がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
107)軟堅散結薬とは
図:硬い組織を軟化させる薬効を持つ軟堅散結薬として、夏枯草、山慈姑、貝母、牡蛎、別甲などがある。これらは、抗がん剤や抗がん生薬と併用することによって、抗腫瘍効果を高める効果が期待できるかもしれない。
107)軟堅散結薬とは
「堅」というのは「硬い」ということで、漢方では、腫瘤(腫瘍性病変)や凝血塊や瘢痕組織などの硬い病的組織を意味します。
病変としては、目につきやすい異常であるため、約2千年前の中国の古典の「黄帝内経」にも、すでに「堅は之軟し」「結は之を散らす」という記述があります。
がんの治療においても、「軟堅散結法」という方法があり、腫瘍の塊を軟化させて消散させる薬物のことを中医学では「軟堅散結薬」と言っています。
抗がん剤治療でがん細胞が死滅すれば、そのがん組織は軟化して消滅します。抗がん作用のある生薬も、がん細胞を死滅させることができれば、がん組織を消滅させることができるのですが、実際には抗がん剤に比べると抗がん生薬の抗がん作用は弱いと言わざるを得ません。
がんの漢方治療で使われる軟堅散結薬というのは、直接的な抗がん作用のある生薬というよりも、組織を軟化して薬が効きやすくするような効果が主体のものです。がん組織を軟化して抗がん剤の効き目を高める効果が期待できます。抗がん剤治療が行われていない場合は、抗がん作用の強い生薬と併用することによって、抗腫瘍効果を高めることができます。
がん組織を軟化させるという効果が、科学的に証明されているわけでは無いという点が問題ですが、中国医学における臨床経験の中から、硬い組織を軟化させる薬効を持つ軟堅散結薬が見つけられ伝承されていますので、そのような生薬ががんの漢方治療で利用されています。
がん治療に使用される軟堅散結薬として、夏枯草(カゴソウ)、山慈姑(サンジコ)、貝母(バイモ)、牡蛎(ボレイ〕、別甲(ベッコウ)などがあります。
夏枯草はシソ科のウツボグサの花穂です。しこりを縮小させる効能があり、各種腫瘍性疾患に使用されます。最近の報告では抗エストロゲン作用もあり、乳がんの治療に効果が期待できます。経験的にも乳がんに対する効果が知られています。(第100話参照)
山慈姑はラン科のサイハイランなどの鱗茎で、乳がんなどのがんの治療に使用されています。
貝母はユリ科のアミガサユリの鱗茎で、牡蛎(ぼれい)はカキの貝殻、別甲はスッポンの甲羅です。
中国伝統医学の理論と臨床経験では、味が塩辛い生薬に軟堅散結作用があるとされています。塩辛い味を漢方では「鹹(かん)」といいます。鹹味のある生薬は硬いものを軟化させる作用があると考えられています。牡蛎(ぼれい)と別甲の味は鹹ということで、そのような作用が考えられているのかもしれません。
軟堅散結薬と分類されている生薬が腫瘍組織を軟化させる効果に関しては、科学的な根拠に乏しく、単独での抗腫瘍効果は弱いと言わざるを得ません。しかし、経験的にある程度の効果が認められていいますので、がん細胞を攻撃する西洋医学の治療法と併用することによって、抗腫瘍効果を高める効果が期待できるかもしれません。
(文責:福田一典)
(漢方煎じ薬の解説はこちらへ)
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