744)オールトランス・レチノイン酸(ATRA)と分化誘導療法(その3):ヒストン・アセチル化

図:ヒストン脱アセチル化酵素によってヒストンのアセチル化が低下すると、ヒストンとDNAが蜜に接着してクロマチンが凝集し、遺伝子転写活性は抑制される(①)。ケトン食で産生されるβ-ヒドロキシ酪酸、アブラナ科植物に含まれるジインドリルメタン、関節リュウマチ治療薬のオーラノフィンはヒストン脱アセチル化酵素を阻害してヒストン・アセチル化を亢進する(②)。アセチルCoAはグルコースや脂肪酸の分解で産生される。ジクロロ酢酸ナトリウムとメトホルミンは細胞内のアセチルCoAの濃度を高め、アセチル-L-カルニチンはアセチル基を供給する(③)。アセチルCoAのアセチル基はヒストンアセチル基転移酵素によってヒストンのアセチル化に使用される(④)。ヒストン・アセチル化によってクロマチンが緩むと遺伝子転写活性が亢進する(⑤)。核内受容体に作用するATRA(オールトランス・レチノイン酸)、ビタミンD3、ベザフィブラートは細胞分化を誘導する(⑥)。その結果、がん細胞の増殖抑制、アポトーシス誘導、浸潤・転移の抑制が起こる(⑦)。

744)オールトランス・レチノイン酸(ATRA)と分化誘導療法(その3):ヒストン・アセチル化

【ヒストンのアセチル化を促進すると分化誘導療法の効果が高まる】
核内受容体の活性化を介した分化誘導療法はがん治療で盛んに研究されており、臨床試験の結果も多数報告されています。ある程度の有効性を認めた研究もありますが、必ずしも満足できるほどの有効性は得られていません。
その理由の一つが、がん細胞で起こっているヒストンアセチル化の低下などによる遺伝子の不活化(クロマチンの凝集によってRNAポリメラーゼや転写因子がアクセスできない状態)です。

がん細胞ではヒストン・アセチル基転移酵素の発現や活性が低下し、逆にヒストン脱アセチル化酵素の発現と活性が亢進していることが明らかになっています
ヒストンのアセチル化が低下するとクロマチンが凝集して遺伝子転写活性は抑制されます。その結果、分化誘導作用のある転写因子がターゲット遺伝子にアクセスできないため、分化誘導剤の効果が出にくいということです。

そこで、ヒストンのアセチル化を促進すると、DNAにRNAポリメラーゼや転写因子が結合できるようなります。
ケトン食で体内に増加するβヒドロキシ酪酸はヒストン脱アセチル化酵素を阻害し、ヒストンアセチル化を促進します。この作用機序をさらに高める医薬品やサプリメントを併用すると、抗腫瘍効果を高めることができる可能性があります。
がん細胞の分化誘導療法も、単一のメカニズムだけをターゲットにしても限界がありますが、ヒストンアセチル化促進のようなエピジェネシスや、レチノイドやPPAR活性剤やビタミンDなどの核内転写因子の活性化を組み合わせると、分化誘導の効果を高めることができます。(トップの図)

【遺伝子(DNA)はヒストンに巻き付いている】
人間の1個の細胞の核には、約30億対のヌクレオチドからなるDNA(デオキシリボ核酸)が格納されています。このDNAが遺伝子の本体です。
細胞核内では、DNAはヒストンという球状の蛋白質複合体に巻き付くような状態で存在します。
ヒストンはリシン(リジン)アルギニンといった塩基性(プラスの電荷をもつ)のアミノ酸が多く、酸性(マイナスの電荷をもつ)のDNAと強い親和性を持っています。
ヒストンは、長いDNAをコンパクトに核内に収納するための役割と同時に、遺伝子発現の調節にも重要な役割を果たしています。ヒストンによる遺伝子発現の調節は複雑ですが、簡単にまとめると、「ヒストンとDNAの結合は転写に阻害的に働く」ということです。
遺伝子がmRNAに転写されるためには、転写因子やRNAポリメラーゼなどの他の蛋白質がDNAに結合する必要があり、ヒストンが結合していると転写に邪魔になります。したがって、転写の活発な遺伝子の部分ではヒストンとDNAの結合が緩くなっています。


図:細胞核内でDNAとタンパク質(ヒストンなど)の複合体をクロマチンという。クロマチンが凝集している部分はDNAが強く折り畳まれており遺伝子転写が抑制されている。一方、クロマチンが緩んでいる部分は、遺伝子の転写が活発になっている。

【ヒストンアセチル化は遺伝子発現を亢進する】
DNAとヒストンの結合を緩くする機序として、「ヒストンのアセチル化」という現象があります。アセチル化というのはアセチル(CH3CO)基が結合することです。

ヒストンのN末端領域のリシン残基のアミノ基(-NH2)がアセチル化という修飾を受けるとアミド(-NHCOCH3)に変換し、リシン残基の塩基性が低下して酸性のDNAとの親和性が無くなり、DNAからヒストンが離れ、DNAが露出することになります。


