がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
734)がんになったら甘い果物は止めなさい(その1):100%果物ジュースの摂取はがん発生を増やす
図:果物に多く含まれるフルクトース(果糖)は、細胞内で複数の経路で解糖系へ入り、グルコース(ブドウ糖)と同様にエネルギー産生や物質合成に使用される。フルクトースはグルコースより核酸(DNAやRNA)と脂肪酸の合成を促進する作用が強い。また、細胞内の糖タンパク質にフルクトースが取込まれると、その糖タンパク質の性状が変化し、がん細胞の浸潤や転移能が亢進するという報告もある。つまり、フルクトースとグルコースの摂取量が多いと、相乗的にがん細胞の増殖を促進する。果物に含まれる糖分(グルコース+フルクトース+スクロース)はデンプン主体のご飯やパンよりもがんを促進する作用が強いかもしれない。
734)がんになったら甘い果物は止めなさい(その1):100%果物ジュースの摂取はがん発生を増やす
【100%果物ジュースががんの発生を増やす】
砂糖の入った飲料だけでなく、100%果物ジュースの消費もがん促進作用があることがフランスで行われた大規模疫学調査で明らかになっています。British Medical Journal(BMJ)の2019年7月10日号に掲載されています。
Sugary drink consumption and risk of cancer: results from NutriNet-Santé prospective cohort.(甘い飲み物の消費とがんのリスク:NutriNet-Santé前向きコホートの結果)BMJ. 2019; 366: l2408.
【論文の要旨】
目的:甘い飲み物(砂糖で甘くした飲み物や100%フルーツジュースなど)や人工甘味料で甘くした飲み物の消費量とがんの発生リスクの間の関連を評価すること。
方法:住民ベースの前向きコホート研究。
設定と参加者:フランスのNutriNet-Santéコホート研究(2009年〜2017年)からの18歳以上(平均年齢42.2 ± 14.4)の101,257人の参加者を解析した。追跡期間中央値は5.1年間。
砂糖入り飲料および人工甘味料入り飲料の消費の評価には、3,300項目の食品および飲料に関して、参加者の日常的な消費状況が記録されるようデザインされた反復的24時間食事記録法を用いた。飲料のタイプごとに、男女別の消費量をそれぞれ4段階に分けて解析した。
主なアウトカム指標:全がん、乳がん、前立腺がん、結腸直腸がんのリスクと飲料の消費との関連性は、競合するリスクを考慮して、多変量で補正したFineとGrayのハザードモデル(multi-adjusted Fine and Gray hazard models)を用いて評価を行い、部分分布のハザード比(Subdistribution hazard ratios)を算出した。
結果:砂糖入り飲料の消費は、がん全体(n = 2193例、消費量100mL/日増加の部分分布ハザード比1.18、95%信頼区間:1.10〜1.27、P <0.0001)および乳がん(n=693例、消費量100mL/日増加の部分分布ハザード比1.22、95%信頼区間:1.07〜1.39、P = 0.004)のリスクと有意な関連が認められた。
人工的に甘味を付けた飲料の摂取は、がんの発症リスクとは関連していなかった。
特定のサブ分析では、100%フルーツジュースの消費は、全がんのリスクと有意に関連していた(n=2193例、消費量100mL/日増加の部分分ハザード比1.12、95%信頼区間1.03〜1.23、P = 0.007)。
結論:この大規模な前向き研究では、甘い飲み物の摂取は、がん全体および乳がんのリスクと正の相関が認められた。 100%フルーツジュースも、全がんのリスクと有意な正の相関が認められた。これらの結果は、他の大規模な前向き研究で再現性を検討する必要がある。これらの結果は、西洋諸国で広く消費されている甘い飲み物が、がん予防のための修正可能な危険因子である可能性を示唆している。
ニュトリネット・サンテ(NutriNet-Santé)コホート研究はパリ第13大学(Paris 13 University)の栄養疫学研究チームやフランス国立保健医学研究所などの研究者が参加している大規模疫学研究です。
参加者たちには6か月ごとにオンライン上で、24時間以内に飲食したものに関してアンケートに回答し、調査期間中のある種の食品の摂取量増加と発症リスクや死亡リスク増加の間の関連を前向きに調査しています。
このコホート研究から、「超加工食品の摂取率が10%増加すると死亡率も15%増加していた」という論文も発表されています。(Consumption of ultra-processed foods and cancer risk: results from NutriNet-Sante prospective cohort. BMJ 2018;360:k322)
前述の論文では、このニュトリネット・サンテ(NutriNet-Santé)コホート研究の参加者の一部が解析対象になっています。
砂糖の多い飲料は肥満を増やし、2型糖尿病や高血圧や心臓疾患のリスクを高めることは多くの疫学研究で明らかになっていますが、がんとの関係は今まであまり検討されていませんでした。
しかし、肥満や糖尿病ががんの発生率を高めることは多くの疫学研究で明らかになっていますので、砂糖の多い飲料ががんの発生を増やす可能性は推測されます。
そこで、砂糖の多い飲料の摂取量とがんの発生率の直接の関連を調べる疫学研究が行われており、この論文もその一つです。
砂糖入り飲料、100%フルーツジュースおよび人工甘味料入り飲料の消費の評価には、3,300項目の食品および飲料に関して、参加者の日常的な消費状況が記録されました。飲料のタイプごとに、男女別の消費量をそれぞれ4段階に分けて解析しています。
10万1,257例(平均年齢42.2±14.4歳)のうち、女性が7万9,724例(78.7%)を占め、男性は2万1,533例(21.3%)でした。
飲料のタイプ別の割合は、砂糖入り飲料(100%果物ジュースを除く)が36%、100%果物ジュースが45%で、人工甘味料入り飲料は19%でした。
