810)腸内の酪酸を増やすシンバイオティクス:オクラと海藻とヨーグルトと酪酸菌

図:腸内の悪玉菌(腐敗菌)は腸内のタンパク質やアミノ酸を腐敗させて有害物質を作り(①)、体の治癒力を低下し、発がんを促進する(②)。オクラや海藻類に多く含まれる水溶性食物繊維(③)は、乳酸菌やビフィズス菌や酪酸菌によって発酵され、短鎖脂肪酸(⑤)や乳酸(⑥)を作る。短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)のうちの酪酸は遺伝子発現に作用して、がん細胞の分化誘導と細胞死誘導、細胞増殖抑制、抗炎症作用などの抗がん作用を発揮する(⑦)。乳酸は腸内pHを低下させて悪玉菌(腐敗菌)の増殖を抑制する(⑧)。ヨーグルト(⑨)は乳酸菌とビフィズス菌を供給し、医薬品のミヤBMや一般用医薬品のミヤリサンは酪酸菌を供給する(⑩)。水溶性食物繊維はサプリメント(イヌリン、ペクチンなど)からも摂取できる(⑪)。オクラと海藻とヨーグルトと酪酸菌と水溶性食物繊維のサプリメントを組み合わせたシンバイオティクスで腸内の乳酸と短鎖脂肪酸(特に酪酸)を増やすと、体の治癒力を高め、寿命を延ばし、がん細胞の増殖抑制にも効果が期待できる。

810)腸内の酪酸を増やすシンバイオティクス:オクラと海藻とヨーグルトと酪酸菌

【食物繊維とファイトケミカルの健康作用が注目されている】
糖質脂質タンパク質3大栄養素といい、ビタミンミネラルを加えて5大栄養素と言います。食物繊維は第6の栄養素、植物に含まれるファイトケミカルが第7の栄養素と言われています。
5大栄養素(糖質、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラル)は生体が正常に働くために必要な栄養素です。糖質と脂質とタンパク質は細胞を構成する成分を作り、細胞を動かすエネルギーの産生に必要です。
エネルギー産生や物質の代謝には酵素というタンパク質の働きが必要ですが、多くの酵素はビタミンやミネラルを利用しています
ビタミンとミネラルは、酵素などのタンパク質の働きを助け、細胞を正常に動かす潤滑油のような働きをします。ミネラルは骨格や歯や血液を作る材料としても必要です。ビタミンとミネラルが不足すると体の機能に異常を生じます。ビタミンもミネラルも体内で作れないので、食事から摂取する必要があります。

食物繊維は、ヒトの消化酵素によって消化されない食物中の難消化性成分の総称です。多くは植物の細胞壁を構成する成分で、化学的には多糖類(糖が多数つながったもの)です。消化吸収されないため、従来は、栄養的に不要なものと考えられていましたが、最近は多くの生理作用が明らかになり、栄養素の一つとして認識されています。

ファイトケミカル(phytochemical)は植物に含まれる化学成分です。「ファイト(phyto)」は植物、「ケミカル(chemical)」は化学成分という意味です。ファイトケミカルは体の機能に必須では無いのですが、健康に良い影響を与える植物由来の成分です。ポリフェノール類(フラボノイド、カテキンなど)、カロテノイド(βカロテン、ルテインなど)、イソチオシアネート類(スルフォラファンなど)など数多くの成分が知られています。

野菜や豆類や果物や海藻類のような植物性食品が体の健康に役立つのは、糖質・脂質・タンパク質・ビタミン・ミネラルという五大栄養素を供給するのに加えて、健康維持に役立つ食物繊維とフィトケミカルを供給するからです。
食物繊維のサプリメントが数多く販売されていますが、食物繊維を精製したサプリメントより、植物性食品から食物繊維を摂取する方がメリットがあります。それは5大栄養素(糖質、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラル)とファイトケミカルを一緒に摂取できるからです。
この目的で、がんの食事療法の食材で食物繊維とファイトケミカルが豊富なオクラ海藻は有用です。(後述)