図:ヒストン・アセチル基転移酵素によってヒストン・タンパク質のリシン(リジンとも言う)のアミノ基(-NH2)にアセチル(CH3CO)基が結合するとアミド(-NHCOCH3)に変換し、リシン残基の塩基性が低下して酸性のDNAとの親和性が無くなり、DNAからヒストンが離れ、DNAが露出することになる。その結果、遺伝子の転写が起こりやすくなる。


一般的に、ヒストンが高度にアセチル化されている領域の遺伝子は転写が活発に行われていることを示しています。すなわち、ヒストンのアセチル化は遺伝子発現を促進(正に制御)し、 反対に、ヒストンが脱アセチル化(低アセチル化)されることにより遺伝子発現は抑制(負に制御)されると考えられています。


ヒストンのアセチル化と脱アセチル化の反応は「ヒストンアセチル基転移酵素(=ヒストンアセチルトランスフェラーゼ)」と「ヒストン脱アセチル化酵素(=ヒストンデアセチラーゼ)」によってダイナミックに制御されており、遺伝子発現のON/OFFのメインスイッチになっていると考えられています。アセチル基はグルコースや脂肪酸の分解によって産生されるアセチルCoAが使われます(下図)。

図:ヒストンアセチル基転移酵素はヒストンをアセチル化することによってクロマチン構造を緩めて遺伝子転写を活性化する。一方、ヒストン脱アセチル化酵素はヒストンのアセチル化を減らすことによってクロマチン(DNAとヒストンの複合体)を凝集して遺伝子転写を抑制する。アセチル基はグルコースや脂肪酸が分解して産生されるアセチルCoAから供給される。

このように、ヒストンのアセチル化などによって遺伝子発現を調節する現象を「エピジェネティクス(epigenetics)」と言います。

がん発症の原因は,がん遺伝子やがん抑制遺伝子の変異,すなわち塩基配列上の変化が蓄積し,細胞増殖,接着,細胞死などの制御が異常になることによると考えられています。さらに、遺伝子の塩基配列の変化を伴わない遺伝子の発現異常,すなわちエピジェネティスの機序による遺伝子発現異常も発がんに大きく寄与していることが近年明らかになってきました。
このようながん細胞における遺伝子発現の変化の中で、遺伝子発現の活性を調節するヒストンアセチル化は重要な役割を果たすと考えられています。

【ヒストン以外のタンパク質の働きもアセチル化で制御される】
タンパク質のアセチル化は、ヒストンだけでなく、非ヒストンタンパク質にも起こります。アセチル化を受けるタンパク質には、p53, nuclear factor-κB (NF-κB), p65, CBP, p300, STAT3, tubulin, PC4, GATA factors, nuclear receptors, c-Myc, hypoxia-inducible factor (HIF)-1α, FoxO1, heat-shock protein (Hsp)-90, HMG, E2F, MyoD, Bcr–Abl, the FLT3 kinase, c-Raf kinaseなど多数が知られており、これらの非ヒストンタンパク質のアセチル化は、タンパク質の安定性や局在や他のタンパク質やDNAとの相互作用などに影響して、がん細胞の発生や増殖や転移などに関与しています。

アセチル化されるタンパク質はヒストンだけでないので、最近は、ヒストンアセチル基転移酵素はリシンアセチル基転移酵素(lysine acetyltransferases) 、ヒストン脱アセチル化酵素はリシン脱アセチル化酵素(lysine deacetylases)と呼ばれるようになっています。

通常、ヒストンや非ヒストンタンパク質のアセチル化はがん細胞の増殖を抑制する方向で働くため、タンパク質のアセチル化作用をもった物質はがんの治療に役立つと考えられています。
すなわち、ヒストン脱アセチル化酵素の阻害剤ががん治療薬として注目され、実際に既に使用されている薬もあります。
ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬としてボリノスタットという薬があります。皮膚などに生じる悪性リンパ腫の皮膚T細胞性リンパ腫に使用されています。

【がん細胞はヒストン脱アセチル化酵素の活性が亢進している】
近年、プロテオーム解析(Proteomic analysis)の手法によって、細胞に発現している全てのタンパク質の構造や機能が解析できるようになりました。抗アセチル化リシン抗体や質量分析法やアミノ酸のアイソトープ標識などの方法を組み合わせて細胞内のアセチル化したタンパク質を解析した研究も報告されるようになりました。
ヒストンや非ヒストンタンパク質のアセチル化はヒストン・アセチル基転移酵素とヒストン脱アセチル化酵素のバランスによって動的に制御されています。
細胞のがん化の過程で、ヒストンや非ヒストンタンパク質の脱アセチル化が進むことが明らかになっています。そして、がん細胞ではヒストン・アセチル基転移酵素の発現や活性が低下し、逆にヒストン脱アセチル化酵素の発現と活性が亢進していることが明らかになっています。