追跡期間中央値5.1年(49万3,884人年)の間に、2,193例が初発のがんを発症しました。内訳は、乳がんが693例(閉経前283例、閉経後410例)、前立腺がんが291例、大腸がんは166例で、診断時の平均年齢は58.5±12.0歳でした。
砂糖入り飲料の消費は、全がんで「消費量100mL/日増加の部分分布ハザード比が1.18」というのは、「1日100mLの摂取量増加につきがん全体の発生率が1.18倍になる」ということです。
乳がんの場合は、砂糖入り飲料が1日100mLの摂取量増加につき乳がん発生リスクが1.22倍になるという結果です。これは砂糖入り飲料を1日に500mL消費すると乳がんの発生率が約2倍になることを意味します。
この解析では、砂糖入り飲料の消費は、前立腺がん、大腸がん、肺がんとは関連がみとめられませんでしたが、症例数が少ないので、統計学的有意差が出なかった可能性があります。
さらに、サブ解析では、100%果物ジュースの消費は全がん(消費量100mL/日増加の部分分布HR:1.12、95%CI:1.03~1.23、p=0.007)のリスクと有意な関連を示しました。
つまり、100%果物ジュースを1日に800mLの消費で全がんの発生率が約2倍になる計算です。
【がん細胞はフルクトース輸送担体のGLUT5の発現が増えている】
食品中の糖質は消化管内で単糖類(グルコース、フルクトース、ガラクトースなど)まで消化されて消化管粘膜から吸収され、さらに肝臓や筋肉やその他の全身の細胞に輸送され細胞に取り込まれます。
これらの糖は細胞中へ無条件で取り込まれるわけではありません。
単糖類が細胞膜を通過するときに糖輸送体(sugar transporter) といわれる膜タンパク質が糖の輸送を媒介します。
促進拡散によって糖を輸送するもの(GLUT類)とNaイオン依存性能動輸送によるもの(SGLT類)があります。
多数の種類がありますが、極めて単純に説明すると、グルコース(ブドウ糖)の取込みはGLUT1が媒介し、フルクトース(果糖)はGLUT5が行います。
グルコースはエネルギー源として全ての細胞に必要なので、グルコースを効率良く取り込ませるGLUT1は全ての動物細胞に発現し、特にグルコース要求度の高い細胞に多く存在します。がん細胞はGLUT1が過剰に発現しているのが特徴です。
一方、GLUT5はフルクトース(果糖)に特異的な促進拡散型輸送体であり,グルコースやガラクトースなどの単糖は輸送しません。
フルクトース(果糖)の輸送を担うGLUT5は、糖吸収が活発な小腸の空腸部の粘膜上皮細胞に多く発現し、精巣や腎臓や脂肪組織や骨格筋に少量が発現しています。
基本的に多くの正常細胞には発現していませんが、がん細胞にはGLUT5が過剰に発現していることが多くのがん種で報告されています。つまり、がん細胞ではフルクトースの取り込みも亢進しているのです。
一般的に、がん細胞はGLUT1の発現が亢進し、グルコースの取込みが増えています。そのため、がん組織ではグルコースの供給が枯渇しやすい状況にあります。その場合、アミノ酸の取込みを亢進して、エネルギー産生や物質合成に利用します。
このような栄養要求性の高いがん細胞では、GLUT5の発現を亢進してフルクトースの取込みを増やし、エネルギー産生や物質合成に使用しています。
つまり、グルコースだけでなくフルクトースもがん細胞の増殖と浸潤を促進しているのです。
がん細胞にGLUT5の発現が亢進していることが最近の多くの研究で明らかになっています。以下のような報告があります。
GLUT5-mediated fructose utilization drives lung cancer growth by stimulating fatty acid synthesis and AMPK/mTORC1 signaling.(GLUT5を介したフルクトースの利用は、脂肪酸合成とAMPK / mTORC1シグナル伝達を刺激することによって肺がんの成長を促進する)JCI Insight. 2020 Feb 13;5(3):e131596.
【要旨の抜粋】
肺がん細胞の急速な増殖には、エネルギーを産生するための活発な異化作用(栄養素の分解)が必要である。現在の食事に豊富に含まれる糖であるフルクトース(果糖)が肺がん細胞の増殖に不可欠であるかどうかは不明である。
体内で様々な代謝燃料が共存する条件下で、肺がん細胞はフルクトース輸送担体であるGLUT5の発現を亢進することによって、in vivoにおいて、グルコースの代替燃料として肺がん細胞によって容易に利用されることを明らかにした。
メタボロミクスプロファイリングと同位体追跡を組み合わせることで、細胞内に取り込まれたフルクトースが代謝されて脂肪酸合成とパルミトレイン酸生成が促進され、in vivoにおいて肺がん細胞の成長が促進されることが実証された。
GLUT5の発現欠損によって引き起こされる肺がん細胞の増殖阻害が、パルミトレイン酸の投与によって阻害されることがin vitroおよびin vivoの実験系で示された。
さらに、分子メカニズムの解析により、AMPKを抑制し、その結果mTORC1活性を活性化して肺がん細胞の成長を促進するには、GLUT5を介したフルクトースの利用が必要であることが明らかになった。
GLUT5阻害剤を使用したin vivoのフルクトース利用の薬理学的阻害は肺がん細胞の増殖を著しく抑制した。
以上の結果から、肺がん細胞の増殖をにおいてGLUT5によって媒介されるin vivoのフルクトース利用の重要性が示された。GLUT5の阻害は肺がん治療の有望な治療法となる。
肺がん細胞ではフルクトース輸送担体であるGLUT5の発現が亢進し、GLUT5の阻害剤ががん細胞の増殖を抑制することから、がん細胞の増殖にフルクトースの利用が必要であるという結果です。
がん細胞のGLUT5の発現を検討した論文は最近多く報告されています。以下のような報告があります。
GLUT5 increases fructose utilization in ovarian cancer.(卵巣がんにおいてGLUT5はフルクトースの利用を増やす)Onco Targets Ther. 2019 Jul 8;12:5425-5436.
