がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
165)抗がん剤治療の効果は過大に評価されがち
図:進行がん患者を対象に、ある抗がん剤の効果を検討した臨床試験の一例。抗がん剤治療を受けたグループの生存期間(生存期間中央値)が8ヶ月で、非治療グループの6ヶ月に比べて2ヶ月間延びた。6ヶ月後の生存率では20%の差があった。しかし、2年後以降は有意な違いはなく、4年後には両グループとも全員死亡した。このように治癒率ゼロで平均生存期間が2ヶ月延長しただけでも、「生存率が大幅に上昇」といった表現で過大評価されている。
165)抗がん剤治療の効果は過大に評価されがち
【なぜ抗がん剤治療を拒否する人がいるのか】
がん患者さんが「がんの補完・代替医療」を受ける理由として、「抗がん剤治療に対する不信感や拒否感」が関連するものが極めて多いようです。抗がん剤治療を受けても、副作用に苦しむだけで、治癒も延命も期待できない場合も多いことが指摘されています。このような抗がん剤治療の限界と欠点に対する不信感から、抗がん剤治療を拒否する方がかなり多くいます。
抗がん剤は、がん細胞だけでない正常な細胞や組織にもダメージを与えるため、体力や免疫力の低下や、骨髄や消化管や肝臓や腎臓や心臓などの臓器のダメージによって様々な副作用が生じます。
副作用を軽減する支持療法も進歩して、昔に比べると抗がん剤治療に伴う苦痛はかなり軽減しています。しかし、副作用による苦痛や臓器障害が強いために、抗がん剤治療の継続が困難になる場合も少なくありません。
一方、抗がん剤治療の効果に関しても、悲観的な意見が多くあります。「ひどい苦痛を伴う抗がん剤治療を受けても、平均3ヶ月くらいの延命効果しか得られない」、「抗がん剤治療を受けると1年目の生存率は20%くらい高いが、3年目以降の生存率は抗がん剤を受けなかった場合と差がない」というのが現在の多くの抗がん剤治療の実情です。抗がん剤治療によって、生存期間は平均して数ヶ月間延びても、数年後にはほとんどが亡くなってしまう(治癒率ゼロ)のでは、治療としては十分に満足できるものではありません。
患者さんの方は数年間の延命を期待していますが、医師や製薬会社は数ヶ月の延命効果で画期的な治療と宣伝している点に、抗がん剤治療に対する患者の不満や不信感の原因があるようです。このような情報を書籍やインターネットや口コミで得て予備知識として持っているため、抗がん剤治療を受ける前から拒否反応を持っている患者さんも多数います。
闘病中のがん患者が抗がん剤治療の苦しみの体験談を書籍やブログに書いています。大学教授や医師の中にも、「抗がん剤治療は百害あって一利なし」「抗がん剤治療を受けると命を縮める」といった意見を述べている人もいます。
しかし、抗がん剤治療は国が認めた標準治療です。それに対して、患者だけでなく、大学教授や医師の中にも「抗がん剤治療は受けてはいけない」とう意見が出ていることをいつも不思議に思います。がん治療は人の命に関わるものですので、もしどちらかが間違っていたら、間違っている方は殺人罪に問われても良いように思います。しかし、国立がんセンターの医師など、世の中のがん専門医という人達が、抗がん剤治療を批判している人達に対して反論しているのをみたことがありません。
それは、抗がん剤治療そのものがいろんな問題点を抱えていることを意味しています。現時点の抗がん剤治療の現状は、患者の3割程度の人に多少のメリットはありますが、残りの7割の人にはデメリットしか無い、というような治療だからです。このような治療法は、国が認める治療法として他にはありません。例えば、高血圧や糖尿病の薬で、服用した人の3割の人しか効果が現れず、他の人にはひどい副作用が出るだけで何もメリットがない薬が認可されることはありません。
抗がん剤治療では、他に有効な治療法が無いので、10人中2、3人でも効果が期待できれば、残り7、8人に毒性によるデメリットがあっても仕方ないと考えています。しかし、2、3割の人に効くといっても、それは一時的に腫瘍が縮小するだけで、治るわけでも延命が保証されているわけでは無いという点が問題です。
代替医療が求められるのは、10人中1人くらいしか効かなくても、残り9人は副作用で苦しむというデメリットが無いという点に尽きます(費用がかかるというデメリットはあります)。抗がん剤に対する批判が出るのは、効果が出る人と、逆に命を縮める場合があるというメリットとデメリットの差が大きいからです。
【抗がん剤治療で治るがんと治らないがん】
抗がん剤だけで治癒が期待できるがんがあります。一方、抗がん剤治療が全く効かないがんもあります。
悪性腫瘍に対する化学療法の有効性は、A)治癒が期待できる、B)延命が期待できる、C)症状緩和が期待できる、D)効果が少ない、というように分けることができます。
