708)至福をもたらすアナンダミド(Anandamide)の増やし方(その2):アナンダミドとパルミトイルエタノールアミドのサプリメント

図:内因性カンナビノイドのアナンダミド(①)はカンナビノイド受容体のCB1とCB2に作用して様々な生理作用を発揮する(②)。CB1とCB2は様々な臓器や組織に分布し、多様な生理作用を制御している(③)。キノコの一種のトリュフにはアナンダミドが含まれている(④)。パルミトイルエタノールアミドとカンナビジオールとチョコレートはアナンダミドを分解する脂肪酸アミドハイドロラーゼ(fatty acid amide hydrolase :FAAH)を阻害する作用がある(⑤)。大麻や香辛料に含まれる精油成分のβ-カリオフィレンはCB2受容体のアゴニスト(受容体に結合して活性化する物質)として作用する(⑥)。外来性にアナンダミドを摂取するとき、FAAH阻害剤と併用すると、内因性カンナビノイドシステムの活性化を増強できる。

708)至福をもたらすアナンダミド(Anandamide)の増やし方(その2):アナンダミドとパルミトイルエタノールアミドのサプリメント

【カンナビノイド受容体CB1の活性化は食欲を増進し肥満を誘導する】 
大麻に含まれる薬効成分のΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)が作用する受容体として発見されたカンナビノイド受容体CB1CB2は様々な組織に発現しています。 
さらにCB1とCB2の内因性のリガンド(アナンダミド2-アラキドノイルグリセロールなど)や内因性リガンドの合成酵素や分解酵素などによって「内因性カンナビノイド・システム」を構築して、多様な生理作用に関わっています。(内因性カンナビノイド・システムについては707話参照)

CB1受容体の活性化は、食欲を高めて食物摂取を亢進し、エネルギー消費を減らし、体脂肪の合成を促進して、体内にエネルギーを蓄積する方向で作用します。
つまり、内因性カンナビノイド・システムは人類が狩猟採集で生命を維持していく上で重要なシステムであったと考えられます。
農耕社会と異なり狩猟採取社会では、食物の獲得が不定期になるため、食事が取れない間を生きていく上で内因性カンナビノイドシステムは重要な働きを担っていたと考えられます。
摂食行動や体内でのエネルギーの産生と消費の恒常性維持は、中枢神経系(特に視床下部や大脳辺縁系)と末梢の臓器(脂肪組織、骨格筋、肝臓、膵臓、小腸など)によって調節されていますが、その制御に内因性カンナビノイドシステムが重要な役割を担っています。 

インスリン(血糖降下作用)やレプチン(食欲抑制作用)やグレリン(摂食亢進作用)や副腎皮質ホルモンなど様々なホルモンや生理活性ポリペプチドによって内因性カンナビノイドシステムの活性は調整されています。
逆に内因性カンナビノイドはオピオイド(モルヒネ)やセロトニンγアミノ酪酸(GABA)など、中枢神経系において食欲の調節を行っている神経伝達物質や神経ペプチド(神経ホルモン)の放出を制御しています。 
カンナビノイド受容体CB1の活性化は食欲を高める作用を発揮します。 
肥満していない人に比べて肥満した人では、脂肪組織や肝臓や膵臓、視床下部における内因性カンナビノイドシステムの活性が高くなっているという報告があります。 
一般的に、内因性カンナビノイドシステムの活性亢進は、栄養摂取の亢進、エネルギー貯蔵の亢進、エネルギー消費の抑制を引き起こすと考えられています。その結果、体重を増やし、肥満を引き起こすことが明らかになっています。 

CB1受容体の遺伝子を欠損するマウスは食事摂取が少なく、エネルギー消費が増え、体重が減少します。
CB1受容体のアンタゴニスト(阻害剤)は食欲を低下させ、体重を減らすことが知られています。 
逆に、CB1受容体を活性化するΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)は脂肪細胞における脂肪分解を抑制し、脂肪の蓄積を促進する作用があります。
このような効果は、進行したがんやエイズの患者の食欲不振や消耗状態の改善に有効です。
実際、大麻や合成THC(ドロナビノール、ナビロン)が食欲を高め、体重を増やす効果によって、進行がんやエイズの患者の消耗状態を改善することが証明されています。 
しかし、CB1の活性化は食事摂取量が過多と組合わさると、肥満やメタボリック症候群の発生を促進することになります。 
CB1の活性化による食欲増進と脂肪蓄積の亢進は、状況と目的によってそれが良い場合と悪い場合があることになります。  