【要旨の抜粋】
背景:フルクトースは全世界で最も一般的な食事性炭水化物の1つであり、最近の研究では、フルクトースの消費ががん細胞の発生と進展に密接に関連していることが報告されている。しかし、卵巣がんを対象にフルクトースに焦点を当てた研究はほとんど行われていない。
哺乳類細胞におけるフルクトース輸送体のGLUT5は、多くのがん細胞で高度に発現していることが明らかになっている。
方法:フルクトース添加培地での卵巣がん細胞の増殖、コロニー形成、および遊走能を検討した。さらに、卵巣がん細胞でGLUT5遺伝子発現を阻害し、卵巣がん細胞におけるのフルクトース代謝におけるGLUT5の役割を検討した。
結果:卵巣がん細胞はフルクトース添加培地とグルコース添加培地で、同等の増殖と遊走の能力を示した。GLUT5の発現を阻止するとフルクトース培地での増殖と遊走能を有意に阻害できた。
一方、GLUT5は卵巣がん組織でより高発現しており、その発現レベルは腫瘍の悪性度および卵巣がん患者の生存率の低下と有意に相関していることが示された。
さらに、動物実験の結果は、フルクトースの摂取量の増加に伴って腫瘍の体積が著しく増加し、GLUT5発現を阻害すると腫瘍の増殖が大幅に抑制された。
結論:卵巣がん細胞はフルクトースを増殖に利用できる。したがって、フルクトースの摂取を制限したり、GLUT5を阻害することは、卵巣がん治療に有効な戦略となる可能性がある。
フルクトースの摂取が増えると、がん細胞の悪性度が高くなり、がん細胞の増殖や浸潤や転移が促進して、がん患者の生存率低下と関連する可能性を指摘しています。
以下のような報告もあります。
An essential role for GLUT5-mediated fructose utilization in exacerbating the malignancy of clear cell renal cell carcinoma.(腎明細胞がんの悪性度の増強におけるGLUT5を介したフルクトース利用の重要な役割)Cell Biol Toxicol. 2019 Oct;35(5):471-483.
【要旨】
フルクトースはいくつかの腫瘍の重要な代替炭素源であり、GLUT5は細胞内のフルクトース取り込みの大部分を仲介する主要なフルクトーストランスポーターである。
これまでのところ、GLUT5を介したフルクトースの利用が腎明細胞がんにとって重要であるかどうかは不明である。この研究では、GLUT5が腎明細胞がんの細胞株のパネルで高度に発現していることを示した。
GLUT5の高発現は、細胞増殖やコロニー形成など、腎明細胞がん細胞の悪性度を亢進した。
一方、GLUT5をコードする遺伝子SLC2A5の欠損は、アポトーシス経路を活性化することにより、がん細胞の悪性度を劇的に軽減した。
さらに、フルクトース取り込みの競合的阻害剤である2,5-アンヒドロ-D-マンニトール(2,5-AM)の投与は、腎明細胞がん細胞の増殖を著しく抑制した。
以上の結果は、腎明細胞がん細胞におけるGLUT5を介したフルクトース利用の新しいメカニズムを明らかにし、腎明細胞がん細胞の治療におけるこの代謝経路を標的とする治療の可能性を示した。
GLUT5の発現亢進とフルクトース利用の増加が、がん細胞の悪性度を高めると言う結果です。フルクトースががん細胞の悪性度を高めるという報告は他にも多数あります。
つまり、がん患者はフルクトースの多い食品は食べない方が良いというエビデンスは十分に存在すると言えます。
【果糖はがん細胞の増殖に利用される】
発がん実験で果糖が発がんを促進することは以前から数多く報告されています。例えば以下のような報告があります。
Enhancement of hepatocarcinogenesis in rats by dietary fructose.(食餌中の果糖によるラットの肝臓発がんの促進)Carcinogenesis. 1989 Jul;10(7):1247-52.
この報告では、発がん物質のN-nitrosomorpholineをラットに7週間投与したのち、フルクトースを120g/lの濃度で添加した水と食餌を自由に摂取させるグループと、普通の水と食餌を自由に摂取させるグループの2群に分けて、肝臓がんの発生率を比較しています。
その結果、肝臓がんの発生率は普通の水を摂取した群が24%であったのに対して、フルクトース添加の水を摂取した群では46%に増加しました。
果糖(フルクトース)はがん細胞に多く取り込まれ、増速シグナルを亢進することが多くの実験で示されています。
【フルクトースは乳がんを増やす】
砂糖や果糖ブドウ糖液糖などの糖類を加えた食品や飲料の摂取は、乳がんをはじめ、他の多くのがんでも発症リスクを高めることが報告されています。
甘い食品の摂取と乳がん発症リスクの間に正の相関があることが幾つかの研究で報告されています。例えば、乳がんの発症リスクと強い関連のあるマンモグラフィーでの乳腺密度(mammographic density;MD)と甘い食品の摂取との関連について検討が報告されています。
Consumption of sweet foods and mammographic breast density: a cross-sectional study.(甘い食事の摂取量とマンモグラフィの乳腺密度:一つの横断研究) BMC Public Health. 2014 Jun 26;14:554. doi: 10.1186/1471-2458-14-554.
