がんの予防や治療における漢方治療の存在意義を考察しています。がん治療に役立つ情報も紹介しています。
「漢方がん治療」を考える
647)ビタミンD3の抗がん作用(その1):再発予防には1日4000 IU(100 μg)以上が必要
図:体内でコレステロールから合成されるプロビタミンD3(7-dehydrocholesterol)は皮膚で紫外線(HV-B)照射を受けてビタミンD3(Cholecalciferol)へ変換される(①)。ビタミンD3は食品やサプリメントからも摂取される(②)。ビタミンD3は肝臓で25-ヒドロキシラーゼ(25-hydroxylase)によって25(OH)ビタミンD3(Calcidiol)に変換され(③)、さらに腎臓で、1α-ヒドロキシラーゼ(1-alpha hydroxylase)によって活性型ビタミンD3である1,25(OH)2ビタミンD3(Calcitriol)になる(④)。活性型ビタミンD3は、核内受容体への結合による遺伝子発現の調節や、細胞膜のビタミンD受容体への結合によるシグナル伝達系の活性化のメカニズムによって(⑤)、骨形成やカルシウム代謝、炎症、免疫、発がん、細胞増殖、分化、アポトーシスなど様々な生理機能の調節に関与する(⑥)。1α-ヒドロキシラーゼは腎臓以外の組織にも発現しており、がん細胞内でも活性型ビタミンD3の生成が起こる(⑦)。活性型の1,25(OH)2ビタミンD3(Calcitriol)よりもサプリメントのビタミンD3(Cholecalciferol)の補充の方が抗がん効果が高いことが多くの研究で明らかになっているが、その理由の一つは、がん細胞内で25(OH)ビタミンD3(Calcidiol)が活性型ビタミンD3になるためと考えられている。サプリメントでのビタミンD3の大量投与による治療効果も報告されている。
647)ビタミンD3の抗がん作用(その1):再発予防には1日4000 IU(100 μg)以上が必要
【1日4000 IUのビタミンD3摂取は転移性結腸直腸がんの生存率を高める】
複数の観察研究において、血漿25-ヒドロキシビタミンDレベルの高値は転移性結腸直腸がんにおける生存率を改善することが報告されています。さらに、標準的な化学療法に追加された高用量ビタミンD3が転移性大腸がん患者の転帰を改善するかどうかが検討されています。
高用量のビタミンD3のサプリメントでの補充は、転移を持つ結腸直腸がん患者の生存率を高める効果が米国で行われたランダム化二重盲検試験(SUNSHINE試験)で示されています。JAMA(米国医師会雑誌、Journal of the American Medical Association)の2019年4月9日号に報告されています。
Effect of High-Dose vs Standard-Dose Vitamin D3 Supplementation on Progression-Free Survival Among Patients With Advanced or Metastatic Colorectal Cancer: The SUNSHINE Randomized Clinical Trial.(進行または転移性結腸直腸がん患者の無増悪生存に対する高用量対標準用量ビタミンD3補給の効果:SUNSHINE無作為化臨床試験)JAMA. 2019;321(14):1370-1379.