【CB1の阻害は食欲を低下させ体重を減らすが、うつ症状を引き起こす】 
カンナビノイド受容体タイプ1(CB1)は中枢神経系において様々な神経伝達調節を行っており、記憶・認知、運動制御、食欲調節、報酬系の制御、鎮痛など多岐にわたる生理作用を担っています。
さらに、消化管にもCB1受容体は発現しており、腸管運動に関わっています。 
大麻に最も多く含まれるカンナビノイドであるΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)はCB1とCB2に結合して作用を発揮します。
過剰に摂取すると、中枢神経系のCB1の活性化によって気分の高揚などの精神作用による症状(副作用)がでます。 
THCは脳に作用して食欲を高める作用があります。この食欲亢進作用はCB1の刺激によるものです。 
さらに鎮痛作用や吐き気を軽減する作用があるため、エイズや進行がんの患者さんの食欲不振や体重減少、抗がん剤治療による吐き気や嘔吐に対する治療に使われています。 
ドロナビノール(商品名:マリノール)は合成したΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)製剤で、米国やドイツなどで処方薬として認可されています。 
ナビロン(商品名:セサメット)もTHCを模倣した合成カンナビノイドで、米国やカナダや英国などで承認されています。エイズ患者の食欲不振や体重減少、抗がん剤治療に伴う吐き気や嘔吐、多発性硬化症などの神経障害性疼痛の治療に使用されています。 
THCによる食欲増進作用はCB1受容体の作用によります。
CB1受容体の阻害剤は食欲を低下させます。体重を減らす効果も確かめられています。
CB1受容体阻害による体重減少は食欲低下による食物摂取量の減少だけでなく、脂肪分解を促進するなどエネルギー消費を高めることも関与しています。 
したがって、CB1受容体の阻害剤が肥満やメタボリック症候群の治療薬として期待されました。 実際に、CB1受容体のアンタゴニスト(阻害薬)のリモナバン(Rimonabant)が開発され、発売になりました。 
予想通りに食欲減退と体重減少の効果はあったのですが、抑うつや自殺企図の副作用が問題になって発売中止になっています。
つまり、CB1受容体の働きを阻害することは食欲を低下させる目的では有効ですが、脳内報酬系の抑制などで幸福感や快感を得ることができなくなるようです。 
脳内報酬系というのは動物が自分で積極的に行動したくなるモチベーションを与える仕組みです。食欲も脳内報酬系によって亢進します。この快感を得る仕組み(脳内報酬系)を抑制することは食欲を低下できますが、何もやる気が無くなって生きる意味を失わせるのです。(脳内報酬系については444話参照)

CB1の阻害は、人間の三大欲求(食欲、睡眠、性欲)を抑えることになり、生きている意味を見つけることができなくなり、自殺するということです。
つまり、CB1の活性化は自殺の予防にも効果が期待できます

大麻は抑うつや不安感の軽減に有効です。 CB1受容体を阻害するとうつ症状や不安感が強くなることが多くの動物実験モデルが示されています。
一方、CB1受容体を活性化すると不安や恐怖が軽減します。合成THC製剤が外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder:PTSD)の症状を改善することが報告されています。 
薬は効能があれば、副作用もあります。CB1を活性化する薬は、食欲を高め、不安や抑うつを軽減する効果がありますが、飽食と組合わさると、肥満やメタボリック症候群の発症を促進するという副作用が出てきます。 
CB1の阻害剤は食欲を低下させ肥満を改善しますが、うつ症状や自殺企図などの副作用がでます。 目的に応じて、それらの薬効を使い分けることになります。
ただ、食欲を低下させて肥満を治療する方法としてCB1阻害剤は副作用の点から適切では無いと言えます。

【内因性カンナビノイドはω6系不飽和脂肪酸のアラキドン酸から合成される】 
カンナビノイド受容体のCB1とCB2の内因性リガンド(受容体に結合して活性化する物質)であるアナンダミド2-アラキドノイルグリセロールは細胞膜のリン脂質に含まれるアラキドン酸から酵素によって合成されます。 
アラキドン酸はリノール酸から合成されます。 脂肪酸は1 個ないし複数個の炭化水素(CH2)の連結した鎖(炭化水素鎖)からなり、その鎖の両末端はメチル基(CH3)とカルボキシル基(COOH)で、基本的な化学構造はCH3CH2CH2・・・CH2COOHと表わされます。
 