この研究では、閉経前の776人と閉経後の779人の女性を対象にして、マンモグラフィー検査を行い、甘い食品や飲料の摂取と乳腺密度との関連を検討しています。
この論文の結論は、「甘い食品や砂糖を添加した飲料の摂取量と乳腺密度の増強は関連する」となっています。
以下のような報告もあります。
Glycemic index, glycemic load and mammographic breast density: the EPIC Florence longitudinal study.(グリセミック指数とグリセミック負荷とマンモグラフィにおける乳腺密度:EPICフローレンス縦断研究)PLoS One. 2013 Aug 7;8(8):e70943.
EPIC(European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition)は「がんと栄養に関する欧州前向き研究」という意味で、国際がん研究機関がコーディネートし、欧州10カ国で被験者を募集した多施設試験です。総計約50万人を対象にした欧州の大規模疫学研究です。
コホート(cohort)というのは、疫学研究では「特定の地域や集団に属する人々」のことです。つまり、この報告は、「がんと栄養に関する欧州前向き研究(EPIC)」で研究対象になった集団のうちのイタリアのフローレンス(イタリア語ではフィレンツェ)に住む集団を解析した疫学研究です。
縦断研究というのは、同一の対象者を一定期間継続的に追跡し、いくつかの時点で測定を行って変化を検討する研究です。
マンモグラフィーによる乳腺密度(mammographic breast density:MBD)は、乳腺組織が女性ホルモンや増殖因子による刺激の蓄積のマーカーとして認識されており、乳がんのリスク因子として知られています。
グリセミック指数やグリセミック負荷の高い食事が、インスリン様成長因子を介する機序で乳がんの発症リスクを高める可能性が指摘されています。
この報告では、EPIC-フローレンスのコホートの女性を対象に、参加の5年後にマンモグラフィー検査を行い、食事や生活習慣に関する詳細な情報や身体測定のデータを得ることによって、糖質摂取量、グリセミック指数、グリセミック負荷と乳腺密度との関連を前向き研究で検討しています。
この研究では、グリセミック負荷および全糖質摂取量と乳腺密度の増強の間に関連を認めています。つまり、糖質の多い食事が乳がんの発生リスクを高めることを示唆しています。
甘い果物を多く消費することはグリセミック負荷および全糖質摂取量を増やすことになります。フルクトースはインスリンの分泌を刺激しません。フルクトースのグリセミック指数は19でグルコースの5分の1です。
したがって、グリセミック負荷への寄与は少ないと言えます。この点が「果物はがんを促進しない」という間違った認識の原因になっています。
フルクトースにはグルコースとは異なるメカニズムでの不健康作用とがん促進作用があるのです。
以下のような論文があります。
Dietary Fructose Consumption and Triple-Negative Breast Cancer Incidence(食事からのフルクトース摂取とトリプルネガティブ乳がんの発生率)Front Endocrinol (Lausanne). 2019; 10: 367.
【要旨の抜粋】
20世紀において、人類はほとんどの感染症と戦う方法を見つけた。しかし、その間に肥満、高血糖、高脂血症の有病率は劇的に増加した。これらの非感染性疾患は、世界で最大の健康被害の原因となっている。
このような疾患が増えた同じ時期に、西洋型食生活は劇的に変化した。家庭料理は、高度に加工されたカロリー密度の高い食品に取って代わられた。
このような現在の西洋型食生活の特徴の一つは、多くの甘味飲料や食品への高果糖コーンシロップ(high-fructose corn syrup)の使用である。
大量の糖類、特にフルクトースの摂取は、全身性および特定の組織の両方で代謝状態の変化を引き起こす。この変化した代謝状態は多くの深刻な影響を及ぼし、糖尿病、心血管疾患、さらにはがんを含む多くの疾患の発症に関連している。
トリプルネガティブ乳がん(TNBC)のような特定の種類のがんは、食事の要因に影響を受け、治療が非常に困難なため、リスクのある集団への食事介入による発生予防の重要性を示唆している。
肥満、糖尿病、がんなどの非感染性疾患を治療するには、その進行を促進する全身性および局所的な代謝異常を理解することが不可欠である。
このレビューでは、食事によるフルクトース消費の増加、代謝障害の発症、およびトリプルネガティブ乳がんの発生率の増加の間の関連を具体的に調査する。
トリプル・ネガティブ(Triple Negative)というのは、ホルモン受容体(エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体)とHER2蛋白を発現していない乳がんです。トリプル・ネガティブ乳がんは細胞増殖能が高く、遠隔臓器への転移を起こし易く、早期に再発し易い乳がんです。
トリプル・ネガティブ乳がんは原発性乳がんの約15%を占め、乳がんの中でも生物学的悪性度の高いサブタイプと言えます。
早期に発見されて転移が無い段階で切除できれば根治しますが、遠隔臓器に転移した場合は、ホルモン療法もハーセプチンも使えないため、抗がん剤しか治療法がありません。
通常、アントラサイクリン系やタキサン系の抗がん剤が使われますが、これらの通常の抗がん剤治療では、いずれ耐性ができて治療に抵抗し、予後は不良です。
トリプル・ネガティブ乳がんが転移・再発した場合は、有効な治療法が少なく、短期にがん死に至る症例が多いことが問題になっています。
したがって乳がんの予防対策が重要であり、そのターゲットとしてフルクトース消費を減らすことが意味があるという提言です。
がん細胞のエネルギー代謝の特徴は、解糖系が亢進し、ミトコンドリアでの酸素呼吸(酸化的リン酸化)が抑制されていることです。がん細胞は酸素が十分に存在する状況でも、できるだけ酸素を使わないエネルギー代謝を使っています。これをワールブルグ効果と言います。
トリプルネガティブ乳がん細胞では、他のサブタイプの乳がんに比べて解糖系が亢進していることが報告されています。以下のような報告があります。
Mitochondrial dysfunction in some triple-negative breast cancer cell lines: role of mTOR pathway and therapeutic potential(幾つかのトリプル・ネガティブ乳がん細胞株におけるミトコンドリア機能異常:mTOR経路の役割と治療への応用)Breast Cancer Res. 2014; 16: 434.