図:ヒストンや非ヒストンタンパク質のアセチル化の状況はヒストン・アセチル基転移酵素(HAT)とヒストン・脱アセチル化酵素(HDAC)のバランスで決まる。がん細胞ではヒストン・アセチル基転移酵素(HAT)の発現や活性が低下し、ヒストン・脱アセチル化酵素(HDAC)の発現や活性が亢進して、タンパク質の脱アセチル化が亢進している。

ヒストン脱アセチル化酵素の活性亢進は様々なヒストンアセチル化によって遺伝子発現に影響し、さらに非ヒストン・タンパク質の働きに影響し、これらの作用によって、がん細胞の脱分化、細胞増殖、浸潤・転移、細胞接着低下、アポトーシス抵抗性、血管新生を亢進し、がんの発生や悪性進展を促進する方向で作用しています。
したがって、ヒストン脱アセチル化酵素を阻害すること、あるいはヒストンのアセチル化の亢進はがん治療の有力な方法になります。

ヒストン脱アセチル化酵素の阻害を目標にした代替療法として、β-ヒドロキシ酪酸(ケトン食で体内で産生される内因性のヒストン脱アセチル化酵素阻害剤)、オーラノフィン(リュウマチの治療薬)、ジインドリルメタンなどがあります。アセチル基を供給するアセチルCoAを増やす方法として、ピルビン酸からアセチルCoAを変換するピルビン酸脱水素酵素を活性化するジクロロ酢酸ナトリウム、脂肪酸合成やメバロン酸経路を阻害してアセチルCoAの消費を抑えるメトホルミン、アセチル基の核内への運搬を担うアセチル-L-カルニチンなどがあります(トップの図)。

【ケトン体のβヒドロキシ酪酸はヒストン脱アセチル化酵素を阻害する】
βヒドロキシ酪酸はケトン体の一種です。ケトン体は絶食などで糖質が枯渇した状態で脂肪酸の燃焼(β酸化)が亢進したときに肝臓で産生され、グルコース(ブドウ糖)が枯渇した時の代替エネルギーになります。絶食時などで日常的に産生されています。

ケトン体としてアセト酢酸、βヒドロキシ酪酸、アセトンの3種が作られますが、アセトンは呼気となって排泄され、アセト酢酸とβヒドロキシ酪酸はエネルギー源になります。
グルコースのもとになる糖質の摂取をできるだけ減らし、がん細胞の増殖抑制効果があるω3系不飽和脂肪酸(αリノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸)やオリーブオイルやケトン体を出しやすくする中鎖脂肪酸トリグリセリドのような脂肪を多く摂取するケトン食という食事療法が進行がんの治療に有効であることが報告されています。
ケトン食は、がん細胞にエネルギー源のグルコースの供給を減らし、がん細胞の増殖を刺激するインスリンの分泌を抑制する効果など、複数の作用機序でがん細胞の増殖を抑制します。
ケトン体のβヒドロキシ酪酸がヒストン脱アセチル化酵素を阻害し、ヒストンのアセチル化を促進し、遺伝子発現を調節する作用があります。以下のような報告があります。

Suppression of oxidative stress by β-hydroxybutyrate, an endogenous histone deacetylase inhibitor.(内因性ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤のβヒドロキシ酪酸による酸化ストレスの抑制) Science. 2013 Jan 11;339(6116):211-4.

この論文において、筆者らは、ケトン体の一種のβヒドロキシ酪酸がクラスIヒストン脱アセチル化酵素を特異的に阻害することを明らかにしました。βヒドロキシ酪酸をマウスへ投与するとヒストンのアセチル化のレベルが上昇したのにくわえ、βヒドロキシ酪酸が蓄積する飢餓状態あるいはカロリーを制限したマウスの組織においてもヒストンのアセチル化のレベルは上昇していました。そして、ヒストン脱アセチル化酵素の阻害が遺伝子の転写状態の変化をもたらすことを示しています(下図)。

図:絶食やケトン食で体内で増加するケトン体の一種のβヒドロキシ酪酸は、ヒストン脱アセチル化酵素を阻害することによってヒストンのアセチル化を促進して、遺伝子発現状態に変化を及ぼす。その遺伝子発現の変化は寿命延長や抗がん作用と関連している。

ヒストン脱アセチル化酵素が阻害されてヒストンのアセチル化が増えると、いくつかの遺伝子の発現がオン(on)になり、細胞の機能に変化が起こります。
ヒストン脱アセチル化酵素の阻害剤として単鎖脂肪酸の酪酸が有名です。酪酸は、食物繊維を腸内細菌が嫌気性発酵させてできます。脂肪酸の分解過程で生合成されるほか、バターやチーズや皮脂にも含まれています。銀杏や足の悪臭の原因にもなっています。培養したがん細胞に酪酸を添加すると、増殖抑制や分化誘導が起こり、その作用機序は酪酸によるヒストン脱アセチル化酵素の阻害作用によるものです。
絶食や飢餓状態やケトン食で産生されるケトン体のβヒドロキシ酪酸は酪酸のHがOHに変わっただけで化学構造が似ています。