米国のSUNSHINE試験は転移を持つ結腸直腸がんを対象に米国のボストンのダナ・ファーバーがん研究所のKimmie Ng医師らによって実施された第2相試験です。
米国の11施設(大学および地域のがんセンター)から転移性大腸がん患者139例(平均年齢56歳; 60人[43%]が女性)が参加した二重盲検ランダム化比較試験で、通常の化学療法と高用量のビタミンD3の併用が転移性大腸がんの予後に影響を与えるかどうかが検証されています。
患者は標準的に使用される化学療法のmFOLFOX6+ベバシズマブ併用療法(2週間ごとに施行)に加えて、ビタミンD3を高用量(n=69)または通常用量(n=70)のいずれかが、病勢進行、耐え難い毒性、同意が撤回されるまで投与されました。
高用量群は、最初の2週間は1日に8000 IU、それ以降は1日4000 IUのビタミンDの投与を受けました。通常用量群は1日に400 IUの投与を受けました。
ビタミンD3はIU(国際単位)からμgへ換算する時はIU×0.025で計算します。400 IUは10μg、4000 IUは100μgです。
主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)で、副次評価項目は客観的奏効率、全生存期間、血漿25(OH)ビタミンDレベルの変化でした。
追跡期間の中央値は22.9ヶ月で、無増悪生存期間(PFS)の中央値は高用量群で13.0カ月(95%信頼区間: 10.1~14.7カ月、PFSイベント数は49)、通常用量群で11.0カ月(95%信頼区間:9.5~14.0カ月、62 PFSイベント)で、統計的有意差は認めませんでした(P=0.07)。
しかし、無増悪生存または死亡の多変量ハザード比は0.64 (片側検定、95%CI 0 ~0.90、P=0.02)で有意差を認めました。
つまり、いろんな要因を調整してリスクを計算すると、高用量のビタミンDの投与を受けた群は22.9ヶ月の追跡期間中の死亡および腫瘍の進行が36%減少という結果です。この試験ではパフォーマンス・ステータスの状況に差があったので、それを調整するとビタミンD摂取が生存率を高めたという結果が得られたのです。
また、高用量群と通常用量群の間に、腫瘍の客観的奏功率(58% vs 63%)、全生存期間(中央値:24.3 months vs 24.3 months)に差は認めませんでしたが、血漿25ヒドロキシビタミンDレベルについては高用量群で有意に高値でした。
全生存率の統計的有意な改善は認めなかったが、それは症例数が少ないので、統計的有意差がでなかったと考察しています。
この臨床試験の対象者の多くは、抗がん剤治療が始まる前の段階でビタミンDの血中濃度が低下していることを報告し、高用量のビタミンDの補充は有用だと言っています。
低用量(400 IU/day)のビタミンD投与群の血中ビタミンDの濃度は試験中を通して18ng/ml前後で、欠乏した状態でした。つまり、400 IUでは、血中のビタミンD濃度を上昇させるには不十分だという結果です。
一方、高用量(4000 IU/day)のビタミンDの投与を受けた群では、2ヶ月後には30ng/mlと十分なレベルに達し、そのレベルを維持しました。
つまり、ビタミンDの血中レベルとがんの再発予防に有効なレベルに上げるには1日4000 IUの高用量の服用が必要という結論です。
【1日2000 IUのビタミンD3摂取では再発を予防するには少ない?】
SUNSHINE試験と同じLancet(2019年4月9日号)には、日本で行われた消化器がんを対象にしたランダム化二重盲検試験(AMATERASU試験)では、ビタミンDの有意な有効性は認められなかったと報告されています。
Effect of Vitamin D Supplementation on Relapse-Free Survival Among Patients With Digestive Tract Cancers: The AMATERASU Randomized Clinical Trial.(消化管がん患者の無再発生存率に対するビタミンD補充の効果:AMATERASU無作為化臨床試験)JAMA. 2019 Apr 9;321(14):1361-1369. doi: 10.1001/jama.2019.2210.
AMATERASU試験は、単施設(国際医療福祉大学病院)で実施された二重盲検プラセボ対照無作為化試験です。ステージ1からステージ3の消化管がん(結腸直腸がん48%、胃がん42%、食道がん10%)で治癒切除を受けた417例を対象にしています。
被験者は、ビタミンDカプセル(2,000IU/日)またはプラセボを経口投与する群に、3対2の割合で無作為に割り付けられました。投与は、術後の初回外来受診時(術後2~4週)に開始され、試験終了まで継続されました。
5年後の無再発生存率はビタミンD摂取群が77%に対してプラセボ群は69%で統計的有意差は認めませんでした(再発あるいは死亡のハザード比=0.76, 95% CI, 0.50 - 1.14; P = .18)
しかし、この試験の両群間に年齢の違いがあることが判明しました。つまり、ベースラインの年齢中央値がビタミンD群で高かった(67歳vs.64歳)のです。
そこで、年齢を調整すると、無再発生存は統計的有意にビタミンD摂取群で高いという結果でした(補正HR:0.66、95%CI:0.43~0.99、p=0.048)。しかし、全生存率には差は認めませんでした(HR: 0.95; 95% CI, 0.57 - 1.57).
