81)抗がん剤治療後の血液浄化と解毒力を高める漢方治療

図:体内に取り込まれた毒物や体内にたまった老廃物は、肝臓(解毒酵素による代謝)、腎臓(尿中への排泄)、消化管(便からの排泄)、皮膚(表皮や汗や毛からの排泄)などの働きによって排泄される。さらに血液やリンパ液の循環を良くする心臓や血管の働きを良くすることも、体全体の解毒機能を促進するために必要。これらの臓器の解毒機能を高める生薬や薬草を使用すると、抗がん剤治療の副作用緩和や、症状の改善に役に立つ。

81)抗がん剤治療後の血液浄化と解毒力を高める漢方治療

血液浄化」や「解毒」という用語は、漢方医学やアーユルベーダ医学などの伝統医療や自然療法でよく使用されます。体に取り込まれた毒物を解毒し、体内にたまった老廃物の排泄を促進して、血液をきれいにする作用を意味します。
抗がん剤による治療中や治療後では、死滅したがん細胞や正常細胞によって死細胞や老廃物が蓄積します。また、抗がん剤が完全に代謝されて排泄されるまでは抗がん剤の毒作用がしばらく残ります。このような体内に増えた毒性物質や老廃物の分解と排泄を促進し、血液をきれいな状態にするために、「
血液浄化(cleansing)」や「解毒(detoxification)」を促進する薬草治療や漢方治療は有用です。
毒物を解毒し血液を浄化する主な臓器は
肝臓腎臓です。肝臓は解毒酵素の働きで毒物を解毒し、腎臓は尿へ老廃物や毒物を排泄します。その他、便通を良くして腸内環境を良くすることも解毒力や血液浄化に有効です。汗や表皮や毛髪からも毒物は排泄されるので、発汗を促し、皮膚の血液循環や新陳代謝を良くすることも解毒力向上や血液浄化に寄与します。
また、
活性酸素やフリーラジカルを消去することも解毒や血液浄化と関連しますので、植物に豊富に含まれるポリフェノール類などの抗酸化作用も、解毒や血液浄化に寄与します。
抗がん剤治療後の血液浄化や解毒と高める漢方治療で役に立つ生薬やハーブとして以下のようなものがあります。

1) ウコン(欝金)
お酒を飲んだらウコンとよく言われますが、普段からウコンを摂取することで肝機能を丈夫にできます。ウコンに含まれる
クルクミンは胆汁の分泌を促進する利胆作用があり、肝臓における毒物の排泄を促進します。
ウコンは血液循環を良くし、抗酸化作用が強く、抗がん作用もあるので、抗がん剤治療後の回復促進と再発予防に効果が期待できます。

2) タイセイヨウ(大青葉)、バンランコン(板藍根)
アブラナ科植物の
ホソバタイセイは、葉が「大青葉(タイセイヨウ)」、根が「板藍根(バンランコン)」という生薬になります。ホソバタイセイの抗がん作用については、前回の第80話で紹介しました。
アブラナ科の植物には、肝臓の解毒酵素を活性化する成分が含まれていて、肝臓における解毒力を高める効果が期待できます。タイセイヨウ、ホソバタイセイは抗がん作用があると同時に、肝臓の解毒力を高めるので、抗がん剤治療後の漢方治療に有用です。

3)ホコウエイ(蒲公英 )
ホコウエイはキク科のタンポポおよび同属植物の根を含む全草です。
日本では主に、利尿、便秘、解毒、健胃、解熱、発汗、催乳、むくみ、ニキビ、湿疹などの民間薬として利用されてきました。中国医学でも、利尿、消炎、催乳、解熱、健胃などに用いられます。
その利尿効果は「おねしょのハーブ」をあだ名されるほど良く知られていました。
ドイツやスイスでは、春にタンポポサラダを食べて、冬の間に溜まった毒を解毒する習慣があります。さらに、タンポポの葉にはビタミンCと鉄分が豊富に含まれ、昔から春にタンポポを食べると血液がきれいになると言われています。
便通を良くし、胆汁分泌を促進しえ肝臓の働きを良くする効果もあります。
このように、ホコウエイは様々な作用で、体全体の解毒力を高め、血液浄化に有効です。
さらに抗がん作用や抗菌作用、抗炎症作用も報告されており、各種感染症や炎症性疾患(乳腺炎など)にも有効性が指摘されています。

