496)医療大麻を考える(その11):大麻を20年間吸っても健康障害が起こらない

図:大麻合法化に関する米国におけるギャラップ調査。1969年の最初の調査では、米国成人の12%が大麻を合法化すべきと回答した。大麻合法化賛成は2000年以降は30%を超え、2009年に40%を超え、2013年と2015年の調査では58%であった。

496)医療大麻を考える(その11):大麻を20年間吸っても健康障害が起こらない

【米国では26の州とワシントンD.C.で医療大麻が合法化されている】
アメリカ合衆国を構成する50州と首都ワシントンD.C.のうち、昨年(2015年)末の時点で23の州とワシントンD.C.で医療大麻の使用が許可になっていました。(469話参照)
今年に入って、さらにペンシルベニア州とルイジアナ州とオハイオ州でも医療大麻の使用が許可する法律が承認されています。
ペンシルベニア州では、2016年4月17日に州知事(Tom Wolf)が特定患者の治療に大麻の使用や製造、販売等を認めました(法案に署名)。
医療大麻の適用疾患として、がん、HIV/AIDS、筋萎縮側索硬化症、パーキンソン病、多発性硬化症、けいれん[痙縮]、てんかん、炎症性腸疾患、神経障害、ハンチントン病、クローン病、PTSD、慢性疼痛、末期疾患となっています。
ペンシルベニア州の法律では、乾燥させた大麻を吸う方法や自分での栽培が認められず、錠剤、オイル、気化(vapor)、軟膏、マリファナ入り飲み物だけが許されています。
ルイジアナ州では、2016年5月19日に知事(John Bel Edwards)が、医療大麻の使用を認める議案(医療大麻法の修正案)に署名しました。
オハイオ州では、2016年5月25日に医療大麻合法化の法案が議会で可決され、6月8日に知事(John Kasich)が署名して成立しています。
以上から、2016年6月の時点で、米国では26の州と首都ワシントンD.Cと2つの準州(自治領)のプエルトリコとグアムで医療大麻の使用が合法化されています。
保守的な南部のルイジアナ州で医療大麻が許可になったことから、医療大麻使用を合法化する州は今後も急速に増えることが予想されています
合衆国の州の半分以上が合法化したので、大麻をスケジュールI(乱用の危険が高く、医療価値がない)に分類している規制物質法が修正されるのも時間の問題だと言われています。
世界的にトップレベルの学術雑誌のランセット(Lancet)は「大麻の医療使用へ向けた勢いが増している(Momentum grows for medical use of cannabis.)」という記事を載せています。(Lancet. 2015 Oct 24;386(10004):1615-6.)(469話参照)
ヨーロッパでは大麻エキスのサティベックス(Sativex)など大麻由来製剤は多くの国で認可されています。医療大麻はオランダ以外では制限がありましたが、医療大麻の承認も進んでいます。
ドイツでは5月4日に厚生大臣が2017年に医療大麻を合法化すると発表しています。
オーストラリアでは医療大麻をベースにした薬剤などの製品を製造するライセンスは既に存在していましたが、国内での栽培が違法だったため有効に機能していない状態が続いていました。しかし、2016年2月にオーストラリア議会は麻薬法を改正し、医療大麻を合法化しました。この改正では医療目的と科学的研究目的の栽培が認められるようになっています。
南米では、ウルグアイ、チリ、コロンビアが医療大麻を許可しており、ブラジルは大麻オイルを処方薬として認めています。
このように、世界中で医療大麻の合法化が進行しています

【米国では有権者の60%が大麻の合法化に賛成】
今月開催された米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology)で以下のような発表がありました。

米国臨床腫瘍学会:2016年6月6日(Abstract 10581)
Pediatric oncology providers and use of medical marijuana in children with cancer.(小児がん領域の医療従事者と小児がん患者における医療大麻の使用)