サブグループ解析では、ベースラインの25(OH)D値が20~40ng/mLの集団において、5年無再発生存率がプラセボ群に比べビタミンD群で有意に優れていました(85% vs.71%、再発または死亡のHR:0.46、95%CI:0.24~0.86、p=0.02、交互作用のp=0.04)。
2,000IU/日という用量は、低25(OH)D値のサブグループでは、ビタミンD値を十分に上昇させるには不十分だった可能性もあると考察しています。
つまり、がん患者はビタミンDの血中濃度が低い場合が多く、血中濃度が十分にあがれば(30ng/ml以上)、再発予防効果が得られる可能性があるようです。そして、1日2000 IU(50μg)では少なく、1日4000 IU(100μg)以上が必要ということが示唆されます。
この論文の結論は「消化管がん患者では、プラセボと比較してビタミンDサプリメントを投与しても、5年後の無再発生存期間に有意な改善は認められない」(Among patients with digestive tract cancer, vitamin D supplementation, compared with placebo, did not result in significant improvement in relapse-free survival at 5 years.)となっています。
この論文に関して、ネット上の解説は「消化管がんの2次予防において、ビタミンD補充はプラセボと比較して、5年無再発生存率を改善しないことが、日本で実施されたAMATERASU試験で示された」とネガティブな論評で紹介されています。このAMATERASU試験の結果から「消化器癌の再発予防にビタミンD3のサプリメントは効果が無い」という記述も見受けられます。
しかし、この解釈は間違いで、「ビタミンDのサプリメントを十分に摂取すればがんの再発を予防する」というのが正しい解釈だと思います。がん患者はビタミンDの血中濃度が低いことが多くの報告で明らかになっているので、十分量(1日4000 IU以上)で、血中濃度を十分(30 ng/ml以上)に高めることができれば、再発予防に有効といえます。
【ビタミンD3の血中濃度が高いと大腸がんや乳がんの死亡率が低下する】
皮膚で生成されたビタミンD3や食事やサプリメントで摂取したビタミンD3は肝臓で25位が水酸化されて25-ヒドロキシビタミンD3になり、さらに腎臓で1位が水酸化されて1,25-ジヒドロキシビタミンD3 [1,25(OH)2D3]になります。この1,25(OH)2D3が活性型で核内のビタミンD受容体に結合して遺伝子発現などに作用します。
活性型の1,25-ジヒドロキシビタミンD3 は半減期が数時間と短いのに対して、25-ヒドロキシビタミンD3の半減期は3週間程度で、濃度は1,25(OH)2D3の1000倍程度なので、25(OH)D3が体内のビタミンDの貯蔵量の指標として使われています。ビタミンDの代謝を以下に示します。
図:体内でコレステロールから合成されるプロビタミンD3(7-デヒドロコレステロール)は皮膚への紫外線(HV-B)照射でビタミンD3(コレカルシフェロール)に変換される。ビタミンD3は食品やサプリメントからも摂取される。ビタミンD3は肝臓で25-ヒドロキシラーゼによって25(OH)ビタミンD3に変換され、さらに腎臓で1αヒドロキシラーゼによって活性型ビタミンD3である1,25(OH)2ビタミンD3になる。
血清中の25-ヒドロキシビタミンD3(25-OHビタミンD3)の濃度は体内のビタミンDの量を示す指標です。25-OHビタミンD3の濃度とがん死亡率の関係が大腸がんや乳がんで検討されています。以下のような論文があります。
Serum 25-hydroxyvitamin D levels and survival in colorectal and breast cancer patients: systematic review and meta-analysis of prospective cohort studies.(結直腸がんと乳がん患者における血清25-ヒドロキシビタミンDの濃度と生存率の関係:前向きコホート研究の系統的レヴューとメタ解析)Eur J Cancer. 50(8):1510-21.2014年
【要旨】
研究の目的:結腸直腸がんと乳がんの患者において、血清中の25-ヒドロキシビタミンD (25(OH)D)の濃度と生存率の間の関連があるかどうかを検討した。
方法:結腸直腸がんと乳がんの患者を対象にして、血清25(OH)D濃度と生存率の関連を検討した前向きコホート研究に関する文献の検索を行い、それらの結果を集計して統計的に解析し、ハザード比を求めた。
結果:結腸直腸がん患者を対象にした5つの臨床試験(患者総数2330人)と乳がん患者を対象にした5つの臨床試験(患者総数4413人)が、血清中の25(OH)Dのレベルを2~5段階に分類して生存率を比較していた。
