474)医療大麻:米国国立がん研究所 vs.日本厚生労働省

図:アメリカ合衆国の国立衛生研究所(NIH: National Institute of Health)に属する国立がん研究所(NCI: National Cancer Institute)はサイトでがん情報 PDQ(Physician Data Query)を配信している。PDQは世界最大かつ最新の包括的ながん情報で、大麻についても最新の情報を提供している。一方、日本の麻薬・覚せい剤乱用防止センターの大麻に関する情報は数十年前のもので、ほとんど間違っている。

474)医療大麻:米国国立がん研究所 vs.日本厚生労働省

【厚生労働省は医療大麻を認める考えが全く無いと言っている】
昨年(平成27年)の8月6日の新党改革の荒井広幸議員が参議院の経済産業委員会で、医療大麻に関する質問をしています。
新井議員の質問に厚労省官僚が答弁していますが、厚生労働省は大麻の医療使用を認める考えは、まったくないということを述べています。(詳細はこちらへ
公益財団法人「麻薬・覚せい剤乱用防止センター」のホームページの大麻の部分には以下のような解説が記述されています。この法人は厚労省と警察と関係の深い財団法人です。 

『大麻を乱用すると気管支や喉を痛めるほか、免疫力の低下や白血球の減少などの深刻な症状も報告されています。また「大麻精神病」と呼ばれる独特の妄想や異常行動、思考力低下などを引き起こし普通の社会生活を送れなくなるだけではなく犯罪の原因となる場合もあります。また、乱用を止めてもフラッシュバックという後遺症が長期にわたって残るため軽い気持ちで始めたつもりが一生の問題となってしまうのです。社会問題の元凶ともなる大麻について、正確な知識を身に付けてゆきましょう。』 

大麻には、鎮痛作用、免疫抑制作用、がん細胞の増殖抑制、抗うつ、抗不安作用など多様な薬理効果があることが明らかになっています。
大麻は免疫系や炎症応答に対しては抑制性に作用するため、「免疫力の低下」は間違いではありません。しかし、その作用があるため、自己免疫疾患や炎症性疾患に有効な効果を発揮します。
大麻には、易感染症(免疫抑制)や精神変容作用などの副作用があるのは確かですが、頻度や程度はかなり低いのも事実です。
大麻が種々の疼痛性疾患、自己免疫疾患、炎症性疾患、腫瘍性疾患(がん、肉腫など)、抑うつ、不安症状、PTSDなどに有効であることを言わずに、そのネガティブな部分を何百倍も誇張して記述しています。
大麻がアルコールやニコチンやカフェインよりも安全性が高いのは多くの研究で明らかになっています。(470話参照)
このサイトの内容がかなり古い記述を参考にしていることは、文章の最初の「大麻とはクワ科の一年草で中央アジア原産の植物です。」と書いてあることです。現在の分類では大麻はアサ科の植物で、大麻をクワ科に含めるのは昔の分類です。

【臨床研究情報センターの大麻情報】
神戸市に臨床研究情報センター(Translational Research Informatics Center)があります。
臨床研究情報センターは神戸医療産業都市構想に基づき、基礎研究から臨床応用の橋渡し研究(トランスレーショナルリサーチ)を推進するための情報拠点として、わが国で初めて整備された研究施設です。神戸市と文部省が関わっています。
このサイトでは、米国国立がん研究所(NCI)が配信するがん情報PDQ(Physician Data Query)の日本語翻訳版「がん情報サイト:PDQ日本語版」を配信しています。
PDQ®(Physician Data Query®)というのは、
米国国立がん研究所(NCI)が配信する、
世界最大かつ最新の包括的ながん情報です。®は商標登録の意味です。
この「がん情報サイト:PDQ日本語版」では、「大麻(カンアビス)とカンナビノイド;患者様向け」が下記のサイトに翻訳されています。(サイトはこちら
しかし、医療従事者向け(Cannabis and Cannabinoids–for health professionals)は翻訳されていないようです。そこで、このブログで日本語訳(抜粋)を記載します。

【大麻とカンナビノイド- 医療従事者向け】
Cannabis and Cannabinoids–for health professionals (大麻とカンナビノイド- 医療従事者向け)

アメリカ合衆国の国立衛生研究所(National Institute of Health)のアメリカ国立がん研究所(National Cancer Institute)の公式サイトです。(サイトはこちらへ)
最終更新は2016年1月20日になっています。
このサイトの内容はPubMed Healthでも見れます。こちらの方が読みやすいと思います。(サイトはこちらへ
以下に本文の日本語約を記載しています。ただし、字数の関係(このブログは2万字以下に制限)で文献と表1と表2と医学的解説でない部分は略し、一部の内容を省いています。

概要:
がんという病気自体およびがん治療によって引き起こされるがん関連症状を呈する患者の治療法としての、大麻とその成分の利用に関する情報の概要を記載している。
このまとめでは以下のような主要な情報を含む:

・大麻は数千年もの間、医療目的で使用されてきた。
・連邦法では、大麻の所持は許可された研究目的以外ではアメリカ合衆国では違法である。しかしながら、合衆国内の多くの州や領地(準州, territories)やコロンビア特別区では、大麻の医療使用を合法化する法律が制定されている。
・アメリカ合衆国食品医薬品局(FDA)はがんやその他多くの疾患の治療に大麻を使用することを承認していない。
・カンナビノイドと呼ばれる大麻の化学成分は、体中に存在する複数のカンナビノイドに特異的に作用する受容体を活性化して、特に中枢神経系と免疫系において様々な薬理作用を発揮する。
・ドロナビノールやナビロンのような市販されているカンナビノイド製剤は、がん関連の副作用の治療薬として承認されている。
・カンナビノイドはがん関連の副作用の治療において多くの利点を有している。