Dana-Farber/Boston Children's Cancer and Blood Disorders Centerからの報告です。
医療大麻の使用が許可されているイリノイ州、マサチューセッツ州、ワシントン州において、小児がんの治療に関わっている医療従事者(医師、看護師など)の調査です。
回答した301人中、92%が小児がん患者が医療大麻を使用することをサポートする(賛成する)と回答しています。
小児がんの早期のステージでの医療大麻の使用に賛成は34%、末期のステージの患者の緩和ケアに使用することは88%が適切であると回答しています。
米国では、医療関係者(医師や看護師など)の多くが、がん患者における吐き気、疼痛、食欲不振の治療に医療大麻あるいは大麻製剤が有用であることを認識しており、小児に使用することも賛成しています。
米国コネチカット州のクイニピアック大学(Quinnipiac University)による全米の世論調査データ(2016年6月6日リリース)によると、米国の有権者の過半数(回答者の54%)が、成人による大麻使用の合法化に賛成し、90%以上が治療目的の大麻の使用に賛成しています。
CBCニュース
による調査(2016年4月20日)では米国の成人の56%が大麻使用の合法化を支持しています。
AP通信(Associated Press)による調査(2016年3月)では、米国の成人の61%が大麻使用の合法化を支持しています。
2015年10月21日に発表されたギャラップ(Gallup)の調査では、米国の成人の58%が大麻使用の合法化を支持しています。
ギャラップ(The Gallup Organization)は、世論調査及びコンサルティングを行う企業で、世界各国に拠点を設けて世論調査などを行っています。その世論調査はギャラップ調査(Gallup Poll)と呼ばれて高い信頼を得ています。
このGallup調査では、大麻使用の合法化の賛成者は年々増加しています。(トップの図)
アメリカ合衆国では、4州(アラスカ州、コロラド州、オレゴン州、ワシントン州)と首都ワシントンD.C.において娯楽(レクリエーション)目的でのマリファナ使用合法化がされています。
報道によれば、ネバダ州とフロリダ州とメイン州で今年11月に大麻全面解禁の賛否を問う投票があり、9つの州(カリフォルニア、アリゾナ、アーカンソー、マサチューセッツ、ミシガン、ミズーリ、モンタナ、ノースダコタとオクラホマ)では住民投票を実施するための署名活動が行われているそうです。
つまり、娯楽目的の大麻使用は全米で広がっている状況です

【カナダでは大麻の完全合法化に向けて動き出している】
カナダで2015年10月19日に行われた下院議員を選出する総選挙で、ジャスティン・トルドー党首が率いる野党の自由党が過半数を獲得し、10年ぶりに保守党から政権を奪取しました。
自由党は嗜好品としての大麻の合法化を公約にしており、カナダでの大麻の完全合法化に向けた動きが一気に本格化しています。

トルドー首相は、嗜好品としての大麻の販売、規制、課税のシステムを構築し、同時に子供への譲渡や大麻使用時の運転などを厳しく罰することによって、大麻に関連した「犯罪的な要素」を取り除くのに役立つと述べています。

現在のカナダの大麻規制のシステムでは子供たちの大麻使用を止めることはできないし、あまりに多くのカナダ人たちがほんの少量の大麻所持で前科者になってしまっている点を問題にしています。むしろ、娯楽用の大麻を合法化し、管理し、アクセスを制限するシステムを構築する方が、若年者への大麻使用の禁止と、密売人たちへの利益の供与を断ち切ることができ、犯罪も少なくなる、という考えを示しています。
2015年の調査では、カナダ国民の68%が大麻規制を緩和する政策を支持しています。15歳から25歳のカナダ国民の20〜26%は過去1年間に1回以上の大麻使用を経験し、全カナダ国民の40%以上が、今までに一度は大麻を使用していたと報告されています。


【大麻を解禁しても子供の大麻使用もハードドラッグの使用も増えない】
「大麻使用の合法化が子供の大麻使用を増やす可能性があるのか」という質問に対して回答できる十分な証拠はまだありません。

