387)D-グルコサミンの寿命延長作用と抗がん作用

図:アミノ糖のグルコサミンには様々な機序による抗腫瘍効果が報告されている。グルコサミンはインスリン様成長因子-1(IGF-1)受容体の分解を促進してPI3K/Akt/mTORC1シグナル伝達系を阻害する(①)。がん細胞の細胞周期のG1期からS期への移行を阻害して細胞増殖を阻害する(②)。グルコースの解糖系を阻害することによってATP産生を阻害する(③)。小胞体の不良蛋白質の蓄積を促進して小胞体ストレスを誘導しアポトーシスを誘導する(④)。Aktの抑制はシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の活性を抑制する(⑤)。mTORC1活性が低下するとp70S6Kの活性が低下してタンパク質合成が阻害され(⑥)、低酸素誘導因子-1(HIF-1)の活性が抑制されて血管新生が阻害され(⑦)、オートファジーが亢進する(⑧)。グルコサミンが抗酸化力や免疫力を高める活性も報告されている(⑨)。その他にも様々な機序で抗がん作用を示すことが報告されている。

387)D-グルコサミンの寿命延長作用と抗がん作用

【D-グルコサミンは寿命を延ばす】
グルコサミンはグルコースの2位の炭素にアミノ基 (-NH2) が付いたアミノ糖であり、動物の皮膚や軟骨や甲骨類の殻に含まれています。関節軟骨の形成促進や関節炎の軽減作用などが期待されてサプリメントとして利用されています。

 
2-デオキシーD-グルコース(2-DG)と同様にグルコースの類縁体であり、その構造から2-DGと同様の解糖系阻害作用抗がん作用寿命延長作用(ただし、2DGは現時点では線虫レベルの話)があることが推測されます。
実際にグルコサミンには解糖系阻害作用と抗がん作用と寿命延長効果が報告されています。以下のような報告があります。
 
D-Glucosamine supplementation extends life span of nematodes and of ageing mice.(D-グルコサミン補充は線虫と老化マウスの寿命を延ばす)NATURE COMMUNICATIONS  5:3563 , 2014年  DOI: 10.1038/ncomms4563
 
要旨
D-グルコサミンは、関節の軟骨の生成を促進する効果を持つサプリメントとして広く利用されている。D-グルコサミンは糖代謝の解糖系を阻害する作用も知られている
この論文では、D-グルコサミンはヘキソサミン経路(UDP-N-アセチルグルコサミンを合成する経路)とは関係なく、糖代謝を阻害してAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化し、ミトコンドリア生成を促進する機序によって、線虫の寿命を延長することを明らかにした。
ミトホルミシス(mitohormesis:ミトコンドリアでの酸化ストレスの上昇が細胞の抗酸化力を高めてミトコンドリアの働きを高めるという説)の概念と一致するように、D-グルコサミンはミトコンドリアでの活性酸素の産生を高め、アミノ酸トランスポーター-1遺伝子の発現を亢進する。
ミトコンドリアの活性酸素産生を阻害したり、アミノ酸トランスポーター-1遺伝子の発現を抑制するとD-グルコサミンによる寿命延長効果は消失する。これは、D-グルコサミンの寿命延長作用がNRF2/SKN-1シグナル伝達系に依存することを意味している。
2-デオキシ-D-グルコースのような他のカロリー制限模倣化合物(calorie restriction mimetics)と異なり、D-グルコサミンは老化したC57BL/6マウスの寿命を延ばした。この際、D-グルコサミンはミトコンドリア生成を誘導し、血糖値を低下させ、幾つかのアミノ酸トランスポーター遺伝子の発現を促進し、アミノ酸代謝を亢進した。
以上の結果から、D-グルコサミンは進化上全く異なる種(つまり線虫とマウス)において、低糖質食と同じようなメカニズムで寿命延長効果を示すエビデンスを得た。
 