この研究では、トリプル・ネガティブ乳がん細胞の代謝の特徴を、他のサブタイプの乳がん細胞と比較しています。
その結果、他のサブタイプの乳がん細胞に比べて、トリプル・ネガティブ乳がん細胞ではミトコンドリアにおける酸素呼吸がより低下し、解糖系がより亢進するというと代謝の特徴を示すという結果を報告しています。
したがって、トリプル・ネガティブ乳がん細胞のグルコース取り込みと解糖系を阻害する治療法は有効性が高いことが示唆されます。
以下のような報告もあります。
Increased utilization of fructose has a positive effect on the development of breast cancer(フルクトースの利用の増加は乳がん発生を促進する)PeerJ. 2017 Sep 27;5:e3804.
【要旨】
急速な増殖とワールブルク効果により、がん細胞は大量のグルコースを消費し、腫瘍内に低グルコースの微小環境を作り出す。現在まで、グルコース不足の状態でがん細胞がどのように増殖し続けるかはまだ明らかにされていない。
最近の研究では、フルクトースの過剰摂取と乳がんの発生および進行との密接な相関関係が明らかになっている。しかしながら、フルクトースが乳がんの発生と進展を直接促進する可能性があることを示す説得力のある証拠はない。
この研究では、アミノ酸ではなくフルクトースが機能的にグルコースに取って代わり、乳がん細胞の増殖をサポートできることを発見した。
フルクトースは、グルコースと同じくらい効果的なコロニー形成能力と移動能力を乳がん細胞に与えた。
興味深いことに、フルクトースは乳がん細胞によって容易に使用されたが、グルコースの非存在下では正常細胞(非腫瘍細胞)の増殖を促進することは無かった。これらの結果は、フルクトースが乳がん細胞によって比較的選択的に使用される可能性があることを示唆している。
実際、フルクトースの主な輸送体であるGLUT5は、乳がん細胞と腫瘍組織で高度に発現していたが、正常乳腺組織ではGLUT5の発現は認められなかった。
さらに、フルクトース添加食が乳がん細胞(4T1細胞)を移植したマウスの実験モデルで、乳がん細胞の転移を促進することを示した。
以上の実験結果から、フルクトースが特にグルコース欠乏症状態において乳がん細胞に使用できることを示しており、高フルクトース食がin vivoでの乳がんの進行を促進する可能性があることを示唆している。
がん細胞のグルコース取り込みと解糖系を阻害できても、もしフルクトース摂取が多いと、グルコース枯渇によるエネルギー産生低下を補うことができます。
がん細胞の増殖を抑えるには、グルコースだけでなく、フルクトースの摂取も減らすことが重要と言えます。
【フルクトースのがん促進作用】
果物に多く含まれる果糖(フルクトース)は、直接的には血糖を上げないためインスリンの分泌を刺激しないのですが、体内でブドウ糖に変換され、ブドウ糖と同じ代謝経路に組み込まれてエネルギー源となります。
さらに、果糖は核酸合成に関与するペントース・リン酸経路を亢進するので、がん細胞の増殖促進効果はブドウ糖より高いという報告もあります。
さらに、フルクトースは中性脂肪の合成を促進し、インスリン抵抗性を高めます。したがって、グルコース(ブドウ糖)を摂取した後の血糖上昇とインスリン分泌を更新します。つまり、フルクトースはグルコースのがん細胞増殖促進作用を増強することになります。
アボカド以外の果物は多くの糖が含まれています。その糖もすぐに吸収されるグルコース(ブドウ糖)やフルクトース(果糖)やスクロース(蔗糖)などの糖類です。
多くの果物は100グラム当たり10〜20グラム程度の糖質を含みます。レモンやグレープフルーツでも100グラム当たり8〜10グラムの糖質を含みます。リンゴやブドウや梨は100グラム当たり10グラム以上の糖質を含み、バナナは100グラム当たり20グラム以上の糖質を含みます。
スイカは可食部の90%が水分で、タンパク質が0.6%、脂肪が0.4%で、残りの9%がグルコースやフルクトースや蔗糖などの砂糖類です。
蜂蜜は砂糖よりも健康に良いと考えられていますが、蜂蜜100g中にはフルクトースが42.4g、グルコースが33.8g含まれています。蜂蜜も摂り過ぎるとがんを促進します。
がんに野菜や果物が良いという考えが普及していますが、糖質の多いものは避けることが大切です。その中で例外がアボカドで、100g当たりの糖質は1g以下で、食物繊維を5g以上含み、脂質が15g以上で、オリーブオイルと同じオレイン酸が豊富です。
表:主な果物の可食部100g中の糖質、食物繊維、蛋白質、脂質の含有量とエネルギー量を示す。アボカド以外の果物には糖質が多い。(五訂日本食品標準成分表より作成)