脂肪酸には、飽和脂肪酸不飽和脂肪酸があり、飽和脂肪酸では、炭化水素鎖の全ての炭素が水素で飽和しています。 
一方、不飽和脂肪酸では炭化水素鎖中に1個ないし数個の二重結合(CH=CH)が含まれます。不飽和脂肪酸中で二重結合の数が2個以上のものを多価不飽和脂肪酸と云い、5 個以上の二重結合を持つ脂肪酸を高度不飽和脂肪酸と呼びます。 
 
脂肪は、それを構成している脂肪酸の構造の違いによって融点などの化学的性状が異なってきます。二重結合をもつ不飽和脂肪酸の多い脂肪は常温で液状になりますが、飽和脂肪酸になると固まりやすくなります。固まりやすい脂肪を多く摂取すると血液がドロドロになって動脈硬化が起こりやすくなります。


図:脂肪酸は飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けられ、多価不飽和脂肪酸にはオメガ3系とオメガ6系がある。

リノール酸 CH3(CH2)3 CH2CH=CHCH2CH=CH(CH2)7COOH では、CH3 に最も近い二重結合は、CH3から6番目のCにあります。この位置に二重結合を持つ全ての脂肪酸をω6系不飽和脂肪酸に分類します。
 
α-リノレン酸CH3CH2CH=CHCH2CH=CHCH2CH=CH(CH2)7COOH では、CH3に最も近い二重結合はCH3から3番目のC にあります。この位置に二重結合を持つ全ての脂肪酸をω3系不飽和脂肪酸に分類します。
最近ではω6の代わりにn-6 を用いてn-6系不飽和脂肪酸、そしてω3の代わりにn-3を用いてn-3系不飽和脂肪酸と呼ぶことが多くなっています(下図)。

図:CH3に最も近い二重結合がCH3から3番目のCにある脂肪酸をω3系不飽和脂肪酸、CH3から6番目のCに最初の二重結合がある脂肪酸をω6系不飽和脂肪酸という。

動物(人を含む)はリノール酸とα-リノレン酸を合成できません。これら2種類の不飽和脂肪酸は動物にとって不可欠であり、動物はこれらを食物として摂取する必要がありますのでこれらを必須脂肪酸と言います。 
ω6 系不飽和脂肪酸はリノール酸 → γ-リノレン酸 → アラキドン酸のように代謝されていき、アラキドン酸からプロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサンなどの重要な生理活性物質が合成されます。内因性カンナビノイドのアナンダミドも2−アラキドノイルグリセロールもアラキドン酸から合成されます。 
アラキドン酸はリノール酸から体内で合成されますが、体内で十分な量が生成されないためアラキドン酸も必須脂肪酸になっています。つまり、食事から摂取する必要があります。
 
 
ω3系不飽和脂肪酸はα-リノレン酸 → エイコサペンタエン酸(EPA) → ドコサヘキサエン酸(DHA)と代謝されていきます。α-リノレン酸から体内でEPAとDHAが産生されますが、その量は少ないので、食事やサプリメントでEPAとDHAを積極的に摂取する意味はあります。 
細胞は下図のような脂質二重層から成る細胞膜によって細胞外と細胞内が分けられています。

図:リン脂質は親水性のリン酸部分の頭部に、疎水性の脂肪酸が2本の尾部がついた構造をしており、これが2重の層を形成して細胞膜が構成されている。水溶性の物質は脂肪の膜を通過できないので、細胞膜を貫通するようにタンパク質が存在し、物質を通す通路や外界の刺激を細胞内に伝える受容体として働いている。

食事から摂取された脂肪は代謝されてエネルギー源となり、また分解されて生成した脂肪酸は細胞膜などに取り込まれます。 
細胞膜の構成成分として使われる場合、その脂肪酸自体は変化せず、それぞれの構造や性質を保ったまま使われます。
つまり、細胞膜をつくるとき脂肪酸の違いを区別せず、手当たり次第にあるものを使用するのです。その結果、食事中の脂肪酸の種類によって細胞の性質も変わってきます。 
さらに、その細胞膜の脂肪酸から作られるプロスタグランジンやロイコトリエンなどの化学伝達物質の種類も違ってきて、炎症やアレルギー反応や発がんに影響することが明らかになっています。 
内因性カンナビノイドのアナンダミドや2-アラキドノイルグリセロールは細胞膜に含まれるアラキドン酸から合成されるので、細胞膜にアラキドン酸が多いほど産生量が増えることになります。 
逆に、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)のようなω3系不飽和脂肪酸を多く摂取すると、細胞膜のアラキドン酸がDHAやEPAに置き換わって量が減るので、内因性カンナビノイドの産生が減ることになります。(下図)

