がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
57) 抗がん剤の副作用を軽減する漢方薬
図:漢方治療は、体の抵抗力や治癒力を高めることにより、抗がん剤治療の欠点を補うことを目標とする。がん細胞を攻撃する抗がん剤と、体の抗がん力を高める漢方治療を併用することによってがん治療の効果を高めることができる。
57) 抗がん剤の副作用を軽減する漢方薬
【抗がん剤で正常組織もダメージを受ける】
抗がん剤はがん細胞だけでなく、骨髄細胞や免疫組織や消化管粘膜など細胞分裂の盛んな組織にもダメージを与えるため、免疫力の低下や、白血球や血小板の減少、貧血、食欲低下、下痢、吐き気、脱毛など様々な副作用が起こります。
抗がん剤治療による吐き気や白血球減少などの副作用を抑える治療法(支持療法)も進歩してきましたが、体力や抵抗力を高めるという観点からはまだ十分ではありません。例えば、制吐剤を用いて、抗がん剤による吐き気を止めることはできますが、吐き気だけを止めても食欲が亢進するわけではなく、消化吸収機能が高まるわけでもありません。
骨髄の幹細胞に直接働きかけて白血球減少を食い止める薬もありますが、栄養状態の悪化や体力の消耗がひどくなれば、白血球の数は正常でも体の抵抗力はなくなります。
西洋医学的な支持療法を使用して目にみえる副作用だけを対処していても、いつのまにか消化管機能の低下や失調が発生し、食事が取れなくなり、抵抗力がなくなってしまうということはよく経験されます。
抗がん剤治療中は、正常組織のダメージの回復のために蛋白質は通常の50%以上が必要になり、ビタミンやミネラルも通常よりも多く必要になります。したがって、栄養価の高い食事が推奨されていますが、このような食事療法に加えて、滋養強壮作用や組織の血液循環や新陳代謝を良くする漢方治療を適切に利用することは、抗がん剤の副作用軽減に有効です。
【抗がん剤治療の副作用を軽減する漢方治療】
抗がん剤による骨髄・免疫組織・消化管粘膜などの障害は、漢方医学的観点からは主として「気血(きけつ)の損傷(=生命エネルギーと栄養状態の低下)」、「脾胃(ひい)の失調(=消化吸収機能の異常)」、「肝腎の衰弱(=諸臓器機能の低下)」などと考えられます。
したがって、漢方医学的な治療原則は、健脾(けんぴ)(=消化吸収機能の改善)・補気(ほき)(=体力・気力の補給)・補血(ほけつ)(=栄養状態の改善)による正気(せいき)(=体の抵抗力)の保持と、駆オ血(くおけつ)(=組織の血液循環の改善)による組織修復の促進が基本になります。
具体的には、十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)・人参養栄湯(にんじんようえいとう)・補中益気湯(ほちゅうえっきとう)などの補剤に、血液循環を良くする駆オ血(くおけつ)薬を加えた処方は抗がん剤の副作用を軽減する上で有用です。
治療前の体力の虚実(きょじつ)がどうあろうとも、抗がん剤治療を行うことにより気血は損耗して基本的に不足状態(=虚)に傾くため、補気剤や補血剤などの補剤の使用が中心になります。体液の消耗があるときには滋陰剤(じいんざい)(体液を補い体を潤す薬)、炎症反応や諸臓器の障害があるときには清熱解毒剤(せいねつげどくざい)(抗炎症作用や解毒作用を持つ薬)などを併用していきます。
骨髄のダメージによる貧血や白血球・血小板の減少には、高麗人参(こうらいにんじん)・黄耆(おうぎ)・霊芝(れいし)・女貞子(じょていし)・地黄(じおう)・当帰(とうき)・枸杞子(くこし)・鶏血藤(けいけっとう)・阿膠(あきょう)などが有効と報告されています。
肝臓障害には柴胡(さいこ)・鬱金(うこん)・茵陳蒿(いんちんこう)・山梔子(さんしし)・五味子(ごみし)・半枝蓮(はんしれん)・甘草(かんぞう)などが用いられます。
日本ではエキス製剤を用いた臨床的検討が多く報告されています。骨髄機能の低下に十全大補湯や人参養栄湯、腎障害に柴苓湯(さいれいとう)、肝臓障害に小柴胡湯(しょうさいことう)・茵陳蒿湯(いんちんこうとう)、全身倦怠感や食欲不振には補中益気湯、吐き気に小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)、下痢に五苓散(ごれいさん)・半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)、神経障害に牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)、筋肉痛や関節痛に芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)など多くの漢方薬が化学療法の副作用対策に有効であることが報告されています。
このように、抗がん剤治療の欠点を症状に応じた適切な漢方治療で補うことは、がんの統合医療において有効な手段となり、抗がん剤の副作用を軽減し、抗腫瘍効果を高め、再発や転移を予防する効果も期待できます(図)。
抗がん剤 |
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正常組織のダメージによる副作用: 食欲低下・下痢・栄養障害・体力低下・免疫力低下・貧血・白血球減少・脱毛・肝臓や腎臓などの臓器障害 |
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抗がん剤治療の中断 日和見感染 転移・再発の促進 |
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漢方治療 |
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正常組織のダメージを回復させる効果: 滋養強壮・血液循環改善・新陳代謝促進・免疫力増強・消化管機能改善・細胞保護 |
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副作用軽減、QOLの改善 回復力促進、抗腫瘍効果増強 転移・再発の予防 |
抗がん剤は正常組織にダメージを与えることによって様々な副作用を引き起こす。適切な漢方治療を併用することによってダメージの回復を促進し、症状の改善や副作用の軽減が期待できる。
(文責:福田一典)
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