ただし、非合法化しても、なんの身分証明書も必要なく、大麻の密売人から簡単に大麻を購入できます。合法化して規制を強化した方が闇ルートの供給が減少して、未成年の使用が減少するという意見もあります。

嗜好用大麻を解禁しているコロラド州では、高校生のマリファナ使用がマリファナ合法化後は減っていることが明らかになっています。ブラックマーケットが駆逐され、未成年者などへの不適切な販売が減ったためと考えられています。
アメリカ疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)が全米の高校生を対象に2年に1回行っている「青少年の危険行動の調査(Youth Risk Behavior Survey)」の2015年の報告では、マリファナを使用したことがある高校生の率は1995年が43%で2015年が39%に減少しています。
10歳代で現在マリファナを使用中(過去30日間で1回以上使用)の率は、1995年が25%で2015年には22%に減少していると報告しています。
1995年から2015年の間に、23の州とワシントンD.C.で医療大麻が合法化され、4つの州とワシントンD.C.で娯楽用の大麻が合法化されていますが、大麻使用が合法化されても、10歳代の未成年者の大麻使用が増えることは無いという結果を報告しています。
高校生の3人に一人が大麻経験者で5人に一人が現在使用中という国だから、有権者の60%が大麻の完全解禁に賛成というのは納得できますが、日本人には理解できない数字かもしれません。
オランダの調査では、非犯罪化から20年がたっても、オランダの若者の大麻使用量は他のヨーロッパ諸国と同レベルであり、米国のそれより低いレベルのままです。
全ての薬物の使用を非犯罪化しているポルトガルでは、薬物に関連した有害性の発生は減少しており、青少年の薬物使用は減少しています。
マリファナはコカインやヘロインといった「ハードドラッグ」に使用リスクを高める「入門薬物(Gateway drug)」であるという意見もあります。
「入門薬物(ゲートウェイ・ドラッグ)」というのは、大麻のような「ソフトドラッグ」の使用が、コカインやヘロインのようなより麻薬性の強い「ハードドラッグ」の使用を誘導するための入口となる薬物のことです。大麻の使用が、より依存性が高い薬物の使用を誘導するという理論です。大麻の使用に対して否定的な行政や団体やメディアにより用いられ、このような考え方を「ゲートウェイ理論」や「飛び石理論」などと呼ばれています。
しかし、大麻がハードドラッグの入門薬物になるという考えはアメリカ精神医学会などが否定しています。マリファナ使用者の数が増えても、コカインやヘロインの使用者の数は変化していないという調査結果が出ています。マリファナがハードドラッグの入門薬物であれば、マリファナの使用者増加とともにコカインやヘロインの使用者も増えるはずですが、その数は連動していないということです。
そもそも、大麻のゲートウェイ理論は大麻禁止法の中心人物であった麻薬取締局のハリー・アンスリンガー局長が何の根拠もなく広めたことが明らかになっています。米国で大麻が禁止になった1937年当時は、大麻が人を凶暴にするという理由を禁止の根拠にしていたのですが、その後の研究で大麻は人を暴力的にしないことが明らかになってくると、大麻が危険であるとする主張を維持するためにゲートウェイ理論が持ち出されたと言われています。つまり、大麻をゲートウェイドラッグという意見は初めから何の根拠も無かったのです。

【アルコールでも幻覚や妄想や知能低下が起こる】

大麻の有害性の記述の中に「幻覚・妄想、意識障害、記憶力の低下、知的障害」などという言葉がでてきます。
確かに、精神機能が脆弱な人では、大麻による高度な中毒状況でそのような症状が出る可能性はあります。
しかし、飲酒も過剰に飲めば同様な症状を呈することは常識として知れ渡っています。
酔っぱらうと人が変わったように荒れる人がいます。これを複雑酩酊といいます。暴力や犯罪の原因になることもあります、