図:内因性カンナビノイド(アナンダミドと2-アラキドノイルグリセロール)はon demand(刺激に応じて)に細胞膜の脂質のアラキドン酸から合成される。食事からのリノール酸やアラキドン酸の摂取が多いと細胞膜のアラキドン酸量が増え、内因性カンナビノイドの産生量も増える。一方、ω3系不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)の摂取量が多いと内因性カンナビノイドの産生量は低下する。

【リノール酸は内因性カンナビノイドを増やして食欲を亢進する】 
リノール酸はω6系不飽和脂肪酸で必須脂肪酸(体内で合成できない)です。リノール酸は内因性カンナビノイドの原料になるアラキドン酸に変換されます。
したがって、リノール酸の多い食事は内因性カンナビノイドのアナンダミドや2-アラキドノイルグリセロールの産生を高めることが考えられます。以下のような報告があります。

Dietary Linoleic Acid Elevates Endogenous 2-AG and Anandamide and Induces Obesity.(食事からのリノール酸摂取は内因性カンナビノイドの2-AGとアナンダミドを増やし肥満を誘導する)Obesity (2012) 20, 1984–1994.

【論文内容の抜粋】
内因性カンナビノイドの活性を抑制することは肥満を減少させる重要なターゲットになっている。 
内因性カンナビノイドの2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)とアナンダミド(AEA)はω-6系不飽和脂肪酸のアラキドン酸から作られる。 
我々は、アラキドン酸の前駆物質であるリノール酸の食事からの摂取量が増えると内因性カンナビノイドシステムの活性が亢進し、肥満を誘導することを明らかにした。 
20世紀における米国の食生活におけるリノール酸の摂取量(摂取エネルギーに占めるリノール酸の%)の増加が肥満の増加と相関することが示された。 
マウスを、生まれてから次のような食餌で14週間飼育した。 
中等度脂肪食(摂取エネルギーの35%が脂肪)と高脂肪食(摂取エネルギーの60%が脂肪)において、リノール酸の摂取量が摂取エネルギーの1%の場合と8%の場合と、8%のリノール酸に1%のエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)を加えた食餌を与えた。 
食餌中のリノール酸の量が増えると、肝細胞と赤血球のアラキドン酸-リン脂質の量が増え、2-AGと1-AGとアナンダミドのレベルが3倍に増え、その結果、マウスは食餌摂取量が増え、脂肪蓄積が増加した。 
8%リノール酸の食餌に1%のω3系不飽和脂肪酸(EPA+DHA)を加えると、代謝のパターンは1%リノール酸の食餌を似た結果になった。 
高脂肪食(摂取エネルギーの60%が脂肪)において、リノール酸の摂取量を1%に減らすと、高脂肪食による肥満促進効果を抑制した。 
このような動物実験モデルは、20世紀における人間のリノール酸摂取量の増加と肥満の増加の関連を示唆している。 
以上をまとめると、食事中のリノール酸は組織のアラキドン酸の量を増やし、その結果内因性カンナビノイドの2-AGやアナンダミドを増やし、肥満を誘導する。
このようなリノール酸による脂肪蓄積の増加は、EPAやDHAの摂取量を増やして、アラキドン酸リン脂質の量を減らし、内因性カンナビノイド・システムの活性を減らすことによって防ぐことができる。

つまり、食事中のω6系不飽和脂肪酸:ω3系不飽和脂肪酸の比率が高いと、細胞膜の脂質二重層のリン脂質にアラキドン酸が多く占め、その結果、内因性カンナビノイドのアナンダミドや2-アラキドノイルグリセロールの産生量が増えるので、食欲が亢進し、体重も増える結果になります。 
ω3系不飽和脂肪酸のαリノレン酸を多く含む亜麻仁油や紫蘇油(エゴマ油や、DHAやEPAを多く含む魚の油を多く摂取してω6:ω3の比率を低下させると、これらの脂肪酸がアラキドン酸に置き換わるので、アナンダミドや2-アラキドノイルグルコースの産生量が減るので、体重を減らす効果があるというメカニズムです。 
DHAやEPAを多く摂取すると体重を減らす効果が得られることになり、その作用機序として内因性カンナビノイドシステムが関与しているということです。 
食事から摂取する脂肪酸の種類や量が内因性カンナビノイド・システムの活性に影響し、食欲や代謝に影響することが報告されています。 以下のような論文もあります。