この実験で興味深いのは、D-グルコサミンが解糖系を阻害する作用を持っているということです。2-DGと同様に代謝をターゲットにしたがん治療に利用できる可能性があります。
カロリー制限(栄養素の不足を起こさずに摂取カロリーだけ30~40%減らすこと)の寿命延長効果は、酵母や線虫やショウジョウバエやマウスや霊長類で証明されています。
そのメカニズムは複雑で長寿遺伝子のサーチュインの活性化や、インスリン/インスリン様成長因子-1シグナル伝達系阻害によるAkt/mTORC1系の抑制転写因子のFOXOの活性化による酸化ストレスに対する抵抗力の増大など様々な要因が関係しています。
カロリー制限と同じ効果(抗老化や寿命延長効果)を示す薬をCalorie restriction mimetics (CRM:カロリー制限模倣化合物)と言います。
CRMには抗糖尿病薬のメトホルミン、赤ワインに含まれるレスベラトロール、ポリアミンの一種のスペルミジンなども知られていますが、CRMとして最初に研究された物質が2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)です。
(CRMと2-DGについては381話を参照)
2-DGは解糖系を阻害します。この2-DGによる寿命延長効果の作用機序としてミトホルミシス(mitohormesis)という機序があります。
ホルミシスというのは、軽度なストレスを受けると、そのストレスを排除するために細胞内システムが活性化して、そのストレスに対する抵抗力を高めるようになるという仕組みです。生物に対して通常有害な作用を示すものが、微量であれば逆に刺激作用を示す場合があり、こうした生理的刺激作用を「ホルミシスHormesis」ということから、「ミトコンドリアをターゲットにしたホルミシス効果」という意味からMitohormesisと名付けられました。
例えば、ミトコンドリアでの活性酸素の産生が高まると、細胞内の抗酸化力が高まるので、ストレスに対する抵抗力が高まって寿命が延びるという考えです。この応答で重要な役割を果たすのがNRF2/SKN-1シグナル伝達系です。
SKN-1は線虫の遺伝子で、この脊椎動物のホモログがNRF2です。NRF2/SKN-1シグナル伝達系が活性化されると細胞のストレスへの適応応答が高まります。
NRF2については360話で解説しています。
2-DGで解糖系を阻害すると、ミトコンドリアでの呼吸活性が上昇し、活性酸素種が増えます。N-アセチルシステインにより活性酸素種を消去すると2—DGの寿命延長効果は消えてしまいます。したがって、2-DGは適度な酸化ストレスを細胞に与えてホルミシス効果でストレス抵抗性を高め寿命を延ばすというメカニズムです。
D-グルコサミンはグルコーストランスポーターから細胞内に取込まれ、ヘキソキナーゼあるいはグルコキナーゼ(肝臓)でリン酸化されます。D-グルコサミン-6リン酸はヘキソキナーゼとグルコキナーゼを阻害します。この作用は2-デオキシグルコースと同じです。
D-グルコサミンは長期に服用しても副作用がありません。
この実験では、マウスの飼料に1kg当たり10g、つまり重量にして1%の割合でD-グルコサミンを投与しています。
これを単純に人間に換算すると、人間は乾燥重量で500g程度(糖質と蛋白質が1g当たり4キロカロリー、脂肪が1g当たり9キロカロリーとして)を食べているとして1日5gのD-グルコサミンになります。
関節の軟骨の状態を良くする目的でサプリメントとして使用する場合の推奨摂取量は1日1~1.5g程度になっているので、1日5g程度の摂取の安全性は問題ないように思います。
 
【D-グルコサミンはインスリン様成長因子-1受容体の分解を促進する】
以下のような論文があります。
 
The novel IGF-IR/Akt-dependent anticancer activities of glucosamine.(グルコサミンのインスリン様成長因子-1受容体/Akt-依存性の新規な抗がん活性)BMC Cancer. 2014 Jan 20;14:31. doi: 10.1186/1471-2407-14-31.

【要旨】
研究の背景:最近の研究によると、グルコサミンが様々なヒト培養がん細胞株の増殖を阻害する作用を示し、COX-2(シクロオキシゲナーゼ-2)やHIF-1α(低酸素誘導性因子-1α)、p70S6K(70-kDaリボソームS6キナーゼ)、トランスグルタミナーゼ-2の発現を抑制することが明らかになっている。
インスリン様成長因子-1受容体(IGF-1R)/Aktシグナル伝達系はp70S6KとHIF-1αとCOX-2の発現を亢進する作用があるので、グルコサミンはこのIGF-1R/Aktシグナル伝達系に作用してがん細胞の増殖を阻害すると我々は推測した。
方法:フローサイトメトリー・アッセイ法、低分子干渉RNA導入、ウェスタンブロット法、MTTアッセイ、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、マウス移植腫瘍実験モデルなどの方法を用いて、グルコサミンの抗腫瘍活性とその分子メカニズムを検討した。
結果:グルコサミンは培養したヒト非小細胞性肺がんの増殖を阻害し、IGF-1Rの発現とAktのリン酸化を抑制した。
グルコサミンはIGF-1Rの安定性を低下させ、IGF-1Rの異常な糖鎖結合のレベルを高めることによってプロテオゾームにおけるIGF-1Rの分解を促進した。さらに、IGF-1Rの選択的阻害剤であるピクロポドフィリン(picropodophyllin)およびIGF-1Rの活性を阻害する抗体(IMC-A12)はグルコサミン感受性のがん細胞の増殖を阻害したが、グルコサミン抵抗性のがん細胞の増殖は抑制しなかった。マウスに腫瘍を移植する実験モデルで、グルコサミンはIGF-1Rシグナル伝達系を阻害し、小胞体ストレスを誘導することによって移植腫瘍の増殖を阻害することを確認した。
結論:以上の結果より、グルコサミンによるIGF-1R/Aktシグナル伝達系の阻害はある種のがんの有効な治療法となる可能性がある。
 