4)ミルクシスル
ミルクシスルはヨーロッパでは古くから肝臓の治療薬として用いられ、抗がん剤治療によって受けたダメージの回復や血液浄化にも有効であることが多くの臨床試験によって確認されています。抗がん剤による肝臓のダメージを軽減し、傷害を受けた肝細胞の再生を促進する作用も確かめられており、西洋医学でも血液浄化と解毒を促進するハーブとして利用されています。
アルコールや医薬品、トルエンやキシレンなどの化学薬品、毒キノコなど、多くの肝臓毒性物質による肝臓傷害に対して、ミルクシスルが肝臓保護作用を示すことは、動物実験のみならずヒトでの臨床試験でも確認されています。_
欧米では、抗がん剤治療を受けている患者さんが、自分の判断あるいは医師の処方としてミルクシスルのサプリメントを摂取しています。

5)ウバイ(烏梅)や梅肉エキス
梅は昔から「三毒を絶つ」といわれています。三毒とは、「食べ物の毒」、「血の毒」、「水の毒」です。先人は、
鳥梅(青梅を燻蒸して乾燥した作成した生薬)や梅干などを用いた結果、その「三毒を断つ」という効用を実感していたのです。
これは、梅肉に含まれる有機酸などの成分による抗菌作用や、肝機能を高めることによって肝臓の解毒作用を助ける作用、血液や体液が酸性に傾くのを防ぐ作用などを意味していると思われます。
また、クエン酸は、栄養素を完全に燃焼させてエネルギーに替え、不要なものは炭酸ガスと水に分解して体外に排出してくれる動きがあり、さらに、梅肉に豊富に含まれている有機酸が腸を刺激し、ぜん動運動を活発にし、排便をスムーズにすることも体の解毒機能を高めることになります。

6)ダイオウ(大黄)
腸内の悪玉菌(腐敗菌)は便秘のときに増えます。したがって、便秘が続くと、腸内でアンモニアや硫化水素やインドールなどの低分子の有害物質の産生が増加します。これらの有毒物質は腸管から吸収されて肝臓にいって分解(解毒)されるのですが、このような肝臓の解毒能や物質代謝能の負担増加は、抵抗力や治癒力の低下の原因にもなります。
漢方薬の下剤の代表はダイオウ(大黄)です。ダイオウはタデ科のダイオウの根茎で、腸の動きを刺激して便通を促進します。便秘の人にダイオウを用いて便通を良くすると、便秘を改善して便中の有害物質の排泄を促進し、さらに宿便(小腸や大腸の壁にこびりついているカス)を除去して、その結果、肝臓の解毒能を高めることになります。
大黄は駆オ血作用(血液循環を良くし、血液を浄化する作用)もあり、血中の毒素を除去して血液成分を浄化する(活血)作用にも寄与しています。しかし、胃腸が弱っているときは、ダイオウは慎重に使わなければなりません。

7)カシュウ(何首烏)、トウキ(当帰)、トウニン(桃仁)
カシュウ(何首烏)は腸の蠕動運動を刺激して排便を促進し、滋養強壮作用があって虚弱体質にも使えます。
トウキ(当帰)トウニン(桃仁)は腸管内の潤いを増して便を軟らかくして排便を促進します。トウキとトウニンは血液循環を良くする効果もあります。

8)ハンシレン(半枝蓮)、ビャッカジャゼツソウ(白花蛇舌草)
ハンシレンはシソ科のScutellaria barbataの全草で、ビャッカジャゼツソウはアカネ科のフタバムグラの根を含む全草です。両生薬とも、抗菌・抗炎症作用・抗がん作用があって、がんの治療に頻用されています。
ハンシレンは、アルカロイド・フラボノイド配糖体・フェノール類・タンニンなどを含み、清熱解毒・駆お血・利尿・抗菌・抗がん作用などがあります。
ビャッカジャゼツソウは、細網内皮系細胞の増殖刺激や白血球・マクロファージなどの食細胞の機能を著しく高めます。
このように抗菌・抗炎症・利尿・駆お血・抗がん作用・免疫増強などの多彩な効能は、血液浄化や解毒力を高める効果に寄与します。

(文責:福田一典)

 

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