Fatty Acid Modulation of the Endocannabinoid System and the Effect on Food Intake and Metabolism(脂肪酸による内因性カンナビノイド・システムの制御と食事摂取と代謝に対する影響)Int J Endocrinol. 2013; 2013: 361895. doi: 10.1155/2013/361895 PMCID: PMC3677644

【要旨】 内因性カンナビノイドとそのGタンパク質共役型受容体から成る内因性カンナビノイド・システムは、食事摂取や糖代謝や脂質代謝に重要な役割を果たしており、肥満の研究領域で注目されている。 
肥満や過体重の人は、アラキドン酸由来の内因性カンナビノイドのアナンダミドと2-アラキドノイル・グリセロールの血中濃度が高く、カンナビノイド受容体の発現パターンにも変化が認められている。 
その結果、食欲を亢進し、脂肪組織にエネルギーを蓄積する方向で脂肪合成やインスリン感受性やグルコース代謝を変化させる。 
内因性カンナビノイドは食事からの脂肪酸に由来される産物であるため、食事から摂取される脂肪酸の組成や量が、内因性カンナビノイドの産生量に影響する。
例えば、エイコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸は細胞膜のアラキドン酸と置き換わることによって、アナンダミドや2-AGの産生を減らす。 
同様に、オレイン酸由来のオレオイル・エタノールアミド(oleoyl ethanolamide)は満腹感を高め(食欲を抑制する)、血中の脂肪酸濃度を減らし、脂肪酸のβ酸化を亢進し、脂肪組織におけるアナンダミドや2-AGの働きを阻害する。 
アナンダミドや2-AGの前駆物質となる脂肪酸の豊富な植物由来の脂肪の摂取を増やすことは、エネルギー摂取量と体重を増やすことになるので、食事中の脂肪が内因性カンナビノイド・システムの活性に影響することを理解することは健康を考える上で重要である。

過体重と肥満は世界中で増加しており、糖尿病や心血管疾患など多くの病気の原因となり、その結果、国の財政的な負担を増やすので、健康問題において最も重要な問題と考えられています。 
体重が増えるということは、エネルギー摂取量がエネルギー消費量より多いことが原因です。 
先進国では、食事からのエネルギー摂取の30%以上がエネルギー含量が濃い脂肪からであり、さらに砂糖の多い食品の摂取量も多く、体脂肪と体重を増やしています。
食事摂取量は食欲によって影響を受けます。 体内のエネルギー量が低下すると食欲が亢進します。 
食欲や栄養素の代謝に内因性カンナビノイド・システムが重要な働きを行っていることが明らかになっています。 アラキドン酸の代謝産物であるアナンダミド(アラキドノイルエタノールアミド)と2−アラキドノイル・グリセロール(2-AG)はカンナビノイド受容体のCB1とCB2に結合し、大脳辺縁系や視床下部や後脳に作用して食欲を刺激します。 
肥満者では内因性カンナビノイド・システムの活性が高くなっていることが報告されています。 
2-AGのレベルは、BMIと腹囲と内臓脂肪のレベルと正の相関があります。 2-AGとアナンダミドは脂肪組織におけるグルコースの取込みを亢進し、脂肪合成を促進します。 
このように、肥満やメタボリック症候群の治療の目的では内因性カンナビノイドのレベルを低下させる方が良いと言えます。 一方、がんなどの消耗性疾患では、内因性カンナビノイドのレベルを高めることが食欲の亢進と体重増加に有効です。
医療大麻の使用もその適応を間違わなければ、極めて有効です。 

【無脊椎動物にも内因性カンナビノイドシステムが存在する】
以下のような報告があります。

The Endocannabinoid System in Invertebrates.(無脊椎動物の内因性カンナビノイドシステム) Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids. Feb-Mar 2002;66(2-3):353-61.