βヒドロキシ酪酸は長期的な飢餓状態では6〜8mMにも達するので、飢餓状態などで産生されるβヒドロキシ酪酸がヒストンのアセチル化を介して遺伝子発現に作用して、細胞機能に影響するのではないかという仮説のもとに、βヒドロキシ酪酸にヒストン脱アセチル化酵素阻害作用があるかどうか検証する目的で本研究が行われています。
そして、研究の結果、培養細胞やマウスの動物実験でβヒドロキシ酪酸はクラスIヒストン脱アセチル化酵素を阻害することが示され、さらに、飢餓や直接βヒドロキシ酪酸を投与する方法でマウスの血中のβヒドロキシ酪酸の濃度(0.6〜1.5mM)を上昇させると、腎臓など複数の臓器においてヒストンのアセチル化が増えていることが確認されています。
ヒストン脱アセチル化酵素の阻害が、寿命の延長やがん細胞の分化誘導や増殖抑制に効果があることも多くの研究で明らかになっています。つまり、絶食やケトン食による健康作用や寿命延長作用や抗がん作用の一部は、βヒドロキシ酪酸によるヒストン脱アセチル化酵素の阻害作用が関与している可能性を示唆しています
 

【ジクロロ酢酸とメトホルミンはアセチルCoAを増やす】
コエンザイムA(CoA)補酵素Aとも呼ばれ、生物にとって極めて重要な補酵素で、様々な化合物を結合することによって糖質や脂質やアミノ酸などの代謝反応に関わります。
補酵素Aはパントテン酸とアデノシン二リン酸、および 2-メルカプトエチルアミンから構成されており、末端にあるチオール基に様々な化合物のアシル基がチオエステル結合することによってクエン酸回路やβ酸化などの代謝反応に関わります。例えばアセチル基が結合したものがアセチルCoAです。

図:コエンザイムA(Coenzyme A; CoA)は補酵素Aとも言う。CoAにアセチル基が結合したものがアセチルCoAになる。

グルコース代謝の場合は、グルコース(ブドウ糖)が解糖系で作られたピルビン酸がミトコンドリア内に取り込まれてピルビン酸脱水素酵素複合体の作用で二酸化炭素(CO2)が除去されてアセチル基になり、このアセチル基にコエンザイムA(CoA)が結合してアセチルCoAに変換され、アセチルCoAはクエン酸に変換されてTCA回路と電子伝達系によってさらにATPの産生が行われます。
脂肪酸はミトコンドリアにおけるβ酸化によってアセチルCoAを産生し、同様にTCA回路と電子伝達系によってさらにATPの産生が行われます。

図:グルコースは解糖系でピルビン酸に変換され(①)、ピルビン酸はミトコンドリアに入ってピルビン酸脱水素酵素によって二酸化炭素(CO2)が除去されてアセチル基になり、このアセチル基にコエンザイムA(CoA)が結合してアセチルCoAに変換される(②)。脂肪酸はβ酸化によってアセチルCoAを産生する(③)。アセチルCoAとオキサロ酢酸からクエン酸が生成される反応がTCA回路の最初のステップになる(④)。TCA(Tricarboxylic acid)というのは3つのカルボキシル酸基(COOH)を持つクエン酸のことで、TCA回路はクエン酸回路とも言う。

脂肪酸合成が必要なときは、TCA回路で産生されたクエン酸の一部が細胞質に移行して、ATPクエン酸リアーゼによってアセチルCoAに変換され、脂肪酸合成に使われます。アセチルCoAは細胞膜を通過できないので、ミトコンドリアでできたクエン酸が細胞質に移行してアセチルCoAの合成に使われます。

図:TCA回路で産生されたクエン酸の一部は細胞質でATPクエン酸リアーゼによってアセチルCoAに変換され、さらにマロニルCoAから脂肪酸が合成される。がん細胞は細胞の数を増やすために脂肪合成が亢進しており、これら脂肪酸合成に関与する酵素の活性が亢進している。