表:食品中のブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)、ショ糖(スクロース)、全砂糖の含量(可食部100g当たりのグラム数)。果物や蜂蜜には果糖や蔗糖が多く含まれている。(出典:FASEB J. 4: 2652-2660, 1990年
)
フルクトースは、腸から吸収されると門脈から肝臓に達し、肝細胞に入るとグルコースよりも速やかにフルクトキナーゼによりリン酸化されてフルクトース-1-リン酸を生成し、フルクトース-1,6-ビスリン酸を経て解糖系に入ります。糖新生によりグルコースにも変換されます。フルクトースは中性脂肪の合成を促進し、その速度はグルコースの2倍以上と言われています。
フルクトースのグリセミック指数は19±2ですので、砂糖の4分の1、グルコースの5分の1程度です。したがって、インスリンの分泌を刺激しにくいので、がん細胞の増殖を促進しないのではないかと思われがちです。
しかし、培養細胞を使って、培養液の糖質をグルコースにした場合とフルクトースにした場合で、増殖速度は変わらなかったという実験結果が報告されています。
さらに、フルクトースが多いとがん細胞内でトランスケトラーゼという酵素が誘導され、解糖系から分かれて核酸(DNAやRNA)合成に必要はペントース・リン酸回路を促進するという報告があります。DNAやRNAの合成が促進することはがん細胞の増殖に有利になります。
Fructose induces transketolase flux to promote pancreatic cancer growth(フルクトースはトランスケトラーゼの活性を高めて膵臓がんの増殖を促進する)Cancer Res. 70(15): 6368-76, 2010
また、フルクトースの細胞内への流入に必要なトランスポーター(輸送担体)であるGLUT5は乳腺の正常細胞でも発現していないが、乳がん細胞ではGLUT5が過剰発現しているという報告があります。つまり、乳がんでグルコースと同様にフルクトースも多く利用していることを示しています。
Expression of fructose transporte GLUT5 in human breast cancer (ヒト乳がん細胞におけるフルクトース輸送担体のGLUT5の発現) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 93:1847-1852, 1996
さらに、乳がん細胞の培養液にフルクトースを添加すると、乳がん細胞の性状がより悪化することが報告されています。
細胞内にはタンパク質に糖が結合した糖タンパク質が多数存在しますが、その結合した糖の種類によってタンパク質の性状が変わります。それは、レクチンという接着タンパク質に対する親和性が糖の種類によって変化するからです。
乳がんの培養細胞にフルクトースを添加して培養すると浸潤や転移が亢進したという報告があります。
Fructose as a carbon source induces an aggressive phenotype in MDA-MB-468 breast tumor cells.(炭素源としてのフルクトースはMDA-MB-468乳がん細胞においてより悪性の性質を誘導する)Int J Oncol. 37(3): 615-622, 2010
その他、飲料水にフルクトースを添加するなどの方法でフルクトースの摂取量を増やすと、化学発がん剤による発がんが促進されるという動物発がんの実験や、がん組織の発育が促進されるという移植腫瘍を用いた動物実験の結果なども報告されています。
甘い果物には、フルクトースとグルコースが一緒に含まれています。フルクトースはインスリンの分泌を少ししか刺激しませんが、グルコースと一緒に摂取してグルコースによってインスリン分泌が亢進すると、フルクトースのがん促進効果はさらに増強されます。
つまり、フルクトースとグルコースの摂取量が多いと、相乗的にがん細胞の増殖を促進することになり、果物に含まれる糖分(グルコースとフルクトースを含む)はご飯やパン(グルコースのみ)よりもがんを促進する作用が強い可能性があると言えます。
【フルクトースはグルコースのがん促進効果を増強する】
がん細胞はグルコースの取込みと解糖系でのグルコース代謝が亢進しています。
がん細胞は酸素が十分に利用できる状況でも、ミトコンドリアでの酸素呼吸が抑制され、酸素を使わない解糖系でのグルコース代謝が亢進しています。これを好気的解糖あるいはワールブルグ効果といい、がん細胞の代謝の最大の特徴です。
このワールブルグ効果をフルクトースが増強することが報告されています。
以下のような報告があります。
Fructose contributes to the Warburg effect for cancer growth.(フルクトースはがん細胞の増殖におけるワールブルグ効果に貢献する)Cancer Metab. 2020 Jul 10;8:16.
【要旨】
肥満とメタボリックシンドロームはがんと強く関連しており、これらの疾患は共通のメカニズムを共有している可能性がある。近年、フルクトースが肥満とメタボリックシンドロームの発症を促進することが明らかになっている。したがって、肥満とメタボリックシンドロームががんと関連している理由を説明するメカニズムとしてフルクトースが関与している可能性が考えられる。
臨床的および実験的証拠は、フルクトース摂取ががん細胞の増殖と関連しており、様々な悪性腫瘍でフルクトーストランスポーター(GLUT5)の発現が亢進していることが示されている。
興味深いことに、フルクトース代謝は低酸素条件下で促進され、グルコースの利用を促進し、主要な副産物としての尿酸と乳酸の生成を亢進するなどグルコースと比較して異なる効果を示す。
フルクトースは、ミトコンドリア呼吸を抑制するワールブルク効果を促進し、好気的解糖を促進し、低酸素条件下においてがん細胞の転移を助ける可能性がある。その過程で、尿酸がTCA回路を阻害し、ミトコンドリアの活性酸素種によって細胞増殖を刺激し、脂肪酸の酸化を阻害することにより、発がんを促進する可能性がある。
乳酸はまた、脂肪の酸化を抑制し、がん遺伝子の発現を誘導することにより、がん細胞の増殖に寄与する可能性がある。
フルクトース代謝は解糖経路を直接刺激することによって、低酸素状態の動物を保護する可能性があるが、現代社会の人間のがんの成長と転移を刺激することによって有害に作用する可能性がある。
フルクトース代謝を阻害することは、がんの予防と治療のための新しいアプローチとなる可能性がある。
つまり、最近のがん研究の領域では、フルクトースはグルコース以上にがん細胞の悪性進展に寄与しており、フルクトースの利用を阻害する方法ががん治療として有望であるという考えがコンセンサスになりつつあります。
したがって、フルクトースの消費を減らすことは、そのようなアプローチの第一歩になります。
フルクトースはインスリンの分泌を少ししか刺激しませんが、グルコースと一緒に摂取してグルコースによってインスリン分泌が亢進すると、フルクトースのがん促進効果はさらに増強されます。
つまり、フルクトースとグルコースの摂取量が多いと、相乗的にがん細胞の増殖を促進することになり、果物に含まれる糖分(グルコースとフルクトースを含む)はご飯やパン(グルコースのみ)よりもがんを促進する作用が強い可能性があると言えます。
【食生活の改善でがん発生や再発のリスクを減らすことができる】
適切な食生活や運動や禁煙などで、がんの発生の3分の2くらいは予防できると考えられています。
例えば、日本人の胃がんの発症率は近年減少していますが、その理由の一つは冷蔵庫の普及にあります。塩分の多い食生活は胃がんの発生を促進するのですが、冷蔵庫の普及によって、塩を使った食品の保存が必要なくなり、日本人の食卓から塩辛い食品が少なくなったのが、胃がんの発生率が減少した1番の理由だと考えられています。
一方、大腸がんや乳がんや前立腺がんの発生率が増えていますが、これは肉や動物性脂肪が多い欧米型の食生活が増えてきたことが関連しています。
糖尿病は乳がん、大腸がん、子宮内膜がん、肝がん、膵がんなど多くのがんの発症リスクを高めることが示されています。高血糖や高インスリン血症ががん細胞の増殖を促進するからです。精製した糖質の多い食事はインスリンの分泌を高め、インスリンはがん細胞の発育を促進します。
したがって、砂糖のような糖類や、白米のような精白した穀物の摂取量を減らすと、がんの発生を減らすことができると考えられています。
糖質の多い食事はインスリンの分泌を増やし、インスリンは脂肪の合成を促進して肥満を引き起こします。肥満は2型糖尿病(インスリンの分泌低下や感受性低下を原因とする糖尿病)や心臓病やがんの発生を増やすことが証明されています。
精製した糖質や砂糖たっぷりの食事を減らせば、肥満を減らせて健康状態を高め多くの病気を予防して病人を減らせるだけでなく、その結果として国の医療費を大きく減らすことができます。しかし、病気の予防より治療法の開発を優先する現代医学は、病気の予防には消極的です。
例えば、がんを減らす目的でも、現代医学は早期診断法の開発やがん検診の推進を主体にしています。しかし、がん検診をいくら推進してもがんで死亡する患者は減りますが、がん患者は減りません。むしろがん患者は増えます。治療の必要のない「悪性度の低いがん」を発見して、過剰診療の原因にもなり、医療費を増やす原因にもなっています。
日本では糖尿病は1970年代くらいまでは稀な病気でした。それが現在では、5人に一人が糖尿病あるいは糖尿病予備軍と言われています。
糖尿病の治療薬は新薬が開発されて増えていますが、糖尿病による失明や透析は増えています。
食生活や生活習慣を1970年代に戻せば糖尿病は減るはずですが、現代医学は病気の予防には消極的です。その主な理由は、病人が減ると医者と製薬会社が困るからです。
【「果物はがん予防に良い」は間違い】
果物ならいくら食べても大丈夫と考えているがん患者は多いと思います。
がん予防を専門にしている私自身も、「野菜と果物の多い食事はがん予防に有効」と10年くらい前までは信じていました。その考えが変わったのは、がんの予防や治療における糖質制限やケトン食の有効性が報告されるようになってからです。
甘い果物には果糖、ブドウ糖、ショ糖(果糖とブドウ糖が結合)が多く含まれており、糖質摂取量の観点から問題が多いのも事実です。さらに、果糖はブドウ糖以上にがんを促進することが明らかになっています。
がんの発生や再発を予防する食事として、「野菜や果物を多く摂取する」ことが推奨されています。このような植物性の食品の豊富な食事は健康的であることは多くの研究者が認めています。しかし、野菜や果物を多く摂取してもがん予防効果は極めて限定的、あるいは効果は認めないという研究結果が最近は多くなっています。
昔のケース・コントロール研究では、野菜や果物の摂取が多いほどがんが少ないという結果が得られています。
しかし、野菜や果物の摂取量の多いグループは摂取量が少ないグループに比較して、喫煙率や飲酒量や摂取カロリーや肥満の程度が低く、運動量が多いというデータがあり、野菜や果物ががんを予防する直接的効果をもつのではなく、がん予防に良い生活習慣(禁煙、禁酒、運動、標準体重維持、カロリー制限など)の指標に過ぎないという指摘もあります。
そして、食事とがんに関する最近のコホート研究の多くで、野菜や果物の摂取ががんを減らす効果は確認されていません。
果物を多く食べる(食べれる)人たちは、喫煙率や飲酒量が低く、経済的にも裕福(したがって、他の生活環境も良好)なので、がんが少ない可能性が指摘されています。(詳しくは304話参照)
さて、グルコース(ブドウ糖)は血糖を上昇させ、インスリンの分泌を刺激して、がんの発生や増殖や転移を促進します。
フルクトース(果糖)はインスリンの分泌を刺激しないので、糖尿病や肥満の人にも問題が少ない糖質あるいは甘味料として使用されています。インスリンを分泌させないのであれば、がん細胞の増殖も刺激しないということで、「フルクトース(果糖)ならがんを悪化させる心配は無い」と思っているがん患者さん多くいます。しかし、この考えは全くの間違いです。
多くの研究で、フルクトース(果糖)はグルコース(ブドウ糖)以上にがんを促進する可能性が指摘されているのです。
菜食主義の食事を実践していて、肉や脂っこいものもほとんど食べず、肥満もないのに中性脂肪が高い人が時々います。
コレステロールは肝臓で作られ、ホルモンの関係で更年期以降の女性はコレステロールが高くなる傾向にありますが、中性脂肪は基本的には、体脂肪が多い場合か食事からの脂肪の摂取が多い場合に上がります。
肥満がなく脂肪の摂取が少ないと中性脂肪が上がることは考えにくいのですが、そのような方の食事を聞いてみると、甘い果物(果糖の多い)を多く摂取していることに気づくことがあります。
フルクトースは体内で中性脂肪を増やす作用があり、甘い果物の摂取は中性脂肪の値を高めるのです。フルクトースが中性脂肪を増やす作用はグルコースの2倍という報告もあります。
ケーキやまんじゅうのような砂糖の多いものを避けるため、甘いものが欲しくなったとき果物を大量に食べている人がいます。ドライフルーツを大量に食べている人もいます。そして、このような食事の場合、がんは再発しやすく、進行も早いようです。
つまり、果物ならいくら食べても問題ないという間違った考えの人が結構いるようです。そのような内容を記載をした書籍もあります。
しかし、
甘い果物や、フルクトースの多く入った蜂蜜や飲料や甘味料の摂取は、ブドウ糖以上にがんを促進する可能性があることを知っておく必要があります。
図:フルクトース(果糖)は肝臓の中性脂肪の合成を亢進し、高脂血症や動脈硬化を引き起こす(①)。フルクトースはタンパク質を糖化して、動脈硬化や皮膚の老化を促進する(②)。フルクトースはインスリン抵抗性を引き起こし(③)、脂肪合成を亢進して肥満やメタボリック症候群の発症を促進する(④)。インスリン抵抗性は2型糖尿病を引き起こす(⑤)。フルクトースはペントース・リン酸経路のトランスケトラーゼの活性を高め、核酸合成を亢進する(⑥)。フルクトースは炎症や活性酸素の産生を高め、酸化ストレスを亢進する(⑦)。これらの複合的な作用によって、フルクトースはがん細胞の発生や増殖や転移を促進する(⑧)。フルクトースは強い甘味を有するので、脳内報酬系を刺激し、甘味依存(甘味中毒)の状態から抜け出すのは困難で、甘い食べ物を止めることができない(⑨)。以上の総合作用によりフルクトースを多く含む甘い果物や蜂蜜の取り過ぎは、がんや循環器疾患のリスクを高める。
「最近の野菜や果物は昔と比べて栄養価が落ちている」と良く言われています。実際、促成栽培などによって、野菜や果物に含まれるビタミンやミネラルやその他のフィトケミカルがかなり減少していることが明らかになっています。
昔のタマネギは切ると涙が出ていましたが、最近のタマネギは切ってもあまり涙が出ません。人参やピーマンのように味にクセが強くて子供が食べたがらなかった野菜も最近は非常に食べやすくなっています。これは、糖分が増え、糖分以外の栄養素が減っていることを示唆します。
一方、味を良くし食べやすくするために糖分を増やす品種改良も行われています。特に果物は、糖分の多い(糖度の高い)品種が好まれています。
野菜や果物の糖分を増やして甘味を増して食べやすくすることは健康にはマイナスです。
このような野菜や果物を多く摂取するくらいなら、マルチビタミン・ミネラルのサプリメントの摂取の方ががんの予防や治療には役立つかもしれないと思うくらい、がん患者さんは野菜や果物の糖分には気をつけるべきかもしれません。
実際、最近の100%フルーツジュースは、砂糖や果糖ブドウ糖液糖(高果糖コーンシロップ)を多く添加した甘味飲料と同じレベルに健康にマイナスになっています。
糖質を減らすように品種改良するべきですが、消費者は糖質の多い甘い果物を望むのが問題です。
アボカドに次いで健康作用と抗がん作用があるのはクエン酸の多いレモンやライムですが、このような酸っぱい柑橘類も糖度を増やすように品種改良が進んでいるので、最近はレモンやライムのがん予防効果も低下していると感じています。
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