【要旨】
無脊椎動物におけるカンナビノイド系の役割は何か、そしてそれは人間の内因性カンナビノイド系について何かを明らかにしてくれるのか。
このレビューでは、無脊椎動物におけるカンナビノイドシステムの存在の可能性について解説する。 内因性カンナビノイドシステム、すなわち加水分解酵素やカンナビノイド受容体や内因性カンナビノイドは、無脊椎動物のさまざまな種で確認されている。
これらのシグナル分子は無脊椎動物において、感覚入力の減少、生殖の制御、摂食行動、神経伝達および抗炎症作用など複数の役割を持っているように思われる。
このシステムは非常にうまく機能したので、進化中に保持され、無脊椎動物は内因性カンナビノイドシグナル伝達を研究するためのモデルとして利用できることを提案する。

無脊椎動物でも内因性カンナビノイドノイドが存在し、様々な生理機能の制御に関与している可能性を報告しています。内因性カンナビノイドシグナル伝達の研究に無脊椎動物が実験モデルとして利用できるという提案です。
内因性カンナビノイドシステムの研究はまだ始まったばかりと言えます。
無脊椎動物にも、動物と同じ内因性カンナビノイドが存在することが発見されても、その生物学的役割や意義についてはまだ研究段階ということです。

【トリュフにアナンダミドが含まれる】
キャビアフォアグラと並ぶ世界三大珍味の一つに数えられる高級食材のトリュフにはアナンダミドが含まれることが報告されています。以下のような報告があります。

Truffles contain endocannabinoid metabolic enzymes and anandamide.( トリュフにはエンドカンナビノイド代謝酵素とアナンダミドが含まれている) Phytochemistry. Volume 110, February 2015, Pages 104-110

【要旨】
トリュフは子嚢菌門(Ascomycota phylum)の真菌の子実体であり、高級食材として知られる。トリュフの生殖構造の発達と成熟は、メラニン合成に依存している。
内因性カンナビノイドシステムの主要なメンバーであるアナンダミドは、正常なヒト表皮メラノサイトのメラニン合成に関与しているため、内因性カンナビノイド・システムはトリュフにも存在する可能性があると推測した。
この報告では、成熟段階VIの黒トリュフには、内因性カンナビノイドのほとんどの代謝酵素が存在することを転写レベルと翻訳レベルで示す。
実際、分子生物学と免疫化学的手法により、トリュフには内因性カンナビノイドの主要な代謝酵素が含まれていることが示されたが、内因性カンナビノイドが結合する受容体は発現していなかった。
液体クロマトグラフィー-質量分析により、さまざまな成熟段階(IIIからVI)でトリュフのアナンダミド含有量を測定した。他の内因性カンナビノイドの2-アラキドノイルグリセロールは検出限界以下であった。
私たちの予測できない結果は、アナンダミドと内因性カンナビノイド代謝酵素が内因性カンナビノイドが結合する受容体よりも早く進化したこと、そしてアナンダミドが内因性カンナビノイド受容体を十分に備えたトリュフを食べる動物(truffle eaters)に対する古くからの誘引物質である可能性があることを示唆している。

人間を含め動物は、菌類や線虫類など下等な生物から進化しています。
したがって、動物の生体調節機能に関わる様々なシステムは進化の過程のどこかで発生しています。
例えば、メラニン (melanin) は、ヒトを含む動物、植物、原生動物、また一部の菌類、真正細菌において形成される色素です。
動物において概日リズムを制御するメラトニン(Melatonin)は細菌から植物や動物に広く存在します。進化の過程では生物最古の抗酸化物質として出現し、進化の過程で抗酸化作用以外の様々な作用を持つようになりました。
インスリンとインスリン受容体のインスリンシグナル伝達系も線虫で存在します。
同様に、動物で存在する内因性カンナビノイドシステムも生物の進化の過程で、どこかの段階で発生したと考えられます。

この報告では、黒トリュフは動物に存在する内因性カンナビノイドシステムに必要な代謝酵素の多くを発現し、アナンダミドが存在するという報告です。
アナンダミドが結合する受容体はトリュフにはありませんが、アナンダミドの受容体を持つ人間や動物がトリュフを好む理由としてアナンダミドの存在を示唆しています。

