がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
286)アシュワガンダとマンゴスチン果皮の抗がん作用
図:民間療法や伝統医学で利用されている植物(薬草やハーブなど)とその成分の抗がん作用が検討されている。最近の新聞記事に、「アシュワガンダ葉に含まれるウィザノン」と「マンゴスチン果皮に含まれるキサントン」の抗腫瘍効果に関する研究が紹介されていた。これらの研究はまだ動物実験レベルであるため、人間のがんに効果があるかどうかは不明である。しかし、古くから病気の治療に使われている薬草であるため、人間での抗腫瘍効果も期待できる可能性は高い。
286)アシュワガンダとマンゴスチン果皮の抗がん作用
【最近の新聞記事から】
アシュワガンダの葉やマンゴスチンの果皮に含まれる成分に抗がん作用があることは、以前から報告されています。銀座東京クリニックでも数年前から、アシュワガンダの葉や根やマンゴスチン果皮を漢方薬に使用したり、マンゴスチン果皮の抗がん成分のキサントンを使ったサプリメントを作成して、がん治療に使っています。(アシュワガンダやマンゴスチン果皮を用いた漢方治療については224話参照)
アシュワガンダの抗がん作用については182話(2010/5/22)、マンゴスチン果皮の抗がん作用については83話(2008/7/5)で紹介しています。マンゴスチン果皮に含まれるキサントンのサプリメントは6年くらい前からがん治療に使っています(商品についてはこちらへ)
さて、先週と今週の新聞に、アシュワガンダの葉とマンゴスチン果皮の抗がん作用に関する記事が載っていました。
産經新聞(2012年5月22日) がん細胞の増殖抑えるインドの薬草 産総研が効果確認 インドで珍重されてきた薬草「アシュワガンダ」にがん細胞の増殖を抑え、老化を防ぐ効果のあることが独立行政法人・産業技術総合研究所の動物実験などで分かった。 アシュワガンダはインドで滋養強壮や長寿薬として効果があるとされ、アシュワガンダは疲労回復の健康食品などとして海外でも市販されている。ナス科の植物で平地に分布し、インドのほかネパールやパキスタンにも植生する。 産総研は科学的な検証がないアシュワガンダの有効作用に注目。その葉をアルコールで抽出した成分が、正常細胞とがん細胞に与える影響を動物実験などで調査したところ、がん細胞を死滅させ、正常細胞の老化を防ぐ効果があった。さらに化学的な分析を行った結果、ウィザノンと呼ばれる物質が「p53」というガン抑制遺伝子を活性化させ、がん細胞の増殖抑制や正常細胞の老化防止を導くことが分かった。 産総研では、アルツハイマーやパーキンソン病へのアシュワガンダの効果についても研究を進めており、「健康補助食品や老化防止の化粧品の開発などにつなぎたい」としている。 |
読売新聞(2012年5月28日) マンゴスチンにがん抑制効果…岐阜大教授ら立証 東南アジア原産の果物「マンゴスチン」の果皮に含まれるポリフェノールの一種「キサントン」に、がん抑制効果があることを、岐阜薬科大学の飯沼宗和教授(生薬学)と岐阜大学大学院の赤尾幸博教授(腫瘍(しゅよう)医学)が動物実験などで立証し、がんの補完代替医療に役立つ健康食品として実用化した。 マンゴスチンの厚い果皮は、東南アジア地域では古くから伝承薬として用いられ、抗菌や抗カビ作用があることで知られる。両教授は、果皮の主成分キサントンを抽出し、培養したヒトのがん細胞と大腸ポリープを発症したラットを使い、その効果を確かめる実験を行った。 その結果、ヒトのがん細胞は、キサントンを低濃度で加えると48時間後に6~7割が死滅。ラットでは、0・05%の非常に薄い濃度でエサに混ぜて食べさせると、食べない場合と比べてポリープの数が約半数に減ることが分かった。いずれも副作用はなかった。 両教授は、キサントンの成分だけを抽出する方法も開発し、特許を取得。県や企業、病院などと連携し、キサントンの研究会を発足させ、がん治療を補完する健康食品(錠剤)として、現在、薬局や医療機関での普及を図っている。 赤尾教授は「キサントンには抗酸化や免疫活性化の作用もあり、がん予防や再発を抑えるなどの機能性食品として優れている」と話している。 |