【食物繊維は水溶性と不溶性に分けられる】
最近、腸内環境を整える「腸活」が話題になっています。腸活は、健康と美容において様々なメリットがあります。健康長寿者の腸内には、乳酸菌やビフィズス菌や酪酸産生菌(酪酸菌)などいわゆる善玉菌が多いことが指摘されています。食物繊維を多く摂取するとこれらの善玉菌が増えることが明らかになっています。

食物繊維は水に溶ける水溶性と、水に溶けにくい不溶性の2種類があり、それぞれに違った作用があります。
不溶性食物繊維は便の量を増やし、大腸運動を促進して、二次胆汁酸や食品中の発がん物質と腸粘膜との接触を阻止して大腸がんの発生を予防する作用があります。不溶性食物繊維にはセルロース、ヘミセルロース、リグニン、キチンなどがあります。

一方、水溶性食物繊維(ペクチン、イヌリン、アルギン酸など)は、食品中のコレステロールの吸収を抑制したり、食後の血糖値の急激な上昇を抑制する作用があります。さらに、ビフィズス菌や乳酸菌や酪酸菌などの腸内細菌によって発酵され、乳酸短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)が生成されます。
乳酸はエネルギー源として利用されるだけでなく、腸内pHを低下させて悪玉菌の増殖を抑制する効果があります。
短鎖脂肪酸は、体内に吸収されて糖新生やATP産生に利用されるだけでなく、短鎖脂肪酸の受容体であるGPR41(FFA3)GPR43(FFA2)を介して生体の代謝を調節する作用や、遺伝子発現の調節作用(酪酸のヒストン脱アセチル化酵素阻害作用によるヒストンアセチル化)があります。空腹感を抑制する作用や抗炎症作用なども報告されています。
このように、食物繊維はエネルギー産生や生体機能の調節や発がん抑制など重要な役割を果たしています。(下図)

図:食物繊維は「不溶性食物繊維」と「水溶性食物繊維」に大別され、それぞれ多彩な生理機能を有する。

【水溶性食物繊維が消化管内で発酵して乳酸と短鎖脂肪酸が生成する】
食物繊維はデンプンやグリコーゲンと同じ多糖類(糖が多数つながったもの)です。同じ多糖でもデンプンやグリコーゲンは消化管内で酵素によってグルコース(ブドウ糖)に分解されて体内に吸収されてエネルギー源となりますが、食物繊維は人間の消化酵素で分解されないため、エネルギー源とはなりにくいと一般には考えられています。

しかし、水溶性食物繊維(イヌリン、ペクチン、βグルカン、グルコマンナンなど)は腸内細菌による発酵によって乳酸や短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)のような有機酸が生成され、これらはエネルギー源として体内で利用されています。
つまり、乳酸や酢酸やプロピオン酸は糖新生の材料になり肝臓でグルコースの生成に使われます。また、これらはTCA回路に入って分解されてATP産生に使われます。酪酸は大腸粘膜上皮細胞のエネルギー源として使われます。

図:酢酸は炭素が2個、プロピオン酸は炭素が3個、酪酸は炭素が4個の単鎖脂肪酸。乳酸は炭素数3個のカルボン酸。これらは腸内で水溶性食物繊維の発酵によって産生される。乳酸は乳酸菌による乳酸発酵で産生され、中鎖脂肪酸は酪酸菌などで発酵されて産生される。それぞれの化学物質はいろんな中間代謝産物を介してエネルギー代謝の経路に組み込まれてエネルギー源となる。酪酸はヒストン脱アセチル化酵素阻害作用があり、様々な遺伝子の発現を亢進する作用がある。

酪酸が大腸粘膜上皮の糖新生遺伝子の発現を亢進し、プロピオン酸を材料に腸粘膜で糖新生が促進されるという報告があります。以下のような論文があります。

Microbiota-generated metabolites promote metabolic benefits via gut-brain neural circuits.(腸内細菌で生成された代謝産物が腸-脳神経回路を介して有益な代謝を促進する)Cell. 156(1-2):84-96. 2014年

【要旨】
水溶性食物繊維は、体重と血糖のコントロールにおいて有益な代謝を促進するが、基本的なメカニズムはほとんどわかっていない。最近の研究結果によると、腸粘膜上皮細胞における糖新生は、グルコース代謝やエネルギー産生における制御において有益な効果を有することが示されている。