チョコレート中毒」や「チョコレート依存症」という言葉があります。
チョコレートの原料のカカオ(学名:Theobroma cacao)には、カフェインテオブロミンなどの脳内報酬系を活性化して依存の原因になる成分が含まれています。
砂糖が入ったチョコレートの場合は、砂糖自体に脳内報酬系を活性化して依存症の程度を高めます。
チョコレートやココアの原料であるカカオには、アナンダミドと類似の作用を示す成分や、アナンダミドの分解を阻害する成分が入っていることが報告されています。

黒胡椒(Piper nigrumやその仲間のインドナガコショウ(Piper longumには、アナンダミドの活性を高めるguineensineという成分が含まれています。
インドナガコショウ(Piper longum)はコショウの一種で香辛料として使用されていますが、インド伝統医学のアーユルヴェーダや中国医学では病気の治療に古くから利用されています。漢方では「畢撥(ヒハツ)」という名前の生薬として使用されています。

ブロッコリーやお茶などに多く含まれるフラボノイドの一種のケンフェロール(kaempferol)はアナンダミドを分解する酵素の脂肪酸アミドハイドロラーゼ(FAAH)を阻害してアンナドミドの濃度を高める効果があります。

【アナンダミドを経口摂取して効果が出るか】
アナンダミドは刺激に応じて体内でon demandに生成され、脂肪酸アミドハイドロラーゼ(FAAH)で比較的短時間で分解されます。
したがって、FAAHを阻害してアナンダミドの分解を阻止することは、アンダミドの作用を強化します。
FAAHによるアナンダミドの分解を阻害方法としてカンナビジオール(CBD)パルミトイル・エタノールアミド(PEA)があります(707話参照)
チョコレートやココアもアナンダミドの分解を阻害します。
この場合、砂糖は健康にもがん治療にもマイナスになるので、砂糖の入っていないダークチョコレートを食べるのが良いと思います。
トリュフにはアナンダミドが含まれていますが、生体内で薬効を示す量のアナンダミドをトリュフから摂取するには、かなり大量が必要で、購入価格は莫大な金額になるので、現実的ではありません。

そこで、アナンダミドそのものを購入して自分で試してみました。アナンダミドはインターネットで検索すると海外で原料として販売されています。
まず、服用量ですが、文献検索しても人間での投与実験の報告はまだありません。
マウスを使った実験では、アナンダミドを経口投与すると食餌の摂取量が増えるなどの研究結果が報告されています。以下のような報告があります。

The Endocannabinoid Anandamide During Lactation Increases Body Fat Content and CB1 Receptor Levels in Mice Adipose Tissue.(内因性カンナビノイドのアナンダミドの授乳中の投与はマウスの体脂肪量と脂肪組織のCB1受容体量を増やす)Nutr Diabetes. 2015 Jun 22;5(6):e167.

授乳中のマウスにカンナビノイドを経口投与すると体脂肪が増え、脂肪組織のCB1受容体の量も増えるという実験です。
この論文の著者らは、授乳中に内因性カンナビノイドのアナンダミドの投与が、成体マウスの過体重、体脂肪蓄積の増加、インスリン抵抗性につながることをいくつかの報告で示しています。
これらの一連の実験では授乳中のマウスに1日20mg/kg のアナンダミドを経口投与しています。
マウスの20mg/kgは人間では3から5mg/kgに相当します。
標準代謝量は体重の3/4乗(正確には0.751乗)に比例するという法則があり、一般にマウスの体重当たりのエネルギー消費量や薬物の代謝速度は人間の約7倍と言われています。したがって、20mg/kgの7分の1の用量(3mg/kg)が一つの目安となります。(根拠は293話参照)
60kgの人間換算で180mgから300mg程度になります。
ただし、消化管からの吸収率や分解酵素の活性の個人差などでどの程度を摂取すると効果が出るかは試行錯誤になります。
アナンダミドは脂溶性なので、油と一緒に摂取すると消化管からの吸収は良くなると思われます。
アナンダミドは脂肪酸アミドハイドラーゼ(FAAH)で分解されるので、FAAHを阻害するカンナビジオールやパルミトイルエタノールアミドと併用すると効果が出る可能性があります

そこで、アナンダミドを1回100mgくらいから段階的に増やし、さらにカンナビジオールやパルミトイルエタノールアミドやβカリオフィレン(CB2受容体のリガンドとなる食品添加物)などを併用し、ココアやチョコレートや生クリーム(脂肪によって吸収率を高める)も摂取しながら、気分ややる気がどうなるか、自分の体を使って1週間ほど検討しました。