結腸直腸がん患者では、25(OH)Dレベルが最も低いグループに対して最も高いグループの全死因死亡率のハザード比は0.71(95%信頼区間:0.55-0.91)、結腸直腸がんによる死亡率のハザード比は0.65 (95%信頼区間:0.49-0.86)であった。
乳がん患者では、25(OH)Dレベルが最も低いグループに対して最も高いグループの全死因死亡率のハザード比は0.62(95%信頼区間:0.49-0.78)、乳がんによる死亡率のハザード比は0.58 (95%信頼区間:0.38-0.84)であった。
結論:結腸直腸がんの患者と乳がんの患者において、血清中の25(OH)Dの高値(>75nmol/L)は死亡率の低下と関連していた。結腸直腸がん患者と乳がん患者において、診断時や治療の開始前に血清中の25(OH)Dレベルが低い(<50nmol/L)場合に、ビタミンDをサプリメントで補うことで生存率を改善できるかどうかを検討するランダム化比較対照試験を実施する必要がある。
もともと25-OHビタミンD3の血清濃度が高い人が、さらにサプリメントでビタミンD3を多く摂取してがん死亡率をさらに低下できるかどうかはまだデータがありません。しかし、25-OHビタミンD3の血清濃度が低い人(50 nmol/L以下)の場合はサプリメントでの補充は生存率を1.5倍から2倍くらいに高める可能性は高いようです。
25-OHビタミンD3の分子量は約400なので、25-OHビタミンD3の50nmol/Lは20ng/mlになります。75 nmol/Lは30ng/mlになります。
血中25ヒドロキシビタミンD (25-OH-D) は血液中のビタミンD代謝物の中で最も濃度が高く、ビタミン補充状態をよく反映するため、体内ビタミンDレベルの指標となっています。血中25-OHビタミンDの基準値は15~40 ng/mL、10 ng/mL以下は潜在性ビタミンD欠乏症であると判断されます。
がん患者さんは、血中25ヒドロキシビタミンD 濃度を30ng/ml以上(75 nmol/L)に維持することが重要のようです。
【ビタミンD3のサプリメントはがんの発生率は低下しないが死亡率を低下させる】
次のような論文があります。
Vitamin D supplements and cancer incidence and mortality: a meta-analysis. (ビタミンDの補充とがんの発生率と死亡率:メタ解析)Br J Cancer. 2014 Aug 26;111(5):976-80.
【要旨】
研究の背景:ビタミンDはがん発生率の低下よりがん死亡率の低下の効果が高いことが、多くの観察研究で示唆されている。しかしながら、今までに実施されたビタミンD補充の効果を検討したランダム化比較対照試験では、その有効性の評価項目にがんの発生率や死亡率を検討した試験が少ないため、ビタミンD補充をがんの発生率や死亡率との関連を評価するには限界がある。
方法:ビタミンD補充と全がんの発生率と死亡率の関連を検討したランダム化比較対照試験のメタ解析を行った。
結果:ビタミンD補充(1日に400~1100 IU)を2~7年の行った結果では、全がんの発生率に対して低減効果は認めなかった(相対リスク:1.00, 95%信頼区間:0.94-1.06)。しかし、がん死亡率は有意な減少を認めた(相対リスク:0.88, 95%信頼区間:0.78-0.98)。
結論:ビタミンDのサプリメントによって2~7年間補充した場合、がんの発生率を低下させる効果は認められないが、がん死亡率を低下させる効果が認められた。
このメタ解析のビタミンD補充は1日に400~1100 IUなので、がんの発生予防を期待できる量では無いことは今までの研究から分かります。しかし、この程度でもがん死亡率が低下するということになります。
体内のビタミンDの量の指標は血中の25(OH)D3の濃度です。25(OH)D3の濃度が50 nM (20 ng/ml)以下をビタミンD欠乏と言われており、世界中で10億人以上がビタミンD欠乏状態にあると言われています。つまり、ビタミンD欠乏は人類の健康に及ぼす影響が大きく、ビタミンDと病気の発生や死亡率に関する疫学研究や臨床試験が多く行われています。
そして、ビタミンDが欠乏している人は、循環器疾患による死亡率、がん死亡率、慢性呼吸器疾患の死亡率、そして全死因死亡率が高いことが多くの疫学研究で明らかになっています。
ビタミンDとがんとの関連が指摘されたのは1941年です。この年、北アメリカで、緯度が高いところ(北)に住む人は南の人よりもがんの発生率が高いことが報告されています。これは、日光によるビタミンDの産生量が発がんに影響する可能性を示した最初の報告です。