一般的情報:
マリファナとしても知られている大麻は中央アジア原産で、現在では世界中で栽培されている。アメリカ合衆国においては、大麻は規制物質であり、スケジュールI物質(乱用の危険が高く、承認された医療用途が無い薬)に分類されている。
大麻草はカンナビノイドと呼ばれる精神活性作用のある成分を含む樹脂や、さらにテルペンやフラボノイドなどの多くの成分を含んでいる。
大麻草の雌株の花に、最も多くのカンナビノイドが含まれている。
医療大麻を使った臨床試験は限られている。アメリカ合衆国の食品医薬品局(FDA)はいかなる疾患の治療に大麻の使用を承認していない。アメリカ合衆国で大麻を使った臨床試験を行うには、研究者はFDAに臨床試験用の新薬(Investigational New Drug)の申請を行い、米国麻薬取締局(the U.S. Drug Enforcement Administration)からスケジュールI医薬品取扱いのライセンスを取得し、国立薬物乱用研究所(he National Institute on Drug Abuse)の承認を得なければならない。
医療大麻によってがん患者が受ける効果として、吐き気の抑制、食欲増進、疼痛の緩和、睡眠の改善などがある。
医療大麻の使用実態に関する調査は少ないが、米国においてがん患者を診療している医師で医療大麻の使用を推奨する目的の多くは症状の改善である。
研究はまだ少ないが、大麻やカンナビノイド製剤で症状の緩和を求めている小児患者が増えている。
カンナビノイドは大麻(Cannabis sativa L.)に含まれるテルペノフェノリック化合物(terpenophenolic compounds)である。この要約では、がん患者の治療と、がん関連および治療関連の副作用における、大麻とカンナビノイドの役割をまとめる。

歴史:
大麻の医療目的での使用は少なくとも3000年以上前から行われている。
西洋医学においては1839年に、英国東インド会社でインドに勤務中に大麻の医療効果を学んだ外科医のオショーネッシー(W.B. O’Shaughnessy)によって紹介された。
大麻は、鎮痛や鎮静や抗炎症や鎮痙や抗痙攣の作用で多く使用された。
1937年にアメリカ合衆国の財務省はマリファナ課税法を制定した。この法律では、大麻の医療目的での使用の場合は1オンス当たり1ドル、非医療用途での使用は1オンス当たり100ドルを課税した。
アメリカ合衆国の医師の多くはこの法律は反対した。医師が大麻を処方するための特別税を支払うことを要求されたのでアメリカ医師会はこの法律に反対し、大麻を調達するための特別な注文フォームを使い、その専門的な使用に関する特別な記録を保管した。
さらにアメリカ医師会は、大麻が有害であるという客観的なエビデンスは無いこと、その法律を認めることは大麻の医療用途に関する研究を妨げると主張した。
1942年には、大麻は有害である可能性があるという懸念から米国薬局方から削除された。
1951年には、大麻を初めて麻薬に含めたボッグス法(Boggs Act)を議会は可決した。
1970年には、規制物質法(the Controlled Substances Act)の制定による、マリファナは議会によってスケジュールI物質に分類された。スケジュールIに分類される薬品は、アメリカ合衆国において現時点では承認された医療用途が無いとされるものである。他のスケジュールI物質にはヘロインやLSDやメスカリンやメタカロン(methaqualone)が含まれている。
医療用途が無いと指定されたにも拘らず、1978年に制定された治験薬の人道的使用プログラム(the Compassionate Use Investigational New Drug program)の下で、ケース・バイ・ケースで患者に米国政府によって配布された。
このプログラムによる大麻の配布は1992年に中止された。
連邦法は大麻の使用を禁止しているにも拘らず、下図に示す州や準州において医療目的での大麻の使用は合法化されている。さらに、カンナビジオールのように大麻の一つの成分のみの使用を合法化している州もあるが、図には含まれていない。

大麻の主な精神活性成分はΔ9テトラヒドロカンナビノール(Δ9-THC)であることが同定されている。1986年には、合成Δ9-THCの異性体をゴマ油に含有させた製剤が認可され、ドロナビノール(dronabinol)という一般名で、抗がん剤による吐き気や嘔吐の治療薬として承認された。
臨床試験の結果、ドロナビノールの制吐作用は、その当時に使用可能だった他の制吐剤と同等あるいはそれ以上の有効性を示した。
ドロナビノールは1980年代後半に、エイズ(AIDS)の患者ににおいて体重を増やす効果について臨床試験が行われた。このようにして1992年に、ドロナビノールの適応疾患は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染に関連する食欲不振も含められるようになった。
臨床試験において、患者は食欲の改善を認めたが、体重増加に関しては統計的に有意な改善は認められなかった。
大麻における他の重要なカンナビノイドはカンナビジオール(CBD)である。このCBDはTHCに誘導体であるが、精神作用は持っていない。
最初のカンナビノイド受容体であるCB1は1988年に脳で見つかった。2番目のカンナビノイド受容体のCB2は1993年に発見された。
CB2受容体はBリンパ球とナチュラル・キラー細胞に多く発現しており、これはCB2が免疫機能に作用することを示唆している。
体内に存在するカナビノイド(内因性カンナビノイド)が発見され、これらが疼痛制御や運動制御、摂食行動、感情、骨の成長、炎症、神経細胞の保護、記憶など様々な機能に重要な役割を担っていることが示されている。
ナビキシモルス(商品名はサティベックス)はTHCとCBDを約1:1で含む大麻抽出エキスで、進行がんや多発性硬化症における疼痛緩和の目的でカナダにおいて使用が承認されている。
ナビキシモルスは多発性硬化症の痙縮や、筋肉の硬直や運動障害や疼痛やその他の既存の治療で効果が認められない症状の治療に、カナダやニュージーランドや欧州の幾つかの国で使用が承認されている。

