１４．約束

　「五年後。クリスマスイブの午後８時にここで逢おう。」夜景が見えるビルの３０階のレストランは、イブという事もありジャズの生演奏があっていた。クリスマスのメロディが居心地良かった。彼氏が急に海外に出張する事になり、五年間も離れ離れになる事を話していた。
　「わかったわ。あなたを信じて待ってるわ。」お互い結婚してなかったら、またこの店で午後八時に逢うという約束を交わした。私達が色々と悩んでの結果だった。五年後の先の事なんて分からない。ひょっとしたら、お互い結婚しているかもしれないし、死んでいるのかもしれない。
　五年後に逢う事を誓いながら乾杯をした。窓越しにうつる私達は永遠に続くような最高の恋人同士に思われた。一時すると室内の暖かい温度と共にくもって見えなくなっていった。
　ホテルの部屋に戻ると彼氏と最後の夜を過ごした。シャンパンを飲んで、朝まで語り合い、抱き合っていた。朝になると何事もなく彼氏は服を着ていた。その姿を見ていると、せつなさが込み上げて行かないでと後ろから抱きついた。
　泣きながら何度も「私達それでいいの。」と叫んでいた。
　彼氏は何も言わず口をきゅっと閉じて私の手をつかんだ。どうする事も出来ない現実をかみしめている様子だった。
　五年後。約束どおり私はこの店に来ていた。毎年恒例のジャズの生演奏があっていた。ジャズを聞いていると五年の月日が経っている事が嘘のように感じられた。　本当に彼氏は来るのだろうか。外国で新しい彼女を見つけたかもしれない。
　私も何度か男と付き合ったが、どの男もしっくり来なくて付き合うのもやめていた。最後の望みで、結構いい男だし、収入もあるので、この場所に来ていた。
　時間が刻々と過ぎていく。店のドアが開くたびにドキドキとしていた。
　クリスマスイブの八時。時間になった。
　「やっぱり来なかったか。」約束なんてするんじゃなかった。私はバカだと何度も頭の中で言った。目の前の席はガランと空いたままだった。ふと窓の外を見ると五年前とあまり変わっていない夜景がうつしだされていた。その中を粉雪がちらついていた。
　外は寒いのだろうかと呟きながら、少し目線をそらすとガラスに反射して自分がうつった。夜景とは違い、三十歳という歳はもう若くないなと感じると、忘れていた寂しさが奥の方から込み上げて来た。
　寂しさを一度箱から取り出すと中々しまう事が出来なくなり、どうする事も出来なくて子供みたいに大声で泣いた。