がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
83)マンゴスチン果皮の抗がん作用
図:マンゴスチンの果皮に含まれるキサントンという成分には、強い抗酸化作用や抗炎症作用や抗がん作用が認められている。
83)マンゴスチン果皮の抗がん作用
【マンゴスチンとは】
マンゴスチンはマレー半島を原産地とするオトギリソウ科樹木の果実です。学名はガルシニア・マンゴスターナ(Garcinia Mangostana)といい、フランスの探検家ジャック・ガルサンによって命名されました。
マンゴスチンの果実は、直径が6cmくらいでみかんの大きさです。
果皮は黒紫色で1cmくらいの厚さがあり、その中の果肉は、象牙色の透き通るような白色で、みかんのように4~8個の房に分かれています。
この果肉にはほどよい酸味と甘味があり、なめらかな口当たりと上品な芳香を持ち、アジアでは「フルーツの女王(the queen of fruits)」、カリブ諸島では「神の食事(Food of the Gods)」という異名を持っています。19世紀の大英帝国のビクトリア女王の大好物であったという話しもあります。
マレー半島が原産ですが、現在ではオーストラリア、ブラジル、カリブ海の島々でも栽培されるようになり日本にも輸入されています。
最近マンゴスチンが注目されていますが、その理由は上品な味や香りだけでなく、驚くほど幅広い健康作用を示すことが多くの研究結果から明らかになっているからです。
【マンゴスチン果皮に含まれるキサントン】
果物の皮には、強い紫外線や害虫などから実を守るために、抗酸化作用や抗菌作用の強い成分が多く見つかっています。その多くは色がついていますが、このような色素成分はフラボノイド類などの抗酸化作用の強い天然物質の宝庫になっています。
例えば、赤ワインにはぶどうの皮に含まれる色素成分が溶け出しており、その抗酸化作用によって動脈硬化やがんを予防する効果が指摘されています。
マンゴスチンの皮(果皮)は黒紫色で1cmくらいの厚さがあります。これをかじってみると、渋みが強く、とても食べられるものではありません。しかし、この渋みの成分の中に、様々な健康作用をもった薬効物質があることが明らかになっています。
マンゴスチンの果皮は東南アジア地域(インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピンなど)では古くから民間薬として、感染症(赤痢やマラリアや寄生虫など)、皮膚疾患(湿疹や傷の化膿など)、消化器疾患(下痢や消化不良など)、炎症性疾患など多くの病気の治療に利用されていました。それは、マンゴスチンの果皮には、殺菌作用、解熱作用、抗炎症作用、抗酸化作用、滋養強壮作用などの薬効があるからです。
これらの効果は、マンゴスチン果皮に多く含まれるキサントン(Xanthones)と言う成分の薬理作用によります。
キサントンはポリフェノールの一種で、マンゴスチンからは20種類以上のキサントンが見つかっています。キサントンは他に類をみないほど強力な抗酸化作用をもっており、さらに、抗菌・殺菌作用、抗ウイルス作用、抗炎症作用、シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2阻害作用)、がん予防作用、抗腫瘍作用などが報告されています。
【キサントンの抗がん作用】
マンゴスチン果皮に含まれるキサントンは上図のような化学構造を基本骨格として、20種類以上のキサントンが確認されています。
多くの基礎研究によって、キサントンには強力な抗酸化作用と、COX-2阻害作用などの抗炎症作用、がん細胞にアポトーシス(細胞死)を誘導する作用などが報告されています。キサントンには強力な抗菌作用があるので、感染症の予防にも効果が期待できます。
マンゴスチンの果皮に含まれる多糖には免疫賦活作用があることが報告されています。抗がん作用に関するいくつかの研究を以下に紹介します。
1)台湾の漢方医学国立研究所の研究グループは、マンゴスチンに含まれるキサントンの一種のガルシノンEという成分が、肝臓がんや胃がんや肺がんに対して抗腫瘍効果を示すことを培養細胞を使った実験で報告しています。この実験では、ガルシノンEは10μM以下の低濃度でほとんどのがん細胞が死ぬことが示されています。50%のがん細胞が死ぬ濃度(LD50)は0.5~5.4μMでした。この有効濃度はシスプラチン、5-fluorouracil, ビンクリスチンといった抗がん剤よりも効果が高いことを示しています。(Planta Med. 68: 975-979, 2002)
2)マンゴスチンの果皮の抽出エキスを乳がん細胞SKBR3に添加して抗腫瘍効果が検討されています。9.25 μg/mlの濃度でがん細胞の増殖を50%阻止し、その作用機序としてアポトーシス(細胞死)の誘導や活性酸素の産生阻害が示唆されています。(Journal of Ethnopharmacology, 90:161-166, 2004)
3)ヒト白血病細胞の増殖に対する効果を、マンゴスチンの果皮から抽出した6種類のキサントンで検討したところ、全てのキサントンが増殖抑制効果を示しました。その中でもアルファ・マンゴスチンは、アポトーシス誘導作用によって10μMの濃度で完全に増殖を阻止しました。(J Nat Prod, 66: 1124-1127, 2003)
4) ラットに発がん物質の1,2-ジメチルヒドラジンを注射して大腸に前がん病変を作らせる実験モデルにおいて、えさの中にアルファ-マンゴスチンを加えたラットでは、大腸の前がん病変が有意に抑制されることが示されました。(Asian Pac J Cancer Prev. 5(4):433-8.2004)
その他多くの基礎研究で、マンゴスチンの果皮に含まれるキサントンの抗炎症作用や抗がん作用が報告されています。人間での効果はまだ十分に検討されていませんが、がんの予防や治療に利用できる可能性は多くの研究者が指摘しています。
最近、米国ではキサントンを多く含むマンゴスチンの果皮のエキスがサプリメントとして販売され、がんだけでなく、動脈硬化やアルツハイマー病、アレルギー疾患など多くの疾患に予防や治療に利用されています。私のクリニックでもキサントンを含有するマンゴスチン果皮粉末をがん治療に利用しています。
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