アンンダミドの摂取量を段階的に増やしてみましたが、1日1グラム以上でも何も副作用は起こりません。気分がハイになることはありません。

しかし、数日すると落ち着いた気分になっていることを実感しました。不安感やうつ症状が軽減する効果はあるのかもしれません。
私自身は不安感やうつ症状がないので、アナンダミド補充の効果はあまり実感しないのかもしれませんが、気分が楽になった感じはします。その根拠は、何も変化が無かったり、悪い結果であれば、アナンダミドの摂取をリピートしようとは思いませんが、実際は多少の快感があるので、リピートしていることです。
つまり、摂取する動機を与える脳内報酬系を活性化している可能性はあります。脳内報酬系というのは動物が自分で積極的に行動したくなるモチベーションを与える仕組みです。

身体的には、呼吸が楽になります。深呼吸をすると、肺の奥まで空気が入る感じです。
CB1の活性化は気管支拡張作用があります。医療大麻は気管支喘息の治療に有効であることが報告されています。
アナンダミドを服用してジョギングすると、今まで以上に呼吸が楽な感じがします。
気管支が拡張して呼吸が楽になるのと、アナンダミドはランナーズ・ハイ(長時間走り続けると気分が高揚してくる状態)を引き起こす原因とも言われており、長時間走っても、今までより苦痛が少ない感じです。

アナンダミドを分解する脂肪酸アミドヒドロラーゼ(FAAH)を阻害するカンナビジオールやパルミトイルエタノールアミドとの併用も試してみる価値はありますが、その服用量や摂取のタイミングは試行錯誤になります。まだ、誰もこのような実験や臨床試験を行っていません。
通常はカンナビジオール(CBD)は1日に100から200mg程度の摂取が基準になります。
パルミトイルエタノールアミドは1日に1グラム前後が基準になります。
カンナビジオールもパルミトイルエタノールアミドもサプリメントとして購入できます。

陽気度の高い人種と低い人種があると言われています。その原因としてアナンダミドの分解酵素のFAAHの遺伝子変異による活性の違いがあるという論文があります。
つまり、FAAHの活性が低くなる遺伝子型を持っている人はアナンダミドの濃度が高くなって陽気になりやすく、FAAHの活性が高い人はアナンダミドが少なく、気分が高揚しにくいという考えです。

前述のように肥満者はアナンダミドの血中濃度が高いことが知られており、太った人は陽気な人が多いような気もしますが、アナンダミドが関与しているのかもしれません。

ココアやダークチョコレートやカンナビジオール(CBDオイル)やパルミトイルエアノールアミド(PEA)を併用しながら、アナンダミドの摂取を試してみることは、自己責任になりますが、非常に興味深い治療法です。
その組み合わせと服用量は個人差が大きいので、試行錯誤になります。
副作用は服用量を増やした場合の眠気と胃腸刺激症状くらいです。
生クリームやダークチョコレートや油(大豆油など)などと一緒に摂取すれば胃腸症状は軽減し、消化管からの吸収率は高くなります。

内因性カンナビノイドのアナンダミドは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)やアルツハイマー病などの神経難病の治療に役立つ可能性が報告されています。
自閉症やうつ病や不安障害にも効く可能性があります。
日本では医療大麻THC製剤が使えないので、アナンダミドそのものを使ってカンナビノイド受容体のCB1を活性化する方法は有効かもしれません。
治療法が無いという病気の場合、アナンダミドやパルミトイルエタノールアミドやカンナビジオールやβカリオフィレンを使って、内因性カンナビノイドシステムを活性化するという治療は試してみる価値があるかもしれません。
私自身、この1週間ほど、これらをやや多めに摂取して、自分の体で人体実験しましたが、副作用は今のところありません。
パルミトイルエタノールアミドは米国では医療食として認可され、サプリメントとして販売されています。
パルミトイルエタノールアミドには確実な鎮痛作用と抗炎症作用があります。
カンナビジオールは米国では一部は医薬品扱いですが、日本では食品(サプリメント)扱いで、インターネットなどで販売されています。
βカリオフィレンは多くの植物に含まれる精油成分で、食品添加物として承認されています。

内因性カンナビノイドシステムを効果的に活性化する方法を検討しています。
治療法が無いと言われたときに、内因性カンナビノイドに作用する治療は、自己責任になりますが、可能性がある方法かもしれません。
少なくとも、ジョギングの苦痛は楽になり、気分も楽になる感じです。

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