この研究では、水溶性食物繊維の腸内細菌の発酵により生成される短鎖脂肪酸であるプロピオン酸酪酸が、腸上皮細胞における糖新生を相乗作用的に促進することを明らかにした。
酪酸はcAMP依存性メカニズムを介して腸の糖新生の遺伝子発現を活性化する。一方、プロピオン酸は糖新生の基質(材料)となり、さらに脂肪酸受容体のFFAR3が関与する腸-脳の神経回路を介して腸の糖新生の遺伝子発現を活性化する。
このような、正常マウスにおける体重や血糖コンロトールに対する短鎖脂肪酸や食物繊維の発酵による有益な効果は、腸の糖新生の遺伝子が欠損したマウスでは腸内細菌叢の組成が同じ条件でも認められない。
つまり、水溶性食物繊維の発酵によって生成される短鎖脂肪酸による代謝における有益な作用は、腸粘膜における糖新生の制御が重要な役割を果たしている。

この論文では、腸粘膜上皮細胞で短鎖脂肪酸のプロピオン酸を材料に糖新生が起こっており、糖新生に関与する酵素を酪酸が亢進しているという報告です。水溶性食物繊維を多く摂取してプロピオン酸や酪酸の生成を増やすことは、体内のエネルギー産生や糖代謝に有益な作用を示すという報告です

この発見がかなり重要であることは、掲載された雑誌がCellだからです。Cellは生物学や医学の学術雑誌としてはNatureやScienceとともに世界最高峰の学術雑誌です。つまり、「水溶性食物繊維の発酵によって生成される短鎖脂肪酸は、生体におけるエネルギー代謝やグルコース代謝において、重要な役割を担っている」という発見は極めて重要であることを示しています。2014年の論文なので、比較的最近の発見です。この論文を引用した論文の数が585編(2022年6月21日の時点)とかなり多いことも、この発見の重要性を示唆しています。

超個体(super-organism)という概念があります。多数の個体から形成され、まるで一つの個体であるかのように振る舞う生物の集団のことで、人間と腸内細菌の関係も超個体の一例だと考えられています。
すなわち、人間の腸内には約1000種類、100兆個以上の細菌が棲みついており、ビタミンなど様々な有用成分を生成した人間の健康に役立つ作用を持ち、さらにエネルギー産生にも寄与しています。つまり、水溶性食物繊維を多く摂取することは、腸内細菌の人間への有益な作用を高めることになります。

牛は草だけ食べて、大量のミルクと肉を作っています。ゴリラは霊長類で最も大きな体です。体重はオスが150kgを超えますが、食糧は主に木の葉や樹皮です。季節によっては果実を食べますが、乾季に食物が少なくなると植物の葉や芽や樹皮や根などを食べています。
牛もゴリラも、草や木の葉の食物繊維を消化管内でバクテリアが発酵して短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)を作っています。
炭水化物の発酵によって生成した酢酸やプロピオン酸や酪酸などの有機酸(短鎖脂肪酸)を吸収して、細胞内のミトコンドリアでさらに分解してエネルギーを産生しています。
これらの短鎖脂肪酸は肝臓でアミノ酸や脂肪の合成にも使われます。消化管内のバクテリアはアミノ酸も合成して草食動物に供給しています。

炭水化物を発酵させて有機酸を作る部位は、ウシやヤギやヒツジのような反芻動物では反芻胃で行われ、ウサギは盲腸で、ウマとゴリラは大腸です。人間は、大腸に食物繊維を発酵できる腸内細菌が多く棲んでいるので、乳酸菌やビフィズス菌や酪酸菌を増やして水溶性食物繊維を多く摂取すれば乳酸と短鎖脂肪酸を多く産生できます。

