82)漢方がん治療のフレキシビリティ:マンゴスチン果皮やミルクシスルの利用について

図:マンゴスチン果皮は東南アジアの民間薬であり、強い抗酸化作用や抗炎症作用、抗がん作用が報告されている。ミルクシスルは欧米で利用されているハーブで、肝臓障害の回復を促進する効果がある。漢方で使用されていないハーブや薬草も取り入れるフレキシビリティ(flexibility:柔軟性、融通性)も必要かもしれない。

82)漢方がん治療のフレキシビリティ:マンゴスチン果皮やミルクシスルの利用について

漢方薬というのは、中国医学(中医学)で使用されている生薬を使うのが基本です。
また、多くの漢方医は、漢方医学あるいは中医学の独特の理論に固執する傾向にあります。
しかし、
がんの予防や治療における漢方薬の効果は、生薬や薬草に含まれる成分の薬効に起因します
つまり、がんの漢方治療で利用される『
補気」『健脾』『補血』『駆お血』という効能は、それぞれ『体力や免疫力の増強』、『胃腸虚弱の改善』、『栄養状態や貧血の改善』、『血液循環の改善や血液浄化』という言葉で置き換えられ、そのような薬効や薬理作用をもった生薬を組み合わせることによって達成できます。
したがって、中医学における「陰陽五行」「五臓六腑」「弁証論治」というような理論に縛られる必要は無いと思います。

中医学におけるがん治療では、補気薬、健脾薬、補血薬、駆お血薬の他に、
清熱解毒薬抗がん生薬を多く使います。
生薬の中には、抗炎症作用や抗がん作用のあるものがあり、そのような効能を利用するわけです。

このような考え方に立てば、漢方薬で通常は使用されないものでも、免疫増強作用や抗酸化作用や抗炎症作用や抗がん作用のあるサプリメントや民間薬やハーブを利用するような処方の柔軟性(フレキシビリティ)があっても良いと思います。
インドのアーユルヴェーダ医学や、ヨーロッパのハーブ治療、その他の国の伝統医療や民間療法で利用される薬草の中には、がんの予防や治療に役立つ薬効を持ったものが多くあります
実際私は、がんの漢方治療で、
マンゴスチン果皮ミルクシスルのような、東南アジアの民間薬やヨーロッパのハーブも使用しています。

マンゴスチンの果皮には非常に強い抗酸化作用と抗炎症作用や抗がん作用のあるキサントンという成分が含まれており、東南アジアでは古くから炎症性疾患や皮膚疾患の治療に民間療法として利用されています。
ミルクシスルは肝細胞を肝臓毒から守る作用が強いことが知られており、抗がん剤による肝障害の予防や治療に有効です。その他の臓器障害を予防する効果も報告されています。
このように、中国以外の国で使用されている薬草やハーブといった民間薬を取り入れると、がんの漢方治療の効果を高めることができます。
マンゴスチンとミルクシスルについて紹介します。

【マンゴスチン果皮に含まれるキサントンの抗がん作用】
マンゴスチンはマレー半島を原産地とするオトギリソウ科樹木の果実です。
果肉にはほどよい酸味と甘味があり、なめらかな口当たりと上品な芳香を持ち、アジアでは「
フルーツの女王(the queen of fruits)」、カリブ諸島では「神の食事(Food of the Gods)」という異名を持って、非常に人気があります。
マンゴスチンの皮(果皮)は黒紫色で1cmくらいの厚さがあります。この果皮の成分の中に、様々な健康作用をもった薬効物質があることが明らかになっています。
マンゴスチンの果皮は東南アジア地域(インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピンなど)では古くから民間薬として、感染症(赤痢やマラリアや寄生虫など)、皮膚疾患(湿疹や傷の化膿など)、消化器疾患(下痢や消化不良など)、炎症性疾患など多くの病気の治療に利用されていました。それは、
マンゴスチンの果皮には、殺菌作用、解熱作用、抗炎症作用、抗酸化作用、滋養強壮作用などの薬効があるからです。
これらの効果は、マンゴスチン果皮に多く含まれる
キサントン(Xanthones)と言う成分の薬理作用によります。
キサントンはポリフェノールの一種で、マンゴスチンからは20種類以上のキサントンが見つかっています。
キサントンは他に類をみないほど強力な抗酸化作用をもっており、さらに、抗菌・殺菌作用、抗ウイルス作用、抗炎症作用、シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2阻害作用)、がん予防作用、抗腫瘍作用などが報告されています
 
