683)腫瘍循環器学と漢方治療(その2):血栓塞栓症と駆瘀血

図:がん細胞はムチンやシアル酸などの血液凝固を促進する因子を産生して血液凝固因子を活性化する(①)。がん組織内の活性化した単球やマクロファージは組織因子を産生して血液凝固因子を活性化する(②)。活性化した単球やマクロファージは炎症性サイトカインのIL-1, IL-6, TNF-αの産生を亢進する(③)。抗がん剤治療も炎症性サイトカインの産生を亢進する(④)。抗がん剤は血管内皮細胞を傷害する(⑤)。炎症性サイトカインは血管内皮細胞に作用し、組織因子の産生を亢進し血液凝固因子を活性化する(⑥)。活性化した血液凝固因子はトロンビンを活性化し(⑦)、フィブリノゲンからフィブリンを産生して血液を凝固させて血栓を形成する(⑧)。このように、がん患者では血液凝固能が亢進し、血栓ができ易い状況にある。駆瘀血薬は血管内皮細胞や凝固因子に作用して血栓形成を抑制する(⑨)。

683)腫瘍循環器学と漢方治療(その2):血栓塞栓症と駆瘀血

【血液は凝固する】
通常、血液は血管内で固まることはなくスムーズに流れています。しかし、いったん血管が破れると、血液が体外に流れ出てしまわないように止血機構が働いて急速に血液を固めてしまいます。
この止血機構で活躍するのが血液細胞の血小板と血漿蛋白質のフィブリノゲンをはじめとする凝固因子です。
血管が破れると、まず血小板が塊になって血管壁に付着します。凝集した血小板からセロトニンが放出され、血管の収縮を助けて血流が低下します。同時に、血漿中にある凝固因子やカルシウムが作用して血漿中のプロトロンビントロンビンに変換します。
さらに、このトロンビンが可溶性(水に溶ける)のフィブリノゲンを不溶性(水に溶けない)のフィブリンに変換します。
フィブリンは細長い線維状の分子で、集まって網目構造をつくり、そこに赤血球が絡まるようにして凝血塊ができます。破れた血管壁が再生されるまで、この凝血塊が傷を塞いでくれます。血液が固まるまでの時間は通常2~6分です(下図)。

図:血管が破れて出血すると、血液中の血小板が出血部位に集まり、血小板血栓が形成される(一次止血)。血液中の凝固因子が活性化されて網目状のフィブリンができる。フィブリン網が血小板血栓と一緒になって血栓として傷口を塞ぐ(二次止血)。

このように、血液が凝固する反応は、ある凝固因子を活性化し、活性化された凝固因子がまた別の凝固因子を活性するという、いくつかの反応が次々と連鎖的に起こります。血管破綻という引き金により凝固因子が連鎖反応のように次々と活性化されるのです(下図)。

図:止血の過程には、12種類の凝固因子が関与している。第Ⅳ因子はカルシウムイオンで、それ以外はタンパク質。これらの凝固因子は次々に反応を引き起こして、最後にフィブリノゲンからフィブリンの網の膜を作って血小板血栓を覆い固めて、二次止血が終了することになる。

【がん患者は血液凝固能が亢進している】
元来、正常な血管内では、血管内皮の抗血栓性や血液中の抗凝固因子のはたらきにより、血液は凝固しないような仕組みをもっています。
しかし、がん患者では血液凝固能が亢進し,血栓塞栓症を起こしやすくなっていることが知られています。
がん患者は非がん患者に比べて、静脈血栓症の発生率が約6倍という報告があります。がんで死亡した患者の50%くらいに剖検で静脈血栓症が見つかるという報告もあります。
フランスの著明な神経内科医のトルーソー(Armand Trousseau)が1865年に悪性腫瘍に伴う血液凝固亢進により脳卒中症状(多発脳梗塞)を生じる病態を報告し、Trousseau 症候群と呼ばれています。
原因となる悪性腫瘍は固形がんがほとんどで,そのなかでも婦人科腫瘍が多く,ほかに肺がん,消化器がん,腎臓がん,前立腺がんなどが知られています。
組織学的には腺がん,特にムチン産生性腺がんが多いと報告されています。