基礎研究/動物実験/前臨床試験

カンナビノイドは大麻(Cannabis sativa L.)に特異的に含まれる炭素数21のテルペノフェノリック誘導体である。
Δ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)が主要な精神活性成分であるが、その他にも生理活性を有するカンナビノイド成分としてカンナビノール、カンナビジオール、カンナビクロメン、カンナビゲロール、テトラヒドロカンナビバリン、デルタ8THCなどが知られており、これらはΔ9-THCのような精神活性作用を示さずに、確実な鎮痛作用や抗炎症作用や抗不安作用を示すことが知られている。

抗腫瘍効果:
マウスやラットを用いた実験で、カンナビノイドがある種の腫瘍の増殖を阻止する作用が報告されている。
この2年間に及ぼ実験では、マウスとラットは飲水で種々の用量のTHCを投与された。その結果、マウスにおける肝臓の腺腫と肝臓がんの発生がTHCによって用量依存性に抑制されることが示された。
別の実験では、デルタ-9-THCとデルタ-8-THCとカンナビノールはLewis肺がん細胞を、培養細胞と動物移植実験の実験モデルで、その増殖を抑制する効果が示された。
カンナビノイドは、細胞死誘導、増殖抑制、血管新生や浸潤や転移の抑制など、様々なメカニズムで抗腫瘍効果を示す。
カンナビノイドはがん細胞を死滅させるが、正常細胞には傷害作用は示さず、むしろ正常細胞を細胞死から守る作用を示す。
肝臓がんに対するデルタ-9-THCとCB2受容体の合成アゴニストの効果が検討された。
両方の物質は培養細胞を使った実験で肝細胞がん細胞の生存率を減少させ、マウスを使った移植腫瘍の実験モデルでも抗腫瘍効果を示した。これらの実験では、肝細胞がんの増殖抑制効果はCB2受容体を介するメカニズムによることが示された。
その他の実験によって、非小細胞性肺がんや乳がんにおいてもCB1とCB2受容体をターゲットにした治療法の有効性が確認されている。
乳がん細胞株のプログラム細胞におけるカンナビジオールの作用に関する実験では、カンビジオールはCB1やCB2やバニロイド(vanilloid)受容体を介さないメカニズムでプログラム細胞死(アポトーシス)を誘導した。
CBDは正常な乳腺細胞の生存にはほとんど影響せず、エストロゲン受容体陽性およびエストロゲン受容体陰性の両方の乳がん細胞株に対しては用量依存性にアポトーシス(細胞死)を誘導することによって乳がん細胞の生存を阻害した。
重症混合免疫不全マウスの皮下にヒト非小細胞性肺がん細胞を移植すると腫瘍が増殖する。
この実験系において、THCの投与を受けたマウスでは腫瘍の増殖は60%抑制された。腫瘍組織の病理検査の結果、THCは血管新生阻害作用と増殖抑制作用を有することが明らかになった。
しかしながら、免疫機能が正常なマウスを使った実験ではTHCは免疫抑制的に作用し、腫瘍の増殖を促進した。
さらに、大麻由来のカンナビノイドと内因性カンナビノイドの抗炎症作用が検討された。
マウスを用いた実験系では、内因性カンナビノイド・システムは大腸組織の炎症を抑制する作用が示された。
その結果、大麻由来の植物カンナビノイドと内因性カンナビノイドは、結腸直腸がんの発生予防と治療に役立つと考えられている。
CBDはがん細胞の抗がん剤の取込みを促進する可能性が指摘されている。
一過性受容器電位バニロイド・タイプ2(transient receptor potential vanilloid type 2 :TRPV2)の活性化はヒト多形膠芽腫(glioblastoma multiforme)の増殖を阻止し、抗がん剤のカルムスチン(carmustine)に対する抵抗性を抑制することが知られている。
複数のヒト多形膠芽腫細胞株を用いた実験で、THCとCBDをそれぞれ単独で投与する場合と比べて、THCとCBDを同時に投与すると、がん細胞の増殖を抑制する効果がより増大する結果が得られている。
培養細胞を用いたin vitroの実験系で、CBDはTRPV2を活性化し、抗がん剤の取込みを亢進し、正常なアストロサイトを死滅させることなく、膠芽腫細胞のアポトーシスを誘導した。
この実験結果は、抗がん剤とCBDを同時に投与すると、ヒト膠芽腫細胞の抗がん剤の取込みを増やし、細胞死の誘導を亢進することを示している。
別のマウスの実験系で、CBDとTHCを同時に投与すると、テモゾロマイドのような古くから使われている抗がん剤の抗腫瘍活性を高める可能性がある。