人間での効果はまだ十分に検討されていませんが、がんの予防や治療に利用できる可能性は多くの研究者が指摘しています。
最近、米国ではキサントンを多く含むマンゴスチン果皮のエキスがサプリメントとして販売され、がんだけでなく、動脈硬化やアルツハイマー病、アレルギー疾患など多くの疾患に予防や治療に利用されています。私のクリニックでもキサントンを含有するマンゴスチン果皮粉末やキサントンをがん治療に利用しています。(キサントンのサプリメントについてはこちらへ

【ミルクシスルは抗がん剤の副作用を緩和する】
ミルクシスルは学名がSilybum marianum というキク科の植物で、ミルクシスルの他、マリアアザミ、オオアザミ、オオヒレアザミなどと呼ばれます。和名はオオアザミです。
原産は地中海沿岸で、ヨーロッパ全土、北アフリカ、アジアに分布しています。日本においても帰化植物として分布しています。
葉に白いまだら模様があるのが特徴で、この模様はミルクがこぼれたようにみえるためmilk thistle(thistleはアザミの意味)と言い、ミルクを聖母マリアに由来するものとしてマリアアザミの名があります。_
その種子がヨーロッパにおいて古くから肝障害の治療薬として民間療法として利用されています。近年、
ミルクシスルの肝細胞保護作用や肝機能改善作用の効果が科学的に証明されています
肝機能障害のためのサプリメントとして利用されており、ドイツのコミッションE(ドイツの薬用植物の評価委員会)は、粗抽出物の消化不良に対する使用や、標準化製品の慢性肝炎や肝硬変への使用を承認しています。

ミルクシスルの活性成分は
シリマリン(silymarin)というフラボノリグナン(flavonolignan)の混合物です。シリマリンには、シリビニン(silibinin), シリジアニン(silydianin), イソシリビン(isosilybin), シリクリスチン(silychristin)などがあります。ミルクシスル種子は4~6%のシリマリンを含有しています。

ヨーロッパでは2000年以上前から民間薬として肝機能障害などの治療に経験的に利用されています。1970年代から種子に含まれるシリマリンを中心に研究がすすめられ、ドイツでは肝炎や肝硬変の治療に30年も前から「レガロン」という名前で用いています。
肝硬変、慢性肝炎、脂肪肝、アルコール性肝疾患、胆管炎や胆管周囲炎、胆汁うっ滞に効果があり、さらに胆汁の溶解度を高め、胆石を治す効果も報告されています。
シリマリンは最も強力な肝臓保護物質の一つとして知られています。
ミルクシスルのもつ肝臓保護作用は、肝臓の蛋白質合成を刺激する作用とともに、肝障害の原因となるフリーラジカルやロイコトリエンやプロスタグランジンを抑制することによります。シリマリンにはビタミンEより強い抗酸化作用があります。肝臓のグルタチオンの量を増やす効果も指摘されています。グルタチオンは肝臓の解毒能や抗酸化作用を高めます。

抗がん剤による肝臓のダメージを軽減し、傷害を受けた肝細胞の再生を促進する作用が多くの臨床試験で確かめられており、血液浄化と解毒を促進するハーブとして利用されています。
動物実験では、シスプラチン(cisplatin)やイフォスファマイド(ifosfamide)のような抗がん剤で引き起こされる腎臓障害に対してミルクシスルの成分が保護作用を示すことが報告されています。
放射線による腎臓のダメージにもミルクシスルは保護作用を示します。
ドキソルビシンの心臓毒性に対してミルクシスルが保護作用を示す可能性が報告されてます
全身麻酔による副作用や合併症を予防するために、手術前にミルクシスルの服用を推奨する意見があります。シリマリン(420mg/日)の投与によって
全身麻酔による肝障害が予防できることが臨床試験で示されています。

ラットを使った実験ではγ線照射の1時間前にシリマリンを投与すると脾臓や肝臓や骨髄のダメージが緩和することが報告されています。
脳転移の患者に放射線治療を行うときにω3不飽和脂肪酸とシリマリンを服用すると、副作用が軽減し生存期間が延びることが臨床試験で示されています。
培養細胞や動物実験では、ミルクシスルは抗がん剤の効き目を高める可能性も示唆されてます。
 
様々な動物発がん実験において、
シリマリンががん予防効果を発揮することが報告されています。
切除不能の進行した肝臓がんが、1日450mgのシリマリンを服用してがんが自然退縮したという症例の報告があります。(Am J Gastroenterol. 90:1500-1503, 1995)
手術と放射線治療を行った前立腺がん患者において、シリマリン、大豆、リコピン、抗酸化剤の入ったサプリメントを服用することによって再発が有意に抑えられることが報告されています。(Eur Urol. 48: 922-930, 2005)
 
以上のように、
中国の伝統的な薬草以外にも、世界中には、がんの予防や治療に有効な薬草が利用されていますので、そのようなものも積極的に利用するとがんの漢方治療の効果も高まると思います。


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