この論文の内容をまとめると以下の図のようになります。
グルコサミンはインスリン様成長因子-1(IGF-1)受容体に異常な糖鎖を結合してIGF-1受容体の分解を亢進し、また異常な糖鎖がついた不良タンパク質が小胞体に蓄積すると小胞体ストレスが起こって細胞がアポトーシスを起こします。IGF-1/IGF-1RはPI3K/Akt/mTORC1シグナル伝達系を活性化してmTORC1の下流のp70S6KやHIF-1を活性化することによってがん細胞の増殖を促進します。Aktはシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の発現や活性を亢進します。したがって、IGF-1受容体の安定性が低下し分解が亢進するとがん細胞の増殖が抑制されることになります
 
グルコサミンの抗がん作用が最初に報告されたのは1953年で、Natureに発表されています。
Inhibition of tumour growth by D-glucosamine. Nature. 1953;14(4345):252–254.) 
抗がん剤の開発は毒ガスのマスタードガスを改変したナイトロジェンマスタードが1946年に最初に使用されてから始まっており、1950年代のがん治療の考え方は「がんはいかなるコストを払っても抹殺すべき」という考え方が主流でした。グルコサミンは毒性が極めて少ないので、それが抗がん作用を示すということで超一流雑誌のNatureに載ったのかもしれません。(1953年はワトソン・クリックのDNA構造の論文がNatureに報告された年で、TCA回路を発見したハンス・クレブスがノーベル生理学・医学賞を受賞した年です。)
その後もグルコサミンの抗がん作用はごく少数の研究グループが継続していますが、あまり注目されていません。しかし、サプリメントとして広く使用されており、安全性も問題ないので、がん治療に試してみる価値はあります。
関節炎の予防や治療の目的では1日1~1.5グラム程度が使用されています。
がん治療の目的で1日5g程度を摂取するのは安全性からは問題ないと言えます。
 抗がん作用のメカニズムとして、糖タンパク質の糖鎖の異常によって小胞体ストレスを引き起こす(これは2-デオキシグルコースと同じ機序。)小胞体ストレスについては298話参照。2-DGによる小胞体ストレス誘導作用については341話参照
  
【D-グルコサミンはオートファジーを促進する】
インスリン様成長因子-1のシグナル伝達系を抑制し、PI3K/Akt/mTORC1の活性が低下するとオートファジーが促進されます。mTORC1はオートファジーを抑制するので、mTORC1活性が低下するとオートファジーが促進されるからです。
細胞には古くなったタンパク質を分解してリサイクルするオートファジー(自食作用)というメカニズムがあります。飢餓状態になったときに、自分の細胞を分解して栄養源にするのが本来の目的ですが、細胞内の老化したタンパク質を除去する作用もあります。

一時的飢餓あるいは軽度の飢餓はオートファジー亢進を通じて細胞内をきれいにして、細胞を若返らせる効果があり、さらにがんを予防することもできます。
オートファジーの抑制は細胞内に異常タンパク質や不良ミトコンドリアが蓄積することが引き金になって細胞のがん化が促進されるからです。カロリー制限は完全な絶食ではなく、普通の食事の60%程度のカロリーに抑えるのですが、この程度の弱い飢餓でもオートファジーが誘導されます。

インスリンやインスリン様成長因子-1(IGF-1)によって活性化されるmTORC1(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質複合体1)はオートファジーを抑制することによって細胞の老化とがん化を促進する作用が指摘されています。mTORC1の活性を阻害するラパマイシンという薬はマウスの寿命を延ばすことが確認されています。(ラパマイシンについては382話383話を参照)
D-グルコサミンがmTORC1活性を抑制することが明らかになっており、そうであればグルコサミンはオートファジーを促進する可能性が推測されます。実際にD-グルコサミンがオートファジーを促進することが報告されています。
 