【短鎖脂肪酸はエネルギー産生や物質合成に使われる】
水溶性食物繊維は十分に発酵させれば、1グラム当たり1.5 kcalのエネルギーを産生すると報告されています。ケトン食で糖質を減らして脂肪を増やす時、水溶性食物繊維を多くとれば、エネルギーの足しになります。
短鎖脂肪酸に起因する健康への影響の1つは、腸管内のpHの低下によって病原性微生物を抑制することです。酢酸塩は、ビフィズス菌が腸内病原菌を阻害する能力において重要な役割を果たしていることがわかっています。
さらに、酪酸は腸上皮細胞に燃料を供給し、ムチン産生を増加させ、細菌接着を阻止する作用があります。したがって、短鎖脂肪酸の産生は腸バリア機能の維持に重要な役割を果たしているようです

酪酸は結腸粘膜上皮細胞によって代謝され、残りは肝静脈によって輸送されて肝臓に入り、そこで代謝されます。短鎖脂肪酸は、糖および脂質の代謝経路に入ります。プロピオン酸塩は主に糖新生に組み込まれ、酢酸塩と酪酸塩は主に脂質生合成に組み込まれます。

【短鎖脂肪酸は遺伝子発現や代謝を調節する作用がある】
短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)が結合する受容体として、Free Fatty Acid Receptor 2(FFA2)Free Fatty Acid Receptor 3(FFA3)が見つかっています。FFA2はGPR43、FFA3はGPR41としても報告されていますが、これらの受容体が脂肪組織や免疫組織、内分泌組織、消化管組織など広く分布し、短鎖脂肪酸が結合することによって生体の栄養摂取や代謝を調節していることが報告されています。
短鎖脂肪酸は結腸直腸がんの発症を予防することも観察されており、ほとんどの研究は酪酸に焦点を当てています。結腸直腸がんに対する食物繊維の保護効果は、微生物叢による酪酸の生成に依存していることが示唆されています。
酪酸は、結腸の運動性を促進し、炎症を軽減し、内臓灌注を増加させ、アポトーシスを誘導し、腫瘍細胞の進行を阻害します。この効果は、ヒストン脱アセチル化の阻害を介して媒介されるようです

酪酸(butyrate)はヒストン脱アセチル化酵素阻害作用があり、遺伝子発現を制御する作用があります。例えば、酪酸はp21cip1というタンパク質の発現を亢進して、がん細胞の増殖を抑制する効果があります。
p21cip1は細胞周期の進行を担うサイクリン依存性キナーゼ(CDK)の活性を抑制するインヒビターの一つで、細胞増殖の停止、分化や老化に関わっており、がん抑制因子として捉えられています。(下図)

図:細胞が分裂して数を増やしていくとき、細胞周期はDNA複製前のG1(Gap1) 期、DNA複製期(S期)、細胞分裂前のG2(Gap2)期、および最後の細胞分裂期(M) 期の4つの段階に分けられる(①)。増殖を休止した状態の細胞はG0期にあると定義される(②)。増殖刺激は、サイクリン(Cyc)というタンパク質で活性化されるサイクリン依存性キナーゼ(CDK)を活性化してRbタンパク質をリン酸化する(③)。Rbタンパク質は転写因子のE2Fと結合してE2Fの活性を阻害しているが、Rbがリン酸化されるとE2Fと結合できなくなってE2Fから離れる(④)。フリーになったE2Fは増殖関連遺伝子の転写を活性化し(⑤)、細胞周期をG1からS期に移行させて細胞周期を回す(⑥)。サイクリン依存性キナーゼ阻害因子(CDK阻害因子)のp21Cip1は、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)を阻害して細胞周期をG1期で停止した状態に維持する(⑦)。酪酸はp21Cip1遺伝子の発現を亢進する(⑧)。p21Cip1の発現は細胞増殖を停止する。

つまり、ヒストン脱アセチル化酵素(histone deacetylase)の阻害は、p21cip1のような細胞周期の進展を阻害する遺伝子の発現を高めることによってがん細胞の増殖を抑える作用が報告されており、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤はがんの治療薬として注目されています。酪酸はヒストン脱アセチル化酵素阻害作用によって、がん細胞の分化を誘導し、増殖抑制とアポトーシス(細胞死)誘導作用を発揮します。