メトホルミン(metformin)は、世界中で1億人以上の2型糖尿病患者に使われているビグアナイド系経口血糖降下剤です。
メトホルミンは、ミトコンドリアの呼吸鎖の最初のステップである呼吸酵素複合体I を阻害することが明らかになっています。さらに、メトホルミンはミトコンドリアのグリセロールリン酸脱水素酵素を阻害することも報告されています。その結果、ミトコンドリアでのATP産生が減少し、AMP:ATPの比が上昇し、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)が活性化されます。
活性化したAMPKは、細胞内のATP量を増やすために異化を亢進し、同化を抑制します。
異化」と言うのは高分子の物質を分解してエネルギー(ATP)を産生することで、「同化」はより低分子の化合物から高分子の生体成分を作り出すことです。つまり、メトホルミンはAMPKを活性化してタンパク質やグリコーゲンや糖質や脂肪酸やコレステロールの合成を阻害します。
AMPKは脂肪酸合成を促進するアセチルCoAカルボキシラーゼと脂肪酸合成酵素の活性を阻害します。
AMPKを活性化して脂肪酸の合成を阻害すると、細胞質のクエン酸とアセチルCoAが増えます。クエン酸はがん細胞の解糖系を阻害する効果によって抗腫瘍効果を発揮します。
ジクロロ酢酸ナトリウムはピルビン酸脱水素酵素を活性化してピルビン酸からアセチルCoAの変換を亢進します。
メトホルミンとジクロロ酢酸は細胞内のアセチルCoAを増やしますアセチルCoAが増えると、核内タンパク質のヒストンや多くのタンパク質のアセチル化を引き起こして、がん細胞の増殖を抑える効果があります

図: ジクロロ酢酸はピルビン酸脱水素酵素の活性を亢進してミトコンドリア内のアセチルCoAを増やす(①)。ミトコンドリアのTCA回路で生成されたクエン酸は、ミトコンドリアから細胞質に移行し(②)、ATPクエン酸リアーゼによってアセチルCoAに変換され(③)、アセチルCoAカルボキシラーゼによってマロニルCoAに変換され(④)、脂肪酸合成酵素によって脂肪酸が合成される(⑤)。メトホルミンはミトコンドリアの呼吸酵素を阻害する機序(⑥)でATP産生を阻害してAMP/ATP比を上昇させ(⑦)、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化する(⑧)。活性化したAMPKはアセチルCoAカルボキシラーゼ(⑨)と脂肪酸合成酵素を阻害する(⑩)。その結果、がん細胞の増殖を抑制する。

【ジインドリルメタンはヒスト脱アセチル化酵素を阻害する】
ジインドリルメタンはアブラナ科の植物に含まれるインドール化合物で、欧米ではサプリメントとして販売されています。ジインドリルメタンがヒスト脱アセチル化酵素を阻害する作用が報告されています。以下のような論文があります。

Chemopreventive agent 3,3'-diindolylmethane selectively induces proteasomal degradation of class I histone deacetylases.(がん化学予防物質ジインドリルメタンはクラスIヒストン脱アセチル化酵素のプロテアソームでの分解を選択的に誘導する。)Cancer Res. 2010 Jan 15;70(2):646-54.

 【要旨】
ジインドリルメタン(3,3'-Diindolylmethane :DIM)は抗がん作用をもつ物質で、細胞周期の停止やアポトーシス誘導を引き起こすが、そのメカニズムは解明されていない。この論文では、DIMは、クラスIIのヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)は阻害せず、クラスIのヒストン脱アセチル化酵素(HDAC1, HDAC2, HDAC3,HDAC8)を選択的に、プロテアソームを介するタンパク分解を誘導することを報告する。
ヒト大腸がん細胞を用いたin vitroの実験と、移植腫瘍を用いたin vivoの実験系において、DIMはクラスIHDACの発現量を減少させた。
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)によって阻害されたサイクリン依存性キナーゼ阻害因子のp21WAF1とp27KIP2の転写は、HDACを枯渇させることによって発現量が増え、その結果、細胞周期のG2期で停止した。さらに、HDACの枯渇はDNAのダメージを誘導し、アポトーシスを引き起こす。これらの結果は、DIMがクラスIのHDACの分解を選択的にターゲットにしていることを示している。

次のような報告もあります。

3,3'-Diindolylmethane, but not indole-3-carbinol, inhibits histone deacetylase activity in prostate cancer cells.(3,3’-ジインドリルメタンは前立腺がん細胞におけるヒストン脱アセチル化酵素を阻害するがインドール-3-カルビノールは阻害しない)Toxicol Appl Pharmacol. 2012 Sep 15;263(3):345-51. 

ブロッコリーやケールなどのアブラナ科の植物や野菜には抗がん作用のある成分が多く含まれていますが、その代表的な成分がGlucobrassicin(グルコブラシシン)です。
グルコブラシシンは加水分解してインドール-3-カルビノール(Indole-3-carbinol)になり、さらに胃の中の酸性の条件下では、インドール-3-カルビノールが2個重合したジインドリルメタン(3,3'-diindolylmethane, DIM)になります(下図)。
この論文では、ジインドリルメタンはヒストン脱アセチル化酵素を阻害し、細胞周期を停止させるp21の発現を亢進して、前立腺がんの増殖を抑制することが報告されています。 

図:アブラナ科の植物や野菜に含まれるGlucobrassicin(グルコブラシシン)は加水分解してインドール-3-カルビノール(Indole-3-carbinol, I3C)になり、さらに胃の中の酸性の条件下でI3Cが2個重合したジインドリルメタン(3,3‘-diindolylmethane, DIM)になる。I3CとDIMは、がん細胞の増殖抑制、アポトーシス誘導などの抗がん作用を有する。ジインドリルメタンはAkt/NF-κBシグナル伝達系やIL-6/JAK/STAT3経路やHIF-1(低酸素誘導因子-1)の活性を抑制する作用やヒストン脱アセチル化酵素阻害など様々なメカニズムで抗腫瘍活性を示す。