がん細胞が血液凝固系を活性化させる機序としては
1)がん細胞が凝固促進物質を産生・放出したり、腫瘍細胞膜表面に露呈する
2)がん細胞の壊死により、凝固促進物質が放出される
3)がん細胞やマクロファージなどの炎症細胞がサイトカイン(IL-1,IL-6, TNF-αなど)を誘導し,血管内皮細胞における組織因子の産生を亢進させる
などが考えられます。

凝固促進物質としては組織因子(tissue factor)が最も重要です。
ヒト組織因子は分子量47kDの糖蛋白質で、脂質と複合体を形成して生理作用を発現する膜蛋白質として存在します。
組織因子は,血液凝固VII因子または活性化血液凝固VII因子と複合体を形成して血液凝固X因子や血液凝固IX因子を活性化し、血液凝固反応の開始機構において重要な役割を担っています。
生体内では、多くの組織に広く分布していますが、血管内皮と末梢血液細胞では認められず、血液は組織因子から隔離された状態にあります。
一方、出血時には血管外の常在性の組織因子が止血機序のトリガーとして作用します。
血管内皮細胞と単球・マクロファージはエンドトキシン、IL-1、TNFなどの刺激によって細胞膜表面に組織因子を発現します。
また、がん細胞や白血病細胞なども大量の組織因子を持っています。
がん細胞からは,組織因子のみならず,第X因子を直接活性化するプロコアグラントも放出されます。
さらに、抗がん剤治療は、血管内皮細胞のダメージや炎症性サイトカインの産生を亢進して、血液凝固能の亢進や血栓形成を亢進します(下図)。

図:がん細胞はムチンやシアル酸などの血液凝固を促進する因子を産生して血液凝固因子を活性化する(①)。がん組織内の活性化した単球やマクロファージは組織因子を産生して血液凝固因子を活性化する(②)。活性化した単球やマクロファージは炎症性サイトカインのIL-1, IL-6, TNF-αの産生を亢進する(③)。抗がん剤治療も炎症性サイトカインの産生を亢進する(④)。抗がん剤は血管内皮細胞を傷害する(⑤)。炎症性サイトカインは血管内皮細胞に作用し、組織因子の産生を亢進し血液凝固因子を活性化する(⑥)。活性化した血液凝固因子はトロンビンを活性化し(⑦)、フィブリノゲンからフィブリンを産生して血液を凝固させて血栓を形成する(⑧)。このように、がん患者では血液凝固能が亢進し、血栓ができ易い状況にある。

がん症例における血栓塞栓症増加の原因の1つに抗がん剤の進歩とその使用量の増加が挙げられます。
血栓塞栓症を多く併発する代表的薬剤として殺細胞性抗がん剤ではプラチナ製剤(シスプラチン)やタキサン系抗がん剤が知られています。
分子標的薬では多くの薬剤で血栓塞栓症を合併しますが、特に血管新生阻害薬や多標的チロシンキナーゼ阻害薬に多く合併します。血管新生阻害薬は、血管内皮細胞を標的としており血管内皮障害とともに血栓症を発症します。
また、多発性骨髄腫症は疾患そのものが血栓塞栓症を多く合併する上に,治療薬である免疫調節薬(サリドマイドやレナリドマイド)やプロテアソーム阻害薬にステロイド剤を併用す ることでその頻度がさらに増加します。
がん患者には播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)の合 併も多いことが知られています。
播種性血管内凝固症候群(DIC)は、血液凝固反応系の過剰な活性化が生ずるため、全身の細小血管内で微小血栓が多発して臓器不全や出血傾向のみられる予後不良の病気です。
さらに、がん患者における血栓形成の亢進は 腫瘍の増殖・浸潤・転移にも影響を及ぼすことが指摘されています。
がん細胞は種々の血小板凝集物質を放出し、血栓形成や凝固亢進状態を促進し、がん細胞自らを巻き込んだ形で血栓を形成することにより、血行性転移を助長しています。