Glucosamine activates autophagy in vitro and in vivo.(グルコサミンは培養細胞および動物実験の実験系でオートファジーを亢進する)Arthritis Rheum. 65(7):1843-a852, 2013年
【要旨】
実験の目的:関節軟骨の老化性変化は変形性関節症の主要なリスク要因となっている。オートファジー(自食作用)は細胞内の恒常性を維持するのに重要なメカニズムである。老化関連性あるいは実験的に誘導されたオートファジーの障害は個体および組織の老化を引き起こす原因となっており、オートファジーを促進することは、変形性関節症のようなある種の老化関連疾患の発生を抑制する可能性がある。この研究の目的はグルコサミンがオートファジーを活性化するかどうかを検討することである。
方法:正常なヒトの関節軟骨から採取した軟骨細胞を培養し、培養液にグルコサミンを0.1~10mMの濃度で添加した。オートファジーの活性化、AktとFoxO3とリボゾームタンパク質S6のリン酸化状態をウェスタンブロット法で測定した。オートファゴゾーム(オートファジー小胞)の形成は共焦点顕微鏡で解析した。
LC3(Light chain 3)というオートファゴゾームの膜に集まるタンパク質に緑食蛍光色素(GFP)を結合させたタンパク質を発現させた遺伝子改変マウス(GFL-LC3-トランスジェニックマウス)を用いて、絶食やグルコサミン投与によるオートファジーの生体内での変化を評価した。
結果:培養した軟骨細胞を用いた実験でグルコサミンの添加は、オートファゴゾームの形成やLC3タンパク質のターンオーバーの亢進など、オートファジーの活性化を引き起こした。この作用は、Akt/FoxO3/mTORシグナル伝達系に対するグルコサミンによる阻害作用と関連していることが示された。
GFP-LC3トランスジェニックマウスにグルコサミンを投与すると、関節軟骨のオートファジーが顕著に亢進した。
結論:グルコサミンは培養細胞およびマウスの生体内の実験系で、Akt/FoxO/mTOR伝達系を介するメカニズムでオートファジーを促進した。これらの結果は、グルコサミンがオートファジーを促進することによって老化関連疾患の発生を抑制する可能性や関節軟骨の健康をサポートする可能性を示唆している
 
グルコサミンがmTORとは関係なくオートファジーを誘導するという報告もあります。
 
Glucosamine induces autophagy via an mTOR-independent pathway.(グルコサミンはmTOR-非依存性の経路でオートファジーを誘導する)Biochem. Biophys. Res. Commun. 391(4): 1775-1779, 2010年
この論文ではグルコサミンだけでなく、フリーのアミノ基をもつアミノ糖は全てオートファジーを誘導する活性を持っていると報告しています。
mTORC1の阻害剤のラパマイシンの存在下で40mMのグルコサミンの添加でオートファジーが起こることからmTOR非依存性の経路での誘導だと言っています。ただ、40mMというのはかなりの高濃度なので、生体内での作用とはあまり関連がないかもしれません。(血糖値は4mM前後なので通常の血糖の10倍ということになり、生体の細胞内では起こりえない濃度)
 
その他に以下のような論文があります。
 
Antitumor activities of D-glucosamine and its derivatives.(D-グルコサミンとその誘導体の抗がん活性)J Zhejiang Univ Sci B. 7(8):608-14.2006年
この論文では、D-グルコサミンにはがん細胞に対する直接的な増殖抑制作用と、免疫細胞活性を高めてがん細胞の増殖を抑える間接的な抗腫瘍活性があると報告しています。
マウスにがん細胞(sarcoma 180)を移植する実験モデルで、抗腫瘍効果が得られるグルコサミンの投与量は125~500mg/kgで250mg/kgがベストだと報告しています。
標準代謝量は体重の3/4乗(正確には0.751乗)に比例するという法則があり、一般にマウスの体重当たりのエネルギー消費量や薬物の代謝速度は人間の約7倍と言われています。したがって、250mg/kgの7分の1の用量の35mg/kgが一つの目安となります。(293話参照)
1日に体重1kg当たり35mgとすると体重60kgで2100mg程度になります。
グルコサミンの生体利用率が人間では26%、ラットで19%、犬で12%、馬で2~6.1%という報告もあります。
  
