93)高麗人参と黄耆の相乗効果

図:高麗人参と黄耆を含む方剤を参耆剤(じんぎざい)といい体力や免疫力を高める漢方処方の基本となっている。

93)高麗人参と黄耆の相乗効果

漢方では生命エネルギーを「」という概念で現し、気の量に不足を生じた状態を気虚(ききょ)といいます。気虚とは生命体としての活力である生命エネルギーの低下した状態であり、新陳代謝の低下・諸々の臓器機能の低下・抵抗力の低下した状態です。元気がない・疲れやすい・食欲がない、手足がだるいなどの症状が出てきます。
手術や抗がん剤などのがん治療を受けている患者さんの多くが、気虚の症状を呈しています。手術や抗がん剤による組織や臓器のダメージが引き金となって、消化吸収機能が低下し食欲不振となり、それがさらに体力の低下を生むという悪循環を形成していきます。このような状態が続くと免疫力や回復力も低下してしまいます。
このような食欲不振や体力低下の状態に対しては、西洋医学における消化剤や消化管運動促進剤やビタミン剤などの効き目はあまり期待できません。気の量を高める漢方治療が有効です。不足した気を補い気虚を改善することを
補気(ほき)といいますが、気の量を増やすことは、臓器や組織の働きを活性化して元気を出させる効果があります。
気の産生を増す生薬(補気薬)の代表は
高麗人参(こうらいにんじん)と黄耆(おうぎ)です。高麗人参と黄耆を含む方剤を参耆剤(じんぎざい)といい体力や免疫力を高める漢方処方の基本となっています。
人参はウコギ科のオタネニンジンの根で、消化吸収機能を賦活化し、種々のストレスに対する生体の非特異的抵抗性を強くすることにあります。 
人参に含まれるサポニン類は蛋白合成を促進し、新陳代謝と免疫能を高めます。各種の悪性腫瘍によって引き起こされる貧血・気力減退・食欲不振・手術などによる身体衰弱や栄養状態の改善にも有効です。化学療法による造血組織障害を防止し、免疫機能低下を抑制し、がん細胞の増殖や転移を抑制する効果も報告されています。
一方、
黄耆はマメ科のキバナオウギおよびナイモウオウギの根です。黄耆の多糖類成分には免疫機能増強作用が報告されていて、病気全般に対する抵抗力を高める効果があります。体表の新陳代謝や血液循環を促進し、皮膚の栄養状態を改善する効果もあります。細胞の代謝機能を増強し、再生肝におけるDNA合成を促進するなどの作用も報告されています。
人参と黄耆は共に補気の要薬ですが、人参は消化管の虚弱(漢方では
裏虚(りきょ)という)に適し、黄耆は体表の抵抗力減弱(表虚(ひょうきょ)という)に適すると言われています。人参は体液を増す方向に作用するのに対し、黄耆は余分な水を排除する作用に働きます。人参を多量に使うとむくみや血圧の上昇が起こりますが、利水作用をもつ黄耆と組合せることによって、人参の副作用を軽減しながら、体力や抵抗力の低下を改善する効果を相乗的に高めることになり、漢方における滋養強壮療法の主剤として好んで用いられます。
人参と黄耆が基本になる漢方薬の代表が補中益気湯や十全大補湯などで、がんの漢方治療で使用される頻度の高い処方です。(文責:福田一典)


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