図:ヒストンアセチル基転移酵素(①)によってヒストンのアセチル化が亢進すると、クロマチンが緩み、遺伝子転写活性が亢進する(②)。ヒストン脱アセチル化酵素(③)によってヒストンのアセチル化が低下するとクロマチンが凝集して遺伝子転写活性は抑制される(④)。酪酸はヒストン脱アセチル化酵素を阻害する作用がある(⑤)。その結果、酪酸は遺伝子発現を亢進する作用がある。

【オクラのネバネバは水溶性食物繊維】
オクラの英語名はOkraです。つまり、オクラは外国の名称がそのまま日本名になった外来語です。学名はAbelmoschus esculentusです。その形状から “Lady's finger”(婦人の指)とも呼ばれます。
紀元前12世紀頃にエチオピアで発見され、北アフリカ、地中海地方、アラビア、インドに広がり、世界の熱帯から亜熱帯および温暖な温帯地域で栽培されています。

オクラは、タンパク質、炭水化物、ミネラル、ビタミン、食物繊維、および生理活性を持つファイトケミカルの豊富な栄養価の高い食物です。
果実部分が成熟する前に収穫され、種子の入った鞘を食用にします。西アフリカでは、オクラの葉、つぼみ、花も消費されています。

オクラは多くの国で、伝統医学にも使用されています。
オクラの薬効として抗酸化作用、抗炎症作用、抗がん作用、免疫調節作用、胃保護作用、神経保護作用、脂質低下作用、抗糖尿病作用などが報告されています。これらの生物学的活性は、主にオクラの高粘度の多糖類に起因します。

オクラを刻んだ時にぬめぬめした粘り気が出ます。この粘り気は主に水溶性食物繊維のペクチンと植物性糖タンパク質のムチレージ(Mucilage)によるものです。

ペクチンは植物の細胞壁に含まれる複合多糖類でカラクツロン酸がα-1,4-結合したポリガラクツロン酸が主成分です。柑橘類やりんごなどの果皮に含まれ、ジャムを作るときのとろみの元になります。ペクチンは糖類と酸を適量に混合して加熱することで、ゼリー状に固まる(ゲル化)性質を持っています。食品工業においては増粘安定剤(増粘多糖類)として使われています。
ペクチンは、血糖値の上昇を抑制したり、便通をよくする作用があります。

ムチレージ(Mucilage)は植物粘液で、オクラ、ヤマイモ、モロヘイヤなどのネバネバの成分です。
ムチレージは、脂肪や悪玉コレステロールの吸収を減らす効果をもっているといわれ、胃の粘膜保護、タンパク質の消化吸収を助ける働きがあります。

オクラの粘液多糖は、食品の乳化剤としても研究されてきました。オクラの粘液多糖は安定性、食感、外観の点で食品の品質を向上させることができ、ゲル化剤や食感調整剤としても機能します。オクラに含まれる多糖類は、健康上の利点とより長い貯蔵寿命のために、アイスクリームなどの甘味のある冷凍食品やベーカリー製品に使用されています。
シチューやスープを濃くするために伝統的な料理で経験的に使用されています。
オクラの粘液多糖は製薬や食品分野で、非常に注目されています。
オクラには不溶性食物繊維も豊富に含まれ、便秘を改善する効果があります。

さらに、オクラにはケルセチンなどのフラボノイドも豊富です。ケルセチン(quercetin)は、配当体(ルチン、クエルシトリンなど)または遊離した形で柑橘類、タマネギ、そばをはじめ多くの植物に含まれるフラボノイドの一種です。ケルセチンやその配当体には様々な薬理活性が報告されており、がん治療にも有効です。オクラにはケルセチンとその配糖体が多く含まれます。
がん細胞を用いた実験などで、オクラ種子抽出成分や粘液成分(粘度の高い多糖類)の抗がん作用が報告されています。