ビタミンDの産生が少ない状況(緯度の高いところに住んでいる、日光に当たらない生活習慣など)ががんの発生や増殖を促進することは多くの研究で示されています。詳細は371話で解説しています。
ビタミンDの高値やサプリメントでの補充が大腸がんや乳がんの発生を予防するという報告も多くありますが、最近のメタ解析の結果では、ビタミンDのがん予防効果はあっても弱いようです。ただし、がんサバイバーを対象にした研究では、がん死亡率を低下させるという結論になっています。
乳がん、大腸がん、前立腺がん、肺がん、血液がん(非ホジキンリンパ腫やT細胞リンパ腫や慢性リンパ性白血病など)、胃がんなど多くのがんで、血中の25-OHビタミンD濃度が低いほど生存期間が短いことが明らかになっています。
この結果は、ビタミンDががん患者の生存に何らかの寄与をしている可能性を示唆していますが、別の可能性もあります。
がん細胞の存在がビタミンD低下を引き起こす可能性があれば、進行している(予後の悪い)がん患者ほどビタミンDの濃度が低くなります。あるいは、進行がんになると、日光に当たらない、食事摂取量が少なくなるなどの理由でビタミンDが低下する可能性もあります。
しかし、がんの進行の度合いが同じレベルのグループに分けて解析してもビタミンDの濃度が高いほど生存率が高くなることが報告されています。また、ビタミンDは血管新生阻害作用、がん細胞の増殖抑制、転移抑制作用など多くの抗腫瘍効果を有しています。
したがって、ビタミンDの濃度が高いほど死亡率が低いのは、ビタミンDががん細胞の増殖や進行を抑えるためだと考えるのが妥当のようです。
この論文の著者は同様のメタ解析を最近アップデートしています。
Vitamin D Supplements and Total Cancer Incidence and Mortality: a Meta-analysis of randomized controlled trials.(ビタミンDサプリメントと総がん発生率と死亡率:ランダム化比較試験のメタ分析)Ann Oncol. 2019 Feb 22. pii: mdz059. doi: 10.1093/annonc/mdz059. [Epub ahead of print]
【要旨】
背景:ビタミンD補充と総がん発生率と死亡率に関するランダム化比較試験の以前のメタ解析には矛盾した結果があり、ほとんどの試験で一般的に低用量のビタミンD(≦1100 IU /日)が投与されていた。高用量のビタミンD補充を検討した最近のランダム化比較試験を組み込んで、メタ解析を更新した。
材料および方法:PubMedとEmbaseは2018年11月まで検索した。相対リスク(RR)と95%信頼区間(CI)は、ランダム効果モデルを使用して推定した。
結果:がんの総発生率については、10件の試験が含まれていた。総人数は6,547人で、追跡期間は 3〜10年、介入群における血中25(OH)ビタミンD [25(OH)D]の達成レベルは54〜135nmol / Lであった。
相対リスクは0.98(95%信頼区間:0.93 to 1.03; P=.42; I2=0%)であった。血中25(OH)ビタミンDレベルが100 nmol/Lを超えた場合(相対リスク:0.95;95%信頼区間0.83 to 1.09; P=.48; I2=26%)であっても、がん発生率の低下は認めなかった。
総がん死亡率については、5件の試験が含まれていた。1,591人の死亡で、追跡期間は 3〜10年、介入群の血中25(OH)Dの達成レベルは54〜135nmol / Lであった。相対リスクは0.87(95%信頼区間:0.79〜0.96; P = 0.005; I 2 = 0%)であった。血中25(OH)ビタミンDレベルが100 nmol/L以下の場合(相対リスク0.88: 95%信頼区間:0.78 to 0.98; P=.02; I2=0%)と100nmol/L以上の場合(相対リスク0.85: 95%信頼区間:0.70 to 1.03; P=.11; I2=0%)で、差は認めなかった。
結論:ランダム化比較試験の最新のメタ解析では、ビタミンD補給は総がん死亡率を有意に減少させたが、総がん発生率を減少させなかった。
【ビタミンDの血中濃度が高いと長生きできる】
ビタミンDの血中濃度が高い方が死亡率が低下することが明らかになっています。例えば、次のような報告があります。
Vitamin D and mortality: meta-analysis of individual participant data from a large consortium of cohort studies from Europe and the United States.(ビタミンDと死亡率:欧州と米国からの大規模共同研究によるコホート研究からの個々の参加者のデータのメタ解析)BMJ. 2014 Jun 17;348:g3656. doi: 10.1136/bmj.g3656.
