33)腫瘍休眠療法としての漢方治療

図:生薬は、がん細胞と生体の双方からがんの静止や休眠を誘導させる成分の宝庫であるため、がん休眠療法に有効な手段となる。

33)腫瘍休眠療法としての漢方治療

がん治療の一つの考え方として、Tumor Dormancy (腫瘍休眠)という概念が討論されています。Dormancyというのは休眠とか休止という意味で、がん細胞の増殖を停止させて腫瘍を休眠状態にもって行こうという治療法で、「がんとの共存」を目指す手段といえます。
がんの縮小効果(奏功率)の高い抗がん剤治療が必ずしも延命に結びついていないため、
がんを「小さく」できなくても「大きくしない」あるいは「進行を遅らせる」方法もがん治療として価値があるという意見です。

休眠療法の方法はまだ研究段階ですが、方法としては、
血管新生阻害剤増殖因子の抗体低用量の抗がん剤投与免疫療法などが検討されています。健康食品を組み合わせてがん細胞の増殖を抑える方法もあります。
漢方治療は、体力や免疫力を高める効果、がん細胞の増殖を抑える効果、治癒力を低下させる悪液質を改善する効果などがあり、がんの休眠療法に有効な方法を持っています。

西洋医学が目指す休眠療法の対象はあくまでがん細胞の増殖を抑制することであり、生体側の免疫力や抵抗力を高める視点については、あまり議論されていません。
例えば、術後補助化学療法は主に臨床的に検出されない微小転移を対象にしています。微小転移はそのままであれば、その存在自体はなんら宿主に悪影響を及ぼしません。したがって免疫力を犠牲にしてまで化学療法を強力に行なうという考えは必ずしも正しいとは言えません。がんの縮小のみを考えて高用量の薬剤を投与すると免疫能が低下したり悪液質に陥るなどの結果からがんの再燃が早く起こり、延命効果がなくなることが指摘されています。

がんの転移や再発の抑制とは、微小転移をできるだけ長期間微小転移巣のままにしておくことにあります。これには腫瘍縮小効果を主眼とした強力な抗がん剤投与よりは、むしろ
免疫能を障害しない範囲でがん細胞の増殖を抑制することを重視したほうがより延命効果があることが最近の研究で指摘されています。つまり、免疫力を犠牲にしないレベルの抗がん剤投与や、活性化リンパ球療法のような免疫力を高める治療法の有効性が指摘されるようになっています。

徹底的にがん細胞を攻撃することが必ずしも最善で無い場合もあります。
再発予防のために強い抗がん剤を使っても、がん細胞がかえって悪化したり、体の免疫力が低下して、がんの再発を促進したと思われる場合も多く経験します。また、進行がんの場合、抗がん剤が効く場合にはそれなりに延命効果がありますが、強い副作用によって体力や抵抗力が落ちて死期を早めることもあります。そのようなジレンマから、
がん組織を小さくしなくても、大きくしないことを目標とする「 がんの休眠療法(Tumor Dormancy Therapy) 」なるものが注目されてきたのです。

漢方治療で使われる生薬の中には、がん細胞の増殖を抑制する成分、免疫機構を活性化する成分、がん進展の促進要因である酸化ストレスを軽減させる成分などが多数含まれており、がん細胞と生体の双方からがんの静止や休眠を誘導させる手段の一つとして極めて有用であることが指摘されています(図)。つまり、漢方薬はがん休眠療法に有効な成分の宝庫とも言えるのです。

漢方治療に、血管新生阻害剤COX-2阻害剤抗がん作用のあるサプリメントなどを組み合わせれば、さらに効果的な体にやさしいがんの休眠療法が実践できます。

(文責:福田一典)

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