大量飲酒で翌日覚えていないという状態はブラック・アウトと言います。一時的な健忘・記憶喪失です。

アルコール中毒の患者が急に酒を止めると、幻覚、幻聴、不安、イライラ、興奮、手や全身のふるえ(振戦)、振戦せん妄など様々な禁断症状がでます。これらの禁断症状は数ヶ月続くこともあります。アルコールの離脱症状はヘロインより強力です。
離脱症状とは連用している薬物を完全に断った時に禁断症状が現れることで、身体依存を意味します。
国連薬物犯罪事務所(UNODC)の「世界薬物報告書」(2006年)では「最新の調査で大麻は精神に深刻な影響を及ぼすことが明らかになった。大麻は無害な薬草ではなく、慎重な取り扱いが必要な人間の精神に影響を及ぼす薬物である」と述べる一方で、影響の度合いについては「極めて大量に服用すると、軽い精神障害を引き起こすが、このような状況は極めてまれであることが判明した」とも指摘しています。
1990年から2006年までのアメリカ合衆国の50州全ての犯罪率を追跡調査し、医療用大麻を合法化した州での犯罪率の変化を検討した報告があります。その結果、医療大麻法の施行が、殺人や強盗や暴行などの暴力犯罪を増やすことはなく、むしろ、殺人と暴行の犯罪率の減少に関係している可能性が指摘されています。飲酒は暴力犯罪を増やしますが、大麻にはそのようなリスクは無いと言えます。

【大麻の依存性はカフェインや砂糖より軽度】
医学的には、大麻に依存性(主に精神的依存)があることは確かです。
最近の総説では「長期にわたる使用は認知機能を低下させ、大麻使用者の15%くらいが依存性になる。」と記載されています。(Legalizing marijuana. J Psychiatry Neurosci. 2016 Mar; 41(2): 75–76.)(484話参照)
依存性(dependence)というのは「体に悪いと分っていても、使用を止められない状況になることです。
大麻に含まれるテトラヒドロカンナビノール(THC)は脳内報酬系を活性化するので、依存性があるのは医学的根拠があります。
「15%が依存症になる」というと驚くかもしれません。
しかし、タバコ喫煙者の70%がニコチン依存であると言われています。専門的な禁煙治療を受けても、禁煙できるのは半数もいません。ニコチンの依存性はヘロインやコカインよりも強いと言われています。
アルコールも毎日飲酒している人の多くはアルコール依存になっています。アルコールは離脱症状(連用している薬物を完全に断った時に禁断症状が現れることで、身体依存を意味する)がヘロインやコカインよりも強いことが知られています。
毎日コーヒーを飲んでいる人の多くはカフェイン依存になっています。あるコーヒーショップチェーンが売上げを上げるために、カフェイン濃度を高めて客をカフェイン中毒にしているという噂があるほど、カフェイン依存には簡単になります。
砂糖などの甘味も脳内報酬系を刺激するので依存性になります。動物実験では甘味の依存性はコカインより強いという結果が得られています。(348話参照)
つまり、大麻の依存性は、ニコチンやアルコールやカフェインや砂糖(甘味)よりも軽度であることは医学的に証明されています。

【大麻を20年間吸っても健康状態に悪影響は無い】
タバコやアルコールが健康に悪い影響を及ぼすことは医学の常識になっています。
WHOからの報告(2011年)によると、アルコールとタバコが原因の疾患による死亡数は全死亡の12%を占めると推定されています。
米国では喫煙による健康障害に対する医療費が1年間に960億ドル、アルコールの場合は、健康障害の他にアルコール関連の犯罪や社会問題に対する費用を含めると、トータルのコストは年間2000億ドルになると推定されている。
つまり、タバコとアルコールによる健康や社会に対する被害は米国では1年間で30兆円を超えると推定されています。