【海藻は陸上植物とは異なる成分を多く含む】
海藻とは、海の中に生える藻類のことを言います。胞子によって繁殖し、茎・葉・根に分かれていないことが特徴です。
海藻類は植物ですが、海中では圧力、塩分、温度、光、栄養、捕食などの生物的および非生物的要因の変動に適応して生きるため、陸上植物とは異なる化合物を生成しています
海藻は生成する化合物が多種多様であるため、新規食品、栄養補助食品、化粧品および医薬品の開発に新しい生物活性化合物を提供する有望な生物と見なされています。
海藻から抽出された化学物質が人間の健康にプラスの効果をもたらし、がん、関節炎、糖尿病、自己免疫性疾患、心臓血管疾患などの慢性疾患の症状を軽減することが示されており、毎日の食事による海藻類の摂取は、健康を高める上で有益です。

アジア諸国、特に中国と日本は、何世紀にもわたって海藻の大消費者として知られています。中国では少なくとも紀元前500年頃から昆布、ワカメ、ヒジキなどの海藻類が食べられています。
海に囲まれた日本では、多くの海藻が食用として利用されています。出汁を取るための昆布をはじめ、海苔、わかめなど、日本料理には欠かせない食材の一つです。

600種以上の食用海藻が分類されていますが、食用海藻は低カロリー食品で、ビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富であることが認識されています。海藻は緑藻類褐藻類紅藻類の3種類に分かれています。3種類の違いは、海藻が生息する深さによって、日光を浴びる量が異なる点です。

緑藻類は浅い位置に生息する海藻で、陸上植物に近い性状を持っています。葉緑体を多く含んでおり、光合成に必要なクロロフィルaとクロロフィルbを持っています。
代表的な緑藻としてアオノリ、アオサ、カサノリ、海ぶどうなどです。

褐藻類は、クロロフィルのほかに、フコキサンチンと呼ばれる色素が多く含まれていることで、赤褐色となっています。ひじきのように、黒っぽい色をした海藻もあります。
代表的な褐藻として、昆布、わかめ、ひじき、もずく、アカモク、アラメなどです。

紅藻類は、3種類の海藻の中でもっとも深い場所に生息します。クロロフィルのほかに、「フィコエリスリン」や「フィコシアニン」が含まれており、それぞれ赤と青の色合いを持った成分です。そのため、緑・赤・青の3色が交じりあうことで、紅色となっています。
代表的な紅藻としてテングサ、アサクサノリ、フノリ、オゴノリなどがあります。

海藻には水溶性食物繊維が豊富です。海藻由来の水溶性食物繊維としてカラギーナン(carrageenan)やフコイダンなどがあります。
カラギーナンは紅藻類に含まれます。D-ガラクトースと硫酸から構成され、同じく紅藻類から得られるアガロース(寒天の主成分)に似ますが、硫酸を多く含む点で異なります。
室温でゲル化し、食品に用いると食感が滑らかになるので、アイスクリーム、乳製品、飲料、ソースなどを製造するときの増粘・ゲル化剤としても利用されています。

フコイダンは、コンブ、ワカメ、メカブ、モズクといった褐藻類にのみ含まれる特有のヌメリ成分で、水溶性食物繊維の一種です。化学的には、硫酸化フコースを主とする高分子多糖類で、フコース以外に、ガラクトース、マンノース、キシロース、ウロン酸なども結合しています。フコイダンという名称は同一構造の物質につけられたのではなく、主成分がフコースである高分子多糖類の総称として使用されています。

海藻は、ポリフェノール硫酸化多糖類に属する医学的に強力な化学物質が豊富です。
これらの化学物質は、一連の薬理学的特性、特に抗酸化、免疫刺激、および抗腫瘍活性を示しています。
藻類の免疫調節および抗腫瘍活性に関する多くの報告があります。多くの研究者が海藻の抗酸化作用、抗腫瘍作用、免疫調節作用を指摘しています。

 【善玉菌を増やすプロバイオティクスとプレバイオティクス】
腸内細菌とは、腸の中に棲み、様々な働きをしている菌のことです。腸内細菌はビタミンやミネラル、タンパク質などを合成しながら、腸の活動を調整し、人間の生命維持活動に役立っています。
その腸内細菌の中で、人間の健康にとってよい働きをするものを善玉菌(有益菌)、悪い働きをするものを悪玉菌(有害菌)と呼んでいます。
善玉菌の代表はアシドフィルス菌(Lactobacillus acidophilus)やビフィズス菌(Bifidobacterium bifidum)です。これらは乳酸桿菌属(Lactobacillus)の細菌で、乳酸を作る腸内細菌です。
反対に悪玉菌の代表と言えばウェルシュ菌やクロストリジウム菌などの腐敗菌です。腐敗菌は便秘や下痢の原因になり、タンパク質を分解して発がん物質を作ったり、老化を早めたりすると言われています。