【がん関連静脈血栓塞栓症は患者の予後を悪くする】
がん症例の50%以上、さらに転移を有するがん症例の90%以上が凝固異常を有していると言われています。
がん患者では、前述のように腫瘍組織からの凝固促進因子の分泌による凝固能亢進状態に加えて、手術、化学療法薬、放射線治療、血管新生阻害薬、中心静脈カテーテル留置、安静仰臥などさまざまな要因により、静脈血栓塞栓症の発症リスクが上昇しています。
患者の活動性低下やがんによる静脈圧排などでの静脈うっ滞、がんの静脈への浸潤、化学療法や中心静脈カテーテル留置などによる血管壁への影響が血栓形成を促進します。
静脈血栓塞栓症はがん患者の4~20%に合併し、そのリスクは非がん患者の4~7倍に上ると報告されています。
静脈血栓塞栓症合併がん患者の予後は不良で、死亡率は静脈血栓塞栓症非合併がん患者の2倍以上に達すると報告されています。
近年、このようながん関連静脈血栓塞栓症に対して、新しい抗凝固薬の登場とともにがん専門医と循環器専門医が共同して診療する機会が増加しています。
近年、がん関連静脈血栓塞栓症は増加傾向にあります。
非がん患者における静脈血栓塞栓症の発症率は横ばいであるのに対し、がん患者では増加しているとの報告があります。その理由として、がん治療の進歩に伴うがんサバイバーの増加により経過中にがん関連静脈血栓塞栓症を発症する症例が増えたことが挙げられます。

図:腫瘍組織からの凝固促進因子の分泌による凝固能亢進状態に加えて、手術、化学療法薬、放射線治療、血管新生阻害薬、中心静脈カテーテル留置、安静仰臥などさまざまな要因により、静脈血栓塞栓症の発症リスクが上昇している(①)。この「がん関連静脈血栓塞栓症」は固形がん患者の2〜8%に合併し、近年、増加傾向にある。血栓が剥離し(②)、血流に乗って移動し(③)、肺塞栓症を引き起こすと致命的になる場合もある(④)。静脈血栓塞栓症合併がん患者の予後は不良で、死亡率は静脈血栓塞栓症非合併がん患者の2倍以上に達する。がんサバイバーにおいても、静脈血栓塞栓症の長期的リスクは増加する。

【がんサバイバーは静脈血栓症の発症率が高い】
がんから回復した患者(がんサバイバー)に、がん治療からかなり時期を経て静脈血栓症が多発することが指摘されています。
代表的ながん20種について英国の権威あるデータベースであるUK Clinical Practice Research Datalinkを用い、がんサバイバー約10万人と、年齢・性別をマッチさせた約52万人の対照(コントロール)において心血管疾患の発生を25年にわたって追跡した大規模疫学研究が報告されています。

Medium and long-term risks of specific cardiovascular diseases in survivors of 20 adult cancers: a population-based cohort study using multiple linked UK electronic health records databases(20種の成人がんの生存者における特定の心血管疾患の中長期リスク:複数のリンクされた英国の電子健康記録データベースを使用した集団ベースのコホート研究)Lancet. 2019 Sep 21; 394(10203): 1041–1054.

過去数十年で、がんの生存率は顕著に改善してきましたが、サバイバーの長期的な心血管リスクについては懸念が指摘されていますが、さまざまながんサバイバーにおける心血管疾患の予防や管理に関するエビデンスが不足していました。
この研究で、血液、食道、肺、腎、卵巣等のがんサバイバーで心不全や心筋症のリスクが増加することが明らかになっています。
静脈血栓塞栓症のリスクは、対照群と比較して、20種類のがんのうち18種のサバイバー群で増加していました。補正ハザード比(aHR)の範囲は、前立腺がん患者の1.72(95%信頼区間[CI]:1.57~1.89)から、膵臓がん患者の9.72(95%CI:5.50~17.18)にわたっていました。aHRは経時的に減少したものの、診断後5年以上増加が続いていました。

