がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
106)抗がん剤の副作用を軽減し腫瘍縮小効果を高める「黄ごん湯」
図:黄ごん湯は、オウゴン、シャクヤク、タイソウ、カンゾウの4種の生薬から作られ、細菌性腸炎などの治療に使用されている。動物実験で抗がん剤の副作用を軽減し、奏功率を高める効果が報告され、PHY906の治験名で臨床試験が米国で行われている。
106)抗がん剤の副作用を軽減し腫瘍縮小効果を高める「黄ごん湯」
【米国で臨床試験が行われている黄ごん湯】
漢方薬やハーブの抗腫瘍効果を評価する臨床試験が米国でいくつか実施されています。その一つに、漢方処方に基づいたPHY906という治験薬があります。
PHY906は治験薬としての名称ですが、これは、黄ごん(オウゴン)、芍薬(シャクヤク)、大棗(タイソウ)、甘草(カンゾウ)の4種の生薬を組み合わせて作成された漢方薬です。約1800年前に著された医学書「傷寒論」の中に『黄ごん湯(オウゴントウ)』という処方名で記載され、細菌性腸炎などで発熱、下痢、腹痛、吐き気がある場合の治療薬として用いられてきました。
下痢や腹痛や吐き気といった症状が、抗がん剤の副作用と似ており、抗がん剤の副作用の症状緩和に効果が期待できます。さらに、オウゴンに含まれるバイカレインやオーゴニンといったフラボノイドには、核内転写因子のNF-κBの活性を阻害してがん細胞の抗がん剤感受性を高める効果や抗酸化作用など多くの抗がん作用が報告されています(第84話参照)。
また、これら4つの生薬には、食欲増進作用、免疫増強作用、造血作用、肝臓保護作用、抗菌作用などが知られています。
がん細胞を移植したマウスを使った実験では、PHY906は単独では抗腫瘍効果を示しませんでしたが、抗がん剤との併用で、抗がん剤の腫瘍縮小効果を増強し、副作用を軽減する効果が認められました。
例えば、人間の肝臓がんを移植したマウスに、抗がん剤のカペシタビン(商品名:ゼローダ)やイリノテカン(商品名:カンプト、トポテシン)で治療する実験モデルで、PHY906を投与すると腫瘍縮小効果が増強しました。
マウスに膵臓がんを移植した実験モデルでは、PHY906はゲムシタビン(商品名:ジェムザール)の抗腫瘍効果を増強しました。
マウスに大腸がんを移植した実験モデルでは、PHY906はイリノテカンの抗腫瘍効果を増強しました。
これらの動物実験において、PHY906は単独では抗腫瘍効果は認められませんでしたが、抗がん剤との併用で抗がん剤の腫瘍縮小効果を増強しました。抗がん剤の代謝に対して影響を及ぼす作用は認められませんでした。
このような基礎研究をもとにして、米国の食品医薬品局(FDA)は臨床試験を行うことを許可し、現在、米国で臨床試験が行われています。
黄ごん湯(オウゴントウ)自体は1800年前から使用されており、4種の生薬についても、人間に対する安全性は確かめられています。
まだ初期の検討段階(第1相、第2相試験)ですので、まだ有効性に関しては結論がでていません。
2008年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)での発表(要旨番号15538)では、進行した膵臓がん患者に対するカペシタビンによる治療にPHY906の第1/2相試験の結果が報告されていますが、抗がん剤の副作用緩和と抗腫瘍効果の増強において、ある程度の効果が期待できそうです。
第3相試験の結果がでるまでは、まだ有効性に関する結論は出せませんが、適切な漢方治療を行うことは、抗がん剤の副作用緩和や抗腫瘍効果の増強に有効であることは、他にも多くの研究結果が出されており、このブログでも多くの報告を紹介しています。
オウゴン、シャクヤク、タイソウ、カンゾウという極めて基本的な処方で効果が期待できるのであれば、さらに処方を工夫すれば、もっと有効な煎じ薬ができるように思います。
(文責:福田一典)
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