腸内細菌は、腸管内の物質代謝を通して人の発がんに重要な影響を及ぼします。ウェルシュ菌やクロストリジウム菌などのいわゆる悪玉菌といわれている腐敗菌は、腸内の蛋白質やアミノ酸を腐敗させて発がん物質を産生します。一方ビフィズス菌などの乳酸菌は、悪玉菌の増殖を抑制し、また発がん物質の産生を抑制し、免疫力増強作用なども有しているため、大腸がんのみならず種々のがんの予防に有効であることが知られています。(下図)

図:ウェルシュ菌やクロストリジウム菌などのいわゆる悪玉菌といわれている腐敗菌は、腸内のタンパク質やアミノ酸を腐敗させて発がん物質を産生する。一方ビフィズス菌などの乳酸菌は、悪玉菌の増殖を抑制し、免疫力増強作用なども有している。乳酸菌製品(プロバイオティクス)や乳酸菌の成長を促進するプレバイオティクス(フルクトオリゴ糖など)は腸内環境を良くして、様々な健康作用を発揮する。

問題は善玉菌が減ると悪玉菌が増えてしまうことです。生後1週間の乳児の腸内は90%以上ビフィズス菌で占められていますが、離乳期を過ぎると10%前後に減り、老人になると1%以下に減少し、その代りに悪玉菌が増加してきます。腸内細菌を善玉菌優位の状態に保つことは老化やがんの予防に有効と考えられています。体を若く保つ上でも、腸内環境を良くすることは大切です

 腸内に善玉菌を根付かせ増やすためには、プロバイオティクスおよびプレバイオティクスの利用が有用です。
プロバイオティクス(probiotics)は「生命に有益な物質」という意味ですが、健康に有益な効果をもたらす腸内細菌(いわゆる善玉菌)を指します。「腸内フローラの善玉菌と悪玉菌のバランスを改善して動物に有益な効果をもたらす生菌添加物」のことで、乳酸菌が代表です。乳酸菌はビフィズス菌やアシドフィルス菌、ラクトバチルス、ブルガリア菌など乳酸を産生する腸内細菌です。

フルクトオリゴ糖など善玉菌の増殖を促進する物質のことをプレバイオティクス(prebiotics)と呼びます。「健康上の利益をもたらす宿主微生物(善玉菌)によって選択的に利用される物質」です。腸内の善玉菌に働いて、増殖を促進したり、善玉菌の活性を高めることによって健康に有利に作用する物質のことです。
フルクトオリゴ糖は短鎖糖質で、3~10個の糖分子から構成されており、最低その2つはフルクトースです。人間はフルクトオリゴ糖を消化できませんが、ビフィズス菌と乳酸菌は成長と増殖のためにフルクトオリゴ糖を優先的に利用します。対照的に有害細菌はこれらの短鎖糖質を利用できません。

イヌリンを豊富に含む食事は、ビフィズス菌とバクテロイデスの増殖を刺激しました。 全粒穀物は細菌プロファイルを変更して、ビフィズス菌と乳酸桿菌の相対量を増加させる可能性があります。

このようなプロバイオティクスとプレバイオティクス組み合わせると、効果的な腸内環境の改善ができます。プロバイオティクスとプレバイオティクスとを合わせたものをシンバイオティクス(synbiotics)と呼んでいます。

乳酸菌で発酵させた食品(ヨーグルトなど)は、世界中の多くの人びとに利用されています。ヒトと乳酸菌の共生関係は、栄養上も治療の上でも重要な利益があり、長い歴史があります。
常在細菌叢の一部として、乳酸菌は栄養素を求めて他の微生物と競合的に働き、pHおよび酸素濃度を病原微生物(悪玉菌)にとって好ましくない値に変更し、物理的に付着部位を覆うことによって病原体の侵入を予防したり、悪玉菌の増殖を抑える様々な因子を産生することによって、人間の健康に維持・増進に役立っています。