制吐効果(吐き気と嘔吐の抑制効果)
内因性カンナビノイドシステムが嘔吐の神経回路の制御に強く関わっていることが前臨床研究で明らかになっている。
カンナビノイドの制吐効果(吐き気止め効果)は、5-ヒドロキシトリプタミン3(5-hydroxytryptamine 3 :5-HT3)受容体との作用によることが指摘されている。
CB1受容体と5-HT3受容体はγ-アミノ酪酸(GABA)作動性ニューロンにおいて共局在化しており、両受容体はGABAの放出を抑制する作用がある。 
CB1受容体経路を介さないメカニズムで、5-HT3依存性イオン電流を直接的に阻害する作用も指摘されている。
CB1受容体のアンタゴニスト(阻害剤)は小型トガリネズミ(least shrew)に嘔吐反応を引き起こし、CB1アゴニスト(作動薬)で嘔吐は阻止されることが示されている。
嘔吐の抑制にCB1受容体が関与していることは、シスプラチンでスンクス(house musk shrew:ジャコウネズミ)に嘔吐を誘導する実験系や塩化リチウムで小型トガリネズミ(least shrew)に嘔吐を誘導する実験系において、THCやその他のCB1アゴニスト作用のある合成カンナビノイドの制吐作用を、CB1アンタゴニスト(阻害薬)が阻止することから証明されている。
後者の実験モデル(塩化リチウムで小型トガリネズミに嘔吐を誘導する実験系)では、CBDも制吐作用を示すことが報告されている。

食欲増進作用:
多くの動物実験において、THCとその他の幾つかのカンナビノイドが食欲を増進し、食事の摂取量を増やすことが示されている。
内因性カンナビノイド・システムが摂食行動を制御していると考えられている。マウスの実験で、内因性カンナビノイドのアナンダミドが食欲を強力に亢進することが示されている。 
さらに、視床下部のCB1受容体は、摂食の動機づけや報酬系に関与している可能性がある。

鎮痛:
カンナビノイドは脊髄上位(脳)や脊髄や末梢神経のレベル、さらに上行性と下降性の疼痛経路に作用して鎮痛作用を発揮する。
CB1受容体は中枢神経系と末梢神経末端の両方に存在する。
オピオイド受容体と同様に、CB1受容体は侵害受容過程を制御する脳領域に多く存在する。
CB2受容体は主に末梢組織に存在し、中枢神経系には非常に少ない量しか存在しない。
カンビノイドによる鎮痛効果には抗炎症作用も関与している。すなわち、CB2受容体のアゴニスト(作動薬)は肥満細胞(マスト細胞)のCB2受容体に作用してヒスタミンやセロトニンなどの炎症性因子の分泌を抑制し、さらに、皮膚の角化細胞(keratinocyte)のCB2受容体に作用して鎮痛作用のあるオピオイドを分泌する作用が報告されている。
マウスのがん性疼痛の実験モデルで、CB1とCB2受容体の合成アゴニストの鎮痛効果はモルヒネに匹敵するという実験結果が報告されている。 
抗がん剤のパクリタキセルやビンクリスチンやシスプラチンを投与して神経傷害を引き起こす複数の動物実験モデルで、カンナビノイドが抗がん剤誘導性神経傷害を予防する結果が報告されている。 

不安と睡眠:
内因性カンナビノイド・システムは感情の制御や嫌な記憶の消去に関する中枢神経系の働きに関与していると考えられている。
動物実験ではCBDが抗不安作用を示す結果が得られている。ラットの研究では、CBDの抗不安作用はまだ知られていないメカニズムによると報告されている。 
CBDの抗不安作用は、複数の動物実験モデルで示されている。
ラットの実験で、睡眠と覚醒のサイクルの制御に内因性カンナビノイド・システムが重要な役割を担っていることが示されている。

臨床試験:

大麻の薬理学:
大麻を経口摂取した場合、生体利用率は低く(6%~20%)、しかも変動が大きい。
THCの血中濃度のピークは1~6時間後であり、半減期は20~30時間である。
経口摂取した場合、THCは肝臓で11-OH-THCに代謝され、この代謝産物は強力な精神活性作用を示す。
大麻を喫煙で摂取すると、吸入されたカンナビノイドは急速に体内に吸収されて、血中濃度のピークは2~10分で達し、30分くらいで急速に濃度は低下し、精神活性作用の強い代謝産物である11-OH-THCの産生は少ない。
カンナビノイドは肝臓の薬物代謝酵素のチトクロームP450酵素システムと相互作用することが知られている。
ある一つの研究によると、24人のがん患者がイリノテカン(600 mg, n = 12)かドセタキセル(600 mg, n = 12)の静脈注射による投与を受け、3週間後に同じ抗がん剤を投与される前に、医療大麻をハーブティーで2回目の抗がん剤投与の12日前から始めて15日間連続で経口摂取した。 
医療大麻をハーブティーで摂取する方法が、大麻の喫煙や脂溶性カンナビノイドの経口摂取の場合と同じかどうかという問題はあるが、この方法での大麻の摂取はイリノテカンやドセタキセルの濃度や排泄に影響を与えなかった。