【活血化瘀法とは】
がん関連静脈血栓塞栓症では、進行がんが多く、出血リスクも高いため、抗凝固療法の管理も難しいという問題があります。
進行がん患者の静脈血栓塞栓症の予防や治療において、漢方治療の駆瘀血薬田七人参の利用は有効です。
特に田七人参は止血作用と抗凝固作用と駆瘀血作用の薬効を持ちます。これに駆瘀血薬を組み合わせるとがん関連静脈血栓塞栓症の予防と治療に有効です。
組織の血液循環を促進して瘀血の状態を解消する治法を「活血化瘀法」といいます。
生薬の中には、血液凝固や末梢循環に作用する生理活性物質が多数見つかっており、抗酸化作用の強い成分も多く含まれています。このように血液の質を改善(浄化)し流れを良くする(血行促進)する生薬を「駆瘀血薬(くおけつやく)」あるいは「活血化瘀薬」と呼びます。

作用機序としては、末梢血管の拡張、血小板凝集の抑制、抗酸化・フリーラジカル消去、赤血球変形能増強、血液粘度低下などの作用が指摘されています。
例えば、牡丹皮の主成分ペオノール(paeonol)や桂皮のケイヒアルデヒド(cinnamic aldehyde)はトロンボキサンA2の産生を抑制したり活性を阻害することにより、強力な血小板凝集抑制作用を示します。
川芎などのセリ科植物の成分であるテトラメチルピラジンフェラル酸にも血小板凝集を抑える作用が報告されています。一般に香味野菜には血栓を予防する効果が強いことが知られており、生薬の中にも血栓形成を抑制するものは多く知られています。
血中のコレステロールや中性脂肪が高い状態(高脂血症)では血液の粘稠度が高まります。赤血球膜の柔軟性が低下すると赤血球変形能が低下して毛細血管での血液の流れが停滞します。桂枝茯苓丸当帰芍薬散桃核承気湯などの代表的な駆瘀血剤には血液粘度低下作用や赤血球変形能増強作用が科学的研究で証明されています。
このように生薬の微小循環改善(駆瘀血)作用のメカニズムには数多くのものが想定され、その薬理作用が科学的にも証明されてきています。
がんの漢方治療で常用される駆瘀血薬として当帰(とうき)・赤芍(せきしゃく)・川芎(せんきゅう)・延胡索(えんごさく)・欝金(うこん)・莪朮(がじゅつ)・三稜(さんりょう)・紅花(こうか)・桃仁(とうにん)・牡丹皮(ぼたんぴ)・丹参(たんじん)・益母草(やくもそう)、地竜(じりゅう)、大黄(だいおう)、乳香(にゅうこう)、没薬(もつやく)などがあります。