Phase II study of glucosamine with chondroitin on aromatase inhibitor-associated joint symptoms in women with breast cancer.(乳がんの女性のアロマターゼ阻害剤による関節症状に対するグルコサミンとコンドロイチンの効果を検討する第2相試験)Support Care Cancer. 21(4): 1077-87, 2013年
ホルモン受容体陽性の閉経後乳がんの治療にアロマターゼ阻害剤が有効ですが、その副作用である関節痛や関節のこわばりなどの関節症状の発症は多く、この関節症状のためホルモン療法を中止する場合もあります。
一方、グルコサミンとコンドロイチンは合剤として関節炎や関節痛の軽減を目的としたサプリメントとして利用され、有効性を示す臨床試験の結果も得られています。
この研究では、アロマターゼ阻害剤による関節症状に対して、グルコサミン硫酸(1500mg/日)とコンドロイチン硫酸(1200mg/日)の投与による有効性を検討しています。
24週間服用後に、関節の痛みとこわばりの状態を様々な評価法で比較して、評価できた39例中46%の患者で関節症状の改善がみられたという結果を報告しています。
副作用としては頭痛(28%)、食欲低下(15%)、吐き気(17%)が認められています。
この論文の結論は、アロマターゼ阻害剤による関節症状の副作用に対してグルコサミン/コンドロイチンの投与は中等度の改善効果が認められたとなっています。
プラセボ対照の臨床試験ではないので、大規模なランダム化二重盲検試験の結果がでるまでは、この効果は確定はできません。ただ、上記のようにグルコサミンには抗腫瘍効果や抗老化作用もあるので、乳がん患者さんがアロマターゼ阻害剤を使用するときのサプリメントとしては良い可能性も示唆されます。
 
Glucosamine, a naturally occurring amino monosaccharide, inhibits A549 and H446 cell proliferation by blocking G1/S transition.(天然のアミノ糖のグルコサミンは細胞周期のG1/S移行を阻止する作用機序によってA549細胞とH446細胞の増殖を阻害する)Mol Med Rep. 8(3):794-798, 2013年
培養肺がん細胞を使った実験でグルコサミンはSkp-2 (S-phase kinase-associated protein 2)とサイクリンEの発現を抑制して、細胞周期のG1/S移行を阻害してがん細胞の増殖を阻害すると報告しています。
 
The antioxidative and immunostimulating properties of D-glucosamine.(D-グルコサミンの抗酸化作用と免疫刺激作用)Int. Immunopharmacol. 7(1):29-35, 2007年
【要旨】
この研究の目的は、in vitro(試験管内)とin vivo(生体内)の種々の実験系を用いてグルコサミンの抗酸化作用と免疫刺激作用を検討することである。グルコサミンは鉄イオンに対する強力なキレート作用によって顕著な抗酸化作用を示し、タンパク質や脂質やDNAなどの高分子生体成分に対するヒドロキシラジカルによる酸化傷害を予防することが明らかになった。
グルコサミンの免疫刺激作用が様々な実験系でさらに検討した。グルコサミンは脾臓のリンパ球の増殖を促進した。マウスのマクロファージのピノサイトーシス(飲作用:細胞が外部から溶液を取込む現象)と一酸化窒素産生を著明に促進した。
マウスにグルコサミンを20日間経口投与すると、抗体産生能が亢進し、脾臓と胸腺の臓器重量が増し、細胞性免疫反応(細胞障害性Tリンパ球活性)を示す遅延型過敏反応を亢進した。
これらの実験結果より、グルコサミンは生体に対して抗酸化作用と免疫増強作用を示すことが明らかになった。
 
以上のように、D-グルコサミンには多彩な抗腫瘍活性が報告されており、グルコースの解糖系阻害、フルクトース代謝阻害、インスリン様成長因子-1シグナル伝達系(PI3K/Akt/mTORC1)の阻害、細胞周期をG1期で止める(サイクリンD1の発現抑制とp21Waf1/Cip1の発現亢進)、COX-2タンパクのN-グリコシル化を阻害してCOX-2蛋白質の分解を亢進、トランスグルタミナーゼ-2活性を阻害することによってNF-κBの活性を阻害などが報告されています。
ただ、人間のがんとマウスのがんはかなり性質が異なるので、マウスの移植腫瘍の実験系で効果があっても人間のがんに効くかどうかは不明です。臨床試験の結果がでるまでは何とも言えませんが、がん治療に1日5g程度の摂取を試してみる価値はあるかもしれません。
 
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