【アセチル-L-カルニチンはヒストンアセチル化のアセチル基を供給する】
細胞核のヒストンのアセチル化にアセチル-L-カルニチンのアセチル基が使われることが報告されています。以下のような論文があります。

Mitochondrial acetylcarnitine provides acetyl groups for nuclear histone acetylation.(ミトコンドリアのアセチルカルニチンが核のヒストンのアセチル化に必要なアセチル基を供給する)Epigenetics 4(6):399-403, 2009

【要旨】
細胞核のヒストンのアセチル化と脱アセチル化の調整は、染色体DNAと転写装置の相互作用の制御に重要な役割を果たしている。哺乳類の細胞核におけるヒストンのアセチル化に必要なアセチルCoAの供給源については明らかになっていない。
ミトコンドリアで生成されたアセチルCoAは、カルニチン・アシルカルニチン・トランスロカーゼ(carnitine acylcarnitine translocase)の作用で細胞質に運ばれ、ついで細胞核に運ばれ、核でカルニチン・アセチルトランスフェラーゼ(carnitine acetyltransferase)によってアセチルCoAに変換され、ヒストンのアセチル化のアセチル基の供給源となる。
トランスロカーゼの遺伝的欠損は、ミトコンドリアのアセチルカルニチン依存性の核ヒストンアセチル化を著明に低下させる。これはヒストンのアセチル化にカルニチン依存性のミトコンドリアのアセチル基の重要性を示唆している。

アセチル-CoAはグルコース(ブドウ糖)や脂肪酸の分解で生成されます。すなわち、グルコースが解糖系で代謝されてピルピン酸が作られ、ピルビン酸がミトコンドリアに入って、ピルビン酸脱水素酵素の働きでアセチル-CoAに変換されてTCA回路に入ります。脂肪酸もミトコンドリアでβ酸化によって分解されてアセチル-CoAに変換されTCA回路に入ります。このとき、グルコースが枯渇しているとアセチル-CoAは肝臓でケトン体生成に使われます。
グルコース枯渇時にアセチル-CoAがケトン体に変換されるのは、アセチル-CoAが細胞膜を通れないので、細胞膜を通過できるケトン体に変換されて脳などの他の組織の細胞にエネルギー産生の原料として運ばれるためです。
細胞核におけるヒストンのアセチル化では、アセチル-CoAのアセチル基が使われますが、このアセチル-CoAはミトコンドリアで作成され、ミトコンドリアから核への運搬にはL-カルニチンが必要ということです。この経路をまとめると以下のようになります。

図:グルコースや脂肪酸の分解によってミトコンドリアで生成されたアセチルCoAのアセチル基がL-カルニチンに渡されてアセチル-L-カルニチンになる。アセチル-L-カルニチンは細胞核に運ばれ、核でアセチルCoAに変換され、ヒストンのアセチル化のアセチル基の供給源となる。アセチルCoAは細胞膜を通過できないので、L-カルニチンとアセチル-L-カルニチンが利用されている。

【オーラノフィンはヒストンアセチル化を促進してレチノイドやビタミンD3の分化誘導作用を高める】
オーラノフィンは関節リュウマチの治療に使われる有機金製剤で、最近の報告で多彩な抗腫瘍効果が報告されています。(419話424話427話参照)
オーラノフィンがヒストンアセチル化を促進してレチノイドやビタミンD3の分化誘導作用を促進することが報告されています。

Auranofin promotes retinoic acid- or dihydroxyvitamin D3-mediated cell differentiation of promyelocytic leukaemia cells by increasing histone acetylation.(オーラノフィンは、ヒストン・アセチル化を増やすことによって、レチノイン酸あるいはジヒドロキシ・ビタミンD3による前骨髄球性白血病の分化誘導作用を促進する) British Journal of Pharmacology. 2008;154(6):1196-1205. doi:10.1038/bjp.2008.197.

前骨髄球性白血病(promyelocytic leukaemia)は、骨髄球になる前の段階の前骨髄球ががん化しています。レチノイドとビタミンD3は、この前骨髄球性白血病を骨髄球まで最終分化させて腫瘍性を無くすことができます。
患者から採取した腫瘍細胞や培養株になっている腫瘍細胞を使って実験しています。
この実験系で、通常では分化誘導作用を示さない濃度のレチノイドやビタミンD3で細胞を処理するときにオーラノフィンを併用すると、分化誘導作用が増強されました
細胞核内のレチノイン酸受容体β2(RARβ2)遺伝子のプロモーター領域のヒストンアセチル化が亢進していました。
ビタミンD3とオーラノフィンの併用投与はp21遺伝子のプロモーター領域のヒストン・アセチル化と細胞周期のG0/G1期での停止を促進しました。
細胞増殖を抑制するP21, p27, PTENの発現が亢進し、細胞分裂を促進するサイクリンA、Cdk2、Cdk4の発現は減少していました。
低リン酸化したpRbは、両方を併用することによって増加しました。Rbタンパク質はリン酸化されると細胞増殖が促進されます。低リン酸化の状態は細胞周期を停止させる効果があります。(380話参照)