このように新聞に記事がでると、「がんの特効薬が発見された」と受け止める人も多いようです。アシュワガンダもマンゴスチンは当クリニックでは数年前から使用していますが、問合せは月に1件あるか無いかという状況でしたが、これらの記事が出てからメールや電話での問合せが1週間で10件以上ありました。中には、これらの抗がん作用が極めてすばらしいものだと思い込んでいる方もおられるようです。しかし、アシュワガンダ葉のウィザノンもマンゴスチン果皮のキサントンも、まだ人間での有効性が証明されているわけではないという点を理解しておく必要があります。このような「ある食品や薬草やそれらの成分が動物実験でがんを縮小した」という類いの新聞記事は1年間に何十もあります。しかし、それらの中で、将来的に人間で有効性が証明されるものは、ごく一部です。
ただし、アシュワガンダ葉もマンゴスチン果皮も、伝統医療や民間療法として長く利用され、経験的に薬効が認められているので、動物実験で抗がん作用が確認されたのであれば、人間でもがんに効く可能性は十分に期待できます。私自身は数年前からがんの漢方治療やサプリメントにアシュワガンダ葉とマンゴスチン果皮を多く使ってきましたが、それなりの効果を実感しています。
【アシュワガンダの抗がん作用】
アシュワガンダ(Ashwagandha)は、インドやネパールや中東などの乾燥地帯に自生するナス科の常緑樹で、高さは1~2mほどに成長し、5cm~10cmほどの葉を1年中付けています。学名をWithania somnifera Dunalといいます。
約5000年の歴史を誇るインドの伝統医学アーユルヴェーダ(Ayurveda)では、強壮・強精薬や若返り薬として用いられてきました。様々な効能があり「アーユルヴェーダの女王(Qeen of Ayurveda)」とも呼ばれています。アシュワガンダとはサンスクリット(インドの古典語)で馬という意味を持ち、これを摂取すると馬のような力が得られるということからアシュワガンダと呼ばれるようになりました。アシュワガンダの根は朝鮮人参と同じような滋養強壮作用があることから、インド人参(Indian Ginseng)とも呼ばれています。
体力と抵抗力の増強、若返りや寿命を延ばす効果が経験的に知られていますが、動物や人間での研究でもそのような効果が確かめられています。50~59歳の健常なボランティアにアシュワガンダの根のエキス粉末を1日3g、1年間服用させると、赤血球数とヘモグロビン値が著明に増加し、毛髪のメラニンが増え、71.4%で性機能が向上したという報告があります。
マウスに高麗人参かアシュワガンダの根の粉末を7日間経口投与した後、マウスを水の中に入れて溺れるまでの時間を測定する強制水泳の実験では、溺れるまでの時間は、コントロール群が163分、アシュワガンダ投与群が474分、高麗人参投与群が536分で、アシュワガンダや高麗人参を数日間服用すると持久力が著明に高まるという実験結果が報告されています。動物実験での、体重や筋肉の増加作用では、アシュワガンダは高麗人参よりも効果が高いという報告があります。アシュワガンダ由来のアルカロイドは、興奮しすぎた神経を静めてリラックスさせる効果や、ストレスに対する精神的な安定を高める効果があります。
がん治療においては、手術や抗がん剤や放射線などの治療によって多大な身体的ダメージを受け、さらに、不安や心配などによる精神的ストレスの負担が増えるので、心身の適応能力や抵抗力を高めるアシュワガンダは役に立ちます。
近年の科学的研究によって、アシュワガンダの根や葉には、抗酸化作用、抗炎症作用、免疫調整作用、抗ストレス作用、滋養強壮作用、造血能増強作用などを示す薬効成分が多数見つかっています。さらに、がん予防効果や抗がん作用も報告され、がん治療への利用も言及されるようになりました。