米国のデータでは、タバコ関連の死亡は年間40万人以上(心血管疾患が約18万人、肺がんが約15万人、呼吸器疾患が8万5千人など)と推定されており、喫煙は寿命を平均6.6年短縮すると言われています。
米国ではタバコが原因の死亡者の数は、エイズ、アルコール、コカイン、ヘロイン、殺人、自殺、交通事故、火事の全てを合計したものよりも多いと報告されています。
多くの専門家が、大麻よりアルコールやタバコの有害性の方が大きいと言っています。
世界的に権威の高いランセット(Lancet)の編集部は、大麻を合法化して、タバコを非合法化すべきだと主張しています。
以上のように、世界中で娯楽用の大麻使用の合法化や非犯罪化が進行しています。そこで、大麻の長期使用によって、タバコやアルコールのような健康障害が起こるのかを明らかにする必要があります。
以下のような論文があります。

Associations Between Cannabis Use and Physical Health Problems in Early Midlife: A Longitudinal Comparison of Persistent Cannabis vs Tobacco Users. (大麻使用と早期中年期の身体的健康問題との関連:大麻常用者およびタバコ喫煙者の縦断的比較) JAMA Psychiatry. 2016 Jun 1. doi: 10.1001/jamapsychiatry.2016.0637. [Epub ahead of print]

JAMA Psychiatry はJAMA(米国医師会雑誌)の精神医学関係の学術雑誌です。2014年のインパクトファクターは12.008です。インパクトファクターは、平均的にどのくらい頻繁に引用されているかを示す尺度で、その雑誌の影響(インパクト)を表す指標の一つです。12というのは精神医学関係ではトップレベルです。つまり、信用度と影響度の高い雑誌です。
要旨は以下です。

【要旨】
意義:米国における重要な政策変更後、政策策定者やヘルスケア専門家や一般の人々は、大麻の娯楽的使用がその後の人生で身体的健康問題と関連しているかどうかに関する情報を探している。
目的:20年以上にわたる大麻使用と,早期中年期のさまざまな身体的健康指標との関連を調査すること。
試験デザインと背景と参加者:1972~1973年にニュージーランドのダニーデンに生まれた1037人を対象としたコホート研究において、出生後38歳まで追跡調査された。95%がこのダニーデン集学的健康・発達研究(the Dunedin Multidisciplinary Health and Development Study)を終了した。18歳から38歳までの20年間の大麻使用が38歳時の身体的健康に関連しているかどうかを、喫煙、小児期の健康、小児期の社会経済的状況などを補正した後に解析した。さらに、26歳から38歳までの12年間の大麻使用が参加者個々の健康の減退に関連しているかどうか,同様の健康指標を使用して解析した。
曝露:18歳、21歳、26歳、32歳、38歳の時点で、大麻使用の頻度と大麻依存について評価した。
主要な評価項目および測定値:26歳時および38歳時に,身体的健康に関する検査結果(歯周健康、肺機能、全身性炎症、代謝的な健康状態)と自己申告による健康状態の情報を得た。
結果:1037人の研究参加者の51.6%(535人)が男性であった。このうち484人が日常的な喫煙者で、675人が大麻を使用していた。大麻使用は、38歳の時点で歯周健康の減退,26歳から38歳までの期間の歯周健康の個人的な減退に関連していた。たとえば,18歳から38歳までのマリファナたばこ年間消費量は、たばこ年間消費量を補正後も、38歳時において歯周健康の減退に有意に関与していた(β= 0.12,95%信頼区間0.05~0.18,P<0.001)。さらに,26歳から38歳までのマリファナたばこ年間消費量は、26歳時の歯周健康およびたばこ年間消費量を補正しても、38歳時の歯周健康の減退に有意に関連していた (β= 0.10,95%信頼区間0.05-0.16,P<0.001) 。しかしながら、大麻使用は他の身体的健康問題とは関連していなかった。一方、大麻使用とは異なり、タバコ喫煙は38歳時点での肺機能、全身性炎症、代謝系の健康の悪化と、自己申告による26歳から38歳の間の健康状態の悪化に関連していた。
結論および関連性:20年間にわたる大麻使用は,早期中年期における歯周病との関連は認められたが,他の身体的健康問題には関連していなかった。