ATRAか1,25(OH)2 vit D3にオーラノフィンを併用すると、ヒストン・アセチル化の促進と分化誘導関連の遺伝子の発現に作用して、前骨髄急性白血病の分化誘導を促進したという報告です。
固形がんの分化誘導や増殖抑制の目的で、オールトランス・レチノイン酸(20~40mg/日)とサプリメントのビタミンD3(4000 IU/日)と関節リュウマチ治療薬のオーラノフィン(3~6mg/日)の併用や、さらに中鎖脂肪ケトン食、アセチル-L-カルニチンなどの組合せは、がん細胞の増殖を抑制する方法として相乗効果が期待できると思います。実際に、複数のがん患者さんに試してみて、副作用はほとんどなく、有効性を経験しています。

【がん組織には骨髄由来抑制細胞が増えている】
免疫抑制性の細胞は、免疫反応を適切な時期に終息させたり、自己のたんぱく質や食物に反応しないようにする働きがあります。もし異常に免疫系が活性化され続けたり、自己のたんぱく質と反応すると、自己免疫疾患やアレルギー性疾患を引き起こします。

つまり、免疫応答を実行する細胞が暴走しないように抑制性の細胞やサイトカインや伝達物質が存在し、それによって免疫系が正常に働くことができるのです。

免疫抑制のメカニズムの一つに骨髄由来抑制細胞(Myeloid derived suppressor cell: MDSC)があります。この細胞は顆粒球のマーカーと単球/マクロファージのマーカーとを同時に発現している未熟な段階の骨髄由来細胞で、免疫反応を強力に抑制する働きを持っています。

骨髄由来抑制細胞はアルギナーゼや活性酸素、一酸化窒素、IL-10、TGF-βなどの産生を介して免疫担当細胞の活性を阻害したり、制御性T細胞(Treg)の誘導をきたすことによって免疫抑制作用を発揮します。
正常な場合には、免疫系が過剰に働いて自らの体を攻撃してしまう自己免疫疾患にならないように、骨髄由来抑制細胞や制御性T細胞がブレーキをかけています。つまりこれらの免疫抑制細胞は、健康な人にとっては、むしろ良い働きを担っています。


一方、担がん(体内にがんがある)状態では、骨髄由来抑制細胞ががん病巣部位のみならず循環血中やリンパ組織(リンパ節や脾臓など)においても増加することが報告されています。

末梢血中の骨髄由来抑制細胞の数が多いと予後が悪いという報告もあります。
がん細胞は免疫抑制性の骨髄由来抑制細胞をがん組織内に動員させることによって、キラーT細胞やNK細胞からの攻撃を抑えていることが明らかになっています。

つまり、がん細胞を攻撃・排除しようとするナチュラルキラー細胞(NK細胞)や細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)の働きが、がん組織内では骨髄由来抑制細胞の増加によって抑制されているのです。


図:腫瘍組織からプロスタグランジンE2、IL-6、TGF-β、VEGF、GM−CSFなどの因子が産生される(①)。これらの腫瘍由来因子は血流によって骨髄に達し(②)、骨髄の前駆細胞から骨髄由来抑制細胞(MDSC)の増殖を促進する(③)。腫瘍組織から産生されるケモカイン(CXCL1/2やCXCL12など)がMDSCを腫瘍組織に誘導して集める(④)。腫瘍組織に集まったMDSCは細胞傷害性T細胞(CD8+T細胞)やナチュラルキラー細胞(NK細胞)の働きを阻害して抗腫瘍免疫を抑制する(⑤)。MDSCは成熟した樹状細胞やマクロファージに分化させることもできる(⑥)。

【レチノイドとビタミンDによる骨髄由来抑制細胞の分化誘導療法】
オールトランス・レチノイン酸(All-trans retinoic acid:ATRA)はビタミンA誘導体で核内受容体のレチノイン酸受容体やレチノイドX受容体に作用して遺伝子発現を誘導します。
ATRAが骨髄球の分化を誘導することはよく知られています。ATRAがMDSCの分化を誘導して成熟させ、免疫抑制活性を低下させることが報告されています。以下のような報告があります

All-trans-retinoic acid eliminates immature myeloid cells from tumor-bearing mice and improves the effect of vaccination.(オールトランス・レチノイン酸は担がんマウスの未熟な骨髄細胞を除去してワクチンの効果が高める)Cancer Res. 63(15):4441-9.2003年

