんな憶測があります。
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