発がんリスク:
大麻使用が様々ながんの発生率を高める可能性に関しては、多くの研究が行われているが、相反する結果が得られている。
南西アフリカの男性(430症例と対照778例)を対照にした3つのケース・コホート研究をまとめた解析では、タバコの喫煙者で大麻も喫煙している場合は肺がんの発生率が有意に高まる結果が得られている。
15歳から49歳のアメリカ合衆国の男性64,855人を対象にした大規模後ろ向きコホート研究では、大麻の使用とタバコ関連のがんやその他の多くのがんの発生との間には関連は認めなかった。
しかしながら、非喫煙者を対象にした場合、大麻使用の経験者は前立腺がんの発生率が高かった。
611例の肺がん患者を対象にしたケース・コントロール(症例対照)試験では、低用量の大麻の長期使用は肺がんやその他の呼吸器や消化器系のがんの発生とは関係なく、喫煙などのいくつかの交絡因子を調整すれば、どの種類のがん(口腔、喉頭、咽頭、肺、食道)の発生とも関連は認めなかった。
18歳以上の大麻使用者を対象に、肺の前がん病変と悪性病変を検討した19件の臨床試験をまとめた系統的レビューでは、タバコの喫煙状況を調整して解析すると、大麻の喫煙と肺がん発生との間には統計的に有意な関連を認めることはできないという結論になった。
大麻使用と頭頚部の扁平上皮がんの発生との関連を検討する複数の疫学研究の結果は一致していない。アメリカ合衆国/ラテンアメリカ・インターナショナル頭頚部がん疫学研究(the U.S./Latin American International Head and Neck Cancer Epidemiology)団体からの9件のケース・コントロール(症例対照)研究の統合解析では、1921例の口腔咽頭がんと356例の舌がんと7639例の対照(コントロール)が解析された。
大麻を使用したことが無いグループに比べて、大麻の喫煙者では口腔咽頭がんの発生率は高かったが、舌がんの発生率は低下していた。
カリフォルニア男性健康研究(the California Men’s Health Study)に参加している84,170人の解析では、大麻使用と膀胱がんの発生率との関連が検討された。
16年間の追跡調査で、大麻使用者の89例(0.3%)で膀胱がんが発生したのに対し、大麻使用の経験が無いコントロール(対照)群では190例(0.4%)の膀胱がんが発生し、この差は統計的に有意であった。
年齢や人種や民族性やボディ・マス指数(BMI)を調整した後の解析では、大麻使用は膀胱がんの発生率を45%減少させていた(ハザード比0.55:95%信頼区間:0.33~1.00)
マリファナに関して包括的にまとめているカナダ保健省のモノグラフは、マリファナの喫煙が発がん性があるという細胞レベルおよび分子レベルの多くの研究があるが、マリファナの使用とがんとの関連の疫学的証拠はまだ決定的ではないと結論付けた。

がん治療:
小児がんの臨床データは数例の症例報告がある程度である。
がん治療における大麻の臨床試験はまだPubMedの検索では見つからない。しかしながら、再発性の多形膠芽腫の患者の腫瘍内へデルタ-9-THCを注入した臨床報告があり、抗腫瘍効果の可能性を報告している。
進行中の臨床試験として、固形がんに対してカンナビジオール(CBD)の単剤の経口投与の試験、再発性多形膠芽腫患者に対するTHCとCBDが1:1の大麻抽出エキスの口腔スプレーと抗がん剤のテモゾロマイドの併用試験(GWCA1208 Part A [NCT01812603])、同種造血幹細胞移植を受けた患者における急性移植片対宿主病の治療におけるCBDの作用 (NCT01596075)がある。

制吐作用:
カンナビノイド:

合成したTHCのドロナビノールは抗がん剤治療における吐き気の治療薬としてアメリカ合衆国で1986年に承認された。
合成したTHC誘導体のナビロンは、1982年にカナダで最初に承認され、現在アメリカ合衆国でも使用されている。
ドロナビノールとナビロンは、通常の制吐薬で軽減しない抗がん剤治療による吐き気の治療薬として米国食品医薬品局(FDA)で承認されている。
ドロナビノールとナビロンが抗がん剤で引き起こされる吐き気と嘔吐の治療に有効であることは、多くの臨床試験とメタ解析によって示されている。
全米総合がんネットワークのガイドラインでは、抗がん剤治療による悪心・嘔吐の画期的な治療法としてカンナビノイドを推奨している。
THC製剤とプラセボと他の制吐剤の有効性と副作用を比較したデータがある30件のランダム化試験の系統的レヴューが報告されている。
ナビロンの経口投与、ドロナビノールの経口投与、レボナントラドール(levonantradol :ドロナビノールの合成誘導体)の筋肉注射が試験されている。大麻の喫煙は試験の中に含まれていない。
この系統的レヴューで対象になった1366人のがん患者の検討で、通常の制吐剤のプロクロルペラジン(prochlorperazine)、メトクロプラミド(metoclopramide)、クロルプロマジン(chlorpromazine)、トリエチルペラジンthiethylperazine)、ハロペリドール(haloperidol)、ドンペリドン(domperidone)、アリザプリド(alizapride)の効果と比べてカンナビノイドが最も有効であることが示された。
カンナビノイドの副作用として、精神の高揚(ハイな気分)、多幸感(euphoria)、鎮静あるいは傾眠、めまい、不快感や抑うつ、幻覚、妄想、低血圧が見られた。
ナビロンとプラセボ(偽薬)と使用可能な制吐剤を比較した15件の対照試験の解析結果が報告されている。
600例のがん患者の検討で、連続使用において、ナビロンはプロクロルペラジン(prochlorperazine)、ドンペリドン(domperidone)、やアリザプリド(alizapride)よりも優れていることが示された。