ビフィズス菌は取り続けないと年令とともに減少し、せっかく増えたビフィズス菌も、ヨーグルトを食べるのをやめれば1週間で元の状態に戻ってしまうといわれています。したがって、腸内細菌の善玉菌を増やすには、ヨーグルトなどの乳酸菌飲料を毎日飲み続けることが大切です。毎日10~100億個の生きたアシドフィルス菌あるいはビフィズス菌の摂取が適当と言われています。
さらに、ビフィズス菌の餌となるオリゴ糖や食物繊維を一緒にとるとより効果的です。オリゴ糖を使ったシロップや清涼飲料水等がたくさん発売されており、ビフィズス菌にオリゴ糖などを添加した健康食品も販売されています。
プロバイオティクスおよびプレバイオティクスは安全で、多く摂取しても胃腸ガスの一時的な増加以外に副作用は伴わないので、がん患者に日頃から摂取が勧められるサプリメントです。

【酪酸菌は酪酸を産生して免疫力を高め、寿命を延ばす】
腸には体の免疫細胞の70%が集まっていると言われており、腸内で産生された酪酸が免疫機能を向上することが明らかになっており、酪酸を産生する酪酸菌が注目されています。善玉菌の代表の乳酸菌やビフィズス菌は酪酸を産生できません。

酪酸を産生することから名付けられたクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)は芽胞形性能を有する桿菌で、10%〜20%の人の腸内に存在しています。芽胞の形で環境中に広く存在していますが、特に動物の消化管内常在菌として知られています。
日本では宮入菌と呼ばれる株が有用菌株として著名であり、芽胞を製剤化して整腸剤として用いられています。
宮入菌は1933年に宮入近治博士によって人の糞便から分離された菌株です。
医薬品としてミヤBMとして使用されていますが、サプリメントとしても使用可能になっています。
宮入菌(酪酸菌)は、ビフィズス菌や乳酸菌と異なり、その名の通り腸のなかで発芽、増殖し、酪酸を産生します。この酪酸は腸内のエネルギー源として利用されているほか、腸の環境を安定に維持させ、炎症などから守っています。

ミヤBMの効能・効果として「腸内菌叢の異常による諸症状の改善」となっています。酪酸菌(宮入菌)が腸内細菌叢のバランスを改善することによって、下痢、軟便、便秘、腹部膨満感などの各種腹部症状を改善します。抗生物質の服用により現れる下痢など、腸内細菌叢の異常による諸症状の改善のため医療用として使用されています。

多くの食品や飲料に含まれるポリフェノールは、腸内細菌に影響を及ぼし、有益な細菌の増殖を促進することが知られています。多くの研究は、茶ポリフェノールが腸内細菌叢の多様性と量を調節することによって腸内細菌叢を改善できることを示しています。緑茶に豊富で生物学的に活性なカテキンであるエピガロカテキンガレートは、短鎖脂肪酸の産生とビフィズス菌の個体数を大幅に増加させることが示されています。

以上から、プロバイオティクスとしてヨーグルト(乳酸菌とビフィズス菌)ミヤBM(酪酸菌)を摂取し、プレバイオティクスとして水溶性食物繊維の多い食品(オクラ海藻など)やサプリメント(イヌリンペクチンなど)を組み合わせたシンバイオティクスで腸内の乳酸と短鎖脂肪酸(特に酪酸)を増やすと、体の治癒力を高め、寿命を延ばし、がん細胞の増殖抑制にも効果が期待できます。(トップの図)

手っ取り早く腸内の酪酸菌を増やす方法としては、コップ1杯にイヌリン20g程度にミヤBMを3g程度混ぜて、水に溶かして飲むと良いかもしれません。イヌリンは500gが1000円程度でネット通販で購入できます。ミヤBMかサプリメントのミヤリサンも安価に購入できます。1日100円程度で、腸内の酪酸菌を増やして、健康寿命を延ばせます。

 

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