動物実験の研究ですが、アシュワガンダが抗がん剤や放射線治療の効果を高め、副作用を軽減することや、がん細胞を死滅させる直接的な抗がん作用が報告されています。
例えば、マウスを使った実験で、アシュワガンダの熱水エキスを投与することによってpaclitaxel(商品名:タキソール)によって引き起こされる白血球減少や末梢神経障害を軽減できることが報告されています。その他の動物実験でも、抗がん剤による骨髄抑制(造血機能の低下)を軽減する効果が報告されています。その作用機序として、造血幹細胞の増殖を促進する効果が指摘されています。
アシュワガンダの根の粉末を投与すると、免疫力を増強できることがマウスを使った実験で示されています。がん細胞の放射線感受性を高める効果や、アシュワガンダに含まれているWithaferin Aは強力な血管新生阻害作用やがん細胞のアポトーシス誘導作用を持っていることが報告されています。
正常細胞には毒性を示さないで、乳がん、脳腫瘍、大腸がん、肺がんなどのがん細胞の増殖を抑制することが報告されています。アシュワガンダは体力を高め、ストレスに対する抵抗性を高め、正常細胞をダメージから保護する作用があるので、がん治療の副作用軽減に役立ちます。
関節痛など痛みの軽減にも強い効果を持つため、関節痛やしびれなどの副作用の軽減にも効果が期待できます。
抗炎症作用や体重や筋肉を増やす効果があるので、がん性悪液質における体力や筋肉の消耗を防ぐ効果も期待できます。抗炎症作用の作用機序として、シクロオキシゲナーゼ阻害作用や炎症性サイトカインの産生抑制作用が報告されています。アシュワガンダの抗炎症作用はステロイドホルモンに匹敵するという報告もあります。
このような抗炎症、抗酸化、血管新生阻害、免疫増強などの作用は、がんの発生や再発の予防に効果が期待できます。
上記の新聞記事の研究を行っている研究グループは、アシュワガンダの葉の抽出物から、抗がん作用と抗老化作用の活性成分としてウィザノン(Withanone)を同定し、その作用機序について報告しています。ウィザノンは培養したがん細胞にp53(がん抑制遺伝子の一つ)を介した経路を活性化して、細胞死(アポトーシス)を誘導します。しかし、正常細胞に対しては、蛋白質合成を促進し、酸化ストレスを軽減し、細胞をダメージから保護する効果があることを報告しています。つまり、ウィザノンは抗がん剤治療や放射線治療の副作用を軽減し、同時に抗腫瘍効果を高める効果が期待できます。
Withanone以外にも、Withaferin A、Withaferinil、WithamolidなどWithanolides(ウィタノライド類)と呼ばれるステロイドラクトンに様々な抗がん作用が報告されています。
ヒト白血病細胞を使った実験で、withaferin Aはがん細胞に活性酸素を発生させてミトコンドリアの機能を破壊しアポトーシスを誘導する作用が報告されています。また、マウスを使った実験で、withaferinAが乳がん細胞の増殖を抑制する効果が報告されています。
マウスを使った実験で、アシュワガンダ葉抽出物やウィザノンの経口投与で移植腫瘍の縮小が認められていますので、漢方薬やお茶などとしてアシュワガンダ葉の熱水抽出物を飲用することは有効と言えます。
アシュワダンダ葉抽出エキスは、正常細胞には機能を高めて寿命を延ばし、がん細胞には増殖を抑えて死滅させるということで、がん治療だけでなく、美容や抗老化にも効果が期待できるということです。
【マンゴスチン果皮に含まれるキサントンの抗がん作用】
マンゴスチンはマレー半島を原産地とするオトギリソウ科の樹木で、学名はガルシニア・マンゴスターナ(Garcinia Mangostana)です。
マンゴスチンの果実は、直径が6cmくらいでみかんの大きさです。果皮は黒紫色で1cmくらいの厚さがあり、その中の果肉は、象牙色の透き通るような白色で、みかんのように4~8個の房に分かれています。この果肉にはほどよい酸味と甘味があり、なめらかな口当たりと上品な芳香を持ち、アジアでは「フルーツの女王(the queen of fruits)」、カリブ諸島では「神の食事(Food of the Gods)」という異名を持っています。