大麻:
抗がん剤誘発性の悪心・嘔吐に対する大麻喫煙の有効性を評価した10件の臨床試験が行われている。
このうち2件の試験では、ドロナビノールの治療が無効であった場合に大麻の喫煙が行われている。最初の試験では、シクロフォスファミドあるいはドキソルビシンの投与を受けた患者において大麻喫煙は制吐作用が認められなかった。
しかしながら、2番目の試験では、高用量のメソトレキセートの投与を受けた患者において、プラセボ群に比べて、大麻喫煙群は統計的有意に高い制吐作用を認められた。 
3番目の臨床試験は20人の成人がん患者を対照にしたランダム化二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験で行われ、大麻喫煙と経口THC製剤の効果が検討された。
4分の1の患者がカンナビノイドによる治療がより制吐作用が強かったと報告している。
この臨床試験は1984年に要約の様式で報告されており、詳細な方法や結果をまとめた論文としては報告されていないので、その結果に関する信頼性は低い。 
新しい制吐剤である5-ヒドロキシトリプタミン3(5-HT3)阻害剤と大麻あるいはカンナビノイド製剤とのがん患者における直接的な比較は実施されていない。
しかしながら、THCとCBDを1:1で含有する大麻抽出エキスの口腔内スプレーのナビシキモルスの抗がん剤誘発性の悪心・嘔吐の治療に関する小規模な予備的なランダム化、プラセボ比較、二重盲検の臨床試験がスペインで行われている。

食欲増進作用:
食欲低下や早期満腹感や体重減少や悪液質はがん患者にとって重要な問題である。このような患者は消耗によって外観を損なうという問題だけでなく、食事による社交的な関わりができないという問題にも直面する。

カンナビノイド:
進行がんやヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症の患者における食欲や体重減少に対して経口THC製剤が様々な効果を示すことが3件の臨床試験で報告されている。
1件の臨床試験は、がん関連の食欲不振に対するドロナビノール単独あるいはドロナビノール+酢酸メゲストロール(megestrol acetate)の効果が、酢酸メゲストロール単独の効果と比較された。 
このランダム化二重盲件検試験では469例の体重減少を伴う進行がん患者が、THC製剤(2.5mgを1日2回経口摂取)、酢酸メゲストロール(1日800mgを経口摂取)、あるいは両方摂取の3つの群に分けて比較された。
8~11週の投与で、酢酸メゲストロール単独群では75%が食欲が増進し、11%が体重増加を認めた。一方、THC単独のグループでは食欲増進は49%、体重増加は3%であった。両群の差は統計的に有意であった。
さらに、THC+酢酸メゲストロール群では、酢酸メゲストロール単独群と比べて上乗せの効果は認めなかった。したがって、この論文の著者らは、進行がん患者における食欲増進と体重増加において、酢酸メゲストロールより効果は弱いと結論づけている。
しかしながら、がん患者におけるドロナビノールの小規模なプラセボ比較試験では、対照群に比べてドロナビノールは化学受容性を亢進して、食事の味覚が良く、食欲が亢進し、タンパク質摂取量が増えた。
243例の進行がん患者を対象にしたランダム化臨床試験において、大麻抽出エキス(2.5mg THC+1mg CBD)の経口摂取、THC単独(2.5mg)の経口摂取、プラセボ群の3群で、1日2回の投与を6週間継続してがん関連の食欲不振と悪液質に対する効果を比較した。
その結果、この投与量と投与期間では、食欲と生活の質に評価において、3群間に差は認めなかった。 
体重減少を認めるHIVあるいはエイズ(AIDS)の患者139例を対象にした臨床試験では、4~6週間の治療で、対照群に比較してドロナビノールの経口投与を受けた群では、統計的有意に食欲の増進を認めた。プラセボ群の患者は体重が減り続けたが、ドロナビノールを服用した患者は体重減少がより少なく安定していた。

大麻:
健康人を対象にした1980年代に実施された臨床試験では、大麻の喫煙は、主に食事間のスナック類の摂取が増え、脂肪や砂糖の多い食事の摂取が増え、摂取カロリーが増えた。
がん患者における食欲に対する大麻喫煙の検討に関しては報告された試験は無い。

鎮痛:

カンナビノイド:
CB1受容体は中枢神経系と末梢神経の末端に多く存在する。
CB2受容体は主に末梢組織の存在し、中枢神経系には少ししか存在しない。
中枢神経系においてはCB1アゴニスト(作動薬)しか鎮痛効果を示さないが、末梢組織においてはCB1とCB2のアゴニストは共に鎮痛作用を示す。
がん性疼痛は炎症や、骨や疼痛を感じる組織へのがん細胞の浸潤や、神経傷害などによって生じる。がん性疼痛が強く持続する場合は、オピオイドによる治療にも抵抗することがある。
がん性疼痛に対するTHCの経口投与の効果に関する臨床試験が2件存在する。最初の試験は二重盲目検プラセボ比較試験で10例の患者を対象に疼痛の強度と軽減効果を測定している。 
THCの15mgと20mgの投与によって、十分な鎮痛効果と吐き気の軽減と食欲増進が認められた。
さらに36例のがん患者を対象にした試験では、10mgのTHC投与は、7時間の観察で60mgのコデインに相当する鎮痛効果が得られ、20mgのTHC投与は120mgのコデイン投与に相当する鎮痛効果が得られた。
高用量のTHCはコデインよりもより鎮静作用が強かった。
他の臨床試験ではカンナビノイドの含量が調整されている大麻抽出エキスの口腔スプレー製剤(ナビキシモルス)の鎮痛効果が検討されている。
中等度から強度のがん性疼痛を示す進行がん患者の疼痛管理における効果を検討する多施設二重盲検プラセボ比較試験において、THCとCBDを1:1で含む大麻抽出エキスのナビキシモルスとTHC単独エキスの鎮痛効果が比較された。
患者はTHC+CBDエキス群、THC単独エキス群、プラセボ群の3つのグループに振り分けられた。この研究の結果、強力なオピオイド鎮痛薬で十分に軽減しない進行がん患者の疼痛に対して、THCとCBDの合剤の大麻抽出エキスは十分な疼痛軽減効果を示した。 
一つの観察試験では、がん性疼痛とその他の症状(食欲不振、抑うつ、不安)を示している進行がんの患者に対するナビロンの効果が検討された。ナビロンの投与を受けていない患者に比べて、ナビロンを投与された患者では疼痛と吐き気と不安と不快感の軽減効果を認めたと、この研究を実施した研究者は報告している。
ナビロンの投与を受けることによって、オピオイドや非ステロイド性抗炎症剤や三環系抗うつ薬やガバペンチン(gabapentin:GABA誘導体の抗てんかん薬)やデキサメサゾン(ステロイドホルモン)やメトクロプラミド(metoclopramide:ドーパミン受容体阻害剤で吐き気の軽減などの作用がある)やオンダンセトロン(ondansetron: 5-HT3受容体拮抗薬で吐き気止め作用がある)の使用量が減った。 

大麻:
カンナビノイドとオピオイドを併用すると相乗的な鎮痛効果が得られることが動物実験で示されている。
カンナビノイドとオピオイドの薬物動力学的相互作用の検討結果が報告されている。
この研究では、慢性疼痛を有する21例の患者を対象に、大麻の蒸気吸入(vaporized Cannabis)と徐放性モルヒネあるいはオキシコドンを5日間投与した。
大麻蒸気吸入と徐放性モルヒネの併用投与の群では、5日間の投与で疼痛スコアの平均は統計的有意に低下した。しかし、大麻蒸気吸入とオキシコドンの併用では有意な低下は認めなかった。
白金系抗がん剤やタキサン系抗がん剤を使用すると多くの患者が神経障害性疼痛を経験する。このような抗がん剤誘導性の神経障害性疼痛に対するカンナビノイド製剤の有効性を検討した臨床試験は無い。
様々な原因で発症した末梢神経障害や神経障害性疼痛の患者に大麻の喫煙の効果を検討した2つのランダム化臨床試験では、プラセボ群に比べて大麻喫煙群では疼痛の軽減が認められた。
HIV関連の神経障害性疼痛の患者を対象にした2つの臨床試験では、プラセボ群に比べて大麻喫煙群の有効性が示されている。

不安と睡眠:

カンナビノイド:
がん性疼痛を有する10例のがん患者を対象にした小規模な予備的試験で、15mgおよび20mgのTHCの投与は抗不安作用を示した。
抗がん剤治療によって感覚障害をきたしたがん患者を対象にした小規模なプラセボ対照試験では、THCの投与は睡眠の質を良くしリラックス効果が高いことが示された。 

大麻:
大麻を摂取すると患者は、患者の過去の経験に依存して、しばしば気分の高揚を経験する。
慢性疼痛に対する大麻喫煙の鎮痛効果を検討した5例の症例検討で、大麻使用によって気分が良くなり、幸福感をより感じるようになり、不安感が減少することが示された。
大麻使用で良く見られる効果が眠気である。感覚障害を有するがん患者にドロナビノールを投与した小規模なプラセボ対照試験で、THCの投与が睡眠を良くしリラックスする効果を示すことが示されている。 

副作用:

大麻とカンナビノイド:
オピオイド受容体と異なり、カンナビノイド受容体は脳幹部の呼吸中枢の領域には分布していないので、大麻やカンナビノイドの過剰摂取によって死亡することはない。
しかしながら、カンナビノイド受容体は中枢神経系だけでなく、体中の様々な組織に存在するので、頻脈、低血圧、結膜充血、気管支拡張、筋弛緩、胃腸の運動減少など様々な副作用が出る可能性がある。
カンナビノイドは、依存性薬物であると一部で考えられているが、その中毒性の可能性は他の処方薬または乱用の物質のそれよりもかなり低い。
神経過敏や睡眠時脳波異常を伴う不眠、不穏、ほてり、稀に吐き気やけいれんなどの離脱症状が見られることがある。しかしながら、これらの症状は、アヘン製剤やベンゾジアゼピンで見られる離脱症状と比較して軽度であり、症状は通常、数日後には無くなる。
他の一般的に使用される薬とは異なり、カンナビノイドは脂肪組織に貯蔵され、遅い速度(半減期は1~3日)で徐々に放出される。したがって、カンナビノイド摂取を突然中止しても、血漿中濃度の急激な低下は起こらないので、重度な離脱症状や薬物渇望は起こらない。
大麻の煙にはタバコの煙と同じ成分が多くが含まれているため、大麻喫煙による呼吸器系への悪影響に関する懸念がある。
非がん集団の縦断的研究において、大麻喫煙歴のある5115人の男女を20年間にわたって呼吸機能を繰り返し測定された。
タバコの喫煙は呼吸機能の低下を引き起こした。しかし、大麻を時々喫煙する場合には、呼吸機能(努力肺活量と1秒率)への悪影響は認めないと結論されている。