この論文は、体内のビタミンDの量の指標となる血清中の25-ヒドロキシビタミンD [25(OH)D]濃度と死亡率との関係を検討した欧州と米国で行われた8つの前向きコホート研究の結果をメタ解析しています。
対象は50~79歳の男女計26,018人で、追跡期間中6695人が死亡しています。このうち心血管疾患による死亡は2624人、がんによる死亡は2227人でした。
25-OHビタミンDの濃度が高い上位5分の1のグループに比較して、25-OHビタミンDの濃度が低い下位5分の1のグループの全死因死亡率のリスク比は1.57(95%信頼区間:1.36-1.81)でした。
心血管疾患のリスク比も同様な値で、25-OHビタミンDの濃度が低い人は心血管疾患での死亡率が高くなっています。この場合、研究が開始になったとき既に心血管疾患に罹っていた人もそうでない人も同様の結果でした。
一方、がんによる死亡の場合は、研究開始時にがんの罹患経験がない人では、25-OHビタミンDの濃度の違いによるリスクの違いは認められていませんが、がんの既往歴がある人だけを対象にすると、25-OHビタミンDの濃度の高い上位5分の1のグループに比較して25-OHビタミンDの濃度の低い下位5分の1のグループの人の死亡リスクは1.70(95%信頼区間:1.00-2.88)でした。
これは、ビタミンDが高い状態は、がんの発生を減らさないが、がんになってからの延命には効果があることを示唆しています。つまり、ビタミンDが再発を予防するとか、がん細胞の増殖を抑制するなどの作用によって、がんサバイバーを対象にした解析では、ビタミンDが多い方が生存期間が長くなるということです。
この論文の結論は、「25OHビタミンDの血清濃度は、国や性別や季節によって顕著に異なるが、25OHビタミンDの濃度が低いと、全死因死亡率および心血管系疾患の死亡率、がんの既往のある人のがん死亡率が高くなるのは確実である」となっています。
多くの論文の中で最も信頼できると思われるコクラン・コラボレーション(The Cochrane Collaboration)によるレビューもあります。
Vitamin D supplementation for prevention of mortality in adults.(成人における死亡の予防のためのビタミンDの補充)Cochrane Database Syst Rev. 2014 Jan 10;1:CD007470. doi: 10.1002/14651858.CD007470.pub3.
多数のコホート試験や臨床試験の結果をメタ解析して、このレヴューの著者らの結論(AUTHORS' CONCLUSIONS)は次のようになっています。
『ビタミンD3は高齢者の死亡率を減少させる効果がある。しかし、ビタミンD2とアルファカルシドール(alfacalcidol)とカルシトリオール(calcitriol)には死亡率を低下させる効果は認めない。』
ビタミンDに関する多くの研究で、ほぼコンセンサスが得られている点は以下のようにまとめることができます。
1)ビタミンD3には全死因死亡率、心血管系疾患の死亡率、がんの既往のある人のがん死亡率を減らす。(呼吸器疾患による死亡率も減らすことが報告されています。)
2)植物由来のビタミンD2(ergocalciferol)と活性型ビタミンD3のアルファカルシドール(1-ヒドロキシビタミンD3)とカルシトリオール(1,25-ジヒドロキシビタミンD3)には死亡率を低下させる効果は認めない。
3)ビタミンD3にはがんの発生を予防する効果はない(予防効果があるという結果も多く発表されている)。しかし、がんの既往のある人のがん死亡率は低下させる。
循環器疾患の場合は、血中の25-OHビタミンD3が低いほど、循環器疾患の発生率も死亡率も高いのですが、がんの場合には、25-OHビタミンD3のレベルとがん発生率との間には関連がありません(ビタミンDはがんの発生を予防しない)。
しかし、がんサバイバー(がんと診断されてから死亡するまでの全てのがん患者)においては、ビタミンDが低いほど死亡率が高くなることが多くの研究で明らかになっています。つまり、がんサバイバーにとってはビタミンD3のサプリメントは有益である可能性が高いと言えます。
(ビタミンD3ががんを予防する効果を示す報告もありますが、最近のメタ解析ではがん予防効果はあっても弱いようです)
また、骨粗しょう症の治療に使う活性型ビタミンD3をがん治療に用いても、あまり効果は期待できないようです。がんに対する効果を期待するには、サプリメントのビタミンD3で1日4000 IU以上の摂取が必要と思われます。
【ビタミンDの耐用上限量は1日4000 IUとなっている】
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所の「健康食品」の安全性・有効性情報によると日本のビタミンDの1日基準量(不足状態にならない量)は成人で 5.5μg(220 IU)、耐容上限量(過剰摂取による健康障害を起こさない量)は成人で1日100μg(4000 IU)になっています。