この研究は、1972~1973年にダニーデン市(ニュージーランド)で生まれた1,037人を対象にした前向きコホート研究です。出生後の18、21、26、32、38歳の検診時に大麻吸引有無の確認が取れ、26歳時と38歳時の検診のデータが得られた者が分析されています。
歯周病の症状は、1本の歯につき3ヵ所で歯肉付着位置の深さを測定する複合アタッチメント・ロス(combined attachment loss=CAL)で評価されています。
歯周病は、歯垢(プラーク)などによる炎症や、その他多くの複合的要因によって発生する生活習慣病の一つです。歯肉ポケットが発生し、歯肉と歯の接着部位の深さが長くなっていくので、この深さを測定して歯周の衛生状態を評価しています。
たばこ喫煙が歯周病の危険因子であることは広く知られていますが、長期間の大麻吸引も歯周病の危険因子であることが知られています。
このダニーデン市のコホート研究で、32歳までの評価は2008年のJAMA(2月6日号)に報告されています。2008年の報告でも、長期間の大麻吸引が歯周病のリスクを高めることが指摘されています。(JAMA. 2008 Feb 6;299(5):525-31. doi: 10.1001/jama.299.5.525.)
今回の38歳での解析も同様に、長期におよぶ大麻吸引は歯周病の発生リスクを高めることが示されています。
しかし、タバコの喫煙と異なり、大麻たばこの喫煙では、20年間吸っても、肺機能や全身性炎症や代謝的な健康状態や自己申告での健康状態において悪影響はないという結論になっています。
大麻の情報を発信しているNORML(The National Organization for the Reform of Marijuana Laws )の6月8日のニュースではこの論文を以下のように紹介しています。

研究:長期間の大麻使用は,中年期における健康上の問題と関連しない

テンピ・アリゾナ州米国医師会雑誌(JAMA)に掲載された縦断的研究の結果によると,20年以上大麻を使用しても,中年期において心血管系リスクや肺の健康問題が増加することはなかった。
米国およびニュージーランドの研究者から成る国際チームは,大麻の18歳以降の長期使用と38歳時の健康との関係について,1037人を対象にコホート研究を行った。特に,研究者らは大麻の長期使用が次の指標に対して悪影響を及ぼすかどうか評価した。それらの指標とは,歯周健康,肺機能,全身性炎症,メタボリックシンドローム,ウェスト周囲,HDLコレステロール,中性脂肪,血圧,糖化ヘモグロビン(HbA1c),体格係数(BMI)および自己申告の健康状態。
同時期の喫煙など潜在的な交絡因子を補正して解析した結果,長期にわたる大麻使用は,1つの指標(歯周健康)において健康上の問題との関連が認められたと研究者らは報告している。一方,「大麻使用者は,代謝状態が若干良好であった(ウェスト周囲の減少,BMIの低下,脂質組成の改善,血糖コントロールの改善)」と論文の著者らは述べている。このような結果は,以前の研究成果と一致するものである。
「概して,私たちの研究成果は, 20年以上の大麻使用が中年期の初期における健康問題に関連しないことを示した」と,著者らは結論づけた。「大麻使用者は,ほとんどすべての健康指標において,非使用者より全体的に劣ることはなかった」。
このJAMAに掲載された論文は,客観的な検査による指標と調査によって,長期間の大麻使用がもたらす長期にわたる健康への影響を明らかにした最初の縦断的観察研究のひとつである。

マリファナを20年間吸っても「歯周病以外に健康を悪化させることはない」「大麻使用で代謝が良くなる」という結果が米国医師会雑誌(JAMA)に掲載されたので、米国では娯楽用の大麻の解禁はかなり進みそうです。

 

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