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世にも不思議な物語。
出会いの数だけドラマがある。
一日一話愛の短編物語。
〜ショートストーリー〜

15.あの人は

2017年12月24日 | 冬の物語
 夜になると町中が光り輝き、ビルとビルとの間には、点灯している巨大なツリーが飾ってある。
 そのツリーを見上げる男の子と女の子、二人とも赤いマフラーを巻いて、黄色のニット帽をかぶっている。
 隣には、若い20代のカップルが手を握ったり、肩を抱き寄せあったりして、ツリーを眺めている。
 通りかかった女性3人組は、ツリーをバックに、スマートフォンを取り出して、カメラで自撮りをしている。
 「インスタにアップする~。」と声が聞こえた。
 ツリーの横を小さい女の子が走って通り過ぎていくと、つまづいてバタッと倒れた。痛くて起き上がれない。
 今にも泣きだしそうな女の子。その姿を見た赤い服を着た青年が、女の子をヒョイと抱き起して、頭を撫でた。
 「大丈夫。大丈夫。」そういうと、後ろを振り返らず去っていく。
 その後に、母親がやってきて、赤い服の後ろ姿を見た。
 近くのコンビニでは、若い女の子がサンタの格好をしてレジに立っている。レジの前では、店長がトナカイの格好をして、品出しをしていた。
 自動ドアのチャイムと共に、ノコギリを持った老人が、入ってきて、「金を出せ。」小声で言った。
 サンタの女の子は、怯えて、声が出ない。店長に助けを呼ぶ。
 店長が、「レジの中のお金をあげなさい。」と伝える。
 老人は、受け取ると、黙って、コンビニを足早に出ていく。調度、その時、赤い服を着た青年が通りかかる。
 逃げていく老人に足をかけて、倒した。
 後から、追いかけてきた店長と警備の人が老人を取り押さえた。
 青年は、振り返らず、通り過ぎていく。
 店長が、青年の名前を聞こうとすると、後ろ姿だけを残して去っていく。
 
 大きなツリーの川の向こう側、ホームレスのたまり場がある。
 ビニールシートで家を作り、汚い髭を生やした人たち。木を燃やしているドラム缶の周りを囲んでいる。
 今日が、クリスマスイブの事を揶揄して、「クルシミマス。」と言い合って笑いあっている。
 その横を通り過ぎる青年は、ビニールシートの中の家へと入った。
 段ボールのベッドの横に、写真が飾られてある。
 別れた妻と娘の姿だった。
 その前に、小さなケーキを置いて、ロウソクを一本立て、火を点けた。
 「メリークリスマス!」青年が言うと、すきま風が入ってきて、ロウソクの火を勝手に消した。
 また、ロウソクに火を点けようとするが、風でなかなか点かなくて、馬鹿らしくなって、やめた。
 妻と娘は、元気だろうか。こういう日は、特に寂しくなる。
 隙間から、みぞれ交じりの雪が、入り込んでいた。
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