がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
32)漢方治療の遂次修正理論
図:西洋医学では普遍性と再現性に基づいた治療法を、ガイドラインとして確立することを目指している。一方、漢方医学では個別性や偶然性も重視しながら、試行錯誤や遂時修正する方法論も利用している。
32)漢方治療の遂次修正理論
現代医学は、科学的合理的に割り切って、例えば、二重盲検試験で効果がはっきり証明されなければ、その薬は治療に使用しないという立場に立ち、したがって、再現性と普遍性の証明された治療法がなければ、薬は何も使用しないという態度をとります。
漢方治療は何らかの効果が期待できる可能性があれば、とにかく漢方薬を投与して治療してみようとします。この時の一つの考え方として、投与した薬の反応をみながら、薬や治療法を耐えず(遂時)修正していこうという方法があります。同じ病気であっても、病人によって最も効果のある治療法は異なります。漢方の診断法により、合った治療法を絞り込むことはできますが、細かい修正は実際の治療を行なっているうちに行なうべきものと考えています。
現代医学は、病気に効く薬を探すのが大きな目的ですが、漢方医学では薬の使い方を追及するという態度が大きいといわれています。漢方に熟練した医師なら、体質や症状(証)を目標として漢方処方を充分に使用できるはずですが、実際問題としては、その症状の組み合わせや、その条件、使用目標などは、各学派や個人によって異なり、明確に一致していないことが多いのも事実です。したがって、医師の主観や経験による部分が大きいために、診断、治療の成否が不安定であり、効果判定もはっきりしない欠点があります。実際の治療としては、試行錯誤を繰り返して、ぴったりと適応した薬方を探していることのほうが多いのが実情なのです。
かなり曖昧な治療法と捉えることもできますが、生体の反応が理論的に予測できないことの方が多く、投与した薬の反応をみながらより合った薬を探していく、という試行錯誤のアプローチは科学的根拠に依存する理論医学では受け入れられませんが、実地医療では有効なことが多いといえます。その薬が、同じ病気の人の10%にしか効果のないものでも、効いた人にとっては有効や治療法となるという考え方です。
西洋医学では普遍性と再現性を兼ね備えた治療でなければ、科学的に有効性が証明されたことにはなりません。ある病気が漢方治療で治っても、その方法の有効性が他の患者に普遍的に再現できなければ、それは偶然効いたのだと考えて、その有効性を認めようとしません。しかし、この考え方は明らかに間違いです。がんに個性があり、体質に個体差がある以上、全てのがん患者に普遍的に再現できなくても、個別に対応して有効であればその治療法は認められるべきです。
漢方治療は、患者とのコンタクトのなかで試行錯誤しながら、最も適した治療法を見つけていく過程でもあります。薬に対する反応性や治療効果をみながら治療法を修正していくという方法論は、遺伝情報だけで規定されない諸臓器機能の失調を治していく上で極めて有用な方法論といえます。
(文責:福田一典)
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