図:漢方治療においては、補気や補血などの効能に駆瘀血薬を適切に併用すると、体の治癒力を高める上で役立つ。

それぞれの駆瘀血薬には特徴があり、それらを理解して使い分けると種々のがん病態で効果を上げることができます。
当帰(とうき)は補血作用を持つ駆瘀血薬で、肉芽形成促進作用があるので、難治性の皮膚潰瘍などに黄耆(おうぎ)とともに使用します。
川芎(せんきゅう)は気と血の両方の流れを良くし、憂うつ・抑うつの症状を改善し、気や血の滞りに起因する様々な痛みに良く効きます。
赤芍(せきしゃく)は抗炎症作用があるので炎症に伴う血液循環障害の治療に使用します。
延胡索(えんごさく)は鎮痛効果をもち、さまざまな疼痛を緩和します。
欝金(うこん)はクルクミンなどの成分に抗腫瘍効果やがん予防効果が指摘されています。
莪朮(がじゅつ)三稜(さんりょう)は強い駆瘀血の作用により血腫や凝血塊などを吸収して除きます。がんに対する抑制作用があり、両者は一緒に使用されています。
紅花(こうか)は少量(3~6g)では穏やかな活血養血作用を有し、十全大補湯などの補血剤に併用することによって補血の作用を強めます。多めに用いると強力な活血化瘀作用を発揮するので、出血中の場合は少なめに用いないと出血を助長する恐れがあるので注意が必要です。
桃仁(とうにん)は豊富な油性成分を含み、腸管内を潤滑にして便通を良くします。炎症による充血によって疼痛を呈する場合に効果があります。桃仁は紅花と相性が良くしばしば一緒に配合されます。
牡丹皮(ぼたんぴ)は炎症に付随する微小循環障害によく用いられます。
丹参(たんじん)は血管拡張作用や血液循環改善作用があり、抗炎症作用や抗酸化作用も強く、慢性肝炎や心筋梗塞の治療にも使用されています。肝硬変における線維化を抑制し、がん細胞の増殖を抑える作用なども報告されています。薬性が「寒」なので、熱性の病態に使用されます。また、紅花と同様に、瘀血を取り除き、血の新生を促す作用があります。「一味の丹参の効は、四物湯に匹敵する」といわれ、丹参は「一味四物湯」と呼ばれることがあります。
益母草(やくもそう)も薬性が寒で、熱性の瘀血に使用されます。婦人科疾患に多用され、乳腺炎などの炎症にも使われます。利尿作用があり、むくみを改善する効果があります。
地竜(じりゅう)は血管内外の凝血塊や血腫を溶解して除き、微小循環を改善します。
大黄(だいおう)は腸蠕動を刺激して瀉下通便の作用をもたらし、腸管内の腐敗物を除去します。組織の微小循環改善に働くとともに、抗炎症・解熱・化膿抑制の効果(清熱解毒)を示します。鎮静作用があり、のぼせ・いらいら・不眠などを改善します。
疼痛に対しては止痛の効果に優れる川芎・欝金・莪朮・乳香・没薬・延胡索などを選びます。頭痛など身体上部の痛みには川芎、腰や膝など下部の痛みには牛膝をよく用います。
炎症や発熱がある時は、薬性が「寒」の丹参・益母草や、抗炎症作用のある欝金・牡丹皮・赤芍のような駆瘀血薬に、清熱作用のある黄連・黄芩・山梔子などを併用します。便秘がある時は、大黄を使用します。
打撲などによる内出血の場合は、乳香・没薬・蘇木などを用います。田七人参も打撲による内出血に有効です。

【駆瘀血薬はがん治療の効果を高める】
駆瘀血薬はがん患者に多い静脈血栓症の予防だけでなく、がん治療の効果を高めます。
瘀血はがん患者の病態の基礎として多く認められます。
がん組織が産生する生理活性物質や老廃物、炎症や酸化ストレス、抗がん剤やステロイド剤の連用など、多くの要因によってがん患者の血液は高粘稠・高凝固状態になり、瘀血病態が引き起こされています。瘀血病態を改善することにより、組織の新陳代謝が高まり免疫力や治癒力が向上します。腫瘍患部に抗がん薬物を到達させ、免疫細胞によるがん細胞の攻撃力を促進します。

放射線治療では、低酸素状態でがん細胞の放射線抵抗性が著しく増大するため、低酸素のがん細胞の放射線感受性を高めることが大切です。丹参などの駆瘀血作用の強い生薬を併用することにより、温熱療法や放射線治療の効果を高めることが報告されています。中国では、駆瘀血薬の川芎紅花を含む注射液を使用することにより、治療に必要な放射線線量を減らせることが報告されています。
駆瘀血薬を抗がん剤治療と併用することによって、抗がん剤の治療効果が高まることも報告されています。また、障害された正常組織の修復を促進するためにも、組織の微小循環を良好にすることは意義があります。
組織の血液循環や新陳代謝を良くすることは、治癒力や免疫力を高めることによってがんを予防する効果も期待できます。漢方治療に使われる駆瘀血薬は、西洋医学のがん治療にない効果を発揮します。

がん患者に血栓症が多いことや、抗がん剤治療が血栓症の発症を促進することが明らかになっているため、予防的に抗凝固剤をがん治療に併用する試みが行われています。
低用量のワーファリンや低分子のヘパリンやアスピリンなどを用いた臨床試験では、血栓症の予防効果が報告されています。ある特定の凝固因子の阻害剤の開発も行われています。抗がん剤治療中や進行がんにおいて抗凝固療法は意味があるようです。
駆瘀血薬を利用した漢方薬は、副作用が少なく、体力や抵抗力を高める効果もあるので、抗がん剤治療中や進行がんの血栓症予防の目的でも漢方治療を取り入れる価値はあると思います。

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