大麻とカンナビノイドのエビデンスのまとめ:

カンナビノイド:
幾つかの臨床試験が実施され、それらのメタ解析は、抗がん剤による吐き気や嘔吐の抑制効果においてプラセボ群(コントロール群)に比べて、カンナビノイド(ドロナビノールとナビロン)が明らかに有効であることを示している。
ドロナビノールとナビロンは、がん患者における抗がん剤による悪心・嘔吐の予防と治療の使用が、米国食品医薬品局(FDA)から承認されているが、その他の症状の治療には承認されていない。

大麻:
現在までにがん患者を対象にした大麻喫煙の臨床試験が10件あるが、それは2つのグループに分けられる。
一つのグループは、4件の小規模な臨床試験で、制吐作用を評価しているが、それぞれの臨床試験は患者の構成も抗がん剤治療の種類も異なる。
一つの臨床試験では有効性が認められていない。2番目の臨床試験ではプラセボ群に対して有効性が示されている。3例目の臨床試験では、有効なのか無効なのかを評価できる十分な情報が提供されていない。
したがって、抗がん剤による悪心・嘔吐に対するカンナビノイド使用の有効性に関する評価には十分なデータが無いと言える。
がん関連あるいはがん治療関連の症状に対する大麻喫煙の臨床試験はまだ無い。
がん性疼痛での使用を認可しているカナダや幾つかの欧州の国において、大麻抽出エキスのナビキシモルス(THCとCBDを約1:1で含む大麻抽出エキスの口腔内スプレー製剤)の効能が検討する臨床試験が増えている。
現時点では、がん関連症状やがん治療関連の症状やがん治療関連の副作用に対する治療法として大麻喫煙を推奨する十分なエビデンスは得られていない。しかしながら、さらなる研究が必要である。

【医療大麻を求めて海外に行く患者さんが増えている】
2001年に医療大麻を合法化したカナダのカナダ保健省のサイトには医療大麻に関する膨大な情報が公開されています。(サイトはこちらへ
薬効がある以上、副作用があるのは当然です。その薬効と副作用を十分に理解して適切に使えば、医療大麻は様々な疾患や症状の治療に有用であることは、NCIやカナダ保健省のサイトをみれば明らかです。
医療大麻は多くの国で10年以上前から使用され、そのメリットが数多く報告されているのに、日本では大麻取締法第4条がある限り、絶対に使えません。使えば、医師も患者も処罰されます。
最近の医療大麻の情報を知って、医療大麻の使用を求めて海外に行く人も増えています。
日本で医療大麻が使えない状況(大麻取締法第4条)は、生存権幸福追求権を保証した日本国憲法に違反していると言えます。
憲法の本質は「基本的人権の保障にあり、国家権力の行使を拘束・制限し、権利と自由の自由の保障を図るためのものである」とされています。日本国憲法第13条には「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」が保障されています。いわゆる生存権と幸福追求権です。
他人や社会に迷惑をかけなければ、自らの命を長らえることを希望することや幸福を追求することは全ての国民に保障された権利になります。米国において「州法で認められた医療大麻の使用を禁止することは憲法違反」という最高裁判決が出たのは、このような生存権や幸福追求権を優先したからです。
日本では1985年に、最高裁は大麻に有害性があることを主な理由に、大麻取締法が合憲であるという判決を下しています。しかし、昭和61年、厚生省麻薬課長は「日本には大麻による病気の発生は報告されていない」と証言しています。
この「大麻の有害性」の理屈は医療目的の場合は禁止をする理由として適用できないことは明らかです。 
医薬品は基本的に毒性を有し、副作用のリスクを伴うものです。抗がん剤のように毒性の強いものでも医薬品として認められています。
医薬品はすべて副作用があることを前提に、毒性(副作用)より効果が勝ると判断される時に、治療に使われます。したがって、有害性があるからという理由で、医療大麻の使用を禁じる法律(大麻取締法)が合憲という理由にはなりません。
しかし、医療目的での大麻の使用で裁判になった例が幾つかありますが、全ての裁判で、大麻の医療使用は合法化できないという判決になっています。
医学的観点からは、大麻の医療使用を例外なしに禁止する合理的な理由は皆無と断言できますが、大麻取締法第4条の不合理性が明らかになることを避けるために、大麻の医療利用について論争することを恐れて避けていると考えられます。これらの裁判では、大麻の医療効果を証明する証拠が全て証拠採用されなかったのです。
しかし、諸外国における近年の多くの基礎研究や臨床研究の結果を精査すれば、「大麻に医療用途がない」「大麻が有害」と主張することはもはや不可能であり、馬鹿げたことだと言えます。

 

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