がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
56) 乾燥して刻んだ生薬を煎じる理由
図:漢方薬は通常、乾燥させて刻んだ生薬を熱湯で30~60分間くらい煎じて、抽出したエキスを服用する。乾燥して刻んだ生薬を煎じることで、薬効成分を効率良く抽出し、利用することができる。
56) 乾燥して刻んだ生薬を煎じる理由
野菜や果物には、免疫力を高める成分、活性酸素やフリーラジカルの害を防ぐ成分、発がん物質を不活性化する成分、がん細胞の増殖を抑える効果をもつ成分などが多く見つかっており、これらの成分を多く摂取することががんの発生や再発の予防に役立つと考えられています。
植物に含まれるこのような薬効成分をファイト・ケミカル(phyto-chemical)と呼んでいます。Phytoは植物、chemicalは化学を意味する言葉で、したがって、ファイトケミカルとは植物に含まれる化学成分を意味しています。
これらのファイトケミカルから、がん予防効果をもった成分が多くみつかっており、それらはサプリメントとしても利用されるようになっています。例えば、大豆のイソフラボン、ゴマのリグナン、トマトのリコピン、ブロッコリーのスルフォラファン、お茶のカテキン、緑黄色野菜のカロテン類、ブルーベリーのアントシアニン、赤ワインのポリフェノール、キノコのβグルカンなどが有名です。
さて、漢方薬のがん予防効果や抗がん作用のメカニズムも、食品のそれと同じです。つまり、漢方薬を構成する生薬は植物由来で、がん予防に有効な多くのファイトケミカルを含むからです。
生薬は細かく刻んで乾燥して製造し、これを熱水で30~60分間煎じて、エキスを抽出します。この生薬を乾燥して刻むという加工法と、煎じる過程が、生薬に含まれる薬効成分(ファイトトケミカル)を十分に利用する上で重要です。
ファイトケミカルは植物の細胞内に含まれるため、体内で吸収するためには細胞膜を壊す必要があるのですが、植物の細胞膜はヒトの胃腸の消化酵素では十分に消化できません。しかし、乾燥して熱湯で長時間煎じると、細胞膜が容易に壊れ、細胞内の成分が液の中に出て来て、吸収されやすくなります。
野菜も生で食べるよりも、煮出したスープにする方が、ファイトケミカルをより多く吸収できることが指摘されています。生野菜ジュースに比べ、同じ野菜を煮出したスープには10~100倍も抗がん成分が含まれているという研究結果もあります。
熊本大学の前田浩教授(当時)の研究によると、生野菜より煮た野菜のほうが有効成分がよく溶出し、抗酸化能は数倍から100倍以上に上がるそうです。
また、乾燥させることは、成分を溶出させやすくすると同時に、一定のお湯に対して煎じる生薬の量を増やすこともできます。
つまり、乾燥して刻んだ生薬を熱湯で長時間煎じるというのは、その薬草に含まれる活性成分であるファイトケミカルを利用しやすくする上で最も有効な方法と言えるのです。
漢方では、生薬を毒性に基づいて上薬、中薬、下薬と3つに大別しています。上薬は、無毒で命を養うような生薬であり、例え作用が弱くても、副作用がなく、長期間服用できて体の治癒力や抵抗力を高めるようなものであり、人参や黄耆や甘草などが代表です。中薬や下薬に分類される生薬は症状に病状に応じて使用すべきもので、漫然とした長期の服用には適しません。
この上薬に含まれる生薬は、体力や免疫力を高め、抗酸化力を強め、血液循環や新陳代謝を良くして治癒力を活性化する成分の宝庫であり、薬として利用されてきたことから、その効果は通常の野菜や果物よりも高いと言えます。
がんの発生や再発を予防する目的で、このような毒性の少ない生薬を組み合わせて煎じ薬として日頃から服用することは、摂取されるフィトケミカルの種類や量が多いので、野菜スープを毎日摂取する以上の効果が期待できると思います。
(文責:福田一典)
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