このサイトでの2014年7月の時点での記載は「日本のビタミンDの1日所要量は成人で 100 IU(2.5μg)、許容上限所要量は成人で1日2000 IU(50μg)」になっていました。つまり、所要量や上限量を上げています。
前述の日本におけるAMATERASU試験で1日2000 IU投与というのは、当時は許容上限所要量は2000 IUだったためと思われます。
がんの代替療法では1日に10,000 IU (250 μg)程度を使用しています。米国のサプリメントでは1カプセルが5,000 IUや10,000 IUの製品も販売されています。
大量(1日50,000 IU)に服用して進行膵臓がんの増殖が抑えられたという症例報告もあります。
The Incidental Use of High-Dose Vitamin D3 in Pancreatic Cancer(膵臓がんにおける高用量のビタミンD3の偶発的使用)Case Reports in Pancreatic CancerVol. 2, No. 1, Published Online:1 May 2016https://doi.org/10.1089/crpc.2016.0003
83歳女性の膵臓がん患者が、ビタミンD3のサプリメントを通常の量の10倍以上に相等する1日に50,000 IUを自分の判断で服用したところ、他の治療を受けずにがんの進行が長期間(報告するまでの10ヶ月間)止まったという症例報告です。副作用は全く認められていません。
進行した膵臓がんの代替療法として1日1万単位程度のビタミンD3の服用を試してみる価値はあると思います。
がん患者さんは、1日2000~4000 IUのビタミンD3の摂取は有益だと言えます。進行がんの場合、1日10,000~40,000 IUくらいの大量投与を試してみる価値はあります。
【ビタミンD3のサプリメントの大量摂取で副作用が起こることもある】
皮膚で生成されたビタミンD3や食事やサプリメントで摂取したビタミンD3は、肝臓で25位が水酸化されて25-ヒドロキシビタミンD3になり、さらに腎臓で1位が水酸化されて1,25-ジヒドロキシビタミンD3 [1,25(OH)2D3]になります。この1,25(OH)2D3が活性化型で、カルシウム代謝や骨形成に作用します。
活性型が増えるとフィードバックで腎臓の1αヒドロキシラーゼの活性を阻害して、活性型の生成を抑制します。
したがって、サプリメントで大量のビタミンD3を摂取しても副作用はほとんど起こらないと理解されています。しかし、全く起こらないわけでは無いようです。ビタミンDのサプリメントの過剰摂取で急性腎不全を起こした症例が最近報告されています。
Use of vitamin D drops leading to kidney failure in a 54-year-old man
CMAJ 2019 April 8;191:E390-4. doi: 10.1503/cmaj.180465
極めて高用量のビタミンDサプリメントを摂取し、急性腎障害を来したというカナダ人男性の症例報告です。
この54歳の男性は、東南アジアを旅行して、現地で2週間にわたり1日6~8時間も日光浴をして過ごしていたということです。さらに、自然療法医から高用量のビタミンDを処方されていました。男性は、30カ月にわたって毎日、1日当たり計8,000~12,000IU相当量のビタミンDの液体サプリメントを服用し続けていたということです。
ただし、この症例報告に対して、このレベルのビタミンD摂取では腎臓障害を起こすことは無いという批判も多くあります。
ただ、米国では、製造ミスで途方もなく多い量のビタミンDを含んだサプリメントが販売されて健康障害が起こったという報告もあります。
Vitamin D Intoxication with Severe Hypercalcemia due to Manufacturing and Labeling Errors of Two Dietary Supplements Made in the United States. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 96, Issue 12, 1 December 2011, Pages 3603–3608, https://doi.org/10.1210/jc.2011-1443
したがって、信頼できるブランドの製品を使用することも重要かもしれません。
結論として、ビタミンDは安価で安全なサプリメントなので、消化器がんの患者が再発予防や進行抑制に1日に4000から10,000 IU程度を摂取することは有益だと思います。4000 IU程度であれば、副作用もなく、寿命延長に効果が期待できると思います。
ビタミンD3のサプリメント:
1カプセル1000 IU/250錠(6300円)
米国:DaVinci Laboratories of Vermont
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