【要旨】
がん組織による免疫抑制においては、未熟な骨髄細胞が重要な役割を果たしている。これらの未熟骨髄由来抑制細胞は担がんマウスにおいて増加し、様々なメカニズムでT細胞の機能を阻害する。
本研究では、抗腫瘍効果を高める目的で、骨髄由来抑制細胞を除去する実験を行った。
担がんマウスにオールトランス・レチノイン酸(all-trans-retinoic acid ;ATRA)を投与すると、全ての実験モデルにおいて腫瘍内の骨髄由来抑制細胞を減少することが示された
この作用はATRAの直接的な殺細胞作用やがん細胞からの増殖因子の産生抑制とは関係なかった。
ATRAは未熟な骨髄由来抑制細胞を成熟樹状細胞やマクロファージや顆粒球に分化誘導した
担がんマウスにおいて骨髄由来抑制細胞が除去されるとT細胞による腫瘍特異的な免疫応答が改善した。
2種類の異なるがんワクチンの実験モデルで、ATRAを併用すると、抗腫瘍免疫の効果が顕著に増強した。
以上の結果から、ATRAを使った未熟な骨髄由来抑制細胞を分化誘導によって除去する方法は、がんワクチンの治療効果を高める方法として役立つ可能性が示された。

以下のような報告があります。

Targeting myeloid-derived suppressor cells using all-trans retinoic acid in melanoma patients treated with Ipilimumab. (イピリムマブで治療したメラノーマ患者におけるオールトランスレチノイン酸を用いた骨髄由来抑制細胞の標的化)Int Immunopharmacol. 2018 Oct;63:282-291.

【要旨の抜粋】
メラノーマにおける免疫療法の有効性を制限する腫瘍関連メカニズムの一つは、骨髄由来抑制細胞(myeloid-derived suppressor cells :MDSC)の動員および増殖である。 したがって、免疫療法と組み合わせて骨髄由来抑制細胞を標的とすることは、奏効率および有効性を改善する魅力的な戦略である。
進行性黒色腫患者を対象にして、イピリムマブ単剤またはイピリムマブ+オールトランスレチノイン酸(ATRA)による治療法を比較する無作為化第II相臨床試験を実施した。
混合リンパ球反応によるin vitroの実験系で、ATRAはMDSCの免疫抑制機能を低下させることを示した。
さらに、ATRAは、MDSCによるPD-L1、IL-10、およびインドールアミン2,3ジオキシゲナーゼ(indoleamine 2,3‑dioxygenase)を含む免疫抑制遺伝子の発現を減少させた。
さらに、ATRAはグレード3または4の有害事象の頻度を増加させなかったため、イピリブマブを使った標準的治療にATRAを併用する上での安全性には問題ないと思われた。
進行黒色腫患者におけるイピリムマブ単独の治療と比較して、イピリムマブ+ATRA併用治療は、循環するMDSCの頻度を有意に減少させた

イピリムマブ(Ipilimumab)はCTLA-4を標的としたモノクローナル抗体で、商品名はヤーボイです。
細胞傷害性T細胞(CTL)はがん細胞を認識し破壊する能力を持ちますが、それを抑制するメカニズムが存在します。イピリムマブはそのメカニズムを解除して、CTLの機能を発揮させます。
CTLA-4は細胞傷害性T細胞の働きを抑制するスイッチのようなもので、がん細胞がCTLA-4のスイッチを入れるタンパク質を持っていて、CTLの働きを阻止しています。抗CTLA-4抗体はCTLA-4のスイッチが入らないようにして、CTLの働きを増強します。

担がんマウスにオールトランス・レチノイン酸(ATRA)を投与するとMDSCは成熟した樹状細胞、好中球、単球に分化し、CTLによる免疫応答を増強できることが報告されています
マウスの複数の実験モデルで、ATRAがワクチン治療の効果を高めることが報告されています
移植腫瘍を使ったがんワクチンの実験でも、ATRAを投与すると腫瘍増殖の抑制効果が増強することが報告されています。
がんワクチンや抗がん剤治療との併用におけるATRAの効果に関する臨床試験が行われています。

また、ビタミンD3も骨髄細胞の成熟を促進することが報告されています。
ビタミンD3とレチノイドは未熟な骨髄由来細胞の成熟を促進し、抗腫瘍免疫を高めることが報告されています
例えば、頭頚部扁平上皮がん患者を対象にした臨床試験で、1日60μgのビタミンD3の投与によって骨髄細胞のHLA-DRの発現が亢進し、血中のIL-12とIFN-γの濃度が増加したという報告があります。
MDSCはマクロファージからのIL-12産生を抑制し、IL-10の産生を亢進し、Th1免疫を抑制します。
「腫瘍組織における免疫抑制性の微小環境(TumorImmunosuppressive Microenvironment)」を改善する治療法は、がんの免疫療法の効果を高めることができます。この目的でも、ATRAとビタミンD3とヒストン・アセチル化の組み合わせは試してみる価値はあります。

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