東南アジア地域(インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピンなど)では古くからマンゴスチンの果皮が民間薬として、感染症(赤痢やマラリアや寄生虫など)、皮膚疾患(湿疹や傷の化膿など)、消化器疾患(下痢や消化不良など)、炎症性疾患など多くの病気の治療に利用されていました。それは、マンゴスチン果皮には、殺菌作用・解熱作用・抗炎症作用・抗酸化作用・滋養強壮作用などの薬効があるからです。
これらの効果は、マンゴスチン果皮に多く含まれるキサントン(Xanthones)と言う成分の薬理作用によります。マンゴスチンの果実のうち食べられる果肉は果実全体の4分の1程度で、残り4分の3は、黒紫色の果皮です。この黒紫色の色素がキサントンです。
キサントンはポリフェノールの一種で、自然界には200種類以上のキサントンが見つかっています。そのうち約50種類程度のキサントンがマンゴスチン果皮から見つかっています。
キサントンは他に類をみないほど強力な抗酸化作用をもっており、さらに、抗菌・殺菌作用、抗ウイルス作用、抗炎症作用、シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)阻害作用、がん予防作用、抗腫瘍作用などが報告されています。
発がんや炎症の悪化に関連するNF-κBという転写因子の活性を阻害する作用も報告され、がんや炎症性疾患を治療する効果が報告されています。さらに、がん細胞の増殖(細胞分裂)に関与するシグナル伝達系(MAPKやAktなどのプロテインキナーゼ類)を阻害してがん細胞の増殖を抑制する効果や、がん細胞にアポトーシス(プログラム細胞死)を誘導して、がん細胞を直接死滅させる効果が報告されています。
キサントンにはがん細胞を攻撃するナチュラルキラー細胞の活性を高める効果も報告されています。キサントンには強力な抗菌作用があるので、感染症の予防にも効果が期待できます。
動物に経口摂取させた実験や人間での臨床試験で効果が認められているということは、マンゴスチン果皮に含まれるキサントンやフラボノイドが体内(血中)に吸収されて薬効を示すことを意味しています。がんの予防や治療にも効果が十分に期待できます。
培養がん細胞を使った実験で、α-マンゴスチンの抗がん活性(50%増殖抑制濃度)は5-FU(フルオロウラシル)と同じレベルであることが報告されています。
米国ではキサントンを多く含むマンゴスチン果皮エキスがサプリメントとして販売され、がん、動脈硬化やアルツハイマー病、アレルギー疾患など多くの疾患の予防や治療に利用されています。
以上のように、アシュワガンダの葉とマンゴスチンの果皮は、長い歴史の中で民間療法や伝統医療として人体での有効性が認められており、さらに、近年の多くの基礎研究の結果から、がんの漢方治療や補完代替医療に利用する価値の高いと思います。
(この2つの記事に載っている研究内容は、この記事に載っている研究者らが何年も前から発表しているもので、なんで今ごろ新聞記事のネタになったのか、不思議な感じはします。私自身は、この記事の研究者たちの研究内容を数年前から知っていて、数年前からがん治療で使用しているので、すでに周知の研究内容だと言う認識です。この記事の意図が何か別のところにあるのかもしれません。ただ、このような新聞記事が出たので、がんの漢方治療にアシュワガンダやマンゴスチン果皮を使いやすくはなりました。キサントンのサプリメントも売れるようになるかもしれません。ただ、あまり普及すると、クリニックで使う意味が無くなるので、販売中止に追い込まれる可能性もあるので、複雑です。)
◎ マンゴスチン果皮成分のキサントン含有サプリメントについてはこちらへ:
◎ アシュワガンダの根と葉はクリニックでも販売しています。(詳しくはこちらへ)
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