A群の治癒が期待できるがんとして、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、Hodgkin病、非Hodgkinリンパ腫(中・高悪性度)、胚細胞腫瘍、絨毛がんがあります。
B群の延命が期待できるがんとして、乳がん、卵巣がん、小細胞肺がん、大腸がん、膀胱がん、骨肉腫、多発性骨髄腫、非Hodgkinリンパ腫(低悪性度)、慢性骨髄性白血病があります。
このA群とB群に対しては、抗がん剤治療を積極的に受ける方が良いと言えます。このような治癒あるいは延命が期待できるがんに、抗がん剤を全く否定して代替医療だけを行うのは勧められません。ただ、現実問題として、抗がん剤が効く可能性が高いがんでも、抗がん剤治療を拒否する患者さんもいます。その最大の理由は副作用に対する恐怖です。
延命効果は無くても、腫瘍を縮小させることによって症状の緩和ができる場合もあります。食道がん、胃がん、膵臓がん、前立腺がん、腎臓がん、非小細胞性肺がんなど多くの固形がんは、この範疇にはいります。
ただ、抗がん剤治療の進歩により、10年前は延命効果が無いと言われていたがんでも、新薬を使用できるようになって、多少の延命効果が期待できるものも出て来ています。
10年以上前であれば「抗がん剤治療を受けてはいけない」という意見に対して、十分な反論はできなかったかもしれませんが、分子標的薬など最近の抗がん剤治療の進歩によって、抗がん剤治療に恩恵を受けている患者さんは多くなっています。がん細胞に特異性が高く、副作用が少ない新規の抗がん剤の開発が進めば、患者さんの抗がん剤治療に対する拒否も少なくなるはずです。
【抗がん剤の効果は過大評価している患者が多い】
抗がん剤の有効性は、がんが縮小したかどうかで判断されます。画像診断でがんの面積が半分以下になった状態が1ヶ月以上続いた場合に「有効」と言います。画像診断でがんが消失した場合を完全寛解(または完全反応)と言い、半分以下になったが消失はしていない場合を部分寛解(部分反応)といいます。
完全寛解といっても、がん細胞が完全に消滅した訳ではなく、画像で見えなくなっただけで、微小ながんが残っていることが多いので、いずれ再増殖してくる可能性があります。部分寛解の場合、その状態が長く続けば延命に結びつくのですが、死滅しないで残ったがん細胞は、その抗がん剤に抵抗性をもったがん細胞ですので、すぐに増殖して数ヶ月後にはもとの大きさに戻ることが多いので、延命には結びつかないことが多いのです。
抗がん剤を使った患者のうち、完全寛解あるいは部分寛解が得られた割合を奏功率あるいは有効率と言っています。
「奏功率が3割」とか「がん患者の3割に効く」というと、患者さんは、3割の人が治ると思いがちですが、それは間違いです。抗がん剤治療を受けた人のうち腫瘍が一時的(1ヶ月以上)に半分以下になる割合が3割ということです。有効率が3割でも、延命効果はなく、治癒率は0という例はいくらでもあります。
腫瘍を早く小さくする「切れ味の良い」化学療法は、患者も医者も治療効果が目に見えるため安心感と期待を持ってしまいます。しかし多くの臨床経験から、「腫瘍縮小率の大きさと延命効果が結びつかない」ことが認識されるようになり、「奏功率の高い抗がん剤が良い」という考えには多くの疑問が出されています。_
進行がんでも化学療法を使用する医者の言い分として、がんを少しでも縮小させることは延命につながり、痛みなどの症状を抑えることができると述べています。確かに、進行した胃がんや大腸がんでは、抗がん剤を使った方が使わない場合より平均で数カ月~1年程度生存が延びるという報告もあります。しかし一方、抗がん剤の副作用で亡くなる人も多くいます。
健康食品やサプリメントには誇大広告がつきものです。ほとんど効果がないのに、がんに効くと思わせるような巧みな宣伝が行われています。
一方、抗がん剤は国の認可を受けた医薬品ですので、誇大な宣伝は行われていないように思われていますが、そうではありません。
6ヶ月目で比較すると20%くらいの生存率の上昇があるが、平均生存期間(生存期間中央値)は2ヶ月程度延びるだけで、2年後は非治療群と生存率で差が無くなって、4年後には両グループとも全員死亡したという場合(図の生存曲線)でも、「死亡リスク低下」や「生存率が大幅に上昇」や「画期的な新薬」という表現で宣伝されているのです。生存率が20%上がるというと、患者さんは20%の人が多く治ると思っています。
製薬会社も売り上げを延ばすことが大切ですので、がん専門の医師などと結託して誇大宣伝をしているのでは無いかと疑